2017年1月13日、メディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏が主宰するトークイベント「黒川塾」の第44回が、デジタルハリウッド大学大学院 駿河台キャンパスにて開催された。

今回取り上げるテーマはコンピューターゲーム競技「eスポーツ」。ゲストにプロゲーマーの「ノビ」こと中山大地氏、eスポーツのプロアスリートチーム「CYCLOPS OSAKA」の監督を務めるeスポーツキャスターの佐野真太郎氏、元東京大学教授で現在は日本eスポーツ協会の理事を務める馬場章氏、そして日本eスポーツ協会事務局長の筧誠一郎氏の4氏を迎え、日本のeスポーツの現状や課題・未来の展望などについてディスカッションを行った。

左から佐野真太郎氏、筧誠一郎氏、黒川文雄氏、中山大地(ノビ)氏、馬場章氏。

まずは筧氏がeスポーツの定義と海外の状況について簡単な解説を行った。日本では「スポーツ」という言葉は「運動・体育」の意味で使われることが多いが、本来は「競技」という意味合いが強く、海外では将棋やチェスなど頭脳を使うものも範疇に含まれる。eスポーツもこうした「競技」のひとつとされているが、あくまでコンピューターゲームやテレビゲームなどデジタル上で行われる対戦型ゲームの総称であり、ニュアンスとしては単距離やマラソンといった陸上で行われる競技全般を指す「陸上競技」という言葉に近い。

中心となっているジャンルはFPSとMOBAで、FPS部門は「CALL OF DUTY」や「オーバーウォッチ」、MOBA部門は「League of Legends」が特に高い人気を誇っているという。そのほか「STARCRAFT2」をはじめとするRTSや「鉄拳」、「ストリートファイター」といった格闘ゲームなども人気で、世界の競技人口の総数は最低でも1億人を超えるそうだ。

さらに、「League of Legends World Championship」の2014年大会決勝のオンライン視聴者数が1120万人であったことに言及。これはアメリカ最大のスポーツイベント、スーパーボウル(プロアメリカンフットボールの優勝決定戦)の配信数をもはるかにしのいでおり、eスポーツとオンライン配信の相性が良いことの事例であると筧氏は語った。

そのほか、人気ストラテジーゲーム「DOTA2」の世界大会の賞金総額が約22.8億円を記録するなど高額賞金の大会が当たり前になっていることや、FIFA(国際サッカー連盟)公認サッカーゲーム「FIFAシリーズ」のトッププレイヤーがFIFAバロンドールの式典に招待されていること、プロサッカーチームのマンチェスターシティやパリ・サンジェルマン、NBAのマイアミヒートといった海外の有名プロスポーツチームがeスポーツチームを発足させているなどの事例も紹介された。

このように拡大の一途を辿る海外のeスポーツだが、まだビックビジネスになっているとは言い切れず、先行投資の部分も大きいのだという。ただ、いずれはアメリカの4大スポーツに肩を並べる存在になるだろうと筧氏は予測。一方、日本のeスポーツは海外から8~10年ほど遅れていて、まだまだこれからという段階であることも併せて説明された。

日本も発展しつつあるが、まだまだ課題が山積

海外で目覚ましい発展をとげつつあるeスポーツだが、競技タイトルになっている日本産のゲームはごく一部だけで、筧氏が「10年遅れている」と述べたとおり待遇面や賞金面などでも日本は「まだまだ」という印象が強い。そんな日本の現状についてどう思うか、黒川氏からゲスト陣に質問が出された。

中山氏は「鉄拳」のスロットを出している
大手パチスロメーカー・山佐のスポンサードを受けている。

まず、プレイヤーである中山氏は自身が初めて世界一になった2011年頃はプロゲーマーがメディアに取り上げられるというのはほぼありえないことだったが、近年はスポンサー企業からもらえる額が何倍にもなり、広告効果もかなり上がっていると語るなど日本も大きく変わりつつあると説明。今後はもっと注目度が上がり、待遇面もさらに良くなっていくだろうと期待を述べた。

