ホラーゲーム「日本事故物件監視協会」のノベライズ「日本事故物件監視協会 調査報告書」が2026年9月30日に発売された。ゲームシリーズの1作目と2作目をプレイした筆者が、ゲームの体験が小説でどのように描かれているのかを紹介する。

「日本事故物件監視協会 調査報告書」は、ホラーゲーム「日本事故物件監視協会」(@JSP_Report:https://x.com/JSP_Report )シリーズ初のノベライズ作品として、ホラー作家・くるむあくむ氏(@kurumuakumu:https://x.com/kurumuakumu )が執筆した作品だ。ゲームの1作目と2作目をプレイした筆者は、発表当時から発売を心待ちにしていた。
発売翌日には、作者公式XでAmazon紙書籍の在庫切れが告知された。筆者も当初はAmazonで注文していたが、予定どおり届かず、近隣の書店で予約し直すはめに。オンラインで在庫を調べた際も売り切れの店舗が多く、シリーズの人気ぶりがうかがえた。
このように注目を集める本書だが、ゲームの監視体験をどのように小説として描くのか。そこにあったのは、「語り尽くさない」ことが生む面白さと不気味さだった。
「日本事故物件監視協会」とは?

「日本事故物件監視協会」は、Loxarcが開発する異変探しホラーゲームだ。プレイヤーは、架空の組織「日本事故物件監視協会」(以下、JSP)の職員となり、物件に設置された監視カメラの映像を確認する。異常を見つけたら協会に報告し、報告のミスや見落としを重ねずに朝まで監視を続けることが目標だ。監視時間は深夜0時から午前5時まで。
異常には、家具の移動や物体の出現・消失、人影の侵入などがある。画面の中に小さな変化が一つだけ加わることもあれば、ひと目で異常とわかる現象に遭遇することもある。カメラを切り替えながら、どこで何が起きたのかを探す緊張感がゲームの軸になっている。
シリーズは現在3作目まで発売されており、主にSteamとスマートフォン向けに配信されている。また、1作目と2作目はNintendo Switch版も配信中だ。
5つの物件で何があったのか? 職員の調査記録から謎をたどる
ゲームでプレイヤーが担う監視業務は、本書で職員による物件調査の記録として記される。本作品は全5章で構成され、各章の冒頭には間取り図や物件の写真、担当する職員の名前が掲載されている。本文では職員が物件を調査する様子が描かれ、章の最後には監視報告書が置かれる。物件ごとに、調査の経過と報告を追っていくような形式だ。
本書には、古民家、S邸、青い家、K邸、昭和の家の5つの物件が登場する。そのうち4つは実際にシリーズでも登場する物件だ。ゲームをプレイしたことがある人なら、見覚えのある物件の間取りや画面の様子を思い浮かべながら、調査記録を楽しめるだろう。
もちろん、ゲーム未プレイの方も安心してほしい。JSPの基本設定や各物件の調査方法も描かれているため、ゲーム未プレイでも物件の状況を追いやすい。配信でゲームを見たことがある人はもちろん、今回初めてシリーズに触れる人も、職員の記録をたどりながら読み進められるはずだ。
限られた情報から監視せよ。ゲームの視点が、小説でも再現される
ゲームでは、プレイヤーが得られる物件の情報は限られている。監禁部屋のような場所があった、孤独死があったといった短い説明を手がかりに、画面の向こうで何が起きているのかを想像する。住人がどんな人だったのか、物件で何があったのかは、詳しく語られない。
この設定は小説にも引き継がれている。職員が物件に到着しても、午前0時の監視開始までは間取り図と簡易的な事前報告しか閲覧できない。詳しい資料や住人の情報を確認できるのは、監視が始まってから。これは、JSPが先入観が監視や調査の妨げになると考えているためだ。
また、本書は職員の一人称視点で進む。職員が何を見たのか、何に恐怖を感じたのかといった情景や心情が細やかに描かれ、読み手も調査に入り込んでいく。一方で、職員の性格や生活といった個人的な情報は語られない。そのため職員は、一人の人物ではなく、物件を見て記録する役割としてのみ存在する。
こうした工夫によって、読者は物語を外側から眺めるのではなく、職員の視点を通して物件を監視するように疑似体験ができる。単にゲームを物語にはせず、プレイ体験まで再現するような構成に、原作ファンとして感銘を受けた。

記すのは事象だけ。報告書が、読後の不気味さを増幅する
本書冒頭でも書かれている通り、JSPは幽霊や呪いといった超常現象を認めず、異常を物理現象として捉えようとする。協会の業務は「監視」と「記録」に徹し、除霊や浄化などの介入も行わない。
職員は調査中に異常を目の当たりにし、恐怖に追い詰められていく。その様子が生々しく描かれる一方、章末の報告書は、職員の恐怖や不可解な体験に踏み込まない。そこに並ぶのは、確認された事象を記した事務的な記録だけだ。その温度差が、本書の不気味さをより一層際立たせているのではないか。
さらに、報告書は物件で起きたことの全容までは語らない。読者は職員の調査を追いながら、供述や記録に残された手がかりをつなぎ、何が起きたのかを考えていく。だが、職員の仮説が正しいのか、調査後に何が起きたのかは明言されないため、最後まで自分なりの解釈を探ることになる。
前述のゲーム体験を小説に移す工夫は、こうして読者に物件の解釈を委ねる構成にも表れているのではないだろうか。

JSPのリアルさと相性抜群! くるむあくむ氏が描くモキュメンタリー
こうして記録を追ううちに、JSPが実在する組織かのように感じられてくる。これは、ゲームをプレイしていたときにも感じたことだ。現実にありそうな舞台で、断片的な情報から状況を読み解く体験は、近年のADVジャンルにおける人気作品とも重なるのではないか。
さらに、JSPの世界はゲームや小説の中だけにとどまらない。公式サイトには、協会の業務報告や求人情報、代表理事の挨拶が掲載されている。組織の活動が具体的に紹介されており、まるで実在する協会のサイトを見ているような感覚になる。

制作背景が多く語られないことも、JSPの実在感を強めている。今回のノベライズも、企画の経緯や作者の意図は、公開情報から詳しく分からなかった。作り手の情報が少ないことで、読者はJSPの活動記録をそのまま読んでいるように感じるのかもしれない。
このような世界観を小説に引き継ぐうえで、くるむあくむ氏の作風が非常に生きていると感じられた。くるむあくむ氏は、モキュメンタリーホラー「或るバイトを募集しています」や、漫画原作「N」などを手掛けている。日常のすぐ近くにありそうな題材を、記録を通して不穏な物語へと描くことが上手な作家だ。その語り口は、JSPの世界観とマッチしている。
本書は、職員の記録を通して新たな調査を描きながらも、協会や物件の謎を説明しすぎない。記録に余白を残すことで、原作の世界観を損なわずにJSPの物語を紡ぐ一作となったといえるだろう。
ゲームの外へと広がるJSPの活動。次回作からも目が離せない!
日本事故物件監視協会は、2026年10月現在、実際の事故物件に一晩滞在して調査や監視を体験する「現地調査実務研修」も展開している。さらに、10月2日にはシリーズ4作目の制作も発表され話題となった。
本書は、JSPに新たな調査記録を加えその世界を広げるようなノベライズだった。次はどのような物件が監視対象となるのか。その記録には何が残され、何が語られないのか。今後のJSPの調査に注目したい。
本コンテンツは、掲載するECサイトやメーカー等から収益を得ている場合があります。

































