アニメ評論家・藤津亮太氏が話題のアニメを紹介する「ゲームとアニメの≒(ニアリーイコール)」。第40回は2022年10月より放送中のTVアニメ「うる星やつら」を取り上げます。

目次
  1. こんなゲームファンにオススメ!
  2. 第40回「うる星やつら」
  3. 藤津亮太(ふじつ・りょうた)

ゲームとアニメは本来異なる媒体ですが(≠)、その中での共通項(≒)となる部分にフォーカスしたいという思いから立ち上げた本連載。毎回話題のアニメをアニメ評論家の藤津亮太氏の切り口で紹介しつつ、Gamer編集部からはそのアニメがどういったゲームファンにオススメできるかをピックアップしていきます。

今回は高橋留美子氏のデビュー作を、小学館創業100周年を記念してTVアニメ化した「うる星やつら」を取り上げます。

こんなゲームファンにオススメ!

第40回「うる星やつら」

1978年である。この年、漫画「うる星やつら」が短期集中連載として少年サンデーに始めて掲載された。これがどれぐらい昔かといえば、連載第1回のタイトルが「かけめぐる青春」(これは今回のリメイク版アニメでも踏襲された)で、これは1976年のビューティ・ペアによるヒット曲からの引用である。―と、当時ならいわずもがなの説明をしても、「ああ」と納得してくれる人がめっきり少なくなるぐらいの時間が経っているのである。

時が変われば風俗も変わるし、人もかわる。だから今回のリメイク版が昭和――といって原作が連載された昭和53年から昭和62年ごろ――を舞台にするというのは、すごく納得がいく。「うる星やつら」のドタバタのエネルギー源となる感情は、令和の今の感覚からすると、ずいぶんと濃くて重たくて直接的だ。登場人物たちを令和の人間として考えると、その濃さ故に笑うに笑えなくなってしまう可能性もある。そこを考えると、そこに一枚「昭和ですよ」というフィルターをかけるほうが作品の中核をいじらなくてすむ。

そしてその上で、キャラクターの魅力は令和の視聴者にも通じるように絶妙なアレンジをする。令和のルックスに、昭和の情動(と風俗)というのが、本作の選んだバランスなのだろう。

そこを踏まえた上で、第1話Aパート「かけめぐる青春」で、ひとつ原作と大きく違うところがあったことを指摘したい。地球をかけた侵略者サイドのラムと人類サイドのあたるが行う鬼ごっこ。空を飛べるラムの体に、ようやく手をかけたあたるだったが、ラムの電撃にノックアウトされてしまう。ラムは、ノビているあたるに、しばらくは動けないということを言うが、あたるはなんとすぐに回復するのである。そしてそれを見るラムのアップ。このアップが原作にない。これは原作に描かれていなかった(なぜなら原作は当初ラブよりもギャグに重心があったし、なによりラムは第1話のゲストキャラの予定だったから)。そこを描いたことで、既に最終回が書かれている(ご存知の通り、最終エピソードもあたるとラムの鬼ごっこである)作品のアニメ化として、背骨をすっきり通すアップだった。

ご存知の通り「うる星やつら」は1981年から1886年までアニメ化けされている。ただ当時の第1話では先述のようなラムのアップはなかった。

当時のムックで読んだ記憶がある。ファンからの「ラムはあたるのどこが好きなのか」という質問に対して、編集部が「あたるの生命力では?」といったトーンの回答を記していた。当時の(ティーンエイジャーだった)読者としては、若干の後付説明っぽさを感じて「いいたいことはわかるけどさあ」という気分だったことを覚えている。

しかし今回のあたるの回復力とラムの描写を見ると、そのいささか強引な解説が、令和版の正解として採用されたかのようなおもしろさを感じる。

そんなことを考えながら今回のオープニングを見てみると、令和版のデザインのアニメキャラだけでなく、原作やゲーム版のラムの姿も登場する。そしてスマホ時代の現代に紛れ込んだあたるが、かわいい女の子がみんなラムで――という“悪夢”を見て目覚めると昭和の“現実”であると締めくくられる。

いろいろなラムの姿を点描した後の、現実という展開は、旧TV版第107話「異次元空間 ダーリンはどこだっちゃ!?」(CDが押井守からやまざきかずおに変わった第1話)を想起させる。あれはラムが「いろいろなあたるがいるパラレルワールドをさまよい、現実に帰ってくる」というアニメオリジナルのエピソードだった。まさかこのエピソードを意識したということはないと思うが、令和の「うる星やつら」も「いろいろあってもおかしくない『うる星やつら』のひとつ」という解釈ができるオープニングだった。

ことほどさように、少し硬めの第1話を経て、お膳たては十分整ったと思うので、あとはギャグものらしくスタッフがいかにノッてドタバタしてくれるかを楽しみに待っている。

TVアニメ「うる星やつら」公式サイト
https://uy-allstars.com/

藤津亮太(ふじつ・りょうた)

アニメ評論家。1968年、静岡県生まれ。雑誌・WEB・BDブックレットなど各種媒体で執筆するほか、朝日カルチャーセンター、SBS学苑で講座を担当する。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ―セロ年代アニメ時評―』(NTT出版)、『声優語~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~』(一迅社)、『プロフェッショナル13人が語るわたしの声優道』(河出書房新社)などがある。毎月第一金曜日には「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)でアニメの話題を配信中。

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