カプコンが2023年に発売を予定しているPS5/PS4/Xbox Series X|S/PC(Steam)用ソフト「ストリートファイター6」。本作について、松本脩平プロデューサーと中山貴之ディレクターにインタビューを実施した。
5種類のバトルシステムを活用する「ドライブシステム」やシンプル操作で強力な必殺技やコンボが発動できる「モダンタイプ」、有名キャスターが試合の実況を行う「自動実況機能」など、様々な新要素が実装された「ストリートファイター6」(以下、「スト6」)。
対戦格闘以外にも、1人用のストーリーモードである「ワールドツアー」や、オンラインで様々な交流が楽しめる「バトルハブ」など、幅広いコンテンツが用意されている。そんな本作について、松本脩平プロデューサーと中山貴之ディレクターに話を伺った。
インタビュー・編集:ヨッシー
文・構成:島中一郎
熱い駆け引きが楽しめる「ドライブシステム」と有名キャスターによる「自動実況機能」が実装!
――まずは、本作のコンセプトについてお聞かせください。
松本:「ストリートファイター」は、熱心な格闘ゲーマーの方や、カジュアルな格闘ゲーマーもたくさんいらっしゃいます。それと同じく「ストリートファイター」の世界観やキャラクターが好きという方もたくさんいらっしゃいます。それに加えて新たに「ストリートファイター」を初めてみよう!という方の全てにアプローチできる事をコンセプトにしています。もう一度「ストリートファイター」を誰しもが遊ぶゲームにしたいという気持ちが強くありますね。また、アートやビジュアルなどもアップデートしていますので、全てにおいてチャレンジングなタイトルとなっています。
中山:対戦ツールとしての役割を担保しつつも、「ストリートファイター」の世界が体験できる作品を作りたいという思いがあります。ゲームの腕を磨き、他のプレイヤーと交流する面白さが味わえるような作品になるよう開発を進めています。
――本作のプロジェクトは、いつ頃から始まったのでしょうか。
中山:企画書を作り始めたのが2018年ですので、「ストリートファイターV」(以下、「ストV」)の開発と並行して企画を進めていた形になります。格闘ゲームのコミュニティやプレイユーザーの動向を見て、新たにチャレンジしたい部分や既存作品の改善点をまとめていました。チームの中には、「スト6」と「ストV」の開発を同時に進めていたスタッフもいましたね。
――「ストV」ではVゲージを使った各種システムが特徴的で、ラウンド後半に発動ができるVトリガーによって試合展開がガラリと変わる内容が印象的でした。今回「スト6」では新たにドライブシステムが搭載されていますが、どのような狙いでこのシステムを導入したのか教えて下さい。
中山:「ストV」についてですが、試合の展開を後半になったら盛り上がるように体感させたいという意見を、当時カプコンUSAからいただきまして。例えば、クリティカルアーツのゲージが自動で溜まるといった案をいただいたのですが、そうすると試合が一辺倒になるという問題が出てしまったんですね。そのため、カプコンUSAの意見を日本サイドで調整を行いながら仕組みを整えていきました。
「スト6」では、ドライブゲージを使用することで、「ドライブインパクト」や「ドライブパリィ」、「ドライブラッシュ」などの5種類のアクションを用意しました。例えるなら「ストV」の「Vスキル」に近い形で、対戦格闘が得意ではないプレイヤーでも簡単に強い攻撃行動が発動できる仕組みを整えることが狙いでした。
格闘ゲームに慣れてきた方には、タイミングやテクニックが重視されるドライブパリィを、上級者には攻撃をキャンセルして特殊なコンボに繋げるドライブラッシュを用意するなど、システムの中に難易度を付けることで、段階的に操作に慣れることができる仕組みにしています。
ちなみに、開発中にドライブインパクトは「なんとかなる攻撃」と、ドライブパリィは「なんとかなる防御」と呼んでしました(笑)。
