アニメ評論家・藤津亮太氏が話題のアニメを紹介する「ゲームとアニメの≒(ニアリーイコール)」。第21回はシンエイ動画の制作による新感覚ストップモーションアニメ「PUI PUI モルカー」を取り上げます。

ゲームとアニメは本来異なる媒体ですが(≠)、その中での共通項(≒)となる部分にフォーカスしたいという思いから立ち上げた本連載。毎回話題のアニメをアニメ評論家の藤津亮太氏の切り口で紹介しつつ、Gamer編集部からはそのアニメがどういったゲームファンにオススメできるかをピックアップしていきます。
今回は、パペットキャラ・アニメ期待の新鋭である見里朝希氏が監督を務め、「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」などのアニメ制作会社、シンエイ動画が手掛ける新感覚ストップモーションアニメ「PUI PUI モルカー」を取り上げます。
こんなゲームファンにオススメ!
- 「タケシとヒロシ」などストップモーションアニメを作中に盛り込んだゲーム
- 「すみっコぐらし おへやのすみでたびきぶんすごろく」などキャラクターIPをもとにしたゲームタイトル
第21回「PUI PUI モルカー」
1月新番組で話題を集めたのが「PUI PUI モルカー」だ。「PUI PUI モルカー」は、「モルモットの自動車化」あるいは「自動車のモルモット化」とでもいうべき、可愛らしいモルモット風自動車たちが登場するショートアニメ。タイトルの「PUI PUI」とは、モルモットの鳴き声で、作中のモルカーの“PUI PUI”する声はみな、本物のモルモットの鳴き声を使っているのだという。
「PUI PUI モルカー」の一番の特徴は、本作がフェルト人形を使った立体アニメーションという点だ。立体アニメーションは国内でも様々に制作されているが、キッズ向けのショートアニメやコマーシャルなどが多く、多くのアニメファンからはどうしてもいわゆるテレビアニメ・劇場アニメとは“別枠”として捉えられがちだ。「PUI PUI モルカー」もテレビ東京系のキッズアニメ枠「きんだーてれび」内での放送作品だが、同時にYoutubeで配信されたことで、キッズ以外にも一気に話題が拡散し、広く人気を集めることになった。1話あたり2分40秒と短いのも、ネットとの相性がよかった理由の一つだろう。
とはいえ、この爆発的な人気は、なにより「モルカー」というキャラクターの魅力に寄るものなのは間違いない。その魅力は大きく2つのポイントがある。
ひとつは「フェルト」という素材の魅力。フェルトは暖かさや柔らかさを感じさせる素材で、自動車のボディの冷たく硬い質感とは対極にある存在だ。モルカーは、この正反対の存在を、モルモットを媒介にしてひとつに取り合わせてしまった。そこにキャラクターとしてのインパクトが生まれた。そのインパクトを象徴するのが、タイヤに見える足をちょこまかと動かして進むモルカーのかわいい姿だ。これが手描きアニメや3DCGではここまで可愛く見えなかっただろう。立体アニメーションならではの素材感があるからこそのインパクトだ。
そしてもうひとつは、モルカーという言葉が特定の一匹(?)ではなく、普通名詞という点。モルカーには様々な個性を持った仲間がいる。それによって「モルカーというかわいいキャラクターがいる世界」の広がりが感じられるようになっており、モルカー単体だけでなく「モルカーのいる世界」全体が魅力的に感じられるようになっているのだ。
子供だけでなく、大人も含めた広い人気を得た「PUI PUI モルカー」。テレビの放送は終了したが、さらなる展開を待っているファンは多いはずだ。
「PUI PUI モルカー」公式サイト
https://molcar-anime.com/
藤津亮太(ふじつ・りょうた)
アニメ評論家。1968年、静岡県生まれ。雑誌・WEB・BDブックレットなど各種媒体で執筆するほか、朝日カルチャーセンター、SBS学苑で講座を担当する。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ―セロ年代アニメ時評―』(NTT出版)、『声優語~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~』(一迅社)、『プロフェッショナル13人が語るわたしの声優道』(河出書房新社)などがある。毎月第一金曜日には「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)でアニメの話題を配信中。
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