1万本以上のゲームを所持しているゲームコレクターの酒缶さんが、ゲームアーカイブスで配信されているタイトルに携わった方々にインタビューを行う連載企画「ゲームコレクター・酒缶のリコレクションアーカイブス」。第10回目は「海腹川背・旬 セカンドエディション」に携わった酒井潔氏へのインタビュー後編をお届けします。

昔遊んで今でも遊べるあのゲームの開発者に話を訊きに行く「リコレクションアーカイブス」の第10回は、前回に引き続き「海腹川背・旬 セカンドエディション」の開発者、ゲームプログラマーの酒井潔さんに話を訊いていきます。

今回のリコレクター:酒井潔氏

フリーのゲームプログラマー。制作に関わったタイトルは、「海腹川背」シリーズ(SFC、PS、DS)、「サルゲッチュ」(PS)、「最速!族車キング~仏恥義理伝説~」(PS2)、「最強!白バイキング」(PS2)、「THE タクシー2~運転手はやっぱり君だ~」(PS2)、「のりもの王国DS ~YOU! 運転しちゃいなよ!~」、「シャイニング・ハーツ」(PSP)など多数。

酒缶:ボクはゲームが上手くないので、ルアーを投げて壁にぶら下がるくらいしかできないんですけど、プレイ動画とか見ると、スーパープレイが沢山アップされているじゃないですか? あの凄まじいプレイは最初から想定されていたんですか?

酒井氏(以下、敬称略):自分たちでそこまで出来るかというと出来ないのですが、そういうプレイヤーが出てくることは想定していました。ファミコンの端子にゴミが付いて画面がバグったときのような、画面がぐっちゃぐちゃになっちゃっているけどプレイができるような状況を遊ぶのは野生児っぽくて楽しいので、そういうゲームにしよう、というコンセプトがあったので、ここをこう行ってここを通ったらクリア、というよりは、この辺がつながっているから何とかすればどうにか行けるだろう、というような感じでマップを作っています。

「海腹川背・旬 セカンドエディション」

2000年1月26日にエクシングがプレイステーション向けに発売したラバーリングアクションゲーム。ルアーの付いた伸び縮みするロープを巧みに操って、魚を捕まえたり、壁を登ったりしながら、ゴールの扉に向かって突き進んでいく。ゴールで飛び込む扉によって、難易度の違う面に進める。2012年9月26日よりゲームアーカイブスで配信されている。

ゲームアーカイブス版
http://www.jp.playstation.com/software/title/jp0067npjj00662_000000000000000001.html

酒缶:スーファミ版はマップ全体を使ってクリアさせようというイメージがあって、PS版の方が、この辺だけをやるとクリアできるけど、実はこっちにも行けるんだよ、みたいな作りが明確になっているかな、と思ったんですよ。

酒井:スーファミ版は、システム的に全体マップが512×512ドットで、約4画面分に固定していたので、突拍子もないところにドアを作ったりできないんですけど、PS版はマップの大きさを自由にできるようにしたので、そのメリットを出すために、この辺で遊んでいるんだけど、こっちにもまだ行けるところがあるのだろう、というマップをわりと意識して入れました。

酒缶:スーファミ版とPS版を比較してプレイしてみると、ゲームの流れのダイナミックさは断然PS版の方にありますよね。

酒井:スーファミ版も上手くなればダイナミックに動けるようになっているため、一部のマニアの人だけが楽しめるようなゲームになってしまったので、PS版を作るにあたって、そんなに熟練しなくても派手に動けるように…まぁ、それでもある程度は熟練者にならないと動けないんですけど…スーファミ版に比べると、敷居を低くなるように作りました。

酒缶:ゲームの作りが、1面をクリアして2面、2面をクリアすると3面、じゃなくて、1つの面に何個もドアがあって、面の順番がバラバラですけど、こういった作りは最初の頃から想定していたんですか?

酒井:試作の時はあくまでも動きだけを作っていたので、クリアするとどうなるかは考えてなかったんですけど、製品化するにあたって味付けとして何かしら攻略していく要素が必要だと思って、基本的にコンティニューはないし、上手い人はどんどん先に行けて、上手くない人は地道に1面ずつ、という流れにしたかったので、上手い人がどんどん先に進めるような仕組みにしました。

酒缶:スーファミだと、30分ルールがありますけど、その作りも今の話と連動していますか? 1面ずつ順番にクリアする方式だと、上手くない人だと最初の10面くらいで30分くらい経っちゃうじゃないですか。でも、ステージを飛ばしていければ30分という尺でクリアできるというか…。

酒井:「海腹川背」は難しいと言われるんですけど、一番簡単なルートを進んで行くエンディングだったら、そんなに難しくないんです。難易度はプレイヤーの目標設定次第、簡単なルートに進むとすぐに終わっちゃうから次はこっちのルートに行こう、みたいな目標付けは自分で出来るようにしたので…。

酒缶:PS版にも30分ルールが入っているんですか?

