アメリカ・ロサンゼルスにて6月10日(現地時間)より開催中の「Electronic Entertainment Expo(E3) 2014」。開幕日となる6月10日にソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE) ワールドワイドスタジオ プレジデントの吉田修平氏への合同インタビューの機会が得られたので、その内容をお届けする。
――まずは昨日のメディアブリーフィングの手応えから聞かせてください。
吉田氏:未発表のタイトルも多かったですし、発表済みのものも新しいデモや映像をたくさん用意できました。いくつか盛り上がれる場所を作れましたので良かったと思います。
――今年のメディアブリーフィングのコンセプトはどのようなものだったのでしょうか?
吉田氏:ひとつはPS4タイトルの新しい情報をしっかりと伝えるということ。それとPS4は発売後もハードをどんどん発展させていくという構想がありますので、「PS Now」や「Project Morpheus(プロジェクト モーフィアス)」といったハード関連の情報もちゃんと伝えようと。両方をバランスをよくやりたいという思いがありました
――今年は最初に紹介するタイトルが「Destiny」でした。その理由を教えてもらえますか?
吉田氏:それはメチャクチャ期待しているからです。去年のE3では、PS3とPS4の両方で出されるタイトルはやっぱりPS3がメインで、PS4版はそれをハイレゾ化したものというのが多かったんですよね。それに対して、今年はPS4がメインでPS3版もありますよ、あるいは。XBOX One版とPC版といった次世代機オンリーというものが増えてきた。
「Destiny」も両方出るんですけど、明らかに彼らは次世代機をメインにしてきています。しかも、マルチプレイヤーとシングルプレイヤーがシームレスで繋がるといった、我々がPS4で作りたいと思っていた「新しい遊び」をバーンと見せてくれている。もちろん、実績もあるチームでクオリティに関しても信頼していますし、今週から遊べるというニュースもあるのでオープニングにピッタリと考えたんだと思います。
――PS4の普及の面で手応えは感じておらますか?
吉田氏:我々が発売前に思っていたよりも全然売れていますね。生産しても生産しても足りないっていう感じで、ユーザーさんから怒られているという状況です。アンディ・ハウスは「500万やります」と言っていたわけですが、フタを開けてみたら700万と上振れしているわけです。
新機種のカメラもライブストリーミングとかに使われて非常に好評です。ユーザーさんが情報を発信できるようにするというのは、もちろん、我々としても狙った機能だったわけですが、これほどまでに楽しんでもらえるとは思っていませんでしたし、いい意味で想定外でしたね。
――それでは、ユーザーがもっと情報を発信しやすいようにしていくというのが、今後の方向性になるのでしょうか。
吉田氏:そうですね。発表時にもサラっと言ったんですが、プレイルームを使って「自分放送」みたいなことをやっておられる方がいっぱいいまして、見ていても楽しいんですよね。ですから、もっと楽しむための放送局作成ツールを作ろうよと。自分の放送曲の看板を作って好きな曲を流したり、ニコ生みたいに四択を作って視聴者に答えてもらったりとか、そういったことをできるツールですね。
――そのサービスはいつごろ開始を予定していますか?
吉田氏:この夏ですね。具体的な時期は決まっていませんが、もうすぐを予定しています。
――ユーザーが情報発信を楽しむというのは日本だけの現象ではないですよね。
吉田氏:ユーザーさんとクリエイターの距離がすごく近くなっていると感じます。ツイッターなどを利用すれば直接話せますし、ただゲームが上手いだけじゃなくディベロッパーよりゲームの解説が上手いという人もいっぱいいますし。日本でも「生主」と呼ばれる人がいますが、彼らの影響力はすごい大きいですよね。つまり、ユーザーさんたちがゲームの楽しみのひとつとして、それを取り入れているんだろうなと思います。
――ヘッドマウントディスプレイ「Project Morpheus(プロジェクトモーフィアス)」の展開について聞かせてください。
吉田氏:現在のものはプロトタイプでして、あくまで開発キットなので、以前から言っていますが、これをこのまま商品で出すことはありません。これをもっと良くしたものを将来製品として出しますよということです。
――もっと大きさがスマートになるとかですか?
