アニメ評論家・藤津亮太氏が話題のアニメを紹介する「ゲームとアニメの≒(ニアリーイコール)」。第29回は10月29日より劇場公開中のアニメーション映画「アイの歌声を聴かせて」を取り上げます。
ゲームとアニメは本来異なる媒体ですが(≠)、その中での共通項(≒)となる部分にフォーカスしたいという思いから立ち上げた本連載。毎回話題のアニメをアニメ評論家の藤津亮太氏の切り口で紹介しつつ、Gamer編集部からはそのアニメがどういったゲームファンにオススメできるかをピックアップしていきます。
今回は、「イヴの時間」「サカサマのパテマ」などを手掛ける吉浦康裕氏が原作・脚本・監督を務め、10月29日より劇場公開中のアニメーション映画「アイの歌声を聴かせて」を取り上げます。
こんなゲームファンにオススメ!
- 「Detroit: Become Human」や「AI: ソムニウム ファイル」に代表される、AIをテーマに盛り込んだゲーム
- 「ToHeart」シリーズや「D.C.~ダ・カーポ~」シリーズなど、学校を舞台にアンドロイドのキャラクターが登場するゲーム
第29回「アイの歌声を聴かせて」
「アイの歌声を聴かせて」のアイは、物語の主題であるAIと愛の2つの意味がかかっているのだろう。
サトミの通う高校に転校生のシオンがやってきた、シオンは、クラスで孤立しているサトミの前に立つと「サトミ、しあわせ?」と突然質問したかと思えば、「私がしあわせにしてあげる!」と突然歌い出した。実はシオンは、AIで動くロボットで、秘密の実証実験のために高校へと送り込まれてきたのだった。こうしてシオンの秘密を隠そうとするサトミたちと、サトミを幸せにしようとするシオンの奮戦の毎日が始まるのだった。
AIそのものはプログラムだから見ることはできない。そして愛もまた見ることはできない。この2つの「見えないもの」がシオンのボディを通じて実態として「見える」ようになる。この「見える化」という部分に本作のポイントがある。
そう考えると、映画の冒頭に「シオンから見た風景が描かれること」や、サトミの幼馴染のトウマが監視カメラをハッキングしてまでサトミを「見守ろうとしていること」の意味も見えてくる。愛があっても「見えない相手からの一方的な視線」はどこにも届かない。互いがちゃんと見えるようになって、お互いを見交わした瞬間になってこそ「愛」というものは伝わるのだ。そしてこの映画のストーリーはそのように進んでいく。
では「歌声」はこの映画の中でどういう扱いなのか。シオンがサトミのために歌うのは、劇中に登場するアニメ映画「ムーンプリンセス」の中の一曲だ。「ムーンプリンセス」はサトミが好きな作品だけれど、彼女はそれを子供っぽいと思っているようで、それを表に出すことはない。
「ムーンプリンセス」に限らずサトミは、学校でも母親に対しても、自分の心の中にある感情を面に出さないで暮らしているのだ。でも心のなかには、いつも「ムーンプリンセス」の歌がある。シオンがサトミに向かって歌うことで、サトミは自分が自分の心の中にどんな感情を閉じ込めているのかを知るのである。つまり、視線が交わされた後、心の扉を開く「鍵」として歌が歌われるのである。
このように映画の内容を考えていくと「アイの歌声を聴かせて」というタイトルは、シンプルでいながら、絶妙に本作の真髄を言い表していることに気付かされるのだ。
映画「アイの歌声を聴かせて」公式サイト
https://ainouta.jp/
藤津亮太(ふじつ・りょうた)
アニメ評論家。1968年、静岡県生まれ。雑誌・WEB・BDブックレットなど各種媒体で執筆するほか、朝日カルチャーセンター、SBS学苑で講座を担当する。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ―セロ年代アニメ時評―』(NTT出版)、『声優語~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~』(一迅社)、『プロフェッショナル13人が語るわたしの声優道』(河出書房新社)などがある。毎月第一金曜日には「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)でアニメの話題を配信中。