2011年9月6~8日にパシフィコ横浜 会議センターにて開催された「CEDEC 2011」。9月7日には「AR(拡張現実;Augmented Reality)ゲーム開発のためのアドバイス(題材:PS3 EyePet)」と題して、ソニー・コンピュータエンタテインメントのドウセ・ニコラ氏による講演が行われた。
「EyePet」は、2009年に欧米で、国内では2010年10月に「PlayStation Move」対応の「Me & My Pet」として発売されたPS3用ファミリー向けゲーム。PS3用カメラ「Playstation Eye」から取り込んだ映像に、バーチャルペットのサルやおもちゃなどを重ね合わせてさまざまなコミュニケーションを楽しめる、いわゆる「拡張現実」(AR)を利用したタイトルだ。今回講演に訪れたドウセ氏は、この「EyePet」開発チームのクリエイティブディレクターを務めた人物である。
効果的な3Dインタラクション創出のために
講演ではまず、「EyePet」における3D空間をどうやって作り上げたか、という点が紹介された。PS3と「Playstation Eye」では、動きの速さと方向、動きの履歴などの情報を取得できるが、これらはいずれも2次元情報(X+Y)に限られる。この情報から3Dインタラクションのための3次元情報を構成するため、「EyePet」では画面を上下2つのパートに分割している。
画面の下半分では、バーチャルなフロア上に内部映像を投影。Y座標は0のまま、X+Z座標で奥行き情報を構成することで、床面のインタラクションを実現させている。上半分では空中のインタラクションが展開されるが、こちらはよりシンプルに、Z座標が0である、デフォルトのX+Y座標をそのまま使用している。シンプルな2D情報を上手に組み合わせることで、擬似的な3D空間をつくり出しているわけだ。
手描きの絵が3Dのおもちゃになって楽しく動きまわる
続いて、本ゲームの中でも特徴的な、プレイヤーが紙に描いた絵を3Dモデルとしてゲーム内に取り込む機能について紹介された。このお絵かき作業をプレイヤーが普段、普通の紙とマーカーで行っているような簡単なものとするために、開発チームは次のようなステップを取ったという。
1)キャプチャ
まず、元となる絵を描き、「Playstation Eye」カメラでデータとして取り込む。
2)スケルトン化
キャプチャした画像にハイパスフィルタをかけて白黒の画像とし、さらに線の太さが1ピクセルになるまで、同じフィルタを何度もかけていく。
3)ベクトル化
描かれた画像をスキャンし、ピクセルのつながりを解析して、線を自由に動かせるベクトルデータに変換する。
4)押し出し
平面的な絵の輪郭から形を抜き出して3D化し、マテリアルのテクスチャを適用する。
このうち、ベクトル化は「最も特徴的な、いわば魔法のプロセス」とドウセ氏。たとえば写真のようにX上の画像をスキャンした場合、左下の水色の線の端からつながっているピクセルをたどっていくと、やがて交点に行き当たり、ここまでの1本の線が検出される。交点からはそれぞれ左上(紫)、右上(緑)、右下(赤)の線をたどる3つの選択肢が残されているが、ここで交点からまっすぐ緑の線を進むと、やはり終端が来て、新たな線が検出できる。交点に戻り、残りの選択肢についても同じ作業を繰り返してすべての線を検出した後、それらをベクトル化すれば、あとは自由に変形できるようになるというわけだ。このシステムはPS3上でリアルタイムで動いており、最後には「EyePet」が絵をほとんど完璧にコピーできるようになるため、だんだん画が上達していくように感じられる。
押し出しのプロセスでは、木製の車のようながっしりしたおもちゃに対しては角型の、ボールなどの柔らかいおもちゃに対しては丸型の押し出しが考えられた。輪郭から形を抜き出した後、角型押し出しでは単に押し出し幅をセットして3D化するのに対して、丸型押し出しでは中心軸を設定してパターンを回転させながら3D化する点が異なる。ゲーム中、飛行機や車など、描くおもちゃを選択するシーンがあり、押し出しの種類はその際に切り替えられている。
また、プレイヤーが楽しみながら絵を描き、何度もゲームを楽しんでもらえるようにするため、おもちゃのテーマにはボールやラジコンカー、ラジコン飛行機など、誰にもわかりやすく、コントロールもしやすいものが採用されている。
「魔法のお絵かき」をより親しみやすいものにするために
おもちゃを生き生きと動かすために、「EyePet」では、プレイヤーにおもちゃの各パーツを分けて描いてもらうシステムを採用している。たとえば飛行機であれば、翼、機体、プロペラの3パーツで構成し、その他の細かなパーツはノイズの可能性もあるので無視する仕様となっている。もちろん、絵がうまい人ばかりではないので、たとえ間違えて描いたとしても、それなりの形で3Dのおもちゃとしてうまく取り込めるようなルールも考えられた。
また、絵を検出するためには、それらを白い背景内に収める必要があるが、この調整は子どもには難しい場合もある。そこで、指などの余計な要素を映り込ませず、必要な絵だけをフレーム内に収められるよう、キャプチャーフレームにリアルタイムフィードバックを採用。この仕組みの導入前は、自分でうまく絵をキャプチャできた子供は5%程度だったが、導入後は80%程度に上昇したという。
リビングのフロアが狭すぎて、「EyePet」に適さないケースも考えられた。この課題に対しては、場合により内部映像をバーチャルスペースにまで拡張し、より広い空間で遊べるようにするという対策がとられた。ただしこれは、やり過ぎると現実感が希薄になり、一番大切なAR体験が損なわれてしまうので、バランスに注意してほしいとのこと。
新しいインタラクションの試作と、その作り方
最後に、プロトタイプの製作過程についての説明があった。ARゲームはいまだ広く浸透しているわけではなく、製作者にもノウハウの蓄積がないため、できることとできないこと、方向性の誤りなどを即座に確かめるプロトタイピングは、一番大切な過程であるという。
ARゲームでもっとも重要なのは、1つひとつのインタラクションが楽しいかどうかということだ。そこでプロトタイプでは、あえて高品質なグラフィックを避け、シンプルなオブジェクトからスタート。必要な機能のみに絞った簡単なテストを1人の担当者が約1~2週間で行い、それがうまくいった時点で新しい要素を追加していくという形で、テストのスピードアップとコストの低減化が図られた。こうしたスタイルでは、プロトタイプの約30%が不採用になったが、それぐらいのスタンスが普通のことだという。
開発に合わせて、ロンドンスタジオのテストセンターでユーザビリティテストも行なわれた。14カ月以上にわたって、16家族にマジックミラー越しのモニタリングテストを実施。また、8家族には自宅で実際にプレイしてもらい、これらについての詳細なレポートをチーム全員で検証していく過程で、数多くの課題が判明したそうだ。ゲームやカメラの接続作業に関する問題点も判明し、これらは説明ビデオの制作にも反映された。こうした経験を元に「時間と予算を使って、ユーザーと共にテストを行うことを強くお勧めしたい」とドウセ氏。プレゼンテーション後には未公開のプロトタイプのデモ上映と活発な質疑応答が行なわれ、本講演は好評のうちに終了した。
※画面は開発中のものです。
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