――「なんとかなる」シリーズと比べると、ずいぶんスタイリッシュな名称になりましたね(笑)。ドライブシステムについて、ドライブゲージが戦闘開始時からマックスの状態になっていたことが気になったのですが。
中山:ゲージの消費量や使用するタイミングは、キャラやプレイヤーによって変わると思っていて。例えばルークはドライブゲージを消費してガンガン攻めるといったラッシュが強いキャラなのですが、攻撃一辺倒だとゲージがすぐに枯渇してしまいます。
一方で、防御が上手いプレイヤーはパリィでゲージを回復するなどの戦法が考えられます。各々のキャラクターに合った消費のタイミングをユーザーのプレイスタイルに委ねたいというのがあり、ドライブゲージは最大値からのスタートに設定しました。
――過去シリーズのEX技がドライブシステムに組み込まれましたが、その意図について聞かせてください。
中山:「ストV」ではEX必殺技を使うと、クリティカルアーツが出せないというジレンマがあったんですね。逆転を狙ってゲージを温存する手もあるのですが、「スト6」ではシューティングゲームで言う「ボム落ち」のように、ゲージを抱えたまま試合に負けるといった流れを作りたくなくて。
なので、オーバードライブでガンガン攻めて、スーパーアーツを発動するという派手な行動ができるようにしたかったのです。画面が動いて殴り合いができた方が楽しいですし、一方で、攻撃に対する強力なパリィも用意していますので。ユーザーさんのテクニックを、思う存分発揮してもらいたいです。
――ドライブインパクト発動時には画面上にペンキをぶちまけたような、色鮮やかな演出が発生するのが印象的でした。
中山:アートスタイルや音楽スタイルを一新したいという思いがあり、ゲーム画面やUIについてデザインする専門のチームを別に立ち上げています。「ストV」でVトリガーが発動した時の演出を、もう少しデザインチックにした形ですね。
新規ユーザーに興味を持ってもらいたい部分や、格闘ゲームとして技がヒットした瞬間や、攻撃のチャンスを分かりやすくするといったキーワードを大切にしながら制作を進めています。
――アールさんとViciousさんによる「自動実況機能」が用意されていることも、ユーザーにとって嬉しいポイントですね。
中山:自分のプレイに実況が付くという楽しさを、もっと多くのプレイヤーに体感して欲しかったというのがあります。また、試合の進行をもっと分かりやすくしたいという考えから、自動実況機能を実装しています。
――オプションには実況者のほかに、解説者を選択する欄もあったのですが……?
中山:それについては、続報をお楽しみに(笑)。
松本:実況者や解説者は今後も追加していく予定ですので、続報を楽しみに待っていてください!字幕は13言語対応するようにしています。
コマンド入力が容易な「モダンタイプ」実装に至った経緯とは?
――「スト6」のストーリーについてですが、時系列はどのあたりの内容になっているのでしょうか。
中山:ナンバリングシリーズの時系列では一番最新の話で、「ストリートファイターIII」よりも少し後のストーリーとなっています。
――新キャラクターのジェイミーについて、キャラクターのコンセプトをお聞かせください。
中山:酔拳を扱うキャラを登場させたいというのが一番初めにありました。ただ、酔拳だけだと他の登場キャラと比べて個性が弱いというのがあり、酔拳とブレイクダンスを合わせたキャラになりました。
――ルークは「ストV」で実装されたときに、今後のシリーズの未来を担うキャラクターという形で紹介されていました。「スト6」ではどのような役割を持つキャラになるのでしょうか。
中山:言葉を濁して言うと、初期カーソルはルークに当たっています(笑)。「ストリートファイター」シリーズは全てのキャラクターが主人公だというのは根底にあるのですが、本作でのルークはキーキャラクター的な立ち位置になっています。
