Bokeh Game Studioより2024年11月8日に発売予定のPS5/PS4/Xbox Series X|S/PC(Steam、Epic Games Store)対応タイトル「野狗子(やくし): Slitterhead」(以下、「野狗子」)のプレイレポートをお届けする。
本作は初代「サイレントヒル」や、「SIREN」、「GRAVITY DAZE」などを手掛けた外山圭一郎氏のBokeh Game Studioによる完全新作タイトルとなっている。
憑依を駆使して野狗子と戦う、ホラーアクションバトルゲーム
本作の舞台は1990年代の架空の都市「九龍」。どこか香港などの中国系大都市を感じさせる街だ。
そんな九龍では、脳がなくなるという謎の殺人事件が起こっていた。
主人公である「憑鬼」は、魂だけの存在。そして記憶をなくした状態で街に降り立つところから、物語は始まる。最初は野良犬に憑りつき、やがて人間へと憑依していく、憑鬼。
憑鬼は路地裏を彷徨ううちに、人間に擬態し、人の脳を食らう怪物「野狗子」と出会う。
記憶は失っていたものの、憑鬼には野狗子と戦うという使命感だけは残っており、乗り移る身体を次々に変え、記憶を取り戻しながら、街にはびこる野狗子と戦っていくことになる。
ちなみに野狗子とは、中国の清時代の小説に登場する、脳髄を啜り取るとされている妖怪だ。
本作の中心は、憑依を駆使したアクションバトル。街にいる人間に憑依し、憑鬼が乗り移った人間は血で武器が作れ、それを使って野狗子と戦う。
憑鬼が乗り移った人間は若干戦闘能力が強化されるものの、言っても所詮はただの人間なので、さほど強くはない。そこで憑りついた人間が死ぬ前に違う人間に乗り移って戦い、その人間が死ぬ前にまた別の人間に憑りついて……を繰り返す、ハイスピードで進んでいくアクションバトルだ。
面白いと感じたのは、乗り移れる存在が本当にそこらへんにいる普通のおじさん、おばさんだったりするところ。ストーリーの主軸を担う可愛いヒロインやかっこいいヒーローもいるにはいるのだがそこは後述するとして、憑鬼は基本的に普通に街で生活しているおじさん、おばさんとかに乗り移ることになるので、必然的にパンイチで部屋でくつろいでいるおじさんとかも、野狗子と戦うヒーローになるわけだ。
ヒーローとはいえ、使い捨ての身体にはなってしまうのだが……彼らは使い捨ての身体らしく本当にただのモブであり、システム的にも難易度高めのアクションバトルを乗り越えるためのリソースでしかなく、乗り移ることで情が移るとか、そういうこともない。
とは言え、野狗子と憑鬼との戦いに運悪く巻き込まれてしまった挙句に戦わされて命を散らしていく様は、少々切ない。
しかし、人間も使い捨てられていくばかりではない。中には「稀少体」と呼ばれる本物のヒロインやヒーローたちがいて、普通の人間たちを遥かに凌ぐ強力な能力を持ち、憑鬼と共にストーリーの中心となる存在である。普通の人間は憑鬼に憑りつかれている間の意識がないが、稀少体は憑鬼と意識を共にすることができるという特徴もある。
……とあれば、全部稀少体で進んでいけばいいのでは? となるところだが、街の中を進んでいくのにも、憑依は絶対に必要な要素。時にはジャンプで登れない高さに行かなければいけないような場合もあり、そういう時はベランダにいる人間に憑依をして、そこからビルの屋上にいる人間に憑依して……と身体を乗り継いでいかなければならない。調査のためにはもちろん、逃げた野狗子を追うといった時にも憑依を駆使していかなければならないので、稀少体だけで進んでいくというのは無理な設計になっているのだ。
さらに、稀少体といえども野狗子の強力な攻撃にそこまで耐え得るようにはできておらず、HPが尽きる前に別の人間に乗り移らなければならないのは普通の人間となんら変わらない。
周囲の血だまりを吸収してHPを回復することもできるのだが、野狗子の攻撃で回復行動を中断させられたり、せっかく回復したHPを攻撃されて相殺されることもしばしばあり、「地面に血だまりがあれば、そこから回復できる」と言われても、これがなかなかに難しいのだ。
とにかく憑依とディフレクトを駆使しないとならないバトルシステム
本作のバトルは、基本的にディフレクト(パリィ)を多用し、野狗子の攻撃をいかにディフレクトするかが重要となっている。ガード中、野狗子の攻撃がくる方向が表示されるので、それにあわせてその方向に右スティックをいれることで、ディフレクトが成功する。
