2013年8月21日~23日の3日間にわたり、パシフィコ横浜にてゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2013」が開催された。ここでは、スクウェア・エニックス開発部 ディレクターの荒木竜馬氏による講演「ドラゴンクエストX おでかけモシャスdeバトル ~お客様をおもてなしするゲームデザイン~」の内容をお届けする。
本講演は、ユーザーにストレスなく快適にゲームを楽しんでもらう上で、どのような点に配慮し、工夫してゲームをデザインしたのかを「ドラゴンクエストX おでかけモシャスdeバトル」の実例に沿って展開された。
荒木氏について
荒木氏は、2003年9月にスクウェア・エニックスに入社。「モシャスdeバトル」のほかに「ドラゴンクエストX 冒険者のおでかけ便利ツール」のディレクターや、「ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン」のデザインセクションマネージャーも担当している。
「ドラゴンクエストX おでかけモシャスdeバトル」について
「ドラゴンクエストX おでかけモシャスdeバトル(以下、モシャスdeバトル)は、3DSのカメラを使って自分や友達など色々な人の顔を撮影し、その特徴を分析した結果に応じてモンスターのカードが手に入るというカードゲーム。
生成されたカードでデッキを組み、「ドラゴンクエストX」の世界「アストルティア」に現れるさまざまなモンスターとバトルを繰り広げることができる。
お客様をおもてなしする5つのポイント
「ゲームはそこにやってきたお客様をおもてなしすること」と荒木氏は語る。これは、「ドラゴンクエスト」シリーズを生み出したゲームデザイナー・堀井 雄二氏の言葉だという。
では、荒木氏は「モシャスdeバトル」において、ユーザーを「おもてなし」するためにどのような取り組みを行ったのだろうか。荒木氏はその要素として以下の5つのポイントを挙げた。
- ゲームの目的でかわるゲーム設計
- さわりごこちのよさ
- どう遊んでもらいたいかわかりやすく
- 手ごたえのあるバランスとは
- 学んだことが次のプレイで活かされるしくみ
荒木氏はこの5つの項目に沿って話を進めていく。
1.ゲームの目的でかわるゲーム設計
「モシャスdeバトル」は、初期の企画と、最終的にできあがったものがかなり異なっているという。
初期の目標は以下の二つである。
- ニンテンドー3DSでミニゲームを提供
- 外で遊ぶことができるもの
「初めの一発目に出した企画ということで、ちょっと外れたものになっているんですね」と述べながら、ここで荒木氏は初期段階の企画書を見せた。
初期の企画では、名前も今と違い、「ドラゴンクエストどこでもバトル ~魔法のサークル~」というものだった。また、「AR(※)」技術をつかったミニゲームにしようと考えていたという。
※「Augmented Reality」の略称で、「拡張現実」と呼ばれる。ディスプレイに映し出した画像に3Dオブジェクトなどのバーチャル情報を重ねて表示させ、あたかも実際に存在するかのように見せることができる。
「“顔を撮影してモンスターを誕生させる”というコンセプトは初めから決まっていたんですが、どう遊んで楽しんでもらうかを考える段階で迷っている時期がありました」と荒木氏。また、初期は「あれやりたい、これやりたい」と盛りだくさんなものを考えていたという。
たとえば初期段階では壮大なストーリーが用意されており、「モンスターをレベルアップさせて戦わせる」「死んだモンスターのレベルを引き継げる」などといったシステムも考えていたようだ。
しかし、最終的に出来上がった「モシャスdeバトル」はストーリーやレベルというものはなく、シンプルにまとまったゲームとなった。それは、企画を進めていく段階でユーザーに提供する商品の目的として、以下のふたつが加えられたためだ。
- 電車などの時間をつぶせる短時間のもの
- ドラクエXのお客様に向けたもの
このように、初期段階と後期段階では大分ゲームの姿が異なっているが、「一人で立てた机上の企画というのはそんなものです」と荒木氏は語る。
さらに「堀井さんやプロデューサー、開発会社の方々など複数の意見を取り入れて、より商品価値として高い企画書にしていくわけです」と続けた。この言葉には荒木氏のプロとしての姿勢が垣間見える。
また、ここで荒木氏はゲームデザイナーを目指す人に向けてのアドバイスも兼ねて、「ドラゴンクエストX」のチーフプランナーである齋藤 力氏(通称:リッキー)の言葉を紹介した。
「自分が書いた企画書や仕様は宝物のように見えるけど それは たぶん幻想」
荒木氏はその言葉を聴き、「その通りだ」と痛感したという。初期の企画の変遷を経て、よりよいゲームが製作されるのだ。
まとめ
荒木氏は1つめのポイントを以下のようにまとめた。
テーマをしっかり練ってお客様に一番なにを得てもらいたいか 目的によってゲームデザインは変わってきます
「お客様に一番何を見てもらいたいのか」という目的によってゲームデザインは変わってくる。そのためにはあえて余計なものは省き、テーマをしっかりと練って、必要なシステムのみを残すということが必要である。
