スパイク・チュンソフトから8月4日に発売されたPS4用ソフト「ウェイストランド 2 ディレクターズカット(Wasteland 2 Director’s Cut)」。今回はゲームの生みの親である、開発元・inXile Entertainmentのブライアン・ファーゴ氏へのメールインタビューを実施した。
アメリカ・カリフォルニア州にある開発会社・inXile Entertainmentは、初代「Wasteland」はもとより、本シリーズを元に生み出したとされる、世界中で人気を博すオープンワールドFPS「Fallout」の生みの親、Brian Fargo氏(ブライアン・ファーゴ氏)が設立したゲームデベロッパーである。
そして今回、スパイク・チュンソフトから日本語ローカライズ版「ウェイストランド 2 ディレクターズカット」が発売されたことをきっかけに、ファーゴ氏へのメールインタビューを取り次いでもらうことができたので、その返答をここに紹介していく。
“ポストアポカリプスRPGに賭けられた思い”とは一体どのようなものであったのか? 終末の訪れを求めて止まない人は、ぜひとも目を通してみてほしい。ちなみにゲーム本編のプレイレビューについては、こちらの記事から参照可能だ。
ポストアポカリプスとはなんなのか?
――まず、「Wasteland 2」がどのようなゲームなのかをお教えください。
ファーゴ氏:「Wasteland 2」は、アメリカのアリゾナ州を舞台にしたポストアポカリプスRPGです。生存者は誰も核が発射された真相を知りませんが、大戦の数十年後でも人々は荒廃し、汚染されたウェイストランドで生きようとしています。
プレイヤーは新人デザートレンジャーとなり、ウェイストランドの平和と正義のために、凶暴なクリーチャーやレイダーと戦うことになります。しかし、小さな問題を解決していくうちに、人智を超えた大きな脅威の存在に気づき、その謎を解き明かしていくのが今作の目的となります。
――終末世界をテーマにした“ポストアポカリプス”の魅力とは何でしょう。
ファーゴ氏:ポストアポカリプスというジャンルは、常に私を惹きつけてきました。そして「Mad Max」や「The Omega Man」などの映画を見たり、「I Am Legend」や「Swan Song」などの本を読んだりして、ますますこのジャンルが好きになりました。
そして心のどこかで、どれだけ文明が発達しようと、ひとつの小さなきっかけによって、再び原始的な生活に戻ってしまうのではと感じるようになりました。それは誰にでも起こり得ることなので、多くの人々が惹かれるのだと思います。
――「MadMax」や「The Division」など、昨今は“荒廃”が求められているのでしょうか?
ファーゴ氏:間違いなく求められています。1988年に「Wasteland」を世に送り出した当時から、ユーザーはポストアポカリプスに対し、何か惹きつけられるものを感じていました。昔からポストアポカリプスはありますが、今なおそれが活発なのは、このジャンルがあらゆる世界、あらゆる舞台に対応できる力があるからです。さらに追求していく必要のあるテーマだと思いますし、まだまだ可能性を秘めているジャンルだと思います。
――Fargo氏も、ポストアポカリプスな世界を望んでいたり?
ファーゴ氏:1日だけ、もしくはいつでも好きなときに帰れるのならば、生活してみたいですね。しかし、VRによってそれも近々実現できるかもしれませんね!
――本作のゲーム開発で、Kickstarterを利用するに至った経緯を教えてください。
ファーゴ氏:「Wasteland 2」を作る意欲は十分すぎるほどにあったのですが、パブリッシャーはそれに全く興味を示さないか、私たちが作りたいものに共感していただけませんでした。諦めかけていたころ、クラウドファンディングの話を聞き、「これだ!」と思ったんです。
――昨今、Kickstarterを利用した資金調達が盛んですが、その魅力とは何なのでしょう。
ファーゴ氏:Kickstarterやクラウドファンディングの魅力は、プロジェクトを実行する前に、そのアイデアが求められているかを確認できることです。通常であれば、自分たちのアイデアが顧客に受け入れられるかどうかを、長い時間をかけて考えなければいけません。
しかし、クラウドファンディングでは人々の期待が直接数値として表れます。これは私たちを奮い立たせると同時に、ユーザーたちとの繋がりや彼らに対する責任を感じさせてくれるため、非常にやる気が出ます。また、ゲームの開発状況を彼らと共有することで、実際にゲームをリリースする前にフィードバックをもらえるため、ゲームを改善する環境が整い、開発に集中することもできます。
――ゲーム発表から発売後まで、(海外)ユーザーからの反響はいかがでしたか?
