8月21日~23日の3日間にわたってパシフィコ横浜にて開催されたゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2013」。ここでは22日に行われた明治大学の森川嘉一郎氏によるセッション「ゲームのアーカイブ施設に向けて:東京国際マンガ図書館(仮)計画」の内容を紹介する。

目次
  1. 国立国会図書館の問題点
  2. ゲームをどのようにアーカイブ化するか?
  3. プロジェクトを進める上でのジレンマ
  4. マンガ、アニメ、ゲームなどが総覧できることの意義

現在、明治大学ではマンガ、アニメ、ゲームの複合アーカイブ施設「東京国際マンガ図書館(仮称)」設立の計画が進められている。同館はマンガ・アニメ・ゲームに関連する資料を収蔵する「アーカイブ機能」、それらの資料を活用した「ミュージアム機能」、さまざまなイベントなどを行う「催事場」の3つを柱としたもので、2009年には先行施設としてマンガとサブカルチャー関連を扱う専門図書館「米沢嘉博記念図書館」が開館している。

東京国際マンガ図書館(仮称):http://www.meiji.ac.jp/manga/
米沢嘉博記念図書館:http://www.meiji.ac.jp/manga/yonezawa_lib/

これらの施設では、マンガ・アニメ・ゲームに関わる作品や関連書籍などを網羅的に集めたいという。個々の作品の評価に関わらず、網羅的な保存を目指す理由として森川氏は、現在まったく取るに足らないと思われている作品が、のちの重要な作品や人気ジャンルの原点となっていたりすることを挙げ、とりわけサブカルチャーやポップカルチャーではそういった事例が多いことから、今の基準で作品を取捨選択するのは非常に危険があると述べた。

国立国会図書館の問題点

明治大学 国際日本学部准教授の森川嘉一郎氏。
明治大学 国際日本学部准教授の森川嘉一郎氏。

マンガの単行本や雑誌などについては「すでに国立国会図書館があるのでは」という意見もあるが、この施設には不十分な点がいくつかあるそうで、例えばマンガの単行本の場合はカバーや帯が取られた状態で保存されているため店頭で売られていた姿を確認することができない。マンガはカバーのデザインが商品力における大きな部分を占めており、それが資料として閲覧できないのは非常に問題であると森川氏は述べる。

さらに、雑誌の場合は出版社が納めていないケースが相当数あるそうで、有名なマンガ雑誌やアニメ雑誌でも欠号が多かったり、創刊から最終号までまったく所蔵されていないものがあったりすることが実例とあわせて紹介された。

その一例として挙げられたのが、日本初のアニメ雑誌とされる「月刊OUT」だ。この雑誌は70年代後半にサブカル総合雑誌として創刊されたが、「宇宙戦艦ヤマト」のブームなどを背景にアニメ雑誌に変わっていったという経緯がある。

ここで森川氏は「OUT」の表紙をスライドにいくつか並べて表示。創刊から1、2年は時代劇やロックなども特集していたが、号を追うごとにどんどんアニメ色が強くなっていくなど、雑誌のカラーが変わっていく過程を知ることができた。これは当時のアニメが若者向け文化としてどのような立ち位置にあったかを示す資料とも言えるのだが、そのような流れが分かる1号から20号までは国会図書館に収蔵されていないのだという。

ゲーム関連の書籍でいうと、パソコン専門誌「テクノポリス」も当初青少年向けのまじめな科学誌のようなおもむきだったが、数号で表紙に当時の人気キャラクター「ミンキーモモ」が登場し、パソコンでいかにアニメのキャラを描くかが特集されるなど、雑誌の傾向が大きく変わっていった。

この「テクノポリス」の変遷は日本のゲームにおける技術の使われ方の傾向を知ることができるもので、現在のパソコンやゲーム文化の源流を知る意味でも貴重な資料なのだが、こちらも創刊号から36号までは欠号となっており、その変化の流れを国会図書館で確認することはできない。こういった事例を紹介した上で、森川氏はマンガ・アニメ・ゲームを主軸にしたアーカイブの必要性と、東京国際マンガ図書館(仮称)の構想を語った。

また、こういった施設の先行例として京都精華大学と京都市が共同で運営している京都国際マンガミュージアム、北九州市が運営する北九州市漫画ミュージアム、新潟市マンガアニメ情報館の3つを紹介。マンガやアニメ関連についてはいろいろな総合施設が出来上がる状況になっていると述べた。

ゲームをどのようにアーカイブ化するか?

