アニメ評論家・藤津亮太氏が話題のアニメを紹介する「ゲームとアニメの≒(ニアリーイコール)」。第28回は2021年10月より放送中のTVアニメ「古見さんは、コミュ症です。」を取り上げます。

ゲームとアニメは本来異なる媒体ですが(≠)、その中での共通項(≒)となる部分にフォーカスしたいという思いから立ち上げた本連載。毎回話題のアニメをアニメ評論家の藤津亮太氏の切り口で紹介しつつ、Gamer編集部からはそのアニメがどういったゲームファンにオススメできるかをピックアップしていきます。
今回は、小学館・少年サンデーにて連載中のオダトモヒト氏による漫画を原作とし、2021年10月よりTVアニメが放送中の「古見さんは、コミュ症です。」を取り上げます。
こんなゲームファンにオススメ!
- 「サマーレッスン」や「からかい上手の高木さんVR」のような、コミュニケーション要素のあるVRゲーム・アニメーションなど
第28回「古見さんは、コミュ症です。」
漫画とアニメの違いはいろいろあるが「キャラクターが動くこと」と「キャラクターに声がつくこと」はその最たるものだろう。この「古見さんは、コミュ症です。」は、この“伸びしろ”を最大限に生かした作品になっている。
例えば第1話で、古見さんが自己紹介するシーン。机から立った古見さんが、最初はおずおずと、そして最後はなかなかの勢いで黒板に向かって歩く様子。原作は3コマつかってこれを表現しているが、動きのついたアニメのほうが古見さんの動きがどこか不自然なことがはっきり伝わってきて、おかしさが増している。
次のコマで担任の脇をすり抜ける時、担任が少し照れたような顔をしているが、アニメはここを一連のシーンのピークにもってきて、「古見さんの流れる髪」「そこから溢れる“魅力”の表象たるピンホールの透過光」そして「美しさに胸を射抜かれたために、おもわず漏れた担任の声」を加えて、演出的に盛り上げる。
さらに黒板を名前を書くシーンを終えた後には、原作にないクラス名簿がパタリと立つカットをインサートして、「剣豪が刀を奮った後」のような印象を加えて、鮮やかさを際立てている。
声については、やはり第3話の携帯電話(ガラケー)を使ったエピソードが印象的だろう。古見さんはほとんどしゃべらない。たまに声を聞かせる時も、、声を出し慣れていない、小さくてちょっとノドに引っかかったような声でつぶやくぐらいだ。
それが第3話では、電話番号を交換した只野君のところに間違い電話をかけてしまい、喋らざるを得ない状況になる。喋り慣れていない古見さんの喋り、そしてそれが終わった後の「初めて電話できたうれしさとはずかしさでバタバタ」している時の、声にならないようなそれでも声になっている喜びの叫び。声がつくことで、古見さんの喜びが一層共有できるようになっている。
原作は1エピソード6ページ程度の短いエピソードを積み重ねていく形式。大コマを使って絵で積極的に語ることも少ない。このシンプルな内容だからこそ、アニメにした時の“のびしろ”が特に効果的に働いているのだ。
個人的には第1話で古見さんと只野くんが黒板で筆談するシーン。ピアノの音楽をバックに、はらはらと舞い落ちるチョークの粉が描かれている。ゆっくり画面を舞い落ちていくチョークの粉は、2人が互いに心を開こうとする“時間”そのもの。そうして時間が降り積もり、2人に信頼関係が生まれたところから、このアニメが始まるのである。そんな特別な瞬間が見事に映像になっていた。
TVアニメ「古見さんは、コミュ症です。」公式サイト
https://komisan-official.com/
藤津亮太(ふじつ・りょうた)
アニメ評論家。1968年、静岡県生まれ。雑誌・WEB・BDブックレットなど各種媒体で執筆するほか、朝日カルチャーセンター、SBS学苑で講座を担当する。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ―セロ年代アニメ時評―』(NTT出版)、『声優語~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~』(一迅社)、『プロフェッショナル13人が語るわたしの声優道』(河出書房新社)などがある。毎月第一金曜日には「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)でアニメの話題を配信中。