日本ファルコムより2012年7月26日に発売されたPSP用ソフト「那由多の軌跡」は、“ストーリーARPG”という新たなゲームジャンルに表されるように、同社の挑戦が垣間見える意欲作だ。ここでは、ゲーム序盤をプレイしてみてのインプレッションをお届けしよう。
「那由多の軌跡」は、「英雄伝説 空の軌跡」「英雄伝説 零の軌跡」「英雄伝説 碧の軌跡」と続いてきた「軌跡」シリーズの舞台設定、キャラクター、ゲームシステムなど全てを一新した完全新作となっている。
ゲームの内容に触れていく前に、まずは本作の基本情報としてプロローグと舞台設定、キャラクターをチェックしておこう。
プロローグ
この世界には「果て」がある──。
僕たちは昔からそう教わってきた。
無限に広がって見えるこの海にも、
明確な終わりがあって、
その先に進むことはできない。
“世界は平面だから”
学者達の多くはそう断じ、
人々もそれを信じている。
……でも、本当にそうなんだろうか。
いいや、きっと違う筈だ。
世の中にはまだ多くの未知が残されている。
「星の欠片」が映し出す
“あの光景”は一体なんだろう?
だから、僕は強く信じているんだ。
そう。世界はもっと、もっと広いはずだって──。
by ナユタ・ハーシェル
舞台設定
シエンシア海
主人公ナユタ達が住む世界。広大な海に無数の島々が連なる多島海で、人々は「この世界は平面であり、世界の果てには明確な終わりがある」と考えている。
残され島
「シエンシア海」のほぼ中央にある小島の名称。この島の近海では、なぜか空から流れ星や遺跡が降ってくるという奇妙な現象が発生しており、落下地点では「星の欠片」と呼ばれる不思議な鉱石が見つかることがある。
ロストヘブン
「星の欠片」の中に見える、とされる美しくも幻想的な光景の別世界。この世界がどこにあるのか、本当に実在しているのかは誰も知らない。本作「那由多の軌跡」でナユタが冒険する舞台となる。
星の庭園
《ロストヘブン》の中心に位置している庭園。天を貫く巨大な塔がひときわ目立つ他、庭園の中央には柩のような形状をしたものが2つ設置されている。
密林の大陸≪オルタピア≫
星の庭園の周囲に存在している大陸の一つ。さまざまな動植物が深い森を形成している広大な大地で、四季の変化が最もはっきりと表れる土地でもある。
深淵の大陸≪リズヴェルド≫
地下に巨大な空洞が広がる大地。発光性の植物や豊富な水流が特徴。
霊峰の大陸≪ハインメル≫
峻険な断崖と深い谷が入り組んだ大地。厳しい風雪や深い霧が行く手を阻む。
原初の大陸≪ラ・ウォルグ≫
季節によって大きく様変わりする岩礁の大地。極限の荒野に原始の記憶が蘇る。
キャラクター
ナユタ・ハーシェル(15歳) CV:水橋かおり
本作の主人公。「残され島」の出身で、シエンシア海に面する港町サンセリーゼの学院に通う少年。趣味は父親の残した六分儀や望遠鏡を使った天体観測で、なぜ残され島に遺跡が降るのか?平面と考えられている世界の本当の姿はどうなっているのか?など、未知なるものに対して強い興味と好奇心を持っている。
ノイ(?歳) CV:茅野愛衣
とある場所でナユタが出会う、おとぎ話の妖精のような姿をした小さな女の子。「マスターギア」という名の不可思議な物体を所持していたが、突如現れた謎の男に奪われてしまう。
シグナ・アルハゼン(18歳) CV:鈴村健一
ナユタの幼馴染で、港町サンセリーゼの自警団に所属している青年。ナユタにとっては頼れる兄貴分であり、よき理解者でもある。剣の腕前は天才的で、島に現れる魔獣を一人で倒してしまうほど。
クレハ(?歳) CV:竹達彩奈