自分が書いた企画書や仕様は宝物のように見えるけど それは たぶん幻想
「自分の書いた企画書に固執していてはダメ」と荒木氏は語る。よりよいゲームを作るために、色々な人の意見を取り入れ、企画をブラッシュアップしていく。
2.さわりごこちの良さ
メニューの並び
ゲームを始めるときに一番最初に目にする「メニュー」。当たり前のように存在するメニューだが、「何からはじめればいいのか?」と思うユーザーにとって、唯一の手がかりこそがメニューである。
このメニューの並びひとつをとっても、ちゃんと意味がある。たとえば下記のメニューは、上から「よく選ばれるであろうもの順」に並べてあるという。「モシャスdeバトル」は「顔を撮影してモンスターを誕生させる」という遊びがメインだ。したがって、「かおモシャスをする」という項目を一番上に置かれている。
「順番にあえて遊んでほしい順に並べることで、フラストレーションなく自然に選択してもらえるようにしてあります」と荒木氏。
また、「ゲームオーバー」のメニューについても、“負ける”ということは“仲間のモンスターが弱い”ということなので、「新しいモンスターを撮ってほしい」という気持ちを込め、メニュー項目のトップには「かおモシャスをする」が置いてあるという。
荒木氏は「これって何気ないことですけど重要なことだと思うんです」と語る。ちょっとしたボタンや機能の余計な効果は積もりに積もり、やがてストレスとなる。ゲームを“気持ちよく”遊んでもらうために、「意識せずにさわってもらえるメニューの並び」はとても重要なのだ。
画面遷移
ユーザーが「かおモシャス」の次にしたいこととして、「バトル」がある。この画面にいくまでには、「デッキを見る」「バトルするステージをえらぶ」の2つの選択肢が存在する。「モシャスdeバトル」は、そのどちらを選んでもスムーズにバトル画面にいけるよう設計されている。
まとめ
荒木氏は2つめのポイントを以下のようにまとめた。
- メニューの並びはよく使うもの順にならべる
- 画面遷移をしっかりと どこで何をしているのかをわかりやすく、次にどこに進めばいいかを明示
3.どう遊んでもらいたいかわかりやすく
世界観の説明
「モシャスdeバトル」にはストーリーがない。これはシンプルなゲームにするためにあえて入れなかったのだが、プレイするゲームの世界観を意識してもらう、ということは重要なことだった。
そこで、チュートリアルの中で「あなたの使命は大陸を旅してアストルティアにはびこるモンスターを倒してゆくことです!」という一文を入れた。この一文を読むことにより、ユーザーはゲームの世界観を想像することができるため、ゲームの没入感を高める効果があるという。ユーザーは「何のために戦っているのか」という納得を得て、ゲームを進めることができるのだ。
「たった一文」だが、これがあるのとないのでは大きな違いがある。
いままでのシリーズでやらなかった表現
「モシャスdeバトル」では、いままでのドラゴンクエストシリーズではやってこなかった弱点、耐性を取り入れたシステムを採用している。敵の弱点となる特技を使用すると高い効果があり、逆に敵がその特技に対する耐性を持っていた場合はその効果が低くなる。これが「モシャスdeバトル」の遊びの肝となる部分だ。
それをわかりやすく見せるため、敵にダメージを与えた時にダメージポイントと共に「弱点」「耐性」というアイコンを表示をし、敵への攻撃効果の有無をひと目でわかるようにしている。また、一度攻撃した敵には、前回と同じ特技で攻撃しようとするとその攻撃が効くのかが一目でわかるよう「◎」や「△」が表示される。
「モシャスdeバトル」の醍醐味は、モンスターそれぞれが持つ特技にかかっている。「弱点」「耐性」とわかりやすく見せることにより、特技の重要さをユーザーに理解してもらうことができる。すると、ユーザーの考えは「次にどんなモンスターを仲間にすればいいのか」ということに変わってくるのだ。
全滅した時のヒント
全滅した時のヒントの順番も、ランダムではなくちゃんと意味がある。たとえば、初期の段階で全滅してしまった場合に、難しいヒントを出されてもユーザーが戸惑ってしまうからだ。
なので、表示の順番は「つまづきやすいポイント」から順に表示されていくようになっている。
ゲームの“やめ時”の設定
「最近やめ時がわからないゲームって多いと思うんです」と荒木氏。ゲームに熱中してもらえるというのは制作側としては嬉しいに違いない。しかし、「それだと疲れちゃうと思うんですね」と荒木氏は続けた。
「せっかく楽しいゲームで遊んでいるのだから、その楽しいゲームで疲れるのは、僕はイヤだと思うんです」ここに、プロの製作者の気遣いが感じられる。
そのため、「モシャスdeバトル」では「ボスで負けたので、明日またモシャスしよう」など、いくつかの休止するポイントを意識的に設けているという。
プレイの区切り感を大切に、“やめ時”をしっかり作ることで、「今日はここまでにしてまた明日遊ぼう」というモチベーションを保つことができるというのは、とても重要なことだという。
まとめ
荒木氏は3つめのポイントを以下のようにまとめた。
- 遊びの肝をとらえ遊んでもらいたいポイントをわかりやすく表現する
- 全滅したときのヒントの順番もつまづきやすいポイントから