ファーゴ氏:彼らの反応は凄まじいもので、常に協力してくれました。2012年にKickstarterを発表したときの反応も凄く、彼らのおかげで一大プロジェクトにまでなり、それによってゲームもより大きく成長することができました。開発においては多大な知恵を貸してくれましたし、アート素材を寄贈してくれたりもしました。出資者が直接開発メンバーになることもあるほどでしたね。
そして、ゲームをリリースした後の反応も凄まじく、レビューや売上は素晴らしいもので、ついにはPC部門において“Game of the Year”を獲得するまでになりました。ディレクターズカットを作るとき、私たちはそんな彼らに報いるため、できる限りの要求をゲームに取り入れたつもりです。そういうわけで西洋の反応は大変素晴らしいもので、私たちは今もやる気に溢れているのです。
小ネタが多すぎて開発者個々人すら把握しきれていない――
――今回のDirector's Cutの特徴をお聞かせください。
ファーゴ氏:Director's Cut版は、無印版をさらにアップグレードしたものです。内容は同じですが、エンジンをUnity4からUnity5に移すことで光源処理やパフォーマンスを向上させ、キャラクターモデルやテクスチャーなどのグラフィックも向上しました。
また、対応コンソールやコントローラーも増やし、「精密攻撃」などの新システムおよびキャラクターカスタマイズの新要素といった、ユーザーからの要望も取り入れた完全版となっています。
――クォータービューを継続した理由、あるいはフォーマットを変更しなかった理由はありますか?
ファーゴ氏:答えは単純で、「このゲームシステムが大好き」だからです。付け加えるなら、こういったゲームが現代にないからこそ、このスタイルにしたのです。Kickstarterでの「Wasteland 2」の出資者数や、このゲームを購入してくれた人数から見ても、まだまだこのスタイルのゲームを楽しんでくれている人は多いと思います。
――プレイヤーの所属する「デザートレンジャーズ」はヒーローなのですか?
ファーゴ氏:「Wasteland」が同ジャンルの他のゲームと異なる点は、明確な正義が存在しないということです。デザートレンジャーは確かに善人として描かれてはいますが、彼らも人間です。過ちを犯すこともあれば、暴力を振るうこともあります。
この世界は完璧な世界ではなく、もっともらしい現実の世界です。このゲームにはそういった状況やキャラクターが数多く存在するので、デザートレンジャーたちも例外ではありません。
――では、登場人物たちにはアウトローな側面があると?
ファーゴ氏:この世界では道徳というものは曖昧で、それは悪人たちやレンジャーたちを含む、すべての人物にとってもそうです。確かに「悪」と呼べる人物はいるかもしれませんが、そんな彼らにも確かな動機が存在します。
たとえ彼らが善人ではなくとも、彼らの行動はきちんと理解できるものにしていますし、そのためプレイヤーは善悪のはっきりしない状況下で決断を迫られることになります。
――本作に登場するモンスターたちは、かなり奇抜なデザインになっていますね。
ファーゴ氏:放射能により汚染され、毒に塗れたこの世界観は、モンスターやミュータントのデザインをクレイジーなものにするには十分でした。私が最も影響されたのはクラシックなSFで、「The Fly」や「Alien」、「The Thing」などを含む1980年代の映画です。
しかし、ほとんどのクリーチャーのデザインは、現実の世界の生物を見て、恐怖感を出すため、それに少しアレンジを加えただけのものだったりします。
――4人も作らなければならないキャラクタークリエイションのコツを教えてください。
ファーゴ氏:それぞれのスキルには、状況ごとに必ず有効的な活用法があります。このゲームを遊ぶうえで最も大事なのは、4人パーティで冒険するということを考慮し、それぞれが異なるスキルを習得することで、あらゆる状況に対応できるようにすることです。
例えば、1人は会話スキルを持ち、もう1人は回復スキルを持ち、またある1人はメカニックスキルを持つといったように、キャラクターごとに役割分担をさせておいた方がいいでしょう。また、それと同じくらい大事なのが、武器のスキルをキャラクターごとに使い分けさせることです。状況によって効果的な武器が異なります。
でも、強いて1つ挙げるとするならば、「トースター修理」は必ず覚えましょう!
