アニメ評論家・藤津亮太氏が話題のアニメを紹介する「ゲームとアニメの≒(ニアリーイコール)」。第36回は2022年4月~6月にかけてSeason 1が放送された「BIRDIE WING -Golf Girls’ Story-」を取り上げます。

ゲームとアニメは本来異なる媒体ですが(≠)、その中での共通項(≒)となる部分にフォーカスしたいという思いから立ち上げた本連載。毎回話題のアニメをアニメ評論家の藤津亮太氏の切り口で紹介しつつ、Gamer編集部からはそのアニメがどういったゲームファンにオススメできるかをピックアップしていきます。
第36回は、2022年4月から6月にかけて、テレビ東京系列6局ネットでSeason 1が放送された、女子ゴルフをテーマとしたオリジナルアニメーションシリーズ「BIRDIE WING -Golf Girls' Story-」を取り上げます。2022年1月からはSeason 2の放送も決定しています。
こんなゲームファンにオススメ!
- 「みんゴル」などのゴルフゲーム
- 「こちら、母なる星より」など、女の子同士の関係性を描くゲーム
第36回「BIRDIE WING -Golf Girls' Story-」
加山雄三の代表作のひとつ「エレキの若大将」(1965)にこんなシーンがある。
主人公である若大将こと田沼雄一が、自宅(老舗のすき焼き店)の自室の窓辺でエレキギターを弾いていると、蕎麦屋で働く友達の隆がやってくる。一度エレキを弾いてみたかったという隆に、エレキギターを渡す若大将。初めてエレキを持った隆は、いきなりプロ並みの演奏をしてみせるのだ。
荒唐無稽といえば荒唐無稽。でも突き抜けた荒唐無稽さには「この作品ではそういうことになっているのか」と有無をいわせずこちらを説得してくるような力がある。特に映像作品では、荒唐無稽な瞬間の「絵」がおもしろければ、観客はついいノセられてしまう。
「エレキの若大将」の場合の「絵のおもしろさ」は、隆を演じたのが、後にエレキの神様といわれ、当時も人気のミュージシャン・寺内タケシというキャスティング。「名人が素人のフリをして演技する」という仕掛けが、観客のクスクス笑いを誘いつつ、「初心者でプロ並みの演奏」という荒唐無稽を納得させるのだ。
前置きがなくなってしまったが「BIRDIE WING-Golf Girls' Story-」がおもしろいのは、「エレキの若大将」のような「荒唐無稽」と「それを説得する(広い意味での)絵のおもしろさ」があるからだ。
主人公はイヴという天才ゴルファー。彼女はヨーロッパのナフレスという国のスラム地域に住み、一緒に暮らす仲間たちのために賭けゴルフで賞金を稼いで暮らしている。この世界では、変装して他人になりすまして代打ちすることも「アリ」だし、二つ名を持つ地下ゴルファーも登場する。ショットを打つ時に「必殺技コール」のような決め台詞も登場する。言葉にすると荒唐無稽な設定がアレコレ出てくるのだが、どれも照れることなく堂々とビジュアル化されているので、見ているうちに「これはこれでこういうものか」と説得されてしまう。
本作の「絵」のおもしろさを特に象徴するのは、第13話までのSeason 1に度々登場する自動コース生成システムを導入した地下ゴルフ場。ここは裏社会の利権を巡る争いに白黒をつけるための、ゴルフ勝負の舞台として使われている。水が注がれ、人工芝が動き、巨大な地下空間にゴルフコースが自動生成されていく様子は、アニメでなければ説得力がなくなるような大ウソだが、それを見ているうちに「こういうものか」という本作「らしさ」についての納得感がやってくる。
Season 1は第9話以降、命を狙われたイヴが、日本へと脱出し、雷凰女子学園ゴルフ部へと編入するという新展開を迎える。雷凰女子学園にはイヴも認めた唯一のライバル、天鷲葵がいる。こちらにはこちらで個性豊かなライバルや仲間たちが多数登場。果たしてSeason 2では、どのような展開が待ち受けるのか。できることなら想像を超える荒唐無稽なゴルフバトルを見せてほしい。
ちなみにナフレスでは第一言語が英語のようで、日本に来た当初イヴは英語を喋っている。それが、女生徒と喋るうちに、日本語になってしまう。イヴは自分が日本語を喋れることに驚くが、彼女も周囲もそれをそのまま受け入れてしまう。
もしかするとイヴの生い立ちに関係のある伏線かもしれないが、できることならこのエピソードはこのままのほうが魅力的だと思う。なにしろアニメなので、ナフレスでも登場人物たちはずっと“日本語”を喋っていたのである。これこそ「エレキの若大将」の「エレキをばっちり弾いてしまう隆=寺内タケシ」と同じく、観客がクスリと笑って、そのまま受け入れてしまったほうが楽しい荒唐無稽だと思うのだ。
「BIRDIE WING -Golf Girls' Story-」公式サイト
https://birdie-wing.net/
藤津亮太(ふじつ・りょうた)
アニメ評論家。1968年、静岡県生まれ。雑誌・WEB・BDブックレットなど各種媒体で執筆するほか、朝日カルチャーセンター、SBS学苑で講座を担当する。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ―セロ年代アニメ時評―』(NTT出版)、『声優語~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~』(一迅社)、『プロフェッショナル13人が語るわたしの声優道』(河出書房新社)などがある。毎月第一金曜日には「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)でアニメの話題を配信中。