《星の庭園》にある柩の中で永い眠りについていた、儚げな雰囲気の少女。とある事象に反応して目を覚ますことになるが、記憶が欠落しているためか、自分のことをあまり多くは語ろうとしない。
ゼクスト(?歳) CV:置鮎龍太郎
周囲を威圧する冷徹な空気を纏った謎の人物。ノイが所持していた「マスターギア」を追って、ナユタたちの目の前に姿を現す。強大な力を持つ剣士を従え、遺跡やロストヘブンの各地で暗躍しているようだが、その目的は一切不明。
セラム(?歳)
ゼクストと行動を共にしている謎の剣士。白と金に輝く甲冑装束と仮面を身に纏い、巨大な剣を佩いてナユタとシグナの前に立ち塞がる。
ライラ・バートン(15歳) CV:広橋涼
残され島で暮らしている少女。ナユタとシグナの幼馴染で、ナユタに対して淡い想いを抱いている。なかなか素直になれず、ついツンケンしたりやきもちを焼いてしまったり。どうもナユタと良い雰囲気になる度に何らかの邪魔が入ってしまうようだ。
アーサ・ハーシェル(20歳) CV:桑島法子
ナユタの実姉で、おおらかで心優しい性格の女性。《星の欠片》を解析する《星片観測士》を生業とし、母親代わりとしてナユタやシグナを温かく見守ってきた。確かな料理の腕前と女性らしい包容力から、島民の誰からも好かれている。
オルバス・アルハゼン(53歳) CV:東地宏樹
《残され島》のはずれにある遺跡に居を構える剣士。相当な剣の使い手であり、6年前に《残され島》にやってきて以来、島の用心棒的な役割を担っている。ナユタとシグナの剣の師匠であり、シグナの養父でもある。
仙翁ギオ CV:麻生智久
密林の大陸≪オルタピア≫を司る管理者。子供のような姿をしているが。老人言葉を話す飄々とした仙人。性格的に管理者たちのまとめ役を務める事が多い。
歌巫女エリスレット CV:沢城みゆき
深淵の大陸≪リズヴェルド≫を司る管理者。やや高飛車な性格をしているが、姉御肌で面倒見がいい。歌巫女の名のとおり、非常に美しい歌声を持っている。
護王アルゴール CV:置鮎龍太郎
霊峰の大陸≪ハインメル≫を司る管理者。分厚い兜を身につけ、くぐもった声で話す武人肌。厳格で無愛想、一匹狼な性格ではあるが、別に人嫌いというわけではないらしい。
賢者ネメアス CV:相沢舞
原初の大陸≪ラ・ウォルグ≫を司る管理者。管理者の中では最も小さい姿をしているが、同時に聡明な賢者として知られており、深い洞察力を見せる。
エイダ CV:照井春佳
鍛冶職人コルンハの一人娘で、残され島唯一の武器屋≪流星工房≫を経営している。あっけらかんとしていて悩み事がないタイプ。ライラの恋心に気付いているらしく、ナユタの話題を出してはライラをからかうことがささやかな楽しみらしい。
サーシャ CV:森宗春佳
残され島にある雑貨屋≪サンセット≫のカウンターに立つおっとりした女性。ナユタのことを弟のように思っており、何かと世話を焼いてくれる。アンティークドールが趣味で、自分でドール用の服をデザインして作ってしまうほど。実家は大陸に住む良家で、実はお嬢様らしいのだが…。
研究員シーラム CV:名賀亜美
ヴォランス博士の助手の1人で、博物館の受付を担当している。お洒落で可愛いものに目がなく、研究員とは思えない発言をするが仕事の腕は確かなようだ。コロンの双子の姉に当たる。
研究員コロン CV:名賀亜美
同じくヴォランス博士の助手の1人で、シーラムの双子の妹。人見知りな上、極度の研究オタクなため、滅多に表に出てくることが無い。自分でもそんな性格を気にしており、姉シーラムにはコンプレックスがあるようだ。趣味は新しい博物標本を展示すること。
ヴォランス博士
遺跡の研究に並々ならぬ情熱を注ぐ初老の学者。残され島に降る遺跡の謎を解くため、大陸北方にある帝国からはるばる訪れたらしい。また博物学も専門としており、島に新たな施設「博物館」をオープンする。
