アニメ評論家・藤津亮太氏が話題のアニメを紹介する「ゲームとアニメの≒(ニアリーイコール)」。第17回は2020年10月31日から劇場公開中の「映画プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日」を取り上げます。

ゲームとアニメは本来異なる媒体ですが(≠)、その中での共通項(≒)となる部分にフォーカスしたいという思いから立ち上げた本連載。毎回話題のアニメをアニメ評論家の藤津亮太氏の切り口で紹介しつつ、Gamer編集部からはそのアニメがどういったゲームファンにオススメできるかをピックアップしていきます。
今回は、2020年10月31日から劇場公開中、人気アニメ「プリキュア」の劇場版シリーズ最新作となる「映画プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日」を取り上げます。
こんなゲームファンにオススメ!
- 「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝」や「ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~」など、魔法少女ものの要素を題材に取り込んだゲーム
第17回「映画プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日」
※この原稿は映画の重要な部分に触れています。
ご存知の通り“春のプリキュア映画”は、複数のシリーズの競演が“売り”のひとつ。コロナ禍の影響で秋公開となってしまったが「映画プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日」も、本来はそんな“春のプリキュア映画”の一作で、現行タイトルの「ヒーリングっど♥プリキュア」を中心に、先輩作である「スター☆トゥインクルプリキュア」「HUGっと!プリキュア」が登場している。本作が魅力的だったのは、この「新旧プリキュアの競演」という趣向が、作品のテーマと深く結びついていたからだ。
ある土曜日の午前、みんなで宿題をしようとでかけたのどかは、偶然、「HUGっと!プリキュア」「スター☆トゥインクルプリキュア」のメンバーと出会うことになる。その後、ひなたとちゆと宿題に取り組むのどかだったが、そこに精霊ミラクルンが現れる。
ミラクルンは、精霊リフレインに追われていた。プリキュアに変身してリフレインと戦うのどかたち。そこに「HUGっと!」「スター☆トゥインクル」のプリキュアたちも駆けつける。だが、リフレインの能力でプリキュアたちは、再びその日を朝から繰り返すことになってしまう。ただミラクルンからミラクルンライトを託されたのどか=キュアグレースたちだけは、繰り返される前の記憶を忘れずにいることができた。残された記憶を手がかりに、のどかたちはリフレインに立ち向かっていく。
リフレインは「昨日」を、ミラクルンは「明日」を象徴する精霊。リフレインはミラクルンを捕らえて、明日が来るのを止めようとしていたのだ。どうしてリフレインは「明日」を拒否するのか。その理由は、終盤で明らかになる。リフレインの正体は、もう使われていない小学校校舎の時計に宿る精霊。リフレインは、この校舎の解体が決まったことを知り、「永遠に明日がこない世界」を作ろうとしたのだ。
かつては子供たちの声で賑わっていた校舎。しかし、子供たちはやがて卒業していってしまい、今は誰もいなくなってしまった。この残されたリフレインの“悲しみ”は、「学校」になぞらえられてはいるものの、実は「卒業する作品」にはついてまわるものだ。子供のころどれほど熱中しても、いつか子供はその作品を卒業してしまう。そして「プリキュア」はその代名詞といってもよい。
では、卒業してしまったらそれで終わりなのだろうか。そんなことはない。その時過ごした大切な想い出はずっと心に残る。だから、安心して卒業していっていいんだよ、とこの映画は言外に語る。卒業は決して不義理なことではない。そして新しい子供たちには、新しい学校=新しいプリキュアがいる。その繰り返しこそが明日=未来を作ることなのだ、と示す。クライマックスで歴代のプリキュアの姿が描かれる意味はそこにある。
映画では終盤、この古い校舎を卒業したのどかの母やすこたちが学校で同窓会を開くシーンが出てくる。そこでは、この校舎を残すための運動をしようという話も出た、とやすこは語る。長い人生の中で、そうやってまた学校=プリキュアと再会することもあるのだ。
新旧プリキュア競演映画にふさわしい、「プリキュア論」として読める映画だった。
「映画プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日」公式サイト
https://spring.precure-movie.com/
藤津亮太(ふじつ・りょうた)
アニメ評論家。1968年、静岡県生まれ。雑誌・WEB・BDブックレットなど各種媒体で執筆するほか、朝日カルチャーセンター、SBS学苑で講座を担当する。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ―セロ年代アニメ時評―』(NTT出版)、『声優語~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~』(一迅社)、『プロフェッショナル13人が語るわたしの声優道』(河出書房新社)などがある。毎月第一金曜日には「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)でアニメの話題を配信中。