東京ゲームショウ2022の会場にて行った、「RPGタイム!~ライトの伝説~」と「World II World」を手掛けるゲームクリエイター・藤井トム氏へのインタビューをお届けする。
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ふたりのゲームクリエイターによる開発チーム、デスクワークスによって10年の歳月を掛けて開発され、2022年、ついに発売を迎えたPS4/Nintendo Switch/Xbox Series X|S/Xbox One/PC(Windows/Steam)用ゲーム「RPGタイム!~ライトの伝説~」(以下、「RPGタイム!」)。
そんなデスクワークスと、「RPGタイム!」のパブリッシングを務めたアニプレックスのタッグによる新作スマートフォン向けRPG「World II World」が、東京ゲームショウ2022にてベールを脱いだ。前作とまったく異なるゲーム内容に、驚いた人は多いことと思う。
今回のインタビューでは、デスクワークス所属の藤井トム氏に「RPGタイム!」、そして新作「World II World」について、気になることを根掘り葉掘り聞いてみた。
新作がなぜスマートフォン向けタイトルなのか? ということや、藤井氏が「RPGタイム!より斬新」と言うこのゲームの魅力。さらに2作品をとおして凄まじい数のアイデアを生み出せたその理由や、「プレイするのが怖いと感じたゲーム」など、盛りだくさんの内容となっている。ぜひ、最後まで読んでいってほしい。
「RPGタイム!」のPS4、Switch、Steam移植を終えたいまの心境は?
――まずは「RPGタイム!」についてお聞かせください。Xbox版、Windows版に続き、Nintendo Switch版、PS4版、Steam版をリリース。さらにNintendo Switchでは10月13日にパッケージ版もリリースされますが、これらの反響はいかがですか?
藤井:会社勤めしていた頃に関わったタイトルは、発売日が決まったらすべてのプラットフォーム向けに同日発売することが多かったんです。
「RPGタイム!」は3月にXbox版とWindows版、8月にPS4版とSwitch版、9月にSteam版、10月にSwitchパッケージ版と、ここまでバラバラにリリースするのは初めての経験でしたが、話題になっている時期によって「いまプレイしているならだいたいこのプラットフォームで遊んでくれているのかな」と予想できたので、それが新鮮でした。
「自分が持っているプラットフォームに移植されるのを待っている」という人がたくさんいることも改めて分かりました。「このプラットフォームのユーザーからはこういう意見が多かった」といったこともなく、全機種しっかり移植できたのかなとホッとしています。
――すべてのプラットフォームでのリリースを終えたいまだからこそ話せる裏話みたいなものがあれば教えてください。
藤井:ひとつ挙げるとすれば、いわゆる“実績”にまつわるプラットフォーム独自の要素ですね。先日リリースしたばかりのSteamで言えば、僕らもなんとなく存在は知っていましたけど、実績解除によってバッジなどが貰えて、それをユーザー同士で交換できる機能があるんですよね。
普段はあまり意識していなかったのですが、開発側となるとそういったものも用意しなければいけなくなりました。苦労というよりはおもしろいと感じたところですね。
――確かに、僕もSteamでゲームを遊びますけど、自分がバッジをどれくらい手に入れているかというのはまったく意識していませんでした。
藤井:自分がプレイしたゲームのバッジを改めてちゃんと見てみると、そのために新しいイラストが描き下ろされていたりするんですよ。
――「RPGタイム!」でもバッジ用に描き下ろしたりしましたか?
藤井:何かしら用意したと思います(笑)。「良い絵はなかったか?」と、ゲーム制作中に紙に描いたイラストを引っ張り出してきたり、探していた絵柄が見つからなかったときは「新しく描いたほうが早いよ!」と言って描き下ろそうとしたりと、バタバタだったんですよね。
――「RPGタイム!」の作風について、ひとつお聞きしてみたかったことがあります。本作のような、これまでのビデオゲームに対するリスペクトを込めたゲームを作るとなると、自分だったら「ドラクエ」の有名な台詞などの分かりやすいパロディみたいなものを入れたくなったと思うんですよね。「世界の半分をお前にやろう」みたいな。そういったものを使わずに、“ケンタくんがいる世界”にある架空のゲームとしてアレンジしたものが使われているというのは、明確に「パロディはやらない」みたいな方針があったんでしょうか?