佐野氏はサイゲームスの「Shadowverse(シャドウバース)」を例に、対人要素のあるゲームを開発しようとする動きが日本のメーカーからも見られるようになったとコメント。eスポーツに対する日本のゲーム業界の空気も変わってきているようで、馬場氏は先日行われたCESAの賀詞交歓会で多数の会社からeスポーツについて相談を受けたという。筧氏も同様の変化を感じていて、今年の1月8日に開催された「パワプロフェスティバル2016」を具体的な事例として紹介。このイベントは毎年行われているが、今回は「eスポーツ大会」という冠が付いていて、日本のメーカーがこうした大会にも競技性を導入しようとしていることを実感し、「日本も変わりつつある」と改めて認識したそうだ。

とはいえ、日本でeスポーツがブレイクスルーするには、まだまだ制度面で突破しなければならない部分が多い。特に大きな問題となっているのが法律面で、日本はさまざまな制約から海外で行われているような高額賞金の大会を開催することができずにいる。

例えば、プレイヤーからお金を集めてそれを賞金にすると刑法の賭博法に引っかかる。ゲームソフトの販促利用とみなされると、景品表示法の制約から「元商品の取引価額の20倍」までしか賞金にできない。また、かつて格闘ゲームの主戦場となっていたゲームセンターにも風営法という縛りがある。こうした法律による制約をなんとか解決したいと筧氏は考えていて、それは「eスポーツ協会の役目である」と強い意欲を見せた。

プロのeスポーツプレイヤーは女性にモテる?

ここで話題はプロのeスポーツプレイヤーの収入の話に。大部分の選手は月給、年俸制だというが、中山氏の場合はスポンサーのヤマサなどからの宣伝販促費が収入のメインになっているそうだ。さすがに具体的な収入額は明かしてもらえなかったが、月々の収入は同世代のサラリーマン(中山氏は現在25歳)より多いとのことで、「選手になってよかったと思っている」と中山氏は笑った。

2部チームの設立やトライアウトの開催なども
構想していると佐野氏は語る。

佐野氏が監督を務める「CYCLOPS OSAKA」は日本で2例目になる完全雇用、完全給料制のeスポーツチームで、「eスポーツコネクト」という会社がチームの運営を行っているのだという。佐野氏は自分たちのような形のチームが増えていくのが理想だが、サブの選手も含めて全員にデバイスを用意する必要などもあり、かなり規模が大きくなるため、こうしたチームが増えてくるのはまだ先だろうと予測した。

プレイヤーをどう演出、プロデュースするかという問題提起もなされた。例えば、バンダイナムコゲームスの原田勝弘氏は公の場ではいつも黒のサングラスをかけていて、一見するとかなりのコワモテに見える。だが、原田氏から聞いたところによると、これは「鉄拳」シリーズのイメージに合わせるという契約を結んでいるからで、あえてワルっぽく見せている自己演出なのだという。

eスポーツプレイヤーの認知度を高めるためには、こうした個性付けも必要なのではないかという黒川氏の問いかけには中山氏も同意で、「もっとヒール的なプレイヤーがいてもいい」と回答。佐野氏も選手の外見から変えていかないといけないと常々感じていて、対戦時に前へ出ていくタイプなら強そうにふるまうといった、チームのポジションや役回りに即したイメージ作りも必要だと考えているという。ただ、こうした自己演出には選手側からの反発もあるそうで、なかなか意識改革は簡単ではないとも語っていた。

ちなみに、中山氏いわく海外ではプロゲーマーはけっこうモテるようで、自身も大会で優勝した際にオリンピックのメダリスト級の扱いを受けたそうだ。さすがに、国内ではまだそれほどではないが、筧氏いわく某スマホゲームメーカーの広報の女の子たちが「DetonatioN(プロのeスポーツチームの名前)のあの人、かっこいいよね」と言っていたのを聞いたことがあるとのこと。また、eスポーツの大会における女性の観客も1割から1割5分くらいになっていて、そうした女性層からの支持が増えてきていることもプレイヤーのモチベーションのひとつになるのではと語った。

某スマホ向けゲームの大会で起きた事件も話題に。とあるプレイヤーが大会の主催者への不満をネットにぶちまけ、ちょっとした騒動になったというものだが、中山氏は「プロゲーマーは自分がプレイしているゲームへの公の場での批判行為はすべきではない」としつつ、この件に関しては「内容を見る限り、これは言っても仕方ないのでは」と本音を吐露した。

