女性向けアドベンチャーゲーム「薄桜鬼」を原作としたミュージカルシリーズの最新作「ミュージカル『薄桜鬼』新選組奇譚」の公演が、1月4日より東京・天王洲 銀河劇場にて開始された。切ない物語と迫力ある殺陣で彩られた本作のゲネプロをレポートする。
「ミュージカル『薄桜鬼』新選組奇譚」は、新選組の熱く切ない物語が若手実力派俳優たちによる殺陣とダンス、そして歌によって表現される斬新な和物ミュージカル。
2012年に公開された「斎藤一 篇」から始まり、2015年には7作目となる「黎明録」が上演。「黎明録」では「薄桜鬼」本編の前日譚が描かれており、本作はこの流れと大部分のキャスト陣を継ぐものだ。原作ゲーム同様、“薄桜鬼 新選組奇譚”をタイトルとする本舞台では、新選組がどのように描かれているのか、その模様をお届けする。
本作は新選組初代筆頭局長・芹沢鴨の死と、新選組副長・土方歳三の「鬼になる」という台詞から始まる。父・雪村綱道を探して京の都を訪れた雪村千鶴は、土方歳三、沖田総司、斎藤一ら新選組と出会う。生活を共にする中でお互いを認め合っていく千鶴と新選組の面々だったが、池田屋事件を皮切りに時代の変わり目に飲み込まれていく。
沖田の病や仲間の離脱、そして千鶴自身の生い立ちにまつわる出来事で新選組にひずみが生じる。そんな中、時代が変わっても国の行末を守る新選組の在り方は変わらないと信じ行動する土方だったが、その思いは大政奉還によって大きく打ちのめされることになる。
本作では登場人物たちを突き動かす「信念」がキーワードとなり、その生き様が鮮やかに描き上げられている。雪村千鶴は、土方の「武士よりも武士らしく生きたい」という信念に触れ、それを尊重しながらも、その先の「武士らしい死」に疑問を覚える。しかし新選組の仲間を助けたい、土方を支えたいという思いが彼女の信念となり、千鶴は新選組の最期を見届けていく。
近藤勇、沖田総司は土方と志を共にした新選組の核となる存在だが、労咳(ろうがい)に蝕まれる沖田はその役目を果たせず、”新選組の剣”として死ねないことに苦しみ、近藤は自らの信念が土方や新選組を追い詰めたと自責する。また自らを信じ、隊を離脱した原田左之助、永倉新八や、主君への忠義を全うした山崎烝など、原作が忠実に再現された本作では新選組の隊士たち全員の信念と、交差する心情が観ている者の心を抉る。
重く、切ない物語が綴られる本作だが、全編にわたって繰り広げられるスピード感ある立ち回りによる殺陣と、登場人物の心情がダイレクトに伝わる歌とダンスが、この重厚なストーリーを受身の悲劇とさせず、鑑賞後はどこか爽やかな疾走感すら覚えさせてくれる。
歪になってしまった新選組隊士たちが己の信念に従い共に戦うシーンは、追い詰められた状況にも関わらず観ていて燃えるものがあり、敵対勢力の風間千景一派の不知火匡との共闘シーンはガンアクションも加わり、かなりの熱気を帯びる。このほかにも新選組・風間一派の全員に見せ場が用意されており、激しいアクションシーンを通じて彼らの信念が昇華されている。
そのほかにも、原作ではお馴染みの新選組の夕飯の一時や健康診断などのコミカルな表現はもちろん、千鶴と土方の気持ちが繋がる大切なシーンの数々も、ミュージカルならではの演出で美しく丁寧に描かれているので、原作ファンも堪能できる。
「鬼になる」と幕末の動乱を駆け抜けた土方ら新選組の軌跡を見届け、「薄桜鬼」というタイトルの意味を劇場で体感してほしい。
キャストインタビュー
――稽古とゲネプロを終えて、今の心境を聞かせてください。
松田岳さん(土方歳三 役):初日に向けて気を引き締めたい気持ちでいっぱいです。初日のことしか考えていません。
藤社優美さん(雪村千鶴 役):稽古開始からあっという間でした。初日に向けて、やってきたことをお客様にお伝えできたらいいなと思います。
鈴木勝吾さん(風間千景 役):まだまだ全然だと思っています。稽古でやってきたことと仲間を信じて、最後まで駆け抜けたいなと思います。
荒牧慶彦さん(沖田総司 役):1ヶ月間の稽古で積み上げてきたものを、ゲネプロで最終調整できました。それを各々確認して、あとは初日に臨むだけだと思っています。
橋本祥平さん(斎藤一 役):稽古初日からここまで駆け抜けてきて、ゲネプロを終えて「ミュージカル『薄桜鬼』新選組奇譚」という作品が完成したんだなと、ちょっとホッとしています。これから幕を開けるので、さらに気を引き締めて精いっぱいがんばっていきます。
――初参加の役者さんもいれば、過去作品に出演している役者さんもいらっしゃいます。そのバックグラウンドも含めて、本公演への意気込みをお願いします。