藤井:「パロディはやりたくない」と、最初に決めた覚えがあります。パロディっておもしろいですし、ゲームに対する愛の表現方法のひとつだと思っているのですが、当時は「そこに頼っては駄目だ」みたいな感覚がありました。
もういろいろなゲームを知っちゃっている自分が、ゲームをゼロから作り出すのは不可能だけど、それでもイチからちゃんと考えて作ろうみたいな想いがあったんです。やりたくなることもありましたけど、だいぶ飲み込みました。
それでも「RPGタイム!」に実在するタイトルのパロディ的なものがまったく入っていないわけではないと思います。それは知らず知らずのうちに滲み出てしまうほどに、僕にとって血肉になっているものなので、お許しください(笑)。
――「RPGタイム!」をすでにクリアしたプレイヤーにメッセージをお願いします。
藤井:クリアして、その人の日常にプラスになることがあれば良いなぁと言いますか。もちろん楽しんでいただけるだけでもすごく嬉しいんですけど、子どもの頃を思い出したりとか……湧き出てくるものがあれば、それに従って過ごしていただきたいなぁと思っております。ちょっと重いですけど(苦笑)。
「World II World」はコンシューマー向けRPGとスマホ向けのRPGの“いいとこ取り”を目指す
――今回発表された「World II World」は、どんなゲームなのでしょうか?
藤井:3つの世界があって、それぞれが分断の危機に瀕しているんです。機械と人間の世界、異世界と現代の世界、西部劇(ガンマン)と時代劇(サムライ)の世界というように分かれつつあって、この分断を止めるべく、それぞれの世界で別々の主人公たちが冒険を繰り広げます。これらの分断されようとしている世界にもそれぞれに主人公がいるので、あわせると6人の主人公がいて、6つの冒険をひとつのゲームで楽しめることになるんです。
そしてこの分断されようとしているそれぞれの世界を、スマートフォンを縦持ちして、上画面と下画面、同時に冒険できるというのがメインのギミックになります。上画面が機械界なら下画面は人間界、上画面が異世界なら下画面はファンタジー、上画面が西部劇なら下画面は時代劇の世界といった形ですね。
これらすべての世界の境界には“境界ちゃん”と呼ばれるウェーブというキャラクターがいて、彼女が6つの世界にまたがる冒険をナビゲートしてくれます。
――大作だった「RPGタイム!」に続くタイトルがスマートフォン向けタイトルということに驚いたファンも多いと思います。このゲームが生まれることになった過程を教えてください。
藤井:切っ掛けとなったのは、アニプレックスさんから「次回作を考えているのなら、そのアイデアを教えてほしい」というオーダーを受けたことです。アニプレックスさんが「RPGタイム!」のパブリッシャーになるより前のことでした。
僕たちはといえば、「RPGタイム!」を作っている最中も、ほかのゲームのアイデアをいろいろと思い付いていたので、それはすごく嬉しい申し出でした。そんな中でも、いちばん良いと思うアイデアをアニプレックスさんにぶつけてみようと思い、それが今回のメインのギミックになっている「スマートフォンの縦長の画面を上の画面と下の画面に分けて、別々の主人公が冒険する」というものだったんです。
――それは、スマートフォン向けのアイデアだから、「RPGタイム!」に盛り込むことはできなかったというのが大きいのでしょうか?
藤井:というよりは、「RPGタイム!」で使えなかったアイデアの中には、年月が経って風化してしまったものや、もう他のゲームにやられてしまったものもたくさんあったんです。でも開発初期から温めてきたこの二画面のアイデアは、アニプレックスさんに紹介する頃になってもあまり見たことがなく、新鮮だったんです。それでアニプレックスさんには「RPGを二画面にしたら、2倍おもしろくなるかもしれません」と(笑)。
――なるほど(笑)。ちなみにこのアイデアって、最初期はスマートフォン以外のゲーム機向けに思いついたものだったりしますか?