酒井:入ってないです。自分で目標設定をして、どこまで行ってどこで満足するかを自分で決められるというところにはわりとこだわっていたので、その一環として30分ルールを入れてあったのですが、30分ルールは評判が悪かったので、PS版には入れなかったんです。自分の中では30分ルールって、初心者救済の意味があったんですけど、「ゲームセンターCX」での取り上げ方もそうですけど、完全に足かせとして使われているので。

酒缶:リプレイという機能がありますけど、これも最初から入れたかった機能なんですか?

酒井:今でもそうなんですけど、私がゲームを作る時には、バグの再現性を取るために、デバッグ用にリプレイ機能を入れているんです。「海腹川背」はリプレイ機能をセットしてデバッグしていると面白いので、この機能は製品にも入れたいと思っていたんですけど、コンティニューがないからゲームの途中セーブもないんです。スーファミ版はリプレイ機能を入れるためには、S-RAM対応のROMにしないといけなくて、リプレイ機能があったら面白いけどROM単価が高くなるので難しいという話をしていたんですけど、社長がこの機能をどうしても入れたいからS-RAM付きにしようという判断をして…。

酒缶:営業的にリプレイ機能が売りになると判断されたんですね。

酒井:「単純に技術を磨いて人に見せたくなるようなゲームだから、リプレイ機能を入れよう」と社長が判断しました。結局、私は一プログラマーなので、営業的にROMがどのくらい高くなってマーケティング的に変化するか、判断できないので、社長の判断で入れました。

酒缶:魚を釣り上げた時のスコアが中途半端な数字に見えるんですけど、あれは何か意味があったんですか?

酒井:数字自体は何の意味もないんですけど、スーファミ版を作った時に何か変わったことをやりたくて。

酒缶:スコアに0が何個ついてもいいからケタがデカい方がいい、という時代ですよね。

酒井:だから、そういうことに対するアンチテーゼ的な意味合いも若干ありました。

酒缶:1の位を使うゲームってあんまりないですからね。

酒井:プログラマーなので、論理的に考えた時に、0が何個ついていようと意味がないように見えるんです。スコア自体に何か意味があるのか、というのもあるんですけど、別に数字が増えれば何でもいいんだったら、と思って。

酒缶:何面進んだか、とか、プレイ時間がランキングの基準になってますよね。

酒井:スーファミ版に関してはランキングすらないですし、ハイスコアを見る人はないだろうし、PS版は最終的に到達した面でランキングしているので、スコア自体には大した意味はないんです。スーファミ版でコンソール表示が妙に中央に寄っているんですけど、あれも変わったことがしたくて、画面の真ん中に配置したんです。

酒缶:他のゲームでは、スコアは画面の上か下に表示されているから真ん中に?

酒井:本当は画面のど真ん中に出してやろうかと思っていたんですけど、さすがに邪魔だから。

酒缶:邪魔ですよね。

酒井:だからど真ん中からはちょっと離しました。

酒缶:変わったことがしたいというのが、酒井さんの物作りの中で重要な要素になってますか?

酒井:そうですね。変わったことがしたいというのは自己満足みたいなものです。

酒缶:「海腹川背」を作った後は、ずっとフリーで仕事をしているんですか?

酒井:SCEを経て、しばらくゲームの仕事に関わりたくなくなって、カーナビの会社でVisualBASICの仕事をしていたんですけど、ゲームに戻ってきて、それからはフリーでやっています。

酒缶:それで、色々なところのゲームに関わられているんですね。

酒井:カーナビの会社で働いている当時、派遣にはゲーム会社の登録があまりなかったんですけど、たまたまゲーム業界の経歴がある人の募集があってタムソフトさんに仕事をいただくようになりました。最近はスタジオ最前線の仕事をしています。

酒缶:お話を聞いていると、ゲームを嫌になる時期が合間合間にあると思うんですけど、ゲームとの付き合い方は今後どのようになりそうですか?

酒井:ゲームを嫌いになった時期があったからかどうかわからないんですけど、自分の中で生涯ゲームプログラマーだろうな、というのがあります。だから、ずっと何かしら作っていると思います。

酒缶:最近はゲームで遊んでいますか?

酒井:ゲームが嫌になった時期は本当に嫌になるので、本当にやらなくなるんですけど、最近はわりとやってますね。だから、PS2の頃はほとんどやってなくて、PS3になってからPS2の名作と言われているゲームをやっているので、年に20本くらいはやっています。今後も、ゲーム自体はやるかな、と思います。

酒缶:最近、「海腹川背」で遊びましたか?

