2015年8月26日~28日の期間、ゲーム開発者向け技術交流会「CEDEC 2015」がパシフィコ横浜で開催されている。本稿では、27日に行われた、シンラ・テクノロジー プレジデント 和田洋一氏の講演「シンラ・テクノロジーが創り出すクラウドゲームの世界」をレポートしよう。

和田洋一氏

和田氏はまず、ゲーム業界の現状認識について説明。コンピュータの性能が低い時代は、専用の機械が必要だった。一台数十万円する業務用機に始まり、続いてファミコンの登場など、ゲームを動かすための専用マシンが活躍していた。しかし、2000年台中盤に入ると、PCでゲームをプレイすることが国内でも浸透するなど、汎用性の高いマシンにも注目が集まる。中でも、スマートフォンの登場は大きい。このことによって、汎用端末でゲームをプレイすることが一般化してくる。

重要なのは、ビジネスモデルも、コンテンツデザインも、業界をリードする業者も、根本的に入れ替わっていることであり、現在のゲーム業界の特徴でもあるのだ。

過去の30年間は、ゲーム専用機がいかに汎用化していくかという過程で、コンテンツもビジネスも変わってきた。しかしそこにクラウドが入ってくることによって、これらの要素が全て変わってくる。そのインパクトは、業界の変遷においても最大クラスであるとのこと。数十年来のターニングポイントを迎えているのが、今なのだと和田氏は語る。

しかし汎用機がメインストリームになってくると、ゲームに特化した形で何を行っていくかをあまり考えなくなると、和田氏は指摘。そうするとゲームクリエイターは、いまある環境に自分を合わせていくのか、という流れになってくる。和田氏は、せっかく世の中が変わっている時期なので、自分たちがイニシアティブ(自発力や独創性など)を取って、ゲームの仕様を考えていくべきなのではないかと提案し、それこそがシンラ・テクノロジーを立ち上げた背景の思想であることも明かした。

では、ここでの主題であるクラウドゲームでは、何ができるのか。まず、データの処理をクラウドで行うため、端末を選ばないというメリットがある。そうすることによって、ゲームとの新しい関わり方ができるようになってくる。

今までのクラウドと言えば、データをストリーミング配信するという使い方がメインだった。ゲームの販売方法と言えば、パッケージ、通信販売、ダウンロード、ストリーミング配信という流れがある。したがって、データ量が膨大な昨今のゲームでは、クラウドを利用した配信に大きな注目が寄せられてきた。

ストリーミング配信だけに着目しても、クラウドゲーム専用で作れば面白いものはできる。たとえばパッチなどが必要なくなるし、それだけでも変化としては大きいだろう。また、ゲームを作る際、色々な端末に最適化する作業が大変だが、クラウドを利用すれば、その部分の負担も軽減される。最初からクラウドありきで設計されたゲームではなく、既存のゲームをクラウド仕様にするだけでも、環境は大きく変わってくるのだ。

またクラウドを利用すると端末に依存する必要がないため、ネットワークゲームの制作が容易に行えるようになる。これまでのネットワークゲームは、端末側でそれぞれの世界が作られていたため、手間も膨大だ。

さらに、端末によって環境も違うので、これらの同期を取ることも非常に難しい。そのため、ネットワークゲームを作るためのハードルはとても高かったというのが、これまでのイメージである。しかし、クラウド技術を用いることによって、ネットワークゲーム開発への参入障壁がグッと低くなる。すると、今まで敷居の高さで参入できなかったクリエイターが開発にどんどん入ってくる。そうなることによって、新しい感性がゲーム開発に加わる。それは、ネットワークゲームの多様性に繋がるものだ。ひいては、ゲーム自体の進化に繋がってくると和田氏は言う。

さらに、クラウドがゲームに浸透することによって、ゲーム専用機をもう一度作るという考えが起こるのではと、和田氏は予想。汎用機化の流れだったのが逆転するという現象だ。

もう1つは、先述と重なるが、ネットワークゲーム開発のハードルが低くなることによって、参入するクリエイターが増える。結果、ゲームの進化へと繋がる。

最後は、端末のフリー化。現在の通信環境ではどの端末でも快適にゲームが行えるわけではないし、その解決は簡単なものではない。しかし何年先かは分からないが、必ず端末フリーの時代はやってくると和田氏は話す。ゲームクリエイターは、今から、そこにフィーチャーしたゲームについて考えることも大事なのでは述べ、一旦まとめた。

続いては、コンピュータゲームの機能検証として、インプットとアウトプットの存在に触れた。インプットとは、いわゆるコントローラ、タッチペン、タッチパネル、音声入力など。コンピュータのインプットはこのように進化してきたが、最終的には脳波をゲームに活用できる時代が来るのではと和田氏は予想する。また、インプットと言えば、任天堂の存在を忘れてはならない。DSやWiiといった端末が成し遂げた、ゲーム人口の拡大という思想は、本当に凄いと和田氏はコメントしていた。

ではアウトプットはどうだろう。3D立体視が盛んになった時期があったが、あまりパッとしなかったというのが正直なところだ。アウトプットに関しては、家庭用マシンやPCにおいては、これといった挑戦はあまり行われておらず、アーケードゲームによる開拓が多い。だからこそ、昨今話題のバーチャルリアリティが非常に新鮮に映ると和田氏はコメント。ARについては、花開くには、もう少し先だろうと和田氏は予測。インプットでも触れた脳波に関しては、ゲームで一般化するのは、まだまだ先の話になるだろうとのことだ。

しかし、アウトプットならではの問題点もある。それは、アウトプットとはハードであるということ。そのため、生産・製造しなくてはならない。これは、ネットワーク、クラウド化していく流れの真逆を行っている。その点に関しては、まだまだ様子見の部分も多いと和田氏は話していた。

講演の中盤では、1つのサーバーに全ての世界が再現されているというデモ映像が披露される。
32キロ四方の空間に、ナゾの生物がうじゃうじゃ飛んでいるという内容だ。
氏によると、ナゾの生物は1万6千体も飛んでおり、AIも自律的に動いているという。
「クラウドゲームを複雑性の観点で捉え直してみる」というトピックでは、「複雑性をどこに設定するか」、
「複雑性を際立たせるルールをどのように作っていくか」といったテーマについてコメント。
リソースの分配をもう一度考え直す必要性や、常時オンラインの重要性などが語られた。
講演の後半では、シンラ・テクノロジーが行っている開発支援活動一部が紹介。
現在シンラでは、プロトタイプ・アクセラレーターの共同開発や、SDKの無料配布を行っている。
現在、シンラとプロトタイプ・アクセラレーターを一緒に作っている会社は3社あるとのこと。
会場では、制作の参考資料が公開されていた。

最後に和田氏は、本講演の内容を下のスライドと共にまとめた。

クラウドゲームというと問題が矮小化して捉えられるが、実は非常に広がりのある話だと和田氏は言う。ゆえにクリエイターは未来を逆算することが大切で、それには、新たな複雑さにリソースを配分することが必要になってくる。

また、スクリプトでシナリオを追体験させるだけではなく、ユーザーにどうやってその世界に参加してもらえるかということも非常に大切だとし、今後は、ゲームデザインに対する考え方を変えていく必要があると続けた。そして最後に、これらのことが繋がっていき、次のゲームデザインに応用できれば幸いだと述べ、講演を締めくくった。

※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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