- 世界観の説明を冒頭にいれることでお客様の没入感を高める
- ゲームで疲れないように“やめ時”をしっかりつくってプレイの区切り感を大切に
4.手ごたえのあるバランスとは
「手ごたえ」のあるゲームとそうでないゲーム
「端的に言うと“つまる”“つまらん”といったお話なんですけど」という荒木氏は「手ごたえのあるゲームというのは“難関を気持ちよく突破することができるゲーム”だと思っています」と述べた。
この気持よさというのは「簡単である」という意味ではない。難関をフラストレーションをためすぎることなく気持よく突破するのが、荒木氏の考える気持よさだ。
その気持よさを実現するため、「モシャスdeバトル」では以下の4つのゲームバランスが設けられている。
- 敵の攻撃 一発で即死したりしない
- 1ターン目でなるべく全滅しない
- ステージクリア時に何匹か死んでいる
- 敵の攻撃の正解行動は3割くらい
「簡単にしてもクソゲー 難しくしすぎてもクソゲー」と荒木氏は語る。そのバランス調整が非常に難しいのだという。
ゲームの起承転結
「モシャスdeバトル」では大陸をひとつずつ攻略していき、最終的には2周する流れとなっている。なので、1周するまでに基本的な遊びのシステムを把握できるように設計されている。
たとえば、初期は比較的カンタンでサクサクと進むことができるが、第一の関門として3大陸目にボストロールが登場する。こういったメリハリを、ゲームをプレイする上での大きな流れの中で設定してあるという。
ある程度はカンタンに進められたところでボストロールを配置し、「このボスを倒すにはどういった特技をもったモンスターが必要なのか?」といったことをユーザーに考えてもらい、「簡単」「難しい」のメリハリをつけるのだ。
ユーザーの個人差に合わせた救済策を
「適度な難しさ」がゲームバランスの鍵とはいえ、ユーザーによっては行きづまってしまう人も出てきてしまう。「モシャスdeバトル」では、こういったユーザーのための救済策もちゃんと用意してある。
「モシャスdeバトル」はステージをクリアすると新しい「レンズ」を入手できる。そのレンズを使って新たに顔を撮影し、さらに強いモンスターを生成するのだ。しかし、どうしてもクリアできない人は、“自分が今持っているレンズで撮れるモンスターをコンプリートする”ことでも、次のレンズを入手することができることが可能だ。このように、「クリアする方法をひとつに絞らない」ということで、救済策を用意している。
「どういう遊び方をするかはお客様の自由で、救済策をきちんと示してあげることも、ゲームを続けていただくための工夫です」と荒木氏は語る。
まとめ
荒木氏は4つめのポイントを以下のようにまとめた。
- 簡単でもクソゲー、難しすぎてもクソゲー ゲームバランスは気持ちよく難関を突破する快感を大事に
- クリアする方法はひとつに絞らない どういった遊び方をするのかはお客様の自由
5.学んだことが次のプレイで活かされるしくみ
「自分はどんどん強くなっている」という感覚を持つことは、モチベーションを保つ上で非常に重要だという。「モシャスdeバトル」は「ゲームの醍醐味をお客様に順番に覚えていってもらう」ことを心がけて設計されている。
たとえば、前述したように、バトルでは「弱点」「耐性」というアイコンが表示されるが、次に攻撃しようとするとその攻撃が効くのか効かないのかが「○」「×」といった記号で表示されるようになる。こういった順を追って経験を積むことにより、ユーザーが自然と学習したり発見できる仕組みとなっているのだ。
また、レンズのシステムにも工夫が施されている。「モシャスdeバトル」にはレベルというものはないが、レンズごとに生成されるモンスターの“強さの差”を明確にしている。そうすることにより、「強いモンスターを手にいれるために新しいレンズを手に入れたい!」という、レベルアップに似た感覚でやりがいをもってゲームを進められる。
まとめ
荒木氏は5つめのポイントを以下のようにまとめた。
- ゲームの醍醐味を順番に覚えていってもらう
- 学習したことが活かされた時に考えてプレイしたという快感に繋がる
最後に
「お客様をおもてなしすること」とはどういうことか?ここで、荒木氏は堀井 雄二氏の言葉を紹介した。
「お客様に何を楽しんでもらいたいのか、遊んでもらいたいのか。それを体感で楽しんでもらうためにはどう“おもてなし”すればいいのか。それを考えることがゲームデザインの根本なのではないかと思っています」
さらに、荒木氏は一緒に「ドラゴンクエストX」制作に携わったゲームデザイナー 青木和彦氏からの助言を引用した。
「“このくらいでいいかな”と思ったらそこですべてが“その程度”で終わってしまう」
「これは“妥協するな”という意味ではなく、“お客様に向けてできることは最大限やる”これに尽きると思うんです。ゲーム制作は“自分の魂”をのせてお客様にお届けするものです。ギリギリまで、目標に到達するまで、どうすればいいかというものを絞って絞って考えます」。その場にいるすべてのゲームクリエイターを目指す人々に向けてのアドバイスとして、荒木氏は最後にこう締めくくった。
※画面は開発中のものです。
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