みっしぃ
「みししっ」という鳴き声が特徴のふしぎな生物で、そこそこ知能は高いらしい。希少生物のため滅多に見かけることが無く、その生態系は謎に包まれている。
バランスよく、かつ遊びごたえのあるアクションの数々
本作は、「軌跡」シリーズと銘打ってはいるものの、ベースがアクションRPGということで、どちらかと言えば「イース」などのタイトルの操作感覚に近いかたちになっている。
戦闘はナユタ自身の武器による攻撃に加え、同行するノイの四季魔法を駆使していく。ゲーム開始当初は、ナユタの剣技、ノイの四季魔法ともにバリエーションが少なく、同じような攻撃のバリエーションだけなので、まずはそこで十分に基本操作を覚えられる。
その後、ゲームが進んでいく中で、ナユタはステージクリア後の評価に応じて、師匠であるオルバスより「剣技」と「心得」を学ぶことができ、ノイはステージ中に登場する高位魔獣を撃破することなどで徐々に使用できる四季魔法の数が増えていく。
敵は普通に歩いてくるだけでなく、空中、水中、地中など、さまざまな場所から登場してくるので、状況に応じた攻撃方法を駆使してゲームを進めていくのがいいだろう。
また、ステージ内では、敵との戦闘だけでなく、四季変化の影響などによるギミックもふんだんに用意されており、ここで使用するのが特殊アクション「ギアクラフト」だ。ゲーム序盤では、障害物を破壊したり、歯車にぶら下がったりといった操作でゲームを進めていくなど、徐々に習得していくギアクラフトを駆使することが、ステージクリアに直結していく。
このギアクラフトの遊びのバランスがちょうどよく、ギミックアクションに慣れている人には小気味よく、初心者の人にとっても少し慣れればすぐに対応可能なレベルの操作感となっている。実際、筆者もあまり得意なほうではないのだが、本作では一度コツを掴んでしまえばあとはサクサクと進むため、ほどよい遊びごたえを感じられた。
よりキャラクターが活きたストーリーに
本作では、2つの世界を行き来する中で見えてくる謎を意識しつつ進めていくことになるが、主人公「ナユタ」をはじめ、キャラクターそれぞれが重要な局面で自身の感情を表現し、そこに水橋かおりさん、茅野愛衣さんをはじめとした声優の方々がボイスを当てることでドラマティックなストーリーが展開していく。
そういったキャラクターたちの心情を追ったストーリーの流れは、どこか歴代の「軌跡」シリーズを意識させるものがあり、そういった土壌が、展開のひとつひとつにドキドキするような話の流れを見せてくれるのかもしれない。
その一方で、ちょっとした遊び要素としてクエストや博物館が楽しめるのも面白い点だ。こちらは意識せずともある程度はゲームを進められるし、逆にとことんやり込みたい人にとっては確実に押さえておくことで、より一層ゲームを楽しめるだろう。
アクションRPG・ストーリーRPGの融合で生まれた新たなゲーム体験
ゲームとしてのテンポ感を十分に堪能でき、かつ物語をじっくりと楽しめるよう制作された「那由多の軌跡」。その狙いは十分に成功していると筆者個人は感じるところであるし、その中でもファルコムらしさが現れているのは嬉しいポイントだ。
そして、アクションRPGが得意な人、逆に苦手と感じる人にそれぞれ配慮した難易度設定や、プレイすればプレイするほど遊びの幅が広がっていくゲームシステムなど、広くユーザーが楽しめる作品に仕上がっているように感じられた。
今回、「軌跡」というシリーズを冠しつつも挑戦の結果生まれたこの新機軸が、今後どのようなかたちでより発展していくかに期待したい。