レベルファイブの代表取締役社長/CEOの日野晃博氏を迎え、「クロスメディア戦略進化論2017」をテーマとした、メディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏によるトークイベント「黒川塾(四十五)」が2月3日に開催された。
今回はレベルファイブが推し進めるクロスメディア戦略の一端が日野氏より語られたほか、イベント後の一問一答では昨今のゲーム業界の情勢に対して、日野氏としての考えも聞くことができた。
本稿では、1時間半にわたって行われたイベントの中から、筆者が興味深く感じた点をいくつか紹介しよう。
変化しつつも、軸をもったレベルファイブのクロスメディア戦略
1998年の設立以降、「ドラゴンクエストVIII・IX」や「レイトン教授」シリーズなどを手がけ、徐々にその存在感を増していったレベルファイブ。これまでに同社が発売した46タイトル(国内外)の1タイトル平均売上本数は98万5千本以上をキープしていることについては、日野氏自身も誇りに思っているという。
その作品づくりの特徴のひとつとして、子どもたちに届けられるような温かみのある作品を展開しているが、ターゲットそのものは会社としては意識はしていないと話す日野氏。そのほか、「新シリーズを1年に1つは生み出すのがモットー」「アニメ・漫画のクロスメディア展開が得意」といった、レベルファイブのこれまでの歩みから連想されるような特徴づけも紹介される。決して大規模な会社ではないものの、数々のヒットを出している背景には、こうした軸となる背景があるようだ。
続いて、「妖怪ウォッチ」をはじめとした、現在進行中のタイトルをひとつにまとめた映像を上映しつつ、その中でも今回のテーマである“クロスメディア”にフォーカスした話題に。
同社のクロスメディアの先駆けである「イナズマイレブン」シリーズでは、サッカーゲームというヒットの難しいジャンルを、技を叫ぶなどのキャッチーな要素を盛り込み、100万本以上のヒットを記録。続く「ダンボール戦機」では、バンダイと協力するかたちでおもちゃとの連動を強化、プラモデルに馴染みのなかった子ども世代への普及を果たした。
さらに、記憶に新しい「妖怪ウォッチ」、2017年4月よりTVアニメ放送がスタートする「スナックワールド」、さらには今後のタイトルそれぞれのクロスメディア展開のアプローチが語られる。このあたりの説明は概論に留まるものの、非常に面白い視点だと感じたので、順を追って紹介していく。
全方位クロスメディアで爆発的なヒットを記録した「妖怪ウォッチ」
ゲームにとどまらず、映画、玩具(妖怪メダル)などのさまざまな媒体で記録的なヒットを叩き出した「妖怪ウォッチ」だが、そのコンテンツビジネスのポイントは「全方位クロスメディア」。この展開の背景として、過去のクロスメディア展開の展開を受け、企画当初から賛同者が多く、あらゆる方向に最初から商品展開を実現できたことが大きいという。日野氏からは、映画の第1弾をTVアニメの放送開始前、まだゲームが発売されてすぐのタイミングで、東宝からすでに打診を受けていたというエピソードが語られた。
「妖怪ウォッチ」のクロスメディアの数を挙げるとキリがないほどだが、その中でも日野氏はTVアニメ、映画、玩具へそれぞれマックスのアプローチができたと話し、それぞれのポイントを挙げる。
まずTVアニメについては、各種設定や番組スタッフ選定に関わるなどの密な製作参加はもちろんのこと、オムニバス仕様、シリーズ内シリーズなど、バラエティ番組のような作品構成を意識したとその狙いを話す。また、作中では大人も楽しめるようなパロディや過激な内容を盛り込んでいるが、ヒットとともに扱ってほしいと言われるケースも増え、現在は原作者の承諾のもとで行っているそうだ。
毎年年末の上映が恒例となった映画については、マンネリにならないように毎回形式を変えたテーマで製作しているという。現在も上映中の第3弾は、“アニメと実写の融合”という斬新なテーマが扱われているが、当初はフルCGを用いたいということから、実写の映画にしたいと考えていたとその裏話を明かす。結果的に実写とフルCGだけでは公開に間に合わせるのは無理だったことから、期間までに間に合わせることのできる分だけを実写で作る、ハイブリッドな構造になったのだとか。
そして、子どもを中心に多くの人が購入した“妖怪メダル”による相互連動が最大の効果を生み出したと日野氏は振り返る。妖怪メダルを媒介に、ゲームや雑誌などさまざまなメディアとの連動性を持たせ、それぞれが補完しあう仕組みを構築したことで、物理的にほかのメディアと繋がるようになったと話していた。妖怪メダルの存在は当初から企画にあったそうで、タッチポイントを増やそうとする通常のクロスメディアとは違った、レベルファイブならではのクロスメディア展開の視点が見えてくる。
「スナックワールド」のコンセプトは“リアルゾーン”