藤井:もともとスマートフォン向けのアイデアですね。iPhone5~6くらいの、縦持ちで使うのが主流、かつ大画面で、スペック的にもそれなりにゲームが動くようになった頃だったと記憶しています。
僕もいくつか縦持ち対応のゲームを遊んでいたのですが、なんだか画面を持て余しちゃう印象を受けたんです。それで、あるとき「(上画面を左手の親指で、下画面を右手の親指で操作する仕草をしながら)画面を真ん中で分けたら、こうやって両方の画面を操作できるんじゃないか?」と思いついて、それが切っ掛けで温めていたアイデアになります。
――このアイデアを実現する上での苦労があれば、どんなことだったのか教えてください。
藤井:当然ながら、世界が3つあると、世界設定も3つ作らなければいけません。さらに、西部劇と時代劇の世界という意味ではその両者も全然違うので、6つ分の世界に相当する設定が必要で、作業量的にはかなり大変でした。開発の仲間にも心配されましたね(苦笑)。
でも、上画面と下画面で別々の世界が描けるとなると、いろいろな対立構造を描けたほうがおもしろいんですよね。機械と人間が対立してしまった世界がどうすればひとつになれるのか? というのは永遠のテーマですし、ガンマンと侍、銃と刀はどちらが強いのか? というのも魅力的です。現代と異世界で入れ替わるように転移して成り上がっていくというのもワクワクしますよね。
ほかにも“陸と海で分かれている世界”や“男女で分かれている世界”など、いろいろな対立構造を持つ世界のアイデアを思いついたのですが、絞りに絞ってこの3つが残りました。作るのは大変ですが、いろいろな世界を冒険できるというのはやはり自分でも楽しいと感じたので、この数になりました。
そして今回、漫画雑誌やTVドラマのようにメインシナリオを週刊連載する予定になっていまして、毎週どこかのワールドのクエストが更新されるんです。
――リリース後も、忙しい日々が続きそうですね(笑)。販売形態は買い切りでしょうか? それとも基本無料の都度課金制ですか?
藤井:基本無料の運営型タイトルです。一部のアイテムに課金していただくタイプのゲームですね。
――ほかのプレイヤーと協力したり、簡単なコミュニケーションをする要素というのはあるのでしょうか?
藤井:今回そういった、フレンドやギルド、対人戦やランキングなどのいわゆるソーシャル要素は廃して、コンシューマーライクにひとりでじっくり遊べるというのを優先しています。
一方で、コンシューマーのひとり用ゲームだと頻繁に更新で新しいストーリーが読めるゲームというのはほとんどないですよね。それがスマートフォン向けのゲームならやりやすいので、週刊連載というスタイルを取り入れたんです。コンシューマー向けのRPGとスマートフォン向けのRPGの“いいとこ取り”になるといいなと思っています。
――デスクワークスさんのファンは「RPGタイム!」の発売まで何年も待っていますから、今度は毎週新しいアイデアを楽しめるというのは、すごく嬉しいことだと思います(笑)。
藤井:そうですよね(苦笑)。我々としても毎週新しいアイデアを届けることができるのは嬉しいです。
――既存のスマートフォン向けの基本無料ゲームによくあるフォーマットからは逸脱している気がするので、長く運営を続けるための収益が出せるのかという点は少し心配です。
藤井:そこもやっぱり大事なのでアニプレックスさんと話すのですけど、いわゆるガチャでキャラクターを入手できるシステムはあるものの、1度に必要な課金額は少し抑えて、気軽に仲間を増やしていってもらえるようにしています。一方でガチャはまったく回さずに、時間を掛けて最後までクリアすることも可能です。
――収益化に関する不安はさらに増した気がしないでもないですが……プレイヤーとしてはやりがいがありそうです!
6つの世界でパーティ編成の楽しさも6倍に!?
