2012年8月20日から22日までパシフィコ横浜にて開催されたゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2012」。ここでは、8月21日に行われたサイバーコネクトツーの二塚万佳氏による講演「劇場用3Dアニメーション『ドットハック セカイの向こうに』ゲーム会社が作る3D立体映画」の内容を紹介する。
2012年1月21日より劇場公開された「ドットハック セカイの向こうに」は、ゲーム会社・サイバーコネクトツー(以下、CC2)が制作した3D立体映画。講演では、本作の制作を担当した映像チーム「sai -サイ-」のディレクター・二塚氏が制作フローおよび立体視表現のポイント、ゲーム会社だからこその映像制作の特色について紹介した。
立体視の検証を重ね、フル3Dでの表現を採用
まず作品の特徴として、現実世界(リアル)とゲーム世界(ザ・ワールド)を行き来する物語になっていることを挙げ、それぞれの立体表現手法について、現実世界では立体感を抑え目に、ゲーム世界では強めな立体感を出していると説明。キャラクターたちが今どちらの世界にいるか、観客がわかりやすくなるようにすることが一番大事であるためだとその理由を述べていた。
関連して、ビジュアルにおいても現実世界は淡い質感、ゲーム世界はCGの質感で表現することで明確に区別し、2つの物語を進行していくというかたちで進めていったのだという。
続いては、実際に企画が立ち上がってから立体視本制作までの流れを紹介。企画が固まった段階で、まず最初に行われたのが、立体視での表現方法を確立させるためのプリプロの制作だ。
本作においては、それぞれ6ヶ月ほどの期間をかけて2つのパイロット版を制作。最初に作ったパイロット版1.0はフル3D、続くパイロット版2.0はアニメと3Dのハイブリッドで制作、それぞれに立体視検証を行ったという。
その結果、作画は書割に見えてしまうことから立体視に向かないことがわかり、もう一方のフル3Dはコストは多少かかるものの立体感が強調されていたため、フル3Dでの制作を決定したという経緯が語られた。
企画の立ち上げからプリプロ制作、本制作と4年に渡るプロジェクトの中で一番時間がかかったのは、立体視をフル3Dで作ることで発生したエラーを軽減していくことで、観客が見やすい映像にするまで何度も試行錯誤を繰り返してきたそうだ。
CC2が考える立体視のセオリー
二塚氏によると、CC2では立体視を作る上で「奥行きを作れ!」「飛び出しNG!」「見やすさ優先!」という3つのセオリーを持って、映画として長時間ストレスなく見てもらうための制作を行ったという。ここからは、二塚氏が語ったそれぞれのセオリーの狙いと、そのために実際に活用している技術について紹介しよう。
奥行きを作れ!
CC2では、画面上の一番手前にあるものがスクリーン面にくるよう奥行きを作るよう意識しているという。一般に、立体視を用いた映像といえば、画面から人物や物が飛び出すといった表現がイメージされるが、二塚氏は、こうした表現は一瞬の驚きだけですぐに飽きてしまうため、プロモーション映像のような短い尺で有効なものだという見解を示す。
逆に、1時間半~2時間という長い尺で見ることになる映画では、スクリーンから奥に世界が広がっていることで、観客により没入してもらうことが大事であると述べていた。
具体的には、まずカメラをデフォルトで3つ用意し、中央のカメラでレイアウトを、上下のカメラで右映像、左映像を作る。それぞれのカメラで出力したものにコンピューターでレンダリングを施し、1枚の画像に出力する。その画像を、画像合成ソフトを使用して注視点を調整し、続いて赤青メガネで立体感を確認するといったかたちで、スクリーンの中に奥行きを作ることを意識しているという。
飛び出しNG!
先ほどの話にも関連するが、映像からの飛び出しは、効果的に使わないと見づらい作品になりがちであり、使う場合は目的を持って組み込むことが必要であるという。
例えば、見切れているオブジェクトの飛び出しは明らかに見づらい映像になってしまうが、逆にフレーム内にオブジェクトが収まっている場合では、飛び出しを使うことで効果的な立体感を生むことができたり、粒子系エフェクトは立体感を煽る意味で飛び出しの効果が大きかったりと、使用することでプラスに働く場合もある。
このように、二塚氏は、限られた飛び出しだけでも立体感を感じさせることは可能であり、CC2では、理由がない限りは基本的には飛び出しは使わないようにしていると述べていた。
見やすさ優先!
カットが細かく分かれていたり、目の前をさまざまなものが横切ったり、引きから寄りのカットが多用されていたりといった要素は、すごく見づらい映像を作ってしまいがちだ。そこでカットに手を加えたり、極端な場合はカットを削ったりすることで見やすさを優先させて映像を作っていくのだという。
具体的には、各カットで引き幅を設定し、その後5~10人ほどでアニマティクスで立体感を確認し、少し疲れるようであれば視差幅を弱めたりといった対応が必要となるように、あくまでも物語に没入してもらうことがいちばん大事なため、その過程で邪魔な要素は排除すべきであると語った。
ゲーム会社だからできることとは?
そうして制作した映像作品は、CC2が今まで開発に携わってきた「.hack」プロジェクトならではの設定へのこだわり、リアリティの追求、立体視ゲームへのノウハウの流用、膨大な設定資料などによる付加価値など、多くの商品力をもらたしている。
その結果、先日発売された、映像とゲームをセットにした「ドットハック セカイの向こうに + Versus Hybrid Pack」のような新しい商品を開発することができるとし、二塚氏は、ゲーム会社に必要なものは「既存の枠組みにとらわれないアイデア+発明力」であると締めくくった。