だがこれが、元からパリィが苦手な筆者には、かなり難しかった。正直に言って、チュートリアルの時点で「このゲーム、私はプレイできるのか?」と不安になったレベルである。しかも本作には難易度設定があるのだが、「難易度EASYにしてあっても全然EASYじゃない……!」と叫びたくなるほどであった。
筆者のように、日頃、割と杜撰にボタンを押していても勝てるアクションゲームを好んでいるタイプの人には、本作は少々難易度が高めであることはお伝えしておきたい。特に、何はともあれディフレクトを成功させなければならない最初のチュートリアルが、一番厳しい。ここで心折れないことを祈る。
一応筆者のようにディフレクトが苦手な人間のことを考慮してか、人間から人間へと憑依しながら戦っていくことでなんとか勝てるようなバランスにはなっているのだが(※難易度EASYの場合)、それでも難易度EASYで「このゲーム、結構難しいな……」と感じるほどの歯ごたえ感ではある。なお、方向表示で光ったタイミングでボタンを押せば弾ける仕様だが、方向表示ではなく敵の動きを注視することでよりディフレクトが成功しやすくなるようだ。
序盤は1体の野狗子を相手にするだけのことが多いので、ディフレクトができなくても割と落ち着いて戦えるのだが、中盤以降は複数体の野狗子を同時に相手にすることが増え、雑魚の野狗子相手でも囲まれてゴリゴリとHPが減っていく、という有様になる。
雑魚の野狗子でもなかなかの強さなのに、ボスのようなさらに強い野狗子もおり、ボスは人間の身体からカマキリ(昆虫)のような姿へと変異することが多い。なんとか死ぬ前に憑依先を探して憑依し、後ろから2~3発殴ってまた次の身体へ……、というのを繰り返し、時には稀少体の圧倒的な攻撃力も借り、ようやくボスを倒せる場面も多々あった。
とはいえ、ボスの周囲にいる人間の数にも限りがあるので、無限に乗り移っていけるわけではない。限りある人間というリソースをどう使っていくのかが、鍵になる。
憑依した直後は能力が一時的に強化されてHPや攻撃力が高まるため、ひとりの人間で戦い続けるよりも、どんどんと憑依していくほうが有利に戦える。本当はディフレクトを駆使できれば敵の体勢を崩したりすることができるため、もっと有利に戦えるのだろう。
なお、ディフレクトに成功すると武器の耐久度が回復したりという恩恵もあり、さらに何回もディフレクトに成功すると「ブラッドタイム」が発動。周囲がスローになり、より大ダメージを入れられる。
……ということはチュートリアルで覚えたのだが、いかんせん一度も発動できることなく終わった。逆に言えば、難易度EASYであればディフレクトができなくても一応クリアできるような難易度にはなっているとも言える。
稀少体の場合は固有スキルも持っており、例えば最初に現れる稀少体ジュリーは自らのHPや周囲の人間のHPを回復し続ける「リバイブオール」など強力なスキルを所持しているので、これらを上手く使うのも勝利への道筋のひとつとなる。
稀少体の中にはわざと自爆して大ダメージを与える、なんていう固有スキルを持つものもいるのだが、それを連発していると、あっという間に乗り移れる人間がいなくなってしまう。また、基本的にこちらの攻撃は周囲の人間にも当たってしまうので、周囲に人がいるところで武器を振り回すとそれで人間が死んでしまい、さらに乗り移れる人間が減ってしまう。
もちろん、乗り移れる人間がいなくなり、今憑依している人間のHPも尽きるとゲームオーバーだ(憑鬼が憑依している人間が3回力尽きてもゲームオーバーになる)。チェックポイントは比較的多めに用意されており、ボス戦などはほぼほぼそのすぐ手前からやり直せるようになっているが、筆者の場合、難易度EASYでも何回もやり直すことになった。アクション下手には、少々厳しい。何度か心が折れかけた。
武器は稀少体によって変わるものの、基本的には近接アクションとなるので、遠距離からチクチク攻撃する、という戦法は使えない(一応中盤になると遠距離攻撃を持つ稀少体が現れてくるが、序盤はほぼ近接アクション中心となる)。
バトルはシンプルなアクションなので、ガード、回避は基本中の基本で、余裕があればディフレクト。筆者のようにどうしてもディフレクトがうまくできないプレイヤーはどうにかして憑依を使いこなす、というのが本作の戦術で、これらからも、アクションゲームの腕に自信のある人に向いている作品なのは、間違いない。