――キーキャラクターとしてルークを選んだ理由についてお聞かせください。
中山:対戦相手に弾を撃ち、飛ばして落とすという「ストリートファイター」の遊びの要素が一番盛り込まれているキャラはリュウだと思っているのですが、もう少し操作がしやすいキャラクターを作りたいという考えもあり、「ユーザーさんが一番に求めるところは何だろう」という話をチームの中でしていました。
ボタンを押して前に出て殴るという、格闘ゲームの基本の楽しみが味わえるキャラとして、ルークを実装しました。まずはルークの操作に慣れてもらって、次にリュウや春麗をプレイしてもらう導線を作りたかったんですね。
ある程度まで操作に慣れてくるとルークの強さは頭打ちになる……と見せかけて、実はもう一段階用意してあるんですけど(笑)。
――他のキャラクターの操作に慣れた後にまたルークを操作することで、また新たな発見が待っているということですね。続いて、本作の1人用のストーリーモードである「ワールドツアー」について紹介をお願いします。
松本:従来のシリーズでは、プレイヤーがリュウや春麗といったキャラクターを操作するものでした。「ストリートファイター」はキャラクターや世界観のファンの方が非常に多いので、プレイヤーがストリートファイターの世界に入ってアクションを行うことへの需要は絶対にあると思っています。今回のワールドツアーでは、自身のアバターを操作して「ストリートファイター」の世界を体験できるようにしています。
中山:ストーリーが楽しめるワールドツアーを入口として、他のユーザーとのコミュニティや対戦を楽しんでもらいたいと思っています。もちろん、ワールドツアーのみをプレイするという楽しみ方もできますし、オンラインでのコミュニティが楽しめる「バトルハブ」を利用してもらうなど、色んな遊びができるような仕組みを整えています。
――新規プレイヤーにとって格闘ゲームはコマンド入力の難しさなどあり、作品の魅力に気づくまでのハードルがなかなか高いジャンルであるように感じています。「ストV」ではアップデートにてトーナメント機能を追加するなど盛り上がる機能はあったのですが、格闘ゲーム初心者が上手くなるための導線やコンテンツは、プレイヤーの動画配信やSNSなど、外部のコンテンツに支えられていた印象がありました。
中山:それはまさに仰っていただいた通りだと思っていて。ゲームの対戦格闘の部分は、本来であればエンドコンテンツに当たる部分だと自分は考えていたんです。そこに至るまでの体験や導線を公式の方で用意していないというのは申し訳ないという気持ちがあり、今回のワールドツアーとバトルハブを実装しました。
例えばランクマッチにハードルの高さを感じている方が、クッションとして他のプレイヤーとのコミュニティのを楽しんでほしいと思って用意したのがバトルハブに当たります。ワールドツアーのみをプレイしたり、バトルハブでの他のプレイヤーとの交流を重視したりといった、色んな楽しみ方ができるような仕組みを整えています。
――公開されたアナウンストレーラー映像にもバトルハブのシーンがありましたが、最後に「ストリートファイターII」の硬貨を入れた時の効果音が鳴ったのが気になっています。
中山:それはSNSでユーザーの方の反応を見てもあまり触れられていない部分で、気付いてもらえていないのかドキドキしていました(笑)。なぜ効果音が鳴ったのか、続報に期待してもらえればと。
――映像には「ストリートファイターIV」のハカンの登場を想起させる内容が含まれていたことも気になっています。
中山:あれですかね、オリーブオイルを発売した方がいいですかね?(笑)
松本:あの映像には、ファンの皆様に色々な思いを巡らせてほしいという思いがあり、多くの小ネタを仕込んでおりますので(笑)。もう一度見返してみると、新たな発見があるかもしれませんよ!
