持ち前のお気楽な気質もあり、ゆるゆるとクラゲのように流されながら学生生活を過ごしてきた、大幸あすか。のんびりした性格は、進路選択にも影響し、高校生活の後半に差しかかっても、あすかには具体的な将来の目標がなかった。
高校三年のある日、進路を決めかねていたあすかは、困った末の現実逃避として自分の部屋の片づけを始めた。そんなとき、しまい込んでいた一冊の絵本「ほしをおうひと」が目に留まる。小さいころお気に入りだったその絵本を開いてみると、最後のページに幼いころの自分の文字で、「かんごしになる!」と書かれていた。
あすか自身、なぜ当時の自分が看護師になりたいと思ったのか、動機がまったく思い出せない。あすかは、小さいころに木から落ちて大けがを負ったのが原因なのか、幼少期の記憶が非常にあいまいなのだ。もしかしたら、その怪我の治療体験に動機があるのかもしれないけれど、そのあたりもうまく思い出せない。
それでも、何もないよりは、手探りで夜空の星に手をのばすように――かつての自分があこがれた「かんごし」を目指してみようか。絵本に背中を押されるように、看護学校への進学を決意する。
妹・なおの強烈なバックアップを受けて勉強し、物語の舞台となる帝都看護専門学校の門をくぐることになる。
←の後になにを言えって感じだけどさー。スルメかな。いじればいじる程、味が出る☆
ノーコメントと言いたい所だけれど。一言で言うなら『バカの大将』ね。しっかりなさい
武田さん……。お、大幸さんはやれば出来る子です。先生信じてます。信じてます、よ?
手をかざすことで患者の痛みを和らげ、傷をいやす――そんな不思議な力「癒しの手」を持つ人が極々まれにいるらしい。
それは一種のおとぎ話。実際にお目にかかれるものじゃない。ただ、大幸なおには、対「お姉ちゃん」限定で、特別な力が備わっている。
毎年梅雨時に偏頭痛に襲われるあすかのために、なおはおまじないをかける。すると、まるで魔法のように、あすかの痛みは去っていく。
「――ケデント・ニ・マーヤ・ノイタイ・ノイタイ――」
姉妹でおでこをくっつけて、おまじないの言葉を唱える。これじゃ、癒しの手じゃなくて、癒しのおでこだねと笑いあう。他の頭痛で困っている人に試しても、効果が出たことは一度もない。
毎年恒例のこの光景は、二人がともに帝都看護専門学校に進学し、学園寮で生活し始めてからも続いている。
なおの力は、あすかのために。
なおは「お姉ちゃんの特効薬」
頭上がんねー! あ、こんな言葉遣いしてたらなおちゃんに怒られちゃう。えっとえっと
とっても仲のいい友達です♪ いつも仲良くさせて貰ってます♪ 今後ともヨロシクね♪
いつき……。そうね、あの姉を支える出来た妹というのがすべてね。感服もするし心配よ
頭がよくて手先も器用で、人柄も優しくて。看護師向きですね。あ、でも志望理由は……
「校内一のお似合いカップル」、「才色兼備な二人組」と呼び声も高い、天藤いつきと武田さくや。終始まじめで良家のお嬢さま然としたさくやとは対照的に、いつきは悪ノリや下ネタも好む、プレイボーイ(?)気質。
その振る舞いもあって、学園生活では、周りの生徒にキャーキャー騒がれ、実習に行った病院では、先輩看護師や患者さんにちやほやされる。相手に応じて甘い言葉を使い分け、周囲を味方につけてしまう。
しかも――「3サイズ、B81・W63・H85……合ってる?」入学したばかりの授業中、あすかの手元に回ってきたメモ。ろくに話したこともないのに、不意打ちで、3サイズ的中である。
女性を口説くスキルだけでなく、いろんな意味で物事を見極める目も確からしい。いつきは、今日もその能力を如何なく発揮して、さくややあすかをからかっては、人の悪い笑みを浮かべている。
……うう、ううう! くそー今に見てろー。いつか、こっちがぎゃふんと言わせてやる!
いえいえ、こちらも友人として仲良く学ばせて貰ってます☆ 何事も程々によろしくね☆
あなた達……。自分の恋人を語るなんてノーコメントと言いたい所だけれど。大切な人よ
クラスの生徒達に大変人気がありますね。あのルックスですし……、他の先生方の間でも
武田さくやは、長年親しくしている天藤いつきから、「姫」と呼ばれている。愛称の理由は、さくやが良家のお嬢さまだから、というだけではない。彼女が自分の責務に向き合う姿勢が、得難い・高貴なものに感じられるからだ。
さくやが、実家の反対を押し切って医療の道を志し、看護学校に入学したのも、自分のするべきことを果たそうという決意の表れだった。授業や実習も人一倍真摯に臨み、良い成績を残しても決して驕らずに、前へと進む――まさに、姫、あるいは女王の風格である。
そんなさくやにとって、主人公:大幸あすかは、よくも悪くも非常に気になる存在だ。「ふざけた話。それで続けられるとは思えないわね」曖昧な進学理由や、ゆるゆるふわふわな態度のあすかに、さくやはきつい言葉を投げかけてしまう。
ともに過ごす学園生活・寮生活のなかで、あすかとさくやの関係が今後どう変わっていくのかは、あすかの行動にかかっている。
胸がおっきい! すごく! あと、さくやさん見ると、星が見えるんだよね。なんでだろ
たぶん、お姉ちゃんのタイプです。あと胸がおっきい。すごくすごく、すごく。いいなぁ
おっきいだけじゃなくて、形もいいんだ。姫のブラ、武田家お抱えデザイナーの特注でさ
皆さん、武田さんが怖い顔で見てますよ……頼りになる生徒さんです、迫力ありますよね
数年に一度、とくに優れた功績をのこした看護師に贈られる『ナイチンゲール賞』。かつて、この賞の受賞が内定していながら、辞退した人物がいたという。
彼女の名前は、大原かえで。
今は、医療の現場を退き、帝都看護学校で教鞭をとっている。
かえでは、大幸姉妹、天藤いつき、武田さくやたちのクラス担任だ。
人あたりが良く、笑顔と白衣の似合うかえでは、教え子たちにとても慕われている。
ほんの少し天然気味で、たまに愛嬌のあるドジをするのも、彼女の魅力といえるだろう。
あすかに至っては、かえでを『白衣の天使』と呼び、理想の看護師としてあこがれるばかりだ。
やさしく、時に厳しいかえでに導かれて、あすかたちは看護師としての知識と技術を身に着けていく。
初めての病院実習を翌日に控えたその日、一通りの説明を終えたかえでは、あすかたちにこう告げた。
『明日、あなた達はなにもしません』
かえでの言葉に戸惑う生徒たちだったが、翌日には、それぞれの現場で、この言葉の意味をかみしめることになる。
果たして、あすかたちの病院実習にはどんな出来事が待ち受けているのだろうか――?
うわーうわー、ステキな先生です。頑張ってついていきます。み、見捨てないください!
お姉ちゃんが帝都看護で頑張れてるのは、先生のおかげです。なおもよかったなーって
姫とか大幸妹とかより、看護師に向いてるのって、やっぱ先生だよね。むしろ出来すぎ?
本来、教員ではなく現場にいるべき方に思えるわ。そんな方に教わるのはありがたいことね
お姉ちゃんはお姉ちゃんでお姉ちゃんだからお姉ちゃんです。なおの……『希望』、かな