札幌市や、セガ札幌スタジオなどをはじめとした札幌を基盤とするゲーム開発関連企業が連携して行う複合イベント「Sapporo Game Camp 2025」が、2025年10月17日~19日にわたって開催された。ここでは、10月17日に行われた基調講演「ゼロからイチを生み出すチカラ」の内容をお届けする。

「Sapporo Game Camp」とは
「Sapporo Game Camp」とは、札幌のIT人材およびゲームクリエイターの育成と、さらなるエンタメ業界の盛り上げを目的とし、ゲーム開発に関心を持つ社会人、学生を対象にゲーム開発企業所属のクリエイターと共に2日間かけてゲーム開発を行う「Game Jam」と、小学校から高校生までの生徒を対象とした「ぷよぷよ」を題材にしたプログラミング講座や「初めてのCG講座」、「ソニックランブル 1dayミニeスポーツ大会」、豪華ゲストによるトークセッションなどが行われるイベントだ。
2022年に第1回が開催され、今回は第4回目となる。会場のサッポロファクトリーアトリウムを埋め尽くすほどの観客が訪れ年々規模が拡大している、大盛況のゲームイベントである。
基調講演「ゼロからイチを生み出すチカラ」
基調講演に登壇したのは、ロケットスタジオの代表取締役社長 竹部隆司氏と、ロケットスタジオ 執行役員で「ロックマン」などの生みの親として知られている稲船敬二氏。

竹部氏は、大学在学中よりゲーム開発に携わり、1980年代にハドソンでファミリーコンピュータ用周辺機器「ファミリーベーシック」および「V3」のメインプログラムも手がける。1999年3月、北海道札幌にてロケットスタジオを設立。家庭用ゲーム機、携帯電話、スマートフォン、PC、マイコン応用機器向けといった多様なプラットフォーム向けに、ゲームソフトやアプリ、開発用ツール、各種ソフトウェアの開発・移植・制作を手掛けている。「楽しむこと」を企業理念の核に据え、社員一人ひとりが創造性を発揮しながら開発に取り組める環境づくりを推進。AIや最新技術の積極的な導入にも力を入れ、新たな楽しみの形を追求し続けている。

稲船氏は、1987年にカプコンに入社し、「ロックマン」シリーズのキャラクターデザインをはじめ、「鬼武者」「デッドライジング」「ロストプラネット」など数多くの人気タイトルで企画・プロデュースを担当。家庭用ゲームだけでなく、スマートフォン向けや海外展開にも積極的に取り組み、「Mighty No. 9」や「ReCore」などグローバル向けのIP創出にも関わる。2024年よりロケットスタジオの執行役員に就任。長年にわたり培ってきた企画力と開発ノウハウを活かし、家庭用ゲームからスマートフォン向けコンテンツまで、多様なプラットフォームに対応した新たなゲーム制作を推進している。

この基調講演では竹部氏がモデレーターを務め、主に稲船氏が将来ゲームクリエイターを目指す人たちへの手がかりを伝えていく内容となっている。
まず稲船氏は今回の「ゼロからイチを生み出すチカラ」というテーマに改めて触れ、ゲームクリエイターと言っても「何もない状態から、こんなゲームを作ろうと作り出す」ことを「0から1」と表現した。
そして一方で「もう既にあるゲームをもっと良くしていったり、続編を作っていくような場合」には「0から1」が必要なのではなく、「1から10」といったような力が必要なのだと語った。
稲船氏によるとゲームクリエイターを目指す人の大半は、自分が「0から1」をやりたいのか、「1から10」をやりたいのかを意識していないという。
大人気IPとなった「ロックマン」を生みだした稲船氏によると、実際には「0から1」でゲームを作れる人は現状ほぼいないと言ってもいいほどで、特に昔よりも最近のほうが「0から1」を作れる人が少ないとのことだ。
ただ、「0から1」を生み出せる人になっても「1から10」を作れる人がいなければゲームは形にならない。だからこそ、学生時代の間に自分がどちら側の人間なのかを考えて、学んだほうがいいのだそうだ。
単純にゲーム業界を目指すなら「1から10」とまでいかなくても「1から9」をしっかり作れる人のほうが就職はしやすいとしつつも、稲船氏は「いちばん面白いのは0から1を作るほう」だという。
だが、「0から1」をどうやったらできるのかというと、そのいちばん重要な点は「積極性」である、と稲船氏は述べた。
積極性というのは、受け身ではないこと。自分から攻められる力のことだ。「自分から何でもやってやろう。聞いてやろう。知ってやろう」という積極性を持てるかどうか、そこが原点なのだという。
受け身の状態では新しいことが生まれるわけもないが、ただそういう人はもしかしたら「1から9」や「1から10」は作れるかもしれない。人の言われることをすごく一生懸命やれる人だからこその力だ。
「ただし0から作る人はそれではダメなんです」と、稲船氏。ここで稲船氏は「積極性のテスト」として「何か質問のある人」と会場の学生に投げかけた。
挙手したのは、たった3名。この結果に稲船氏は「積極性というのはここで手を挙げられる人です。みんななぜ手をあげなかったんですか? 躊躇したでしょ?」と会場の学生に投げかけた。
実際のところ日本人の国民性とでも言おうか、こんなに手が挙がらないのは日本人だけだという。アメリカでも、中国でも、韓国でも、同じ質問をしたら会場の半分くらいからは手が挙がるのに、日本人はなぜかそこで消極的で受け身になってしまうのだ。
しかし、「0から1」を会社で通そうと思うと戦わなければならない。色んな上司、時には社長レベルまでを突破しなければならない。上司から怒られてショゲているようでは全く突破できない。ここで手も挙げられないようであれば、その突破なんて無理に決まっているのだと稲船氏は語気を強めに会場の学生たちに投げかけた。
そして、「今、手も挙げられない自分を一度自覚して、積極性という言葉を頭に叩き込んでください」と強く訴えた。
そのためにも、「0から1」を生み出したい人は普段の生活から見直す必要があり、積極性を持つことによって必然的に好奇心も含めて様々な知識が得られるのだ。