――色々想像が膨らみますが、この辺にしておきます(笑)。従来の6ボタン入力できる「クラシックタイプ」に加え、今作からはコマンド入力が容易な「モダンタイプ」が新たに実装されました。新しい入力タイプを実装した経緯についてお聞かせください。
中山:現在はアーケードコントローラーやゲームパッド以外にも様々な入力装置がありますが、幅広いユーザーに遊んでもらいたいというのがまず根底にあり。アーケードコントローラーだけでなく、ゲームパッドでプレイするユーザーにも遊びやすい入力方法は何かを考えたんです。
そうした中で、過去シリーズにあったイージーモードのような、初心者向けモードを用意するのではなく、ユーザーに新しい操作形態を提示するといったチャレンジをしようという考えに至り、モダンタイプを実装しました。モダンタイプは初心者、クラシックタイプは上級者というような、垣根を払いたいという思いがあります。
松本:格闘ゲームを遊ぶために、ハードとゲームソフト、アーケードコントローラーを準備するとなると、初期投資になかなかお金がかかってしまうので。そのハードルを少しでも下げたかったというのもありました。また、モダンだから初心者向けということはなく、将来的には大会でモダンタイプを使用した選手が優勝するシーンをイメージしています。色んなことを改めて許容し、提供していきたいという考えでいます。
――モダンタイプに実装された「アシストコンボ」についてですが、ただ連打するだけでなく、R2ボタンを押した状態で連打をしないとコンボが発動しないという仕様は珍しいように感じました。
中山:ボタン連打で対戦相手に最大ダメージが与えられる一方で、ゲージを意図せず使ってしまうという事態を避けたかったんです。
――モダンタイプでは基本攻撃ボタンが6つから3つになることで、攻撃のバリエーションが減っていますが、どのようにお考えですか?
中山:ボタンが6つあると打点や発生速度などで、使用用途が近しい攻撃というのはどうしても出てきてしまいます。例えばジャンプ中パンチとジャンプ中キックを差別化するのは難しかったりするのですが(笑)。そういった要素を整理した内容がモダンタイプになっています。
――なるほど。技のバリエーションが減ることによる不便さを感じさせない作りになっているんですね。
中山:方向キーとボタンを押すといった特殊な入力にはなりますが、アシストボタンを押した時に発動する通常技と押していない時に発動する通常技を異なる内容にするなど、攻撃のバリエーションはなるべく減らさないようにしています。
――そう考えると、モダンタイプは初心者向けというより、ずっと使い続けられる操作方法として考えて作られているのが分かります。
中山:そうですね、頑張って開発を続けています(笑)。アシストコンボにはキャラの特徴が一番出る技を採用しているので、モダンタイプでも十分にキャラの魅力が楽しめるようになっているんです。モダンタイプで腕を磨いてもらい、ぜひ大会にも出場してみてほしいと思っています。
――格闘ゲームのコミュニティの中でも意見が分かれる内容だとは思うのですが、今のeスポーツ界隈では基本無料タイトルが盛り上がっている印象があります。eスポーツ分野で格闘ゲームというジャンルを確立するためには、プレイ人口が1つの要素になってくると思います。そういった点を踏まえて、基本プレイ無料というものをどう捉えていらっしゃるのかお伺いしたいです。
松本:確かに基本プレイ無料にすると人口は増えますが、大体2~3年ぐらいで周期が流れていて、新しいトレンドが出たらそっちに流れちゃうという傾向があると考えています。一方、「ストリートファイター」シリーズは、長く遊んでもらっているというのが一番の強みです。
無料にしたら人口が増えるのは、みなさん分かっていると思いますが、それよりも深いところがあると思っていて。長くストリートファイター6を遊んでいただくようにしっかりと運営とサポートをしていきたいと考えています。
――今回のお話を聞いて、「スト6」は今後の「ストリートファイター」の分岐点になり得る、かなり重要な作品だという印象を受けました。
松本:「スト6」を完成させて皆様にお届けすることはもちろん大事ではあるのですが、「スト6」が世に出た後のこともしっかりと考えておかなければなりません。シリーズを今後も存続させていく重要なタイミングであると考えているので、やれる事は全てやるという思いでいます。
中山:これまでのゲームクリエイター人生をかけたチャレンジングなタイトルとして、本当に全力を出し切る勢いでいます。「『スト7』を作る奴は、『スト6』を超えられるものなら超えてみろ!」という思いで取り組んでいます(笑)。
――ありがとうございました。