アニメ評論家・藤津亮太氏が話題のアニメを紹介する「ゲームとアニメの≒(ニアリーイコール)」。第33回は2022年1月から放送されているTVアニメ「怪人開発部の黒井津さん」を取り上げます。
ゲームとアニメは本来異なる媒体ですが(≠)、その中での共通項(≒)となる部分にフォーカスしたいという思いから立ち上げた本連載。毎回話題のアニメをアニメ評論家の藤津亮太氏の切り口で紹介しつつ、Gamer編集部からはそのアニメがどういったゲームファンにオススメできるかをピックアップしていきます。
今回は、Webコミック「COMICメテオ」にて連載中の、水崎弘明氏による同名漫画作品を原作としたTVアニメ「怪人開発部の黒井津さん」を取り上げます。
こんなゲームファンにオススメ!
- 「ゲーム発展国++」など会社経営を楽しめるゲーム
- 「絶対ヒーロー改造計画」などヒーローモノを題材にしたゲーム
第33回「怪人開発部の黒井津さん」
組織は単に人が集まっているだけの存在ではない。大勢の長所を寄せ集め短所をカバーすることで、ひとりではできない大きな仕事をするための「仕組み」こそが組織である。だからこそアメリカの経営学者チェスター・I・バーナードが指摘しているとおりに「共通目的(なんのために集まっているのか)」「協働意識(構成メンバー互いのために働こうという意識)」、そして「意思疎通」が大きな意味を持つ。「怪人開発部の黒井津さん」を見ていると、どうしてもこういった「組織論」が頭をよぎってしまう。
本作は秘密結社アガスティアの怪人開発部に所属する研究助手の黒井津さんが主人公。怪人開発も「組織の仕事」となると、幹部の個人的な方向性(趣味)が開発中の怪人のデザインに影響するし、怪人製造の現場における実現性も無視はできない。黒井津はそんな「組織」のしがらみの中で日々仕事を進めているのだ。
それにしても本作の秘密結社アガスティアは組織としてはどうなのか。「共通目的」は共有されているようだ。確かに幹部のモチベーションは高い。ただ「協働意識」となるとかなりあやしくなる。幹部たちは固有の能力を誇る、いわば一国一城の主であって、決して協調性があるわけではない。その結果として秘密結社アガスティアには「意思疎通」には欠くようではある。
例えば、怪人開発部への新機材の導入のあれこれを描いた第5話。ここで新機材導入の障壁となるのは「稟議書に幹部全員の決裁印をもらうこと」だった。稟議書にハンコが必要という、DXからもほど遠いアナログな決裁方法は、明らかにスピーディーな怪人開発を阻害しているのだが、そこはアガスティア的には問題でないようにある。
一方、第11話ではアガスティアの「社員旅行」が描かれるがこの参加メンバーはほとんどが幹部であり、それ以外で参加したのは黒井津と怪人のウルフ。ベートだけである。社員旅行が成立するところを見ると幹部たちは(ライバル心はあれど)決して互いを否定しているわけではなさそうだ。とするとアガスティアの問題は、幹部と一般組織員の間の「縦の情報導線」がスムーズでないという点にありそうだ。これは社員旅行に首領のアカシックが呼ばれなかったこととも裏腹で、実は幹部たちのマイペースぶりこそが、アカシックの組織上の最大の問題点ではないか……。
と、ついついこんなことを考えたくなってしまうのが「怪人開発部の黒井津さん」のおもしろさである。世界征服という大きなミッションがある以上、悪の組織は限りなく企業に近くならざるを得えず、作品は結果としてヒーローもののパロディであると同時に、サラリーマンものパロディ様相を呈するのであった。
毎回ローカルヒーローが登場したり、特撮出演経験のある俳優がナレーションを担当したりと、アニメ化にあたって「特撮ヒーロー」成分を補強したサービス精神も楽しい。
「怪人開発部の黒井津さん」公式サイト
https://kuroitsusan-anime.com/
藤津亮太(ふじつ・りょうた)
アニメ評論家。1968年、静岡県生まれ。雑誌・WEB・BDブックレットなど各種媒体で執筆するほか、朝日カルチャーセンター、SBS学苑で講座を担当する。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ―セロ年代アニメ時評―』(NTT出版)、『声優語~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~』(一迅社)、『プロフェッショナル13人が語るわたしの声優道』(河出書房新社)などがある。毎月第一金曜日には「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)でアニメの話題を配信中。