アニメ評論家・藤津亮太氏が話題のアニメを紹介する「ゲームとアニメの≒(ニアリーイコール)」。第27回は2021年7月より放送され、最終回を迎えたTVアニメ「カノジョも彼女」を取り上げます。
ゲームとアニメは本来異なる媒体ですが(≠)、その中での共通項(≒)となる部分にフォーカスしたいという思いから立ち上げた本連載。毎回話題のアニメをアニメ評論家の藤津亮太氏の切り口で紹介しつつ、Gamer編集部からはそのアニメがどういったゲームファンにオススメできるかをピックアップしていきます。
今回は、「マンガ家さんとアシスタントさんと」や「アホガール」などで知られる、ヒロユキ氏が「週刊少年マガジン」にて連載中の漫画を原作として、2021年7月より放送されたTVアニメ「カノジョも彼女」を取り上げます。
こんなゲームファンにオススメ!
- 「スキとスキとでサンカク恋愛」、「恋愛0キロメートル」など、三角関係をコメディタッチに描く恋愛アドベンチャーゲーム
第27回「カノジョも彼女」
「カノジョも彼女」が楽しい。
生真面目な主人公・向井直也はずっと思い続けていた幼馴染の佐木咲とついに念願の恋人になる。ところがそこに直也をずっと好きだった水瀬渚か現れて告白する。渚のいじらしさにも心を動かされた直也は悩んだ挙げ句、咲と渚と二股で交際できないか、と誠心誠意提案する。紆余曲折はあったものの2人はこの申し出を受け入れ、両親不在の直也の家で、3人の同棲が始まる。
設定だけ見ると「出落ち」で終わってしまいそうにも感じるのだが、そうはなっていないのはキャラクターのいじり方が巧みだから。決して深刻な話題にすることもなく、かといって下品にもならない絶妙の温度感で、各キャラクターがいい具合に「二股交際」という状況に翻弄されている。
ラブコメディというのは、互いに思いを寄せている男女が、その思いが通じず右往左往するさまを描くジャンルで、それはいわば宙ぶらりんの状況を楽しむ「モラトリアムの物語」なのである。そして2人の思いが通じた瞬間、「友達以上恋人未満」のモラトリアムは終わることになる。
ところが「カノジョも彼女」は、そこにひねりを加えた。ここでは二股交際というシチュエーションに、直也が杓子定規なまでに「誠実」であるという性格設定をプラスしたのである。同棲が始まった直後に、ひと悶着あり直也は、「H的なこと」よりも「3人がいい関係でいられること」を選択するのである。咲が渚に対して友達になりたいと思っていることも、その状況を後押しする。この結果、どっちかが直也に接近するとが3人のいい関係が崩れてしまう、という構図が出来上がり、「交際後もモラトリアムが続く」という絶妙なシチュエーションが出来上がったのである。
このように「直也の二股交際したいという“ボケ”」が「予想の斜め上に着地する」している本作だが、そのほかの展開でも、この「斜め上への着地」は多く、それによって本作は「出落ち」で終わらない作品になっている。
そしてこのモラトリアムに起きる様々な“さざ波”にメリハリを与えるのが、咲の台詞(演じるのは佐倉綾音)だ。直也が誠実すぎるボケ役であるのに対し、咲は感情豊かなツッコミである。咲は「怒り」「羞恥」「照れ隠し」「ホンネ」と、さまざまな感情のモードで直也にツッコミを入れる。この多彩な演技の幅、ツッコム直前までのトーンからの急変化などが、アニメ化された本作の一番の見どころ(聞きどころ)、と言ってもいい。この咲の“運動量の多さ”が、アニメ化された本作を活気づけているのである。
TVアニメ「カノジョも彼女」公式サイト
https://kanokano-anime.com/
藤津亮太(ふじつ・りょうた)
アニメ評論家。1968年、静岡県生まれ。雑誌・WEB・BDブックレットなど各種媒体で執筆するほか、朝日カルチャーセンター、SBS学苑で講座を担当する。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ―セロ年代アニメ時評―』(NTT出版)、『声優語~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~』(一迅社)、『プロフェッショナル13人が語るわたしの声優道』(河出書房新社)などがある。毎月第一金曜日には「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)でアニメの話題を配信中。
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