吉田氏:VR(バーチャルリアリティー)体験を誰でも楽しめるか、その世界に浸れるかという部分ですね。かなりいい線までいっているんですが、まだもうちょっと足りないと考えています。
――製品化にはまだしばらくかかりそうですか。
吉田氏:ええ、いくつか課題は分かっているので、それを乗り越えてからだと思っています。ハード的なシステムはもちろんですが、我々作る側のノウハウもですね。どういう作り方をしたら皆さんが楽しめるのかという。
――ソフトのほうはどのようなものがありますか?
吉田氏:「ストリートリュージュ」という冬季オリンピックで寝そべってすべる「リュージュ」をストリートでやるものがあるんです。やることは体を傾けるだけなんですが、車とかが走っているところを駆け抜けていくのはとても楽しいですよ。
VRの良さは「そこにいるだけで楽しい」「行きたいところに行ける」という部分だと思います。その意味では、逆にあまりゲーム性がないほうが、幅広い人たちに楽しんでもらえるのではないかなと。キレイな山に行くとか、ファンタジー世界でキャラクターとお話できるとか、そういうのだけでも全然楽しめますから、今のゲームユーザーさん以外にも広く受け入れられるものになると思っています。
とにかく多くの人に体験していただくことですよね。「こんな世界があったんだ」と気づいていただくことが、今の段階ではすごく大事で、その意味で同じようにヘッドマウントディスプレイを開発しているOculus Riftさんと我々は共闘関係にあると思っています。Oculus Riftさんのもので、今の世代のVRを体験する人が多いでしょうからね。それは我々にとっても非常にありがたいことなんですよ。
――今回発表された「Blood Borne(ブラッドボーン)」ですが、どのような印象を持たれていますか?
吉田氏:ゲーム好きな人ならたまらない作品ですね。何度も死にながら進んでいく、あの快感を味わえます。私も今回ちょっとやらせてもらったんですが、何度も死ぬのでプロデューサーが死なないようにしちゃってムッとしてしまいました(笑)
――PS4ならではという部分ではどうでしょう。
吉田氏:やっぱりグラフィックスですね。すごく良くなっています。ムードというかフロム・ソフトウェアさんの世界観をより伝えやすいハードになっていますし、デザインの部分でもより広い世界が作れますから。
――「Blood Borne」は話題になりましたが、一方で今回は日本のメーカーが少ないとも感じました。その点についてはどうお考えですか?
吉田氏:それはやっぱり家庭用ゲームの規模が大きくなってきたからですね。投資金額が大きくなってくると、相対的に地元市場が少ない日本のメーカーは不利だというのはあります。ですから、「メタルギア」とか全世界で支持されている作品は世界を相手にした投資判断ができますけど、日本中心の市場で計算しているメーカーの場合は規模の部分で踏み出しにくいというのはありますよね。
一方で、欧米ではインディーズというものがすごく流行っていて、今回発表された「NOMAN’S SKY(ノーマンズスカイ)」なんて4人で作っているそうです。工夫と発想と野心があれば、少人数で予算がなくてもできるんですよ。ですから、そういうところに日本のメーカー、デベロッパーさんもぜひチャレンジしてほしいですね。
――ソニーさんのほうからメーカーに働きかけるといったことはありますか。
吉田氏:ウチは自分のものを作るだけで手いっぱいですから(笑)。ただ、ひとつ期待したいのは、インディーズのゲームで評判のいいものって過去の2Dのアクションゲームとか、ゲーム性がピュアなものに戻っている感じがするんですよね。で、そういうゲームを昔作っていた、得意にしていたデベロッパーさんはいっぱいいらっしゃると思うんですよ。そういう人たちが、セルフパブリッシングでもう1回勝負するみたいなことをやってもらいたいなあと。
別にプレイステーションじゃなくて、どこのプラットフォームでもいいんですよ。日本のインディデベロッパーの中から目立つ成功例が出てくれれば、「あれでいけるんだ」「お金になるぞ」「じゃあやってみようか」となるんじゃないかなと思っています。