――伝説のビデオゲーム「E.T.」をはじめ、オマージュも多いようですが?
ファーゴ氏:はい、このゲームは他のゲームやポップカルチャーなどのオマージュをかなり多く含んでいます。オリジナルの「Wasteland」は1980年代の作品なので、「Wasteland 2」では80年代や90年代の文化を取り入れようということになりました。
例えば、ゲーム内に登場するケレックスという人物は、80年代のゲームを取り扱うゲームセンターを営んでいたりします。このような小ネタは多すぎて、開発チームの人物ですら知らないようなものも多く存在します。もちろん、私もすべてを把握できていません!
――“こんなこともできる「Wasteland 2」”なエピソードはありますか。
ファーゴ氏:ゲーム後半のハリウッドの下水道で、プレイヤーは2人の悪党の会話を聞くことになります。彼らを避けて会話を聞き続けることで、ワールドマップ上にレドンドビーチという新たなロケーションが出現します。
そしてそこに行くと、ボブというキャラクターがビーチに埋められた家宝を探している場面に出くわします。多くのプレイヤーはここで数百個もの穴を掘るのは時間の無駄だと判断しますが、実際にすべて掘ってみると、ボブから興味深いものがもらえます。
――今年2016年のムーブメント「VR」への関心はありますか?
ファーゴ氏:Oculus Riftの頃より、私はVRを支持していて、遊び倒してきました。VRの没入感は驚くべきもので、ようやく市場に出る準備ができたのだなと実感しました。どれほど早く普及するかはわかりませんが、技術が進歩し価格も抑えられれば、次世代の大きなトレンドになるのは間違いないでしょうね。そのため、今後数年間はユーザーだけでなく、デベロッパーにとってもVRは要注目だと思います。
――「Wasteland」「Fallout」、これらに続くポストアポカリプスRPGの構想は?
ファーゴ氏:また別の形で再びウェイストランドを訪れることになるでしょう…。
――最後に、終末世界を求めて止まない世界中のファンへ一言お願いします。
ファーゴ氏:何度言っても足りないくらいなのですが、ファンたちには本当に感謝しています。ゲームを作り続けられるのは皆様のおかげですし、「Wasteland 2」が実現できたのも皆様がいたからです。感謝の念を忘れず、私たちは次のタイトルでも、ファンの期待にさらに応えていきたいと思っています。
ブライアン・ファーゴ氏 プロフィール
高校時代より独学でプログラミング、ゲーム開発をはじめ、1980年代のゲーム業界を牽引。
1983年にInterplay Entertainmentを立ち上げると、The Bard's Tale(1985)、Battle Chess(1988)、Wasteland(1988)、Neuromancer(1989)、Out of This World(1994)、Stonekeep(1995)、そしてFallout(1997)といった数々の名作ゲームを生み出し、その後も50以上のタイトルの制作に携わる。
彼とInterplayの存在は、後にBlizzard Entertainmentや、Black Isle Studios、BioWare Corp、Treyarchといった名立たる開発会社を立ち上げることとなる若いゲーム開発者たちに多大な影響を与えた。また、Baldur's GateやDescent、Earthworm Jim、Icewind Dale、MDKといった著名なゲームフランチャイズの開発にも協力している。
しかしながら、彼は歩みを止めることなく、新しく、刺激的で革新的なアイデアを含むコンテンツを探求し、ゲーム開発はもちろん、ファンディングやテクノロジーにも常に目を向け続けている。
WastelandとFallout好きな日本人ゲーマーに向けてのコメント
日本のゲーム業界には長く、誇らしいRPGの歴史があります。Interplay時代にはWastelandやFalloutといった多くのタイトルを日本市場向けに発売し、素晴らしい反響をいただいたことをよく覚えています。Wasteland 2は私の個人的なプロジェクトと言っても過言ではありません。構想には、数十年を費やしました。長い年月をかけた分、もっとも思い入れのある作品となっています。
今は、新しいユーザーの皆様と、私の「RPGに対する愛」を共有できることにとても興奮しています!