このようにマンガ、アニメのアーカイブは充実しつつあるが、ゲームのほうはどうなっているのか。東京国際マンガ図書館(仮称)ではゲームも大きく扱うとしているが、「ゲームをどのようにアーカイブ化するか」には、マンガやアニメとは異なる課題がいろいろあると森川氏は言う。

特に技術的に難しいのがアーケードゲームで、例えば「インベーダーゲーム」のアーケード機の場合、筐体の画面に使われているブラウン管は消耗品なので、ゲームを表示した状態で展示し続けていれば徐々に暗くなってしまい、いずれは映らなくなってしまう。

そうした場合、現在ブラウン管はほとんど製造されておらず、ましてや当時の解像度や周波数の部品は非常に稀少になりつつあるため、いざというとき修理・交換ができない恐れがあるのだという。

解決策のひとつは液晶画面を使用することだが、当時の筐体に液晶画面をはめこんでも、ブラウン管と同じ雰囲気を完全に再現することはできない。もっとも、80年代以降のゲームは基本的にデジタルなので、データを吸い上げて保存すればプレイアブルな状態で残すことは簡単にできる。

その一例がネットに出回っているエミュレータで、法的にはさまざまな問題があるが、数多くの昔のアーケードゲームをパソコン上でほぼ完全な形でプレイすることが可能になっている。だが、これも液晶画面に置き換えた場合と同じく、パソコン上と実際の筐体ではプレイ体験が異なるという問題が残るため、完全な解決策とは言い難いとのことだ。

筐体の収蔵も問題のひとつで、例えば海外では「Videogame History Museum」、日本では「アーケードゲーム博物館計画」など、有志が個人の力でアーケードゲーム機を集めるという試みがなされているが、どちらも収蔵場所が大きな課題となっているという。

つまり、コレクションはあるが収蔵する器をどうするのか。前述のブラウン管のような技術的な問題も、試行錯誤して成果を蓄積できる拠点がなければ、発達させることも運用することもできない。だから、まず拠点を作る必要があるのだと森川氏は強調しつつ、ここで2009年の麻生政権時代に起こった「国立メディア芸術総合センター」の問題を紹介した。

プロジェクトを進める上でのジレンマ

この計画は衆議院選挙の前に税金のムダ使いの代表例として、当時の民主党党首の鳩山由紀夫氏に「国営マンガ喫茶」と揶揄されたことは記憶に新しい。こういった批判に対して麻生氏はマンガやアニメを「メディア芸術」「クールジャパン」と呼び、この施設が日本文化発祥の中心になるものだと反論した。

この「メディア芸術」「クールジャパン」という呼称は実際にマンガやアニメが国民の間で親しまれ、育まれてきたあり方を反映したものではなく、むしろ野党が批判に用いた「国営マンガ喫茶」の方が、マンガの文化的背景をよりよく表していると森川氏は語る。しかし、「マンガ喫茶のようなもの」となったとたん公的な保存に必要な予算が動かなくなってしまう。「メディア芸術」「クールジャパン」という実態からかけ離れた呼称で呼ばないと、拠点・器を建てることができない現実があるのだという。

つまり、このようなプロジェクトを進めようとすると、ゲームやマンガを本来の姿から遠ざけざるをえないという巨大な矛盾が生じてしまう。ここで森川氏は、ルーブル美術館に展示されているミロのビーナスをゲームの筐体に変えた写真を表示。前述の「メディア芸術」といった文脈の施設の場合、このようにゲームを変えてしまうと述べ「これが正しい姿か」と問題を提起した。

もちろん、当時のゲーム喫茶を再現するというのもひとつの方法だが、それも限界がある。ゲームセンターも「サラリーマンが時間つぶしをするようなもの」「女子校生が音楽ゲームを楽しむようなもの」「ゲーマーたちが集まるもの」など、さまざまな空間があるわけで、どれを再現するかで文脈が変わってしまうという問題も生じる。また、将来的にはネットのオンラインゲームを展示する際に、当時のプレイヤーが体験したものと同じ状況をどうやって再現するかという問題も出てくるとのことだ。

マンガ、アニメ、ゲームなどが総覧できることの意義

では、どのような形の展示が望ましいのか。そのひとつの回答として、米沢嘉博記念図書館で行われた「すがやみつる展:『ゲームセンターあらし』とホビーマンガ」の事例が紹介された。

これは森川氏自身も関わった企画で、ホビーマンガの先駆けとなった「ゲームセンターあらし」の作者・すがやみつる氏の作品を関連するゲーム、ホビーとともに紹介したものだ。森川氏はマンガに登場したゲームのプレイ動画を展示する際、iPadの音量を最大にして動画だけでなくゲーム音も再生し、「パックマン」「ギャラクシアン」「ラリーX」などのBGMを鳴り響かせたのだという。この音声は実際に講演でも流されたのだが、当時のゲームセンターの雰囲気を彷彿とさせるものだった。

これはすがやみつる氏の作品展であると同時に、ゲームをどう展示するかという実験でもあったとのこと。「あらし」に登場するゲームが当時の青少年にとってどういうものだったのか。それが描かれたマンガの場面とあわせて展示することによって伝えようという試みだったと森川氏は明かした。

この展示方法にも関連するが、ある作品がなぜ出現したのか、なぜ人気を博したのかはゲームの歴史だけを見ていては分からないことが多い。例えば任天堂の「ポケットモンスター」の場合、その成立の背景には大伴昌司氏らが作ったウルトラマンやガメラなどの怪獣図鑑、仮面ライダースナックのおまけの仮面ライダーカード、ビックリマンチョコのブームなどの歴史があるわけだが、それを検証するにはゲームだけでなくマンガ、アニメ、特撮、さらにはオモチャやお菓子文化まで、すべて総覧できることが重要になる。

ゆえにマンガ、アニメ、特撮、子ども文化などが総覧できる施設が必要なのであり、東京国際マンガ図書館(仮称)もそのようなものにしていきたいと語り、今回のセッションを締めくくった。

※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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