藤井:今回、「World II World」を実際に遊べるスマートフォンを持ってきているんです。
――おおっ! 見たいです。
藤井:こうやって、上画面をタッチすると上画面の主人公が動かせて、下画面をタッチすると下画面の主人公を動かせます。もちろん同時に動かすこともできます。基本的にはRPGなので、フィールドを冒険して、敵と戦いながら進んでいく。ときにはイベントがあって、物語が進行していくという流れになっています。
二画面ならではのおもしろいところとしては、RPGで戦闘中のときって、ぼーっと眺めている時間が出来ることがあると思うのですが、「World II World」ならもう片方の画面でストーリーを進めておこう、みたいなことができるんです。遊びの効率化と、いわゆる“ながらプレイ”みたいにならずに、このゲームに集中してもらえるのが良いところかなと思っています。
上画面、下画面ともにバトルをすると、これはこれで報酬が2倍貰えるので、すごく効率がいいんですよね。あとスマートフォンの画面全体でたくさんの仲間が戦ってくれるので、「みんな頑張ってるなぁ!」という気持ちになれます(笑)。
――あぁ、確かに(笑)。
藤井:もちろん、片方の画面に集中してじっくり楽しんでもいいです。シングルプレイRPGとして、プレイヤーひとりひとりが自分に合ったペースで遊べるというのを大事にしています。
パーティ編成もそれぞれの世界で別々、さらに上下でも別々なので、ストーリーの中で仲間がひとりひとり揃っていって、「どんな編成がいちばんいいのか?」と考えていくのが好きな人にとって、その楽しさが6回あるんです。個人的に、RPGって仲間が集まっていく過程がいちばんおもしろいと思っているので、それが何度も楽しめるのっていいと思うんですよね。
――仲間が集まってからの、やりこみ要素みたいな部分はいかがですか?
藤井:スマートフォンのタイトルって“スーパーヘビー”と呼ばれるような、物凄い時間を掛けてプレイをされる方もいらっしゃるので、そういう方にも満足いただけるだけのやりこめるコンテンツは用意しています。週刊連載だからといって「すぐ終わっちゃって、もうこの先1週間やることなくなっちゃったよ」みたいにはならないはずです。
――戦闘はオートバトルにもできるようですが、キャラクターのパラメータや能力、相性などがそのまま勝敗に直結する形でしょうか?
藤井:バトルシステムはターン制のコマンドバトルを採用しているんですけど、仲間がある程度育っていれば通常の敵ならオートバトルで勝てます。そのあいだにもう一方の世界の冒険を進めるのもよいと思います。
ボスなどの強敵の場合、スキルを使うタイミングなど攻略のポイントがあるので、プレイヤー自身がコマンド入力をして倒す必要が出てきますね。
――道中で出会った敵がオートバトルで簡単に倒せるかどうかという、戦力差の指標みたいなものはありますか?
藤井:敵が出現するときに脅威度のようなものが表示されるので、それを確認すれば「この敵は楽勝だな」とか「この敵はよく考えないと倒せないかもな」というのは分かるようになっています。
今回、スマートフォン向けということもあってペナルティを重くするのは悪手かなと思っていて、負けたときに何かを失うといったことは極力なくしています。なので、いろいろと試行錯誤をしていただければと。
アニプレックスは藤井さんたちの「こういうゲームを作りたい」を大切にしてくれている
――デスクワークスといえば藤井トムさんと南場ナムさん、おふたりのチームですが、「World II World」はおふたりだけではなく、けっこうな人数で制作しているのでしょうか?
藤井:これくらいのプロジェクトになると我々だけでは不可能なので、けっこうな規模の開発人数で作っています。そもそも、本来我々は“少しプログラムができる企画職”と“少し絵が描ける企画職”のチームなので、本作ではプログラミングは北海道にある会社さん、グラフィックは東京にある会社さんにお願いして、弱かったところを補って貰っているんです。
我々は大阪にいるので、どのチームも距離的には離れているのですが、もともとリモート体制でやりとりしていたおかげで、コロナ禍に入ってもそのままスムーズに移行できました。
――では今回、おふたりは本来の役職である企画職に専念できているんですね?