個人的には、EASYならばもう少し簡単だと嬉しかったところではあるが、次々と憑依をして人間をゴミのように使い捨てていくのには、少し背徳的な楽しさもあった。
ステージ形式で進め、1ステージは20~30分と遊びやすい
本作はミッションごとのステージ形式となっており、メインで出撃させる稀少体をふたりまで選んで出撃させることができる。
1ステージは大体20~30分程度で終わるようになっており、ステージが終わるごとに幕間的な稀少体との会話シーンや、稀少体の強化などができるようになっている。1ステージが比較的コンパクトなこともあって、とても遊びやすい。
一方で、ひとつのステージが終わるとそこでやり尽くした感も出てしまい、一気にいくつものステージをクリアしようという気持ちは少し削がれてしまう上に、ハイスピードなアクションにありがちな疲労感も蓄積されやすいので、どちらかというと「一日のゲームタイムはあまりたくさん取れないけれど、面白いゲームを少しずつ遊びたい」という人に向いていると感じられた。
ステージによって舞台となる街並みは変わるが、本作は決められた3日間をループするようになっており、街並み自体はそんなに多くのバリエーションがあるわけではないものの、街の作り込みは凄まじく丁寧に出来ている。
コンパクトながら、美しく、寂しく、虚ろで、恐ろしくもある街並みを、堪能してほしい。特に高低の作り込みは素晴らしく、リニア式ながら地上から屋上までしっかりと作り込まれている。高低差のおかげか、そこまで広くないマップでもそう感じさせずにプレイできるようになっていた。
また、「人間から人間へと憑依していく」という本作の性質上当たり前ではあるのだが、本作ではいわゆるモブキャラまでもがしっかりと「生活をしている」雰囲気が出ているのが面白かった。
本作はとにもかくにも人が多く、しかも生活感があるせいか、いわゆる「SIREN」のような背筋が寒くなる恐怖感はまるでない。その点で、本作はホラー要素よりも、ダークなアクションゲーム要素のほうが強いと言っていいだろう。
人が多く、生活感にあふれているのは見ていてとても楽しかったのだが、ミッションの進行上で必要なキャラクターにしか話しかけることができなかったのは残念な部分である。どうせなら色んな人に話しかけて、彼らがどんなことを話すのか、知りたかったところだ。これだけ「生活感」を出しているからこそ、NPCとの会話がないのはもったいない。
ストーリーはネタバレを避けるためあまり深く語れないが、てっきり野狗子だと思い込んでいたキャラクターが野狗子ではなかったり、逆に「おまえ野狗子だったのか!」という展開もあり、非常に楽しむことができた。
特に後半になればなるほど怒涛の展開が待ち受けており、そこまで長くないながらも充分満足感を得られる内容になっている。とはいえ、どちらかというとメインはアクション部分。特に序盤はゆるやかなストーリー展開とともにミッションをクリアしていく流れなので、どうか途中で辞めずにクリアまでプレイしてみてほしい。
前述の通り、本作はホラーではない、というのが筆者の正直な感想である。しかし、憑依という異能アクションを駆使して九龍の街を飛び回るのは、非常に爽快だった。九龍はとても陰鬱な街となっているので爽快というと少々語弊があるのかもしれないが、実際人から人へと乗り移っていくハイスピードアクションは爽快という言葉こそが相応しいように感じる。
何かと「SIREN」と比べられがちな本作であるが、ゲームの進行の仕方やUIデザインなど端々で「外山氏らしさ」こそ感じられるものの、本作は「SIREN」ではなく全くの新しいゲームである。「SIREN」らしさを無理に見出す必要もなければ、比べる必要もないのではないだろうか。
かくいう筆者も、本作はもっとホラー寄りのタイトルだと思い込んでいたのだが、プレイして九龍の繊細な街作りに引き込まれ、ハードな野狗子との戦いに必死になり、謎多きストーリーに自然と心を掴まれていた(そして普通のおじさん、おばさんや、おにいさん、おねえさんたちのキメ姿に笑った)。
シリアスなのに、どこかコミカル。だが、やっぱりハードボイルドな世界になっており、なんとも独特な雰囲気の、奥深いゲームである。本作ならではの空気感を味わえるのは間違いないので、ぜひ九龍に足を踏み入れてみてほしい。
(C)2021 Bokeh Game Studio Inc.
※画面は開発中のものです。
コメントを投稿する
この記事に関する意見や疑問などコメントを投稿してください。コメントポリシー