――業界全体を底上げしていくという感じでしょうか。
吉田氏:底上げというよりも、業界にとして「しなくてはいけないこと」だと思っています。なぜかというと、トリプルAのタイトルは予算がデカいので、ある程度ジャンルが固定されちゃっているんですよね。昔はやったジャンルですとか、これまでにないようなタイトルはもうインディーさんにしかできないんですよ。ですから、そこを頑張ってサポートしないと非常にマズイと思っています。
欧米は現在好循環で、インディと大手の差がどんどんなくなってきている。それは非常にいいことですから、まずは欧米の成功しているタイトルなんかを紹介して、日本でもそういうユーザーさんを増やしたいと思っています。
――日本復活のカギはインディーズにあると。
吉田氏:そう私は思っています。欧米だと起業家精神がさかんですから、ゲームに関わらず、若い人が独立して失敗したらまた次のことをやるというのが普通なんですが、日本ではやっぱりひとつの企業に長く勤めてというのがまだまだ多い。ですから、そういう風潮を打ち破る発想の人、大きい会社に期待せずに自分たちで何かをやりたいという人たちに出てきて欲しいと思っています。
――北米でのオープンベータの開始がアナウンスされた「PS Now」ですが、今回紹介されたソフトはPS3だけですよね。
吉田氏:そうですね。今回のサービスインの最初のフェイズではPS3をベースにしたサーバー群を用意していますが、そこで動くPSやPS2のタイトルもいっぱいありますので、ライブラリにはめ込むことは可能です。決して、PSやPS2のタイトルを扱わないというわけではありません。
――日本ではいつごろサービス開始になるでしょうか。
吉田氏:まず北米でのサービスで我々も経験を積んで、自信をつけてから(笑)、ほかの地域に展開していく形になります。それは去年から言っていたとおりですし、スケジュール的にもそんなに変わってはいません。
――具体的な時期的については?
吉田氏:申し訳ないですが、それはまだ言えないですね。私個人は早くやればいいのにと思っていますが。日本はインターネットのスピードも速いですし。
――「大鷲トリコ」は今回も発表されませんでしたが、現在の状況を聞かせてもらえますか?
吉田氏:以前、話したことと同じになりますが、開発はずっと続けています。いつも日本のユーザーさんに怒られていますし、インターネット上で罵倒されているのも分かっていますが、きちんとお伝えできるときまでは、それ以上の話はしないと決めていますので。
――ハードはPS4になるんでしょうか?
吉田氏:それも含めて、きちんと報告できるときにお話させていただきます。
――日本市場の今後の課題、展望などを聞かせてください。
吉田氏:日本ではPS Vitaがすごく元気ですね。ウチでも「フリーダムウォーズ」ですとか、「俺の屍を超えてゆけ2」を出しますし、サードパーティーさんにもタイトルを発表してもらっていい感じと思っています。
PS4に関しては日本のメーカーさんのタイトルがもっともっと欲しいなというのと、繰り返しになりますが、海外のインディー作品でいいタイトルがまだまだいっぱいありますので、できるだけ日本に紹介していきたいですね。
――スタジオのトップとして目指していることは何でしょうか?
吉田氏:ネットワークを使った新しい遊びですよね。「Blood Borne」を発表したフロム・ソフトウェアさんとかはその先駆けで、今回もいろいろ仕込みを入れているみたいです。また、ネットワークオンリーの作品も作っていまして、それもどこかのタイミングで提示したいですね。
――それでは最後に読者へのメッセージをお願いします。
吉田氏:E3ではたくさんの新しいゲームを発表させていただきました。特に「Blood Borne」は私も本当に期待しているタイトルで、メチャクチャ面白いと思いますので超期待してほしいですね。
――ありがとうございました。
※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。
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