藤井:我々でプログラムやスクリプトを書いたり、3Dモデルまで作ったりということはしなくなりました。私はディレクターとして企画の根っこの部分を作ったり、ギミックの設定や、各種シナリオのプロットを書いたりしています。南場はゲーム内に登場するSDキャラクターの動き方の監修や、作中で境界ちゃんが描いているという設定のスケッチブックの絵を描いたりしています。
「RPGタイム!」でやっていたような領域をやりたくなるときもありますが、今回はプロの方がいるので、おまかせしてますね。
――「自分がやるしかない!」と始めたことでも、10年やり続けると愛着が湧くものですか。
藤井:協力会社さんにお願いしたものが上がってくると、「うん、頼んでよかった!」と思いますけどね(笑)。
――(笑)。デスクワークスのおふたりは発売直前まで「RPGタイム!」に掛かり切りだと思い込んでいたので、コロナ禍前から「World II World」も始動していたということに驚きました。答えは分かり切っている気がしますが、この2作の同時進行は大変ではなかったですか?
藤井:2倍働いていました(笑)。もちろん「RPGタイム!」をやりながら「World II World」もここまで形になったというのは、我々だけじゃなく北海道や東京の協力会社さんの力が大きいです。「RPGタイム!」はふたりで作って10年掛かりましたけど、それって単純に考えたら、10人でやれば2年で完成するわけですから。助けてくれる人がたくさんいるというのは本当にありがたいです。
2作を並行して開発していたことで良いこともありました。僕も始まるまでは大変なだけなんじゃないかと思っていたんですけど、どちらかの開発に疲れたとき、もう片方の開発が息抜きになるんです(笑)。
――結論だけ聞くと、仕事のし過ぎでおかしくなったのかと思ってしまいそうです……。
藤井:僕も同じような話をほかの人から聞いたときはそう感じましたけど、自分で経験して「あれってホントなんだな」と分かりました。それぞれに別のアイデアが必要になるので、いい感じに頭が刺激されるみたいです。両方楽しく開発していました。
――シナリオも外部のシナリオライターさんが協力しているのでしょうか?
藤井:そうですね。それぞれの異なる世界をイメージするために、世界ごとにそれぞれ別のライターさんに書いていただいています。現代と異世界の世界は異世界転生的なお話が得意な方にお願いしたり、人間とロボットの世界はそうした派閥争いといったものに詳しい方にお願いしたり。
――それぞれの世界によって、大きく異なるテイストが楽しめそうですね。
藤井:扱っている題材もまったく違いますし、シリアスさやコミカルさのバランスも違ってきます。また、たとえば「なろう系が好きだから異世界の話が気になる」と、好きなジャンルで興味を持っていただいた方にも、いままであまり触れてこなかったジャンルの楽しさを知ってもらえるものにもなっているはずです。
――本作のアニプレックスとのタッグだからこそ取り入れられた要素だったりポイントがあれば教えてください。
藤井:まずは新規のオリジナルタイトルで、しかもこのコンセプトのタイトルを作らせてくれる会社さんって、アニプレックスさんのほかに何社もないと思っています。決して実績が多くはない我々に可能性を感じていただけているのは本当にありがたいです。
それから、イラストレーターさんへのキャラクターイラストの発注であったり、ボイスアクターさんのキャスティングというのは、実績もある会社さんだけあって非常にスムーズに進みましたし、広報や運営でも我々にはない知見によってできることがたくさんありました。
――キャラクターボイスのキャスティングは、藤井さんから「こういうイメージです」とお伝えして、イメージに合った声優さんを見つけてもらうような流れでしょうか?
藤井:基本的にそうなります。我々にはイメージのつかないキャラクターもお願いすればいい感じの方を見つけてくださったりと、開発に集中できる環境を作っていただきました。
――アニプレックスから「こうしてほしい」みたいにゲーム内容についてお願いされたりということはあったのでしょうか? 「マーケティング的にはこうすべき」みたいなアドバイスを受けたりだとか。
藤井:記憶が正しければ、アニプレックスさんとやりとりしていてマーケティングという言葉が出てきたことは一度もないですね。我々とのやりとりでは、このゲームをどうやってよいものにするのか、広くお客さんにお届けするにはどうすべきかといった話をしていただいています。パブリッシャーというよりも、同じものを一緒に開発してくれている方々という印象のほうが強いです。
――藤井さんたちの「こういうゲームを作りたい」という想いを大切にしてくれて、そのためにベストな方法というのを一緒に考えてくれているんですね。
藤井:まさにその通りです。ありがたいことに。
――“アニプレックスならでは”という話でいうと、人気作品とのコラボといった可能性はあるのでしょうか?
