アニメ評論家・藤津亮太氏が話題のアニメを紹介する「ゲームとアニメの≒(ニアリーイコール)」。第23回は大今良時氏による漫画を原作としたアニメ「不滅のあなたへ」を取り上げます。

ゲームとアニメは本来異なる媒体ですが(≠)、その中での共通項(≒)となる部分にフォーカスしたいという思いから立ち上げた本連載。毎回話題のアニメをアニメ評論家の藤津亮太氏の切り口で紹介しつつ、Gamer編集部からはそのアニメがどういったゲームファンにオススメできるかをピックアップしていきます。
今回は、週刊少年マガジン(講談社)にて連載中の大今良時氏による漫画を原作として、2021年4月よりNHK Eテレで放送中のアニメ「不滅のあなたへ」を取り上げます。
こんなゲームファンにオススメ!
第23回「不滅のあなたへ」
人間はどうして物語を必要とするのか。それは人間が、自分の人生しか生きることができないからだ。人は物語を通じてはじめて他人の人生の内側へと入り込み、人間というものの様々なあり方を知ったり、自分の人生に足りないものを補完する。物語という情報は、本物の人生を補完し、人間そのものを変化させていく重要な要素だ。
「不滅のあなたへ」の主人公は、“観察者”という謎の存在によって、地上へと投げ込まれた"球"である。“球”は石、コケを経て、オオカミの姿になることで意識を得、さらにオオカミの飼い主だった少年の姿を獲得することで次第に自我を獲得していく。このように“球”は、刺激を得ることで、さまざまなものを獲得し、変化していく。
よくいわれることだがアニメーションの語源は、魂や生命を意味するラテン語アニマ。このラテン語をルーツとして「命を吹き込む」という英単語が生まれ、これがアニメート(animate)であり、これの名詞化がアニメーション(animation)。そう考えると“球”が次第に人間らしくなっていくというアイデアは、アニメという表現手段と本質的なところで結びついた主題ということがいえる。
この“球”は、物語の序盤、少年の姿をしている時に、フシ(=不死)という名前を与えられ、以降、フシという名の少年として、その終わらぬ生を生きていくことになる。フシの名前を与えたのは、森深いニナンナに住み、オニグマの生贄にされそうになっていた少女マーチ。マーチの存在はフシに刺激を与え、フシは変化していく。
本作は物語の舞台がエピソードごとに変わっていく構成。テレビアニメは5月末の段階で3つ目の舞台ともいえる「タクナハ編」がスタートしたばかり。物語の舞台が変わるごとにフシは、刺激を得て、変化し続けていく。
本作はまず、死なないフシと限りある生命を持つ普通の人間との対比から、視聴者(あるいは読者)に「生きる、とはどういうことだろうという」ことを問いかけてくる。我々人間とと異なる存在であるフシという存在を通じて、人間という存在が照らし出されているのだ。
しかし、フシというのはそれほど我々と異なるのだろうか。自分以外のものと出会い、刺激を経て情報を獲得し、変化していくフシ。それは、人間が物語という情報を得て変化し、自分というものを形作っていくことと本質的なところで似通ってはいないだろうか。フシは人間と「異なっているから」だけではなく、「似通っているから」こそ、人間という存在を照らし出すキャラクターでもあるのだ。
我々であって我々でない存在、フシ。その絶妙な距離感こそが「不滅のあなたへ」の魅力の中心にあるのだ。
藤津亮太(ふじつ・りょうた)
アニメ評論家。1968年、静岡県生まれ。雑誌・WEB・BDブックレットなど各種媒体で執筆するほか、朝日カルチャーセンター、SBS学苑で講座を担当する。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ―セロ年代アニメ時評―』(NTT出版)、『声優語~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~』(一迅社)、『プロフェッショナル13人が語るわたしの声優道』(河出書房新社)などがある。毎月第一金曜日には「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)でアニメの話題を配信中。
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