アニメ評論家・藤津亮太氏が話題のアニメを紹介する「ゲームとアニメの≒(ニアリーイコール)」。第18回はラトビアの新進クリエイターによる劇場作品「Away」ラトビアの新進クリエイターによる劇場作品「Away」を取り上げます。

ゲームとアニメは本来異なる媒体ですが(≠)、その中での共通項(≒)となる部分にフォーカスしたいという思いから立ち上げた本連載。毎回話題のアニメをアニメ評論家の藤津亮太氏の切り口で紹介しつつ、Gamer編集部からはそのアニメがどういったゲームファンにオススメできるかをピックアップしていきます。
今回は、12月11日より新宿武蔵野館ほかにて順次公開中、ラトビアの新進クリエイターであるギンツ・ジルバロディス監督による劇場作品「Away」を取り上げます。
こんなゲームファンにオススメ!
- 「風ノ旅ビト」や「ワンダと巨像」など、限られた表現の中で物語を描くゲーム
- 「ファイナルファンタジーXV」や「風雨来記」シリーズなど、作中で旅の様子が描かれるゲーム
第18回「Away」
アニメーションのアドバンテージは寓話をある種の生々しさをもって描き出すことができるところにある。実景と生身の人間を前提にリアリティが構築されている実写では、こうはならない。「Away」はそんなアニメーションならではのアドバンテージを最大限に生かした作品だ。
物語はシンプルだ。ある島で少年は意識を取り戻す。パラシュートで木に引っかかっている彼は、どうやら飛行機事故にあって、なんとか生き延びこの島に降りたらしい。そんな彼は黒い巨大な影に追いかけられることになる。少年は、地図とバイクを手に入れ、生き延びるために港らしきものがある地点を目指す。台詞は一切ない。ただ叙情を配したクールな音楽が映画の要所要所を盛り上げる。
このアニメ映画を制作したのはラトビアの新星ギンツ・ジルバロディス監督。彼は3年半もの時間をかけて、25歳(当時)でこの作品を完成させた。アヌシー国際アニメーション映画祭では、2019年に新設された、実験性・革新性のある長編アニメーションを対象とする「コントルシャン賞」を受賞。これをはじめとして、世界中の映画祭で8冠を達成した作品だ。
先述の通り台詞のない作品だから、この島がなんなのか、主人公を追いかける黒い影が何かは観客の解釈に委ねられている部分が多い。当欄は、本作をオルフェウスやイザナミの神話と同じ、「死の世界に足を踏み入れた後、死者に追いかけられなながら帰還する」という寓話の最新モードと考えた。
少年は最初パラシュートを身に着けた状態で登場し、中盤では胴体着陸したと思しき飛行機の残骸が登場する。飛行機の客室には、黒い影にも似た存在がチラチラと姿をみせる。
少年は飛行機事故にあい、死の国に足を踏み入れたのだ。そして(死の自覚はないまま)そこから帰還しようと試みることになる。だから黒い影=死に追いかけられることになる。一方でトリは生への水先案内人として描かれている。
きれいに整えられた3DCGのキャラクターは濡れたり、汚れたり、寒がったりすることはない。リアリズムからすれば表現としては物足りないところだが、これが「寓話」だと考えれば、むしろそのほうが正しい。寓話のキャラクターにそうした細部は不要だ。寓話のキャラクターが大事なのは、何を求めどう行動するかという「構造」をリ生きるところにある。そして少年は、その通りのキャラクターなのだ。
イザナミやオルフェウルスの伝説は、死からの逃走がすべてだったが、本作では死=黒い影と少年の関係は、また少し異なったラストを迎える。それは生と死と単純に相反するものとではなく、再び世界に生まれ出るために必要なプロセスとして「死」が扱われているように読める。
シンプルな美しさと力強さに支えられた「生きることの寓話」が本作なのである。
「Away」公式サイト
https://away-movie.jp/
藤津亮太(ふじつ・りょうた)
アニメ評論家。1968年、静岡県生まれ。雑誌・WEB・BDブックレットなど各種媒体で執筆するほか、朝日カルチャーセンター、SBS学苑で講座を担当する。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ―セロ年代アニメ時評―』(NTT出版)、『声優語~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~』(一迅社)、『プロフェッショナル13人が語るわたしの声優道』(河出書房新社)などがある。毎月第一金曜日には「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)でアニメの話題を配信中。
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