2月26日、メディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏が主催するおなじみのトークイベント「黒川塾」の第33回がスクウェア・エニックスのセミナールームにて開催された。

今回のテーマは「バーチャルリアリティの未来3」。バーチャルリアリティ(以下、VR)はこれまで2回テーマになっているが、今年は1月7日にOculus Rift(オキュラス・リフト)の予約が開始され、ソニー・コンピュータエンタテインメントのPlayStation VR(以下、PS VR)もいよいよ全容を見せはじめるなど、VRの本格化が見えてきたことから、改めて取り上げられることとなった。

ゲストはPS VRの開発メンバーであるソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏、簡易型VRデバイスと「ハコスコ」の開発者・藤井直敬氏、米国Advanced Micro Devices(AMD社)のダリル・サーティン氏、VR黎明期よりVRコンテンツを個人で開発し、現在はgumi所属の渡部晴人氏。以上の四氏が独自の考えやVRの現状などについて、興味深い議論を展開した。

PS VRの「THE LONDON HEIST GETAWAY」が出展。高速道路上で敵と撃ち合うシーンを体験することができた。
オキュラス・リフトの「ペンタVR」「BLAST BUSTER」の体験プレイも可能となっていた。

日本と海外のVR市場

まず、吉田氏はPS VRについて「(発売日も価格も)言えません!」と釘を刺しつつ、「体験していただいてこそ良さが分かる」とアピール。先日開催された台北ゲームショウでも40台のPS VRが出展されていたが、ひとりでも多くの人に体験してもらうため、今年もそうした活動を活発に行っていくと語った。

続いて、VRの現状について各氏がそれぞれコメント。藤井氏はVRの認知度が大きく上がったことを認めつつ、以前は「世界初」ということでお金が動いていたが、それがひと周りして今は2周目に入り、「予算と効果が問われるようになってきた」と指摘。実際、オキュラスを使った企業プロモーションなどは以前ほど行われておらず、行ったとしてもニュースにはならなくなっているという。

つまり、物珍しさだけで注目されていた段階から次のフェイズへと進み、「なぜVRにお金をかけるのか」が問われるようになっていると現状を分析した。渡辺氏も「VRの市場トレンドは以前ほどではないと思う」と藤井氏に同意。ただ、ゲーム開発に関してはノウハウが共有され、大手のゲームメーカーもタイトルを発表するなど盛り上がりを感じているとのことだ。

一方、吉田氏やサーティン氏によると、海外ではVRは依然としてホットで、現在では医療サービスやスポーツのライブ配信などノンゲーム系のものが増えてきているという。特に映画業界は大きな盛り上がりを見せていて、単に360度の映像体験というだけでなく、インタラクティブ性もある映像コンテンツとして注目されていると説明。カンヌやサンダンスといった有名な映画のイベントでも360度パノラマやVR系の作品が多数出展されるなど、そうしたトレンドが見て取れると両氏は述べた。

黒川文雄氏 渡部晴人氏 藤井直敬氏
吉田修平氏 ダリル・サーティン氏

VR市場を盛り上げるには?

簡易型のスマートフォン向けVRビューワー「ハコスコ」を開発した藤井氏には、ハイエンドのVRデバイスが登場してくる現状を踏まえ、次の一手をどう考えているのかという質問が出された。

藤井氏はスマートフォンを使ったVRはコンテンツを見ただけで終わりというものが多く、コンテンツから別のコンテンツに繋がらず、ユーザーのアクションもそこで終わってしまうため、なかなか収益にならないと現状の問題点を指摘。「B to C(企業が個人ユーザーに向けた事業)」ではなく、「B to B to C(ほかの企業のユーザーを視野に入れた事業)」の体験にしなければならず、そのためにはこれまでとは違うVR2.0的なものが求められると持論を述べた。

デバイスの価格も話題に上がった。Oculus Riftの製品版が599ドルで日本では送料も含めると9万円以上、HTC Viveも799ドルとかなり高価格だが、サーティン氏は時間が経過し、面白いゲームやコンテンツが買われるようになれば、価格も下がってきて、やがて多くの人が楽しめるものに落ち着くだろうと予測。

吉田氏は「ヘッドセットが生み出す体験からすれば安いもの」と語る一方、安いだろうと言われていたOculus Riftが599ドルで「高い」という印象を持たれ、「1000ドル以上では」とも予測されていたHTC Viveが799ドルで「安い」と思われたことから「マーケティング面で勉強になった」「パルマー(Oculus創業者)にとっても、いい経験になっただろう」と来場者の笑いを誘った。

気になる日本のVRのコンテンツ状況だが、吉田氏はgumi、コロプラ、GREEといったモバイル系が積極的と感じているという。一方、いわゆる有名どころの日本の大手パブリッシャーは、VRを好きな人が会社を説得してやっている状況で、代表的な存在として「サマーレッスン」などを手がけているバンダイナムコエンターテインメントの原田勝弘氏を挙げ、「応援しています」とエールを送った。

話題のVRがテーマというだけあって多くの来場者が参加。登壇者たちのトークに聞き入っていた。

では、VR市場を盛り上げるには何が必要か。渡部氏はやはり大作ゲームの存在だろうと、「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」といったキラーコンテンツの必要性に言及。藤井氏は「あきらめないこと、やり続けること」が大事で、「まだ(VRは)始まってもいないのに止めるのはバカ」と自嘲気味に語った。

サーティン氏は藤井氏の述べていたB to B to Cモデルがひとつの手法になると考えており、インターネットカフェでVRを体験してもらうという中国での試みを紹介。つまり、まずは体験してもらうことが大事で、体験することでお金を払いたいと思うし、体験すればデバイスが高いとも感じなくなるだろうと述べた。ただ、やはり求められているのはすぐ利益になるもので、それはトリプルAコンテンツを作っているところでもインディー系などの中小スタジオでも変わらないとマネタイズの重要性も指摘していた。

最後に吉田氏は「VRの市場を立ち上げたいという情熱を持つ人が、ここまで引っぱってきたんだと思います」と感慨深げに述べる一方、「大事なのはそうした企業や関係者が、よい体験の提供にこだわること」が大事で、新しい技術だけに初めての体験がよい体験でなければ逆効果になると懸念も示した。

実際、このVR人気の波に乗ろうという企業は増えてきたが、良くないものも目立つそうで、だからこそ開発者たちは「いいものを出すんだ」という強い連帯感、責任感があるとコメント。我々もコンシューマー向けに「これだ!」と示せるような気概を持ってコンテンツを出していきますと意気込みを述べた。

また、作っている側がデバイスへの慣れや先の展開が分かっていていることから、酔わなかったり驚きが小さかったりする点を挙げ、「初めて体験する人」の意見の重要性を改めて強調。そうした人たちの声を聞いた上でデモや展示も行うべきと語り、まとめとした。

ちなみに、イベント終了後、吉田氏にお話をうかがったところ、現時点では公表できないが、体験会以外でのプロモーションもすでに考えているとのこと。VRは雑誌の誌面や動画ではその面白さを十分に伝えることができない。従来とは異なるプロモーションが求められるだけに、どのような形で体験の共有化をはかるのか。この点でも個人的に大いに期待したい。

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※画面は開発中のものです。

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