「妖怪ウォッチ」の成功を経て、同社がクロスメディアプロジェクトの第4弾として展開するのが「スナックワールド」だ。一昨年のパイロットフィルムの上映から始まり、現在は月刊コロコロコミックにてマンガ連載が開始、さらに2017年4月からはTVアニメの放送、そしてゲームの発売とまさにクロスメディアの展開が続く。
同作のコンセプトとして日野氏が挙げたのは、“リアルゾーン”。玩具を使って現実と仮想空間の価値観をつなぐというものだ。
そのキーアイテムとなるのが、ゲームやアニメに登場するアイテムを忠実に再現した、タカラトミーが開発する玩具“ジャラ”だ。このアイテムにはNFCチップが内蔵されており、チップのデータをゲーム内に読みこませることで、そのジャラがゲーム内で手に入る特別なクエストが発生するなどの効果がある。
同時に、ジャラは装備アイテムに応じてブランドが設定されている。これにより、作中と同様に普段から身につけられるオシャレアイテムという側面も持たせているのが特徴だ。また、ジャラが入っているトレジャラボックスは、重さで中身を分からなくするために重石が入っているなどの工夫も凝らしているとのこと。
今後のクロスメディアのカギを握るのはインターネットの活用
ここからは今後の展開タイトルに関するトークとなり、まずは「イナズマイレブン アレスの天秤」での取り組みの一部が語られる。先行する「スナックワールド」の仕掛けを引き継ぎ、作中内のアイテム「イレブンバンド」を商品化することで、自身が走ったりしたデータを蓄積し、ゲーム内に反映させることができる仕組みを用意しているという。
少年ジャンプとのタッグで子どもたちにロボットアニメを届けるという、クロスメディアプロジェクト第5弾の「メガトン級ムサシ」については現在では話せることは少ないとしたものの、先の「イナズマイレブン アレスの天秤」と合わせて、両者で狙っているのはインターネットを活用したクロスメディアであることがここで紹介された。
「イナズマイレブン アレスの天秤」では、実際にファン向けのインターネット情報番組「イナズマウォーカー」を展開。視聴者参加型の企画を用意してファンとともに番組を進行していき、番組内で配信しているオリジナルアニメ「イナズマイレブン アウターコード」も好評に推移しているという。
その結果を踏まえた日野氏が提案するのは、アニメ番組の新しい配信方式。通常のTVアニメでの視聴に加えて、TVアニメのその後の一幕を描く配信限定のアニメを放送後に配信することで、ユーザーの気持ちを掴んでいきたいと話す。
「イナズマイレブン アレスの天秤」であれば、試合の模様を描くアニメ本編をTVアニメとインターネット配信の両方で展開、試合後のキャラクター同士の会話などを「ロッカールーム」というかたちでインターネット限定で配信する。この形式は、「メガトン級ムサシ」でも実施する考えだという。
一問一答から見えた日野氏の考えるゲームのあり方
以上、日野氏の考えが分かりやすく説明されていた「クロスメディア戦略進化論2017」だったが、その後の黒川氏、そして会場の聴講者からの一問一答についても一部を抜粋して紹介していこう。
黒川氏からは、先日フォワードワークスとの協業として発表された新たなプラットフォーム「Project FIELD」、そして任天堂から3月3日に発売となる「Nintendo Switch」に関する質問が。両者に共通する回答として、新しいハードに対する期待は見据えながらも、子どもたちの遊びとして浸透していくのかという点については慎重な姿勢を見せた。ただし、やはり日野氏の中には成功してほしいという思いがあるようで、前者であれば「妖怪ウォッチ」をコンテンツとして提供、そして後者に関してもソフトを提供していきたいという考えを示した。
また、昨今話題を呼ぶアイテム課金のモデルに関する質問では、日野氏自身が最近、“世界観の中で自然に課金をしたいと思える気持ち”を理解できるようになってきたと話す。欲しいアイテムが出るか出ないかのドキドキはゲームとしての体験の一種だとも考える一方で、そういったゲームを子どもに遊ばせてはいけないとも思うという。また、海外は定額のアイテム課金が好まれている傾向にもあることから、これから研究していきたいと話した。
そのほか、海外のマーケットに向けてのクロスメディア展開の取り組み、先に話題に上がった「スナックワールド」のNFCチップについて、iPhoneへの対応に関する施策、アニメという文化の違うクリエイターとのセッションがヒットにつながっているという見解など、柔軟な発想を持つ日野氏ならではの回答が多く見受けられた。この柔軟さこそが、レベルファイブが多彩な作品群を生み出している原石なのではないかと、今回のイベントを通じて筆者は感じた。
最後に、これからクリエイターを目指す人たちに向けて、自社で実施するカンファレンスを紹介。気になる人は足を運んでみてはいかがだろうか。