アニメ評論家・藤津亮太氏が話題のアニメを紹介する「ゲームとアニメの≒(ニアリーイコール)」。第35回は2022年4月29日より公開中の劇場版「RE:cycle of the PENGUINDRUM[前編]君の列車は生存戦略」を取り上げます。

目次
  1. こんなゲームファンにオススメ!
  2. 第35回「RE:cycle of the PENGUINDRUM[前編]君の列車は生存戦略」
  3. 藤津亮太(ふじつ・りょうた)

ゲームとアニメは本来異なる媒体ですが(≠)、その中での共通項(≒)となる部分にフォーカスしたいという思いから立ち上げた本連載。毎回話題のアニメをアニメ評論家の藤津亮太氏の切り口で紹介しつつ、Gamer編集部からはそのアニメがどういったゲームファンにオススメできるかをピックアップしていきます。

第35回は、幾原邦彦氏によるオリジナル作品であるTVシリーズ「輪るピングドラム」を再編集するかたちで劇場版アニメとして制作され、2022年4月29日より公開中の劇場版「RE:cycle of the PENGUINDRUM[前編]君の列車は生存戦略」を取り上げます。

こんなゲームファンにオススメ!

第35回「RE:cycle of the PENGUINDRUM[前編]君の列車は生存戦略」

「RE:cycle of the PENGUINDRUM[前編]君の列車は生存戦略」は、TVシリーズ「輪るピングドラム」を再編集した劇場版だ。前編はTVシリーズの前半を中心に編集され、後編は7月22日から公開予定だ。

再編集といっても、名場面をダイジェストで見せるようなシンプルな構成ではない。本作は新作パートでTVシリーズの内容を挟み込む構成を採用し、TVの物語は一種の回想として扱われている。

作中には、まずすべての元凶となる1995年、次に登場人物たちが生きている現在としての2011年という2つの年号が登場する。映画は、この2つの年号を、さらに「TVシリーズのその後」の時間でサンドイッチしている。この「その後」の時間が、観客にとっての現在=2022年と重なり合うことで、TV「輪るピングドラム」は改めて“今”の物語として蘇ることになった。

もうひとつ特徴的なのは、実写を使った長いシーンが2カ所に挿入されていること。それは作品の主要な舞台である荻窪のさまざまな風景を切り取った映像で、セリフもない。美しくアニメよりも情報量の多い映像と静かな音楽による特別な時間に、観客は身を委ねることになる。この部分の映像を手掛けたのは「さらざんまい」でエンディング映像などを手掛けた田島太雄だ。

映画というメディアは、2時間程度の「枠」の中に、キャラクターが生きたそれ以上の時間を編集して収めるメディアだ。そのときにただ時間をエピソードごとに細切れにして詰め込めばいいわけではない。ダレ場と呼ばれる、なにも起きない時間を作中に用意しないと、エピソードを詰め込んでもただ慌ただしいだけで終わってしまう。ダレ場があることで、観客はエピソードを追うことから一旦距離を起き、映画の内容を反芻することができる。その時、観客の中に情感が生まれる。ここに映画“体験”の特徴がある。

TV「輪るピングドラム」の映画メディアへのコンバートは、この実写によるダレ場の挿入によって完成したのだった。

では「[後編] 僕は君を愛してる」はどのようになるだろうか。さまざまなエピソードが手がかりのように配置されている[前編]と異なり、[後編] は、TVシリーズのクライマックスへと一直線で進む構成になるのではないだろうか。そうすると全体をサンドイッチする「その後の物語」のクライマックスと、TVのクライマックスが2つあることになる。この二重のクライマックスをどのように組み合わせて、映画としての語り口に持ち込むのか。[後編] の完成が楽しみだ。

「RE:cycle of the PENGUINDRUM」公式サイト
https://penguindrum-movie.jp/

藤津亮太(ふじつ・りょうた)

アニメ評論家。1968年、静岡県生まれ。雑誌・WEB・BDブックレットなど各種媒体で執筆するほか、朝日カルチャーセンター、SBS学苑で講座を担当する。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ―セロ年代アニメ時評―』(NTT出版)、『声優語~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~』(一迅社)、『プロフェッショナル13人が語るわたしの声優道』(河出書房新社)などがある。毎月第一金曜日には「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)でアニメの話題を配信中。

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