CEDEC 2014の2日目となる9月3日、セガネットワークス代表取締役社長CEO 里見治紀氏の講演「ゲームが果たすべき役割」が行われた。里見氏は、日々変化していくゲーム業界の中で、「軸」にあった商品をつくっていくことが大切だと述べた。果たしてその意味とは。本稿では、里見氏の講演をまとめていこう。

セガネットワークス 代表取締役社長CEOの里見 治紀氏
セガネットワークス 代表取締役社長CEOの里見 治紀氏

里見氏はまず、ゲームにはスマートフォンやコンシューマ、PCゲームなどさまざまなものがあるが、これらに共通して言えることは「感動体験」であると発言。

現在、ゲーム業界で仕事をしている人間は数多くいるが、その人達にとって、ゲーム業界で働くモチベーションはどこにあるのだろう。社内での評価? インセンティブ? もちろんそれらも大切だが、ゲーム業界に身を置く者にとって一番のモチベーションは、ユーザーが自分の作った作品を楽しんでくれている喜びだと里見氏。ゲームを作っていたら、電車の中で隣の人が自分の作ったゲームをプレイしているなんてことも多い。またネット上などで自分の作品が絶賛されていたら、これ以上の喜びはないだろう。

そういった例を上げつつ、里見氏は会場のゲーム業界関係者に向けて、自分の作った作品をユーザーが楽しんでくれていることへの喜びを忘れないでほしいと投げかけた。

ここで講演は、「ゲームの存在意義とは何か」という話に移る。ゲームは衣食住ではないし、生活においての必需品でもない。加えて、ゲームへの依存問題や無制限の課金、表現の問題、RMTなど、さまざまな問題を抱えている。

しかし、だからこそ、ゲーム業界関係者はその問題を深く理解し、そして対策法を世に発信していかなければならない。それがゲーム業界関係者の役割なのではないかと、里見氏は力説する。

また里見氏は、震災などの自然災害を目の当たりした際の気持ちを振り返り、ゲームで人を「直接救う」ことは難しいかもしれないと述べる。東日本大震災が起こった時は、セガ社内でも、こんな時にゲームを作っていていいのだろうか、という意見もあったそうだ。

しかし、ゲームが持つパワーは人に元気を与えたり、癒やすこともできる。そのため、ゲームを含むエンターテイメントが活性化していくことは、非常に大きな意味があるのではないかという。ゲームを介することによって、人と人は繋がっていき、絆を深め、国境すらも超える。里見氏は、「ゲーム」を本業にしている人たちは、自分の仕事が世の中の役に立っているということを、もっともっと感じてほしいと訴えた。

ここで里見氏は、一つのグラフを用いて、ゲーム業界の変遷を紹介する。セガはこれまで多くの新しいことに取り組み、チャレンジを続けてきた。その精神は素晴らしいが、行き過ぎてしまうと、ユーザーが求めるものの範疇を超える危険性もあるという。ユーザーの一歩先に進むことは良いことなのだが、二歩も三歩も先に進んでしまうと、ユーザーの求めるものから外れていってしまうというのだ。

かつてセガが発売したドリームキャストは、世界初のオンラインコンソールハードだが、モデムでオンラインゲームをプレイするため、当時の環境としてはなかなか辛いものもあった。里見氏は、こういったことも一つの反省として踏まえ、これからのゲームは、ユーザーの求める性能内にいることも重要だと強調した。

携帯電話のゲームが登場しはじめた当初は、コンソールやアーケードでポリゴンがバリバリ動くゲームを作っていたゲーム開発者からは、携帯電話のゲーム開発に難色を示す声も多くあった。セガ内でも携帯電話向けのゲームを作ろうという動きはほとんどなかったという。しかし、それが今や、スマートフォンのゲーム市場は、物凄い勢いのあるマーケットに成長している。

ここで里見氏は、モバイルという新しい「軸」を大切にし、軸にどうやって対応していくのか、その軸にあった商品を作っていくことへの大切さを強調。それが自身や業界の成長に繋がっていくことであり、お客さんが求めるものを提供することに繋がるという。そしてこれからは、ウェアラブル、ヘッドマウントディスプレイ、クラウドゲームなど、一昔前までは考えられなかったものが一般化していくということも視野にいれ、開発ではそういった部分に注力していかなければならないとまとめた。

どんなに新しい軸が出てきても感動体験は普遍。我々はそれを忘れず、新しいチャレンジを続けていきたい。

里見氏いわく、今までのゲーム業界は、ある意味クローズドな世界だった。しかしスマートフォンが台頭してきたここ数年で、IT業界やベンチャー企業などがゲーム業界に参入し、ライバルが増えてきているという。「敵を知る」ということは、非常に大切なことだ。

しかし、本当に戦うべき相手はこれらの同業他社ではなく、あくまで自分自身なのではないかと里見氏。そして、自分を変えるのは自分自身であり、自分を変えることこそ、日々変化していくマーケットでライバルに勝っていくことへ繋がるのではないかと話す。

ソーシャルゲームやスマートフォンゲームは、ゲーム業界を食っているのではないかと言う人もいたが、逆に、スマートフォンが新しいゲームの遊び方を提供したのでないかと、里見氏は述べる。

またこれまでゲームは、時間的な制約が大きかった。そのため、ゲームをやるとなったら、1~2時間はじっくりプレイするという姿勢が基本だった。しかしスマートフォンが台頭したことによって、朝の隙間時間にプレイするスタイルが、現在のゲームの主流になっている。

里見氏は、これからのゲーム業界関係者には、如何にユーザーの時間を借りて、自分たちのゲームを遊んでもらうかという視点を持ってほしいという。そして、切磋琢磨しながら、企業の枠を超えてゲームを開発していくことが大切だと言う。それによって、ゲームが社会から必要とされるものになっていくのではないかと参加者にメッセージを送り、講演を締めくくった。

※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

コメントを投稿する

この記事に関する意見や疑問などコメントを投稿してください。コメントポリシー