次のお題として「IPを形にするための考え方」について竹部氏から振られた稲船氏は、自分のオリジナルタイトルを作り出す時にいちばん大事なことは、もちろん何がトレンドでどういうことをユーザーが求めているのかを分析することも重要ではあるとしつつも、「クリエイターが好きなことをどこまで貫き通せるか」であるとした。
それを周りが認めてくれなくても自分はこれが好きなんだ、自分はこれが面白いんだ、自分はこういうジャンルがいいんだ、ということを思って、自分が思い入れたものを形にしていくことこそ、IPを生み出すのに必要なことなのだという。
稲船氏はそれを「学校で好きだった女の子の話をみんなにできなかったこと」を例に挙げ、自分がどの子を好きなのか聞かれた時に本当はそんなに好きでもないのにクラスで一番可愛いとされている女の子を挙げておいて自分を安全圏の中に置いておくことがないか、と会場に集った学生に問うた。
でも本当に好きな子はみんなから理解されにくい個性的な女の子だったとして、そこで「自分はあの子が可愛いと思う」と言える積極性があればIPは作り出せる、とした。
どんなにバカにされることでも貫き通せるその力こそが新たなIPを生み出す絶対条件であり、だからこそ自分の好きなものを隠さず、人とは違う面白さを見出した方が新しいIPが生まれるのだそうだ。例えば稲船氏はゾンビがすごく好きだったからカプコン在社時に「デッドライジング」というタイトルを生み出した。結果的にそれは世界中で大ヒットとなったので、非常に説得力のある言葉だ。
つまりは「愛」なのか、と竹部氏に問われた稲船氏は「そうですね」と頷きつつ、すごく論理的ではないようなところから生み出していくのは間違いない、と述べた。

例えば頭のいい人が数字を並べて作ってヒットを出せるのだったら簡単で、ゲームでヒット作を出すというのはそんな簡単なことではないという。だから頭が良くてもゲームは作れなく、「0から1」は目に見えない熱を大切にしてほしい、と稲船氏は語った。
改めて竹部氏から「0から1」にする人たちと「1から10」にする人たちとの役割の違いについて聞かれた稲船氏は、「どちらが偉いというわけではない。どちらが得意かをきちんと認識できているかが大事なのだ」そうだ。
ゲームを作るにはどちらの力も必要だ。しかし不幸なのは「0から1」を作るのが得意な人が「0から1」を作らない会社に就職した時などで、だからこそ学生のうちに自分はどちらが得意なのかをきちんと見極めてほしい、と稲船氏は学生らに向かって真摯に述べた。
なお稲船氏も実際に「0から1」は自分が生み出したものの、「1から10」にする人たちのおかげで自分が思っていた以上に面白い作品に仕上がったことは多々あり、ゲーム制作というのは結局は「共同作業」なのだと、しみじみと語った。

ちなみに稲船氏は海外のインタビューで「もし時間とお金が無制限にあった場合にどんなゲーム作りたいですか?」と聞かれるそうだが、稲船氏は「そんなゲームは作りたくない」そうだ。
時間がたくさんあるからといってだらだら作り続けてるとどれが正解かわからなくなり、お金が無制限にあるからと膨大なマップで何ステージでも作ってよいとなると、起承転結をどこでどうつけるのかわからなくなる。
あくまで時間とお金に制限があるからこそ、「●ステージしか作れない」、だから「●ステージのなかでどう起承転結をつけるか」を考えれるのだという。
もちろん予算はあればあったほどいいし、開発期間は長ければ長いほどいいのは確かだが、実際にゲーム制作はビジネスなので、100億円を使って10億円売っても自慢にならない。それよりも、10億円使って100億円売れました、というゲームを作らなければならないというのがとても大切なのだと稲船氏は語った。
だからこそ、学生のうちからお金のやりくりについて勉強することも重要だという。例えばバイト代のやりくりを1ヶ月の間きちんとできるかなどを例に挙げて、「月末にお金が足りなくなって友人に借りるようではだめです」ときっぱりと言い切った稲船氏。ゲームクリエイターにはプロデューサー業もあるので、そこはしつこく言い聞かせているそうだ。
そして稲船氏は最後に伝えたいこととして「とにかく自分の考えたゲームやアイディアを出力してほしい」としつつ、最後にもう一度テストとして「何か質問のある人」と会場に集った学生らに挙手を促した。
すると最初は3名ほどだった手が、今度は8割ほど上がったのだ。稲船氏の講演に刺激されて、これだけの手が挙がったことには素直に驚いた。
質問者の「現在はインディーゲーム市場が活発だが、そこについてどう考えているか」という問いに、稲船氏は「ロックマンも最初は5~6人で作ったゲームだった」と驚きの秘話を明かした。だからこそぜひインディーゲームには積極的に参加してほしいし、そんなにお金をかけずに大ヒットにつながる可能性もあると述べた。
とにかく今日覚えた「積極性」という言葉を学校や職場でも必ず実践してほしい、と強く語り、本セッションは終了となった。

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