パシフィコ横浜で開催中の「CEDEC 2014」の初日となる9月2日、講演「VR ~Project Morpheusで体感する未来~」が行われた。3Dなどによる従来の「没入感」を大きく越えた、「プレゼンス」によるまったく新しい体験とは、どのようなモノなのだろうか?
2014年9月2日から4日にかけて、パシフィコ横浜でゲーム開発者向けのカンファレンス「CEDEC 2014」が開催されている。CEDEC 2014の開催初日となる9月2日、ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデント 吉田修平氏による講演「VR ~Project Morpheusで体感する未来~」が行われたので、本稿で紹介しよう。
VRとは“Virtual Reality”すなわち仮想現実の略で、古来よりさまざまな形で研究が行われている。近年は「Oculus Rift」に代表されるヘッドマウントディスプレイ(HMD)を用いるVRが大きなトレンドとなっており、今回のCEDEC 2014でも幾つものメーカーが関連製品を出展している。またソニー・コンピュータエンタテインメントも、PlayStation4向けのHMD型VR「Project Morpheus」を開発中だ。
今回のセッションでは、VRの歴史から始まり、現在のトレンドとなっているHMD型VRの特徴、その可能性や今後の課題などが総括的に語られた。VR入門用に綺麗にまとまった内容だったので、今までよく知らなかった人も、この機会にVRについて興味を持ってみよう。
なぜ今バーチャルリアリティーなのか?
Virtual Realy(仮想現実)という言葉/概念が最初に世に登場したのは意外と古く、1960年代にまで遡る。その後、1990年代に映画やTVアニメ等のマス向けコンテンツで数多く用いられ、ちょっとしたブームを巻き起こしている。たとえば年季の入ったゲーマーの中には、SEGAの体感型ゲーム筐体「R360」を1プレイ500円で遊んだ人もいるのではなかろうか。
ただ、当時のVR技術では、体験できる仮想現実のクオリティは低く、またハードウェアの製造コストも高かった。そのため広く普及するには至らなかったのだが、あれから約20年が経過した今、VR花盛りといった状況だ。
いったいなぜ、今になってVRがここまで注目されているのか。その最大の要因は、スマートフォンの爆発的な普及による大幅なコストダウンにある。それと同時にハードウェアが高性能化し、中でも3Dグラフィックスの性能が飛躍的に向上している。その結果スマートフォンのプラットフォームに、数多くのデベロッパが参入しているのだ。スマートフォン周りの技術/環境が「惑星直列状態で重なり合い」(吉田氏)、それをフル活用して作られるHMD型のVRは、1990年代当時とは比べ物にならない次元でのムーブメントとなりつつある。
VRのクオリティを大きく左右する「プレゼンス」
吉田氏によると、HMD型VRによる体験は、従来の娯楽で得られる「没入感」とは大きく違っているという。例えば、面白い本や映画を楽しんでいる間も没入感は得られるが、それは「頭脳から感じる要素」である。それに対しVRでは、たとえ頭では理解していても、自分が別の世界にいることを「体が」信じきってしまっている。高い崖の上から眼下を見下ろすVRを体験した人は、(頭にHMDを被っていることを自覚していても)思わず膝がガクガクと震えてしまうのだ。
こういった、頭では制御できない感覚のようなモノを、VRの開発者達は「プレゼンス」(Sense of Presence)と呼んでいる。いかにしてプレゼンスを実現し、それに対して違和感を与える要素を排除していくことが、クオリティを大きく左右するのだそうだ。まぁ言葉を変えてGamer読者向けに例えるならば、“シンクロ率“のようなモノなのだろうか。
現在同社が開発中の「Project Morpheus」では、プレゼンスを実現するべく、“Sight/Sound/Tracking/Control/Ease of Use/Content”の各分野で研究・開発が続けられている。
Sight(視野角の広さ) | Sound(3Dサウンドは有効) |
Tracking(後頭部センサー+両手にPS Move) | Control(DualShockやPS Move) |
Ease of Use(誰でも簡単に扱えること) | Content(コンテンツの豊富さ) |
新しい体験ができるVRでは、コンテンツを制作する側にとっても違ったアプローチが求められる。続いて吉田氏は、プレゼンスを実現するためのノウハウ・注意点を具体的に紹介していった。
各方面へと広がるVRの可能性
昨今の「Oculus Rift」「Project Morpheus」関連のニュースなどを見ても分かるとおり、VRはもはや研究開発段階ではなく、マスに浸透するためのカウントダウンが始まっている、といっても過言ではない状況にある。しかもゲームのみならず、軍事、医療、建築、教育、旅行、スポーツ等々、各分野での活用が見込まれているのだ。これらの体験を、頭脳ではなく体で感じられる日が、もう目の前にまで来ている。
これらのVRは新しい体験なだけに、普及させるためには課題もいくつか残っているが、吉田氏はこの凄い体験を多くの人に届けたいという想いでワクワクしながら、Project Morpheusの開発に取り組んでいるそうだ。Project Morpheusは今後、東京ゲームショウ2014などに出展され、一般ユーザーが直接体験できる機会も次第に増えてくる。吉田氏は、もしチャンスがあったらぜひ体験してほしいという想いを込め、「百見は一体験に如かず」と本講演を締めくくった。