酒井:アーカイブスで配信されたので、落としてちょっとやっています。また、ニコ動とかニコ生で実況しているのを見ているともどかしくなってちょっと自分でもプレイしてみたりします。

酒缶:ご自身の腕前はどうですか?

酒井:前は中級プレイヤーでした。そんなに上手くはないです。「海腹川背」って、動画が出回っているのでみんなすごい難しいことをするけど、遠回りをすれば全然安全にクリアできます。私のやっているプレイを見ても全然面白くなく見えるかもしれないけど。

酒缶:スタート地点でいきなり上にルアーを撃ってクルッと回ってゴールとか見せられてしまうと、自分には出来ないと思ってしまうんですよね。

酒井:あれはやるスキルがない人がやろうとして出来なくて、「難しい難しい」って言うんだけど、別にそれをやらなければクリアできるのに、というもどかしさがあります。

酒缶:地面にルアーを打ち込んで、その場で引いてダッシュするのも出来ないんですけど。

酒井:それはスペシャルテクニックの位置付けで、スーファミ版だとそのテクニックを使わなくても99%のドアに入れるようになっています。そういうことができることは開発段階でわかっていたんですけど、その技を使わないと行けないところは作らないようにしました。あれは出来なくてもいいテクニックなんです。クリアするだけなら、そんなに難しいことをしなくてもいいようには作ってあるつもりです。

酒缶:なるほど。わかりました。それでは、最後の質問なんですけど、酒井さんにとってゲームとは何ですか?

酒井:難しいですね。ゲーム……そうですね。ゲーム作りということでいえば、なんて言うんですかね、業みたいなもんですね。人生の中でやるべきこと、ということですかね。

酒缶:重いですね。

酒井:切っても切れないというか、やらないと生きていけないみたいな。たまに人類全員が滅亡して自分1人だけ残ったらどうしよう、と思うことがあるんですけど、一通り楽しそうなことをやって飽きたらゲームを作るかな、と思うので。多分、遊ぶ人がいなくても自分はゲームを作っていそうな気がします。ゲームを遊ぶのか作るのかどっちかしかできないとしたら、迷わず作る方を選びます。

酒缶:ゲームを作ることに、ゴールはあるんですか?

酒井:いや。ゴールはわかんないですね。ないんじゃないですか? 何かを目指して作っているというわけでもない感じです。中学生の時にパソコンを覚えて、「ミステリーハウス」というアドベンチャーゲームがあって、そのゲームは遊んだことがなかったんですけど雑誌の記事だけを見て作って、扉を開けるとここは何号室で何があって…みたいなモノを自分で作ったら、自分が神様になったような気になったんです。マンション一棟と全ての部屋を自分で作れることに感動して、それが自分の原点かもしれません。

酒缶:ゲーム作りにゴールはないけど、酒井さんは今後もゲームを作り続けるんですよね。

酒井:そうですね。

酒缶:わかりました。では、ゲームアーカイブスの「海腹川背・旬 セカンドエディション」が沢山の人に遊ばれて、今後、「海腹川背」に何かあることを期待しておきます。ありがとうございました。

訪問後記

今回は取材用に使った喫茶店が騒がしいところだったため、酒井さんにはご迷惑をおかけしたのですが、「海腹川背」シリーズについて、これまで疑問に思っていたことを色々とお訊きすることができて、大変幸せな思いをすることができました。ゲームアーカイブスの配信がスタジオ最前線さんということもあり、海腹川背さんの今後に何となく期待してしまいます。

●プロフィール

酒缶(さけかん)/ゲームコレクター

1万本以上のゲームソフトを所有するゲームコレクターをしつつ、フリーの立場でゲームの開発やライターなど、いろいろやりながらゲーム業界内にこっそり生息中。ニンテンドードリームにて「酒缶が訪う」連載中。最新作は3DSダウンロードソフトウェア「ダンジョンRPG ピクダン2」。

■公式サイト「酒缶のゲーム通信」
http://www.sakekan.com/

■twitterアカウント
http://twitter.com/sakekangame

■電子書籍「ゲームコレクター・酒缶のファミ友Re:コレクション1」
http://www.pubooks.jp/item/detail?id=386

※本連載のインタビューを受けていただける方を募集しております。ゲームアーカイブスで配信されているタイトルに携わった方々で、インタビューをお受けいただける方がいらっしゃいましたら、お問い合わせフォームよりご連絡下さい。スケジュールや内容によってはお受けできない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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(C)モーションバンク/2000 エクシング/2012 スタジオ最前線

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