藤井:ソーシャル要素を排除したのと同じように、“期間限定イベント”みたいなものもやらない方針にしようと考えています。これは、マイペースにプレイしたい人を急かすような、負担に感じさせてしまう可能性があると判断したからです。なので、コラボみたいなこともいまのところ可能性は低いと考えていますが、よい話があれば可能性がゼロではないといったところです。
藤井さんが「これを遊んでしまったら、遊ぶ前には戻れないだろう」と恐れたゲーム
――「World II World」の話で少し話題に上がりましたが、藤井さんは普段からスマートフォンのゲームなども遊ばれるんですね?
藤井:企画職として、世に出ているゲームがどういうものなのか、どんな魅力を持っているのかといったものはできる限り網羅したいと思っているので。コンシューマー、スマートフォン問わずなるべく自分で遊んでみるようにしています。
――クリエイターによっては、人気作の影響を受け過ぎないように、あえてほかのゲームをあまりプレイしないみたいな考え方もあり得るのかなと思ったのですが、藤井さんは「RPGタイム!」を作る傍ら、いろいろなゲームに触れていたんですね。
藤井:そうですね。でもやっぱり、知ってしまうのが怖いタイトルはあります。「これを遊んでしまったら、遊ぶ前の自分には戻れない」というくらいの影響を受けるであろうタイトルというのは。
――その感覚を受けたタイトルをお聞きしてもよいでしょうか?
藤井:「RPGタイム!」の制作中にそう感じたのは「UNDERTALE」です。遊んでしまったら、影響を受けていないゲームはもう作れないだろうなと。
――あぁ~、なるほど……! タイトルを聞いて納得しました。最終的には「RPGタイム!」の開発と平行してプレイはされたんですか?
藤井:もう「RPGタイム!」がかなり出来上がったときにプレイしました。なので「RPGタイム!」は「UNDERTALE」の影響を受けずに開発できた最後のタイトルになっています。
――となると「World II World」からは、何らか「UNDERTALE」の影響が垣間見えるかもしれませんね。
藤井:そうですね。もう僕らが作る世界は「UNDERTALE以後の世界」ですから(笑)。
――いまの話と通じる部分かもしれませんが、「RPGタイム!」であれほどのアイデア溢れるギミックを取り入れて、さらに「World II World」のアイデアも温めていたということで、これだけのアイデアを生み出すための工夫みたいなものは何かあるのでしょうか?
藤井:いろいろな作品に触れるというのももちろんありますが、我々の場合、アイデアの出し方が特殊というよりは、「いろいろなアイデアが乗る土台作り」が得意ということなのかなと思うんです。
「RPGタイム!」で言うと“鉛筆とノート”、“ゲームクリエイターになりたい少年がゲームマスター”という土台があったから、その上にさまざまなアイデアを乗せることができたんです。「World II World」の“上下で二画面にして、別々に冒険する”という土台も同じくらい優秀で、操作も、バトルもキャラクターも、これまでの作品とは一味違うものにできました。
なので「アイデアを生み出すための工夫」への回答としては「アイデアそのものではなく、“アイデアの土台”を見つける」ということになります。
――「RPGタイム!」や「World II World」の“土台”が生まれるまでに「この土台にはあまりアイデアが乗らないな」みたいなボツ案はけっこうな数生まれたりするのですか?
藤井:良い土台かもと思っても、「いろいろ乗っけてみよう」といざアイデアを出してみると「思ったより乗らないなぁ」みたいなことはありますね。そういうときはすぐ切り替えて「じゃあこっちの土台を使おう。あ、これは大丈夫だ」みたいな(笑)。
――「World II World」はアイデアがたくさん乗る土台が使われているということで、「RPGタイム!」同様、プレイヤーを驚かせ続けるゲームになってほしいと期待しています。リリースが楽しみです。
藤井:ありがとうございます! 個人的には、「World II World」のほうが「RPGタイム!」よりも斬新なゲームだと思っているんです。プレイヤーの皆さんにこれまでにない体験をしてもらうべく開発を進めています。ご期待いただけると嬉しいです!