スクウェア・エニックスが配信を開始したスマートフォン向けRPG「NieR Re[in]carnation」をレビュー。「NieR」シリーズ初となるスマートフォン向けタイトルの仕上がりに迫る。
「NieR Re[in]carnation」(ニーア リィンカーネーション)は、「NieR」シリーズ初となるスマートフォン向けRPG。「檻(ケージ)」と呼ばれる、誰が作ったのかすら定かでない謎の建造物が舞台。主人公の少女は、「ママ」と名乗る生物とともに、この「檻」の探索を開始する。「檻」の中で目覚めた少女は、声や記憶をはじめさまさまなものを失っており、失くしたものを取り戻すことが当面の目的だ。
美しいだけでなく空気感が伝わる3DCG
人気シリーズの新作ということもあって、期待していた人も多かっただろう。まずその期待に応えてくれるのが、本作のグラフィック。グラフィックの品質設定をどの設定にするかにもよるが、「高」以上についてはコンシューマーゲームに勝るとも劣らないレベルだと感じた。
このグラフィック品質を最大限活かして描かれるのが、舞台となる「檻」。フル3Dで描かれており、画面をスワイプすることで自由に移動可能。移動中、探索可能なポイントに近づくとアイコンと探索ボタンが表示され、アイコンか探索ボタンのいずれかをタップすると、探索が行える。なお、本作は横持ちスタイルでプレイする作品だが、移動時のスワイプは画面のどの場所でもOK。なので、片手持ちでも問題なくプレイできる。地味な要素に思えるが、ありがたい仕様だ。
敵とのバトルはシンボルエンカウント形式。さらに、エンカウント場所は固定されているため、「檻」内の移動にゲーム的な要素は少ない。マップ内のギミックを動かして道を切り開くような局面も出てくるが、本作のメインというほどの頻度はない。では、「檻」の探索に意味がないのかというと、それは違う。「檻」内の移動を通して、世界観を感じることができるのだ。
「檻」はただ美麗なだけじゃない。人影がなく、廃れてしまった光景には「寂しさ」「荒涼感」がよく表現されている。こうしたビジュアルが含む「感情」は、ただ見るだけでなく、移動することでよりリアルに実感できるのだ。
心に染みる武器の記憶の物語
「檻」探索のメインとなるのが、「黒いカカシ」と呼ばれる謎の彫像。「黒いカカシ」を調べることで、少女は物語の世界へ入ることができる。物語の中でプレイヤーが操作するのは少女ではなく、「黒いカカシ」が持つ武器の所有者だ。物語の中へ入るとビジュアル的にも3Dから2Dサイドビューへ切り替わり、少女の物語とは異なる物語であることが明確になる。
「黒いカカシ」の中で描かれる物語は、武器の所有者の人生の記憶。ただ、ただ、物語の中に「黒い敵」が入り込んだことによって、記憶が歪められている。「黒い敵」を倒し、雨期の記憶を修復することが、少女の目的。そのためにプレイヤーは、武器の所有者を操作するという格好だ。
2Dサイドビューで描かれた世界を左右に移動。探索ポイントが出現したら探索することで「黒いカカシ」内の物語は進んでいく。概ね、ナレーションによって半自動的に物語が展開していくので、アドベンチャーゲームのように詰まって進めなくなることはないだろう。
物語は、武器の所有者たちの人生の最期の時までを描いている。基本的にどの所有者の最期も、幸福なものではない。寂しさや虚しさ、やるせなさといったものを強く感じさせる内容だ。けど、そんな中にも人の優しさやふれあい、信じる心や希望といったものが描かれていて、心に染みるものがある。
フル3Dで描かれたリアルタイム型コマンド選択バトル
武器の記憶の中で「黒い敵」が姿を現したり、「檻」内で道を塞ぐ黒い壁に接触したりすると、バトルスタート。バトルシーンも「檻」同様、フル3Dの美麗CGで描かれている。
バトルのシステムはリアルタイム型のコマンド選択式。通常攻撃についてはキャラクターがそれぞれ自動的に行ってくれる。プレイヤーが操作するのは、スキルコマンドの選択だ。スキルコマンドは、スキルゲージが満タンになることでタップ可能になる。スキルゲージは、時間経過に伴い蓄積。なので、様子を見守りつつ、スキルゲージが貯まったら随時スキルを使っていく…というのが主なプレイスタイルとなる。なお、「AUTO」ボタンをタップすると、スキルの発動も自動化可能だ。
バトルでは、戦略も重要だが、少なくとも序盤ではキャラクターの育成状況の方が勝敗に強く影響しているように感じた。このため、十分に育てたキャラクターであれば、ずっと「AUTO」でも問題なく進行できる。倍速モードと併せれば、サクサク進めることができるだろう。
育成や、キャラクター、武器、オトモという3種類に分かれている。武器とオトモは、キャラクターの装備という位置づけだ。いずれも、育成用素材でレベルアップできるため、獲得したばかりであっても急速育成し、戦力にすることができる。
機微を感じ取るシナリオが魅力のRPG
本作第3章までプレイして筆者は「機微」こそが本作の魅力だと感じた。スマートフォン向けRPGの多くは、キャラクターの魅力を伝えることを優先している。このため、一覧からシナリオを選択し、キャラクターが活躍するシーンを直接的に楽しめるようになっているわけだ。それはそれで面白いし、本作だって魅力的なキャラクターが登場する。けど、それよりも本作の世界観が生み出す「機微」にこそ、魅力があるように感じたのだ。
「機微」を感じさせるひとつは、なんといっても「檻」の探索。「檻」の中を落ちる砂、「檻」の外に現れる生物、「檻」の外へ出る時の光の演出など、移動中には印象的に残る光景が多く描かれる。こうした光景の中をプレイヤー自ら操作して動くことで、「人類はどうなっているのか」「少女の正体は誰なのか」「檻とはなんなのか」といった本作の「行間」が部分が強く味わえるのだ。
また、「武器の記憶」として描かれる物語についても、あえて「行間」が残されているように思う。たとえばそれは、各章でメインなる人物の関係性。第1章から第3章までの武器の持ち主は、まったくの無関係というわけではなく、知り合い同士という関係だ。ただこうした関係性を言葉として直接明言した部分は少ない。匂わせる程度の表現にとどめている。プレイヤーに想像する楽しさを残しているかのように。
こうした仕掛けによって本作は、プレイヤーが自分から進んで作品が持つ感情の機微を読み取るような作りになっている。どちらかといえば、スマートフォン向けRPGというより、コンシューマRPGの手触りに近い。なので、世界観やストーリー性をしっかり味わいたいという人にはオススメできる。世界観を味わい、物語が心に染みる体験を味わってほしい。