筧氏は電通に務めていたが50歳を機に退社。
eスポーツの世界に飛び込んでかれこれ7年目になるとか。

筧氏は自身もさまざまな大会を運営していて、いろいろ文句を言われてきたという経験から「一方の意見だけでは分からない部分もあるだろう」と慎重なコメント。「悪い部分は悪い」と言う必要はあるが現在は過渡期なので、必要以上に大きな問題にするよりも建設的な形での解決を望みたいとのことだ。馬場氏はあくまで一般論とした上で、「主催者には説明責任がある」と力説。eスポーツはまだ黎明期で、主催者と参加者との間でいろいろな勘違いが起きやすいだけに「(主催者の説明は)特に必要なことである」と強い口調で述べた。

最後に今後の展望について。eスポーツはすでに海外におけるさまざまな成功失敗の事例があり、「それらを見ながらいい部分を取り入れていくことが必要」と筧氏は提言。馬場氏も先行する海外の教訓をよく学び、効率よく成長していく必要性があると語った。

現在は国内にさまざまな団体や大会があるが、eスポーツというジャンルを盛り上げていく、メジャースポーツにするという志は同じで目標は一致していると馬場氏は言う。筧氏も外から見るといろいろな団体が乱立しているように見えるが、中にいるとそんな感じはしないとコメント。アプローチの仕方は違うだけで、それぞれの持ち場でeスポーツを盛り上げようと一生懸命やっていると説明した。

また、佐野氏によるとファンの反応も変わってきていて、かつては大会などで実況をしたあと叩かれることのほうが圧倒的に多かったが、最近はツイッターなどで応援の声が届くようになったという。こうしたポジティブな変化はモチベーションになるし、このような文化が形成されていけばもっとスムーズにコトが運ぶのではと将来に期待を寄せた。

課金ゲームは日本のゲーム文化を腐らせる?

優秀なeスポーツプレイヤーは
体幹がしっかりしていて判断も早いという。

トーク終了後、来場者からの質疑応答が行われた。「お金を持っている人が有利になるということはないか?」という、課金ゲームが一般化しつつある現状を踏まえた質問に佐野氏は「ルールで制限すればいい」と解決法を提示。特定の試合用アカウントを運営側で用意するなど、課金ゲームでも純粋に腕を競う形にできると回答した。

ただ、馬場氏は小学生に「ゲームが強くなる方法は?」と聞くと「課金」と答える子が圧倒的に多くなったと現状を危惧。これはゲーム文化の在り方として「正常ではない」と懸念を表し、「ビジネスモデルとしては画期的だったかもしれないが、日本のゲーム文化を腐らせた」、「そうした悪弊の部分も考えてもらいたい」と強い口調で非難した。

ちなみに、ほとんどのeスポーツプレイヤーは課金ゲームに興味を示さないと筧氏は言うが、中山氏は例外で「課金ゲーム大好き!」とのこと。ただ、中山氏が「鉄拳」が強くなったのは少年時代にお金がなかったからで、「1回1回が負けられない戦いだった」と回顧。逆に、どんどんお金を使っていたら考える量が少なくなるのではと語り、必ずしもお金を持っている人が有利になるわけではないとした。

例えばメーカーの開発などと繋がって、他のプレイヤーに先んじてバージョンアップの情報や特定の攻略法を入手するなどの不正行為、八百長をどう防ぐかという質問も出された。佐野氏はそうした不正行為が起きることは確かにあり得るが、eスポーツは情報の伝達速度が恐ろしく早く、どのような方法で勝利したかといった情報は使用した瞬間に記録され、プログラムを解析されると説明。危険を冒してそのような不正を犯しても、すぐに対応されてしまうため、ほとんど意味がないのではと語った。

最後の質問はトッププレイヤーの低年齢化で起きる問題と課題について。馬場氏によると世界のeスポーツプレイヤーの年齢は19~25歳に集中していて、決して選手寿命は長くはないという。選手として20台前半に活躍したとして、その後の長い人生をどう過ごすかが課題で、プレイヤー自身のためにも親御さんを安心させるためにもセカンドキャリアの確立が重要になると述べた。

最後に筧氏より近日行われるおもなeスポーツ大会の日程が告知された。まず、1月22日に日本eスポーツリーグの決勝戦が東京アニメ・声優専門学校にて開催。試合の模様はTwitchでも配信される。2月26日には豊洲PITにて日本eスポーツ選手権大会の決勝戦が行われる予定。そのほか、「League of Legends」の国内大会やeスポーツの学生選手権なども開催予定とのことなので興味のある人は足を運んでみよう。

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