松田さん:「ミュージカル『薄桜鬼』」は、ずっとDVDや劇場で見ていました。実際に稽古場に入って、TVの向こう側の人たちと稽古をすることになり、ワクワクしました。みんなやさしく「『薄桜鬼』とはこういうものだ」と指導してくれて、とてもいい現場です。シリーズ8作目ですが、代々受け継がれてきた思いを引き継いで、“誠”の形を皆さんに届けられたらと思います。
藤社さん:初めてこの作品に出させていただきます。「斎藤一編」を見て、「私にはできないかもしれない」と思いましたが、稽古を重ねた今はカンパニーの一員になれたと思っています。カンパニーの皆さんからいただく感情を大事にして、私の雪村千鶴を演じたいと思います。
鈴木さん:足掛け4年「ミュージカル『薄桜鬼』」に携わっています。知っているカンパニーなのにまったく知らないカンパニーのようで戸惑っていたのですが、今までの役の人たちと違ったアプローチで作品を作っていて、自分が初演をやっていた頃のような風景が目の前にありました。
自分の使命は板の上で、自分の役で支えることと思い、ずっとやってきました。最後に新選組が歌う曲を聞くと、「ミュージカル『薄桜鬼』」はこんなに育ったんだなと、うれしい気持ちでいっぱいになります。
荒牧さん:僕は前回の「黎明録」から出演させていただいています。今作は前作の続編となっていて、僕らが「黎明録」で築き上げた新選組がどのように終わっていくのか、それをきっちり最後まで、沖田総司として、新選組の一人の人間として見届けたいと思っています。
橋本さん:初演からいる勝吾くん、「黎明録」でともに演じたマッキー(荒牧さん)、今回ガックン(松田さん)と藤社さんが入って「ミュージカル『薄桜鬼』」という歴史を感じました。僕はみんな知っているので、パイプ役になれたらと思っていましたが、そんな心配は一切なく、幸せカンパニーは前々からずっとつながっているんだなと感じました。今回このメンバーで、新たな「ミュージカル『薄桜鬼』」をお届けしたいと思います。
――最後にお客様へのメッセージをお願いします。
橋本さん:今回は「新選組奇譚」ということで、誰々編とは描かれていません。それぞれの役に見せ場があり、ゲームでいう桜がふわっとなるシーンも多々あります。皆さまには“ザ・薄桜鬼”という作品をお楽しみいただけたらなと思います。
荒牧さん:祥平が言っていたように、新選組各々なりの見せ場が散りばめられているので、お見逃しのないように見届けていただきたいです。
鈴木さん:改めて「新選組奇譚」という作品をやっているのが不思議な気持ちです。僕たち自身も新選組と一緒で、ゼロから作り上げてきて夢を叶えつつある中にいるので、その夢をお客様も一緒に見てくれたらうれしいです。楽しみにしていてください。
藤社さん:キャストとスタッフさん、先生がた、みんなで作った「ミュージカル『薄桜鬼』新選組奇譚」です。細かいところまでこだわって演出されているので、私と一緒に新選組や鬼の皆さんの生き様を見届けていただけたらうれしいです。
松田さん:僕は今回から初参加です。初参加してみてわかったのは「ミュージカル『薄桜鬼』」はたくさんのかたがたに愛されていることです。もともと「新撰組」という歴史のある物語ですし、それを僕たちがきちんと受け止めて、調べて、舞台の上でぶつけるということがずっと続いていけばいいなと思います。だからこそ間違いのないように演じていきますので、今後とも応援よろしくお願いいたします。
公演概要(敬称略)
タイトル:ミュージカル『薄桜鬼』新選組奇譚
原作:オトメイト(アイディアファクトリー・デザインファクトリー)
脚本・演出・作詞:毛利亘宏
音楽:佐橋俊彦
振付:本山新之助
殺陣:六本木康弘
殺陣監修:諸鍛冶裕太
出演
土方歳三役:松田岳
雪村千鶴役:藤社優美
沖田総司役:荒牧慶彦
斎藤一役:橋本祥平
藤堂平助役:小澤廉
原田左之助役:東啓介
永倉新八役:猪野広樹
山崎烝役:高崎翔太
近藤勇役:井俣太良
芹沢鴨役:窪寺昭
天霧九寿役:郷本直也
不知火匡役:柏木佑介
雪村綱道役:江戸川萬時
風間千景役:鈴木勝吾
菅原健志、細川晃弘、伊藤茂騎、橋渡竜馬、岩崎大輔、吉田雄希
日程
東京公演
2016年1月4日(月)~11日(月・祝)
大阪公演
2016年1月15日(金)~17日(日)
劇場
東京公演:天王洲 銀河劇場
大阪公演:大阪メルパルクホール
主催
ミュージカル「薄桜鬼」製作委員会(マーベラス、マーブルフィルム)
制作協力
トライストーン・エンタテイメント
公式サイト
http://www.marv.jp/special/m-hakuoki
公式blog
http://m-hakuoki.jugem.jp/
公式Twitter
@m_hakuoki