勇者になれないならゴミでもあさってるんだな―希望と現実が横たわるモバイルファンタジーRPG「異世界に生きる」での生涯

プレイレビュー
0コメント ガッキー

redboxが配信中のAndroid向けファンタジーRPG「異世界に生きる」。本稿では、勇者のいない世界で、寂れた街の住人たちに笑われながら生涯を終える、冒険者(プレイヤー)たちの生涯を綴っていく。

「異世界に生きる」は、レトロな雰囲気のコマンド式ファンタジーRPG。本作にはストーリーはなく、レベルを上げてボスを倒すも、引退して街の発展に貢献するも、生涯を労働に捧げてはした金を酒に費やすも、見知らぬ他人の家で悪事を働くも、一攫千金を狙って潰れたトマトになるも、全てはプレイヤーの選択次第。

“死が絶対の掟”として君臨するこの世界では、志半ばで死んでしまった冒険者に残せる要素は何一つない。栄誉や同情すらも寄せられず、そんな中で唯一寄ってくるのは、ハイエナよろしく有り金を持ち去り、今宵の足しにする酔っ払いくらいのものだ。

それでもなお、この異世界に興味を持ってしまった人は、少しばかりレビューに目を通しておくのもいいだろう。そうすれば、せめてかび臭い牢屋くらいには入らないで済むかもしれないから。

生きるための力はダイスの出目に託す

暗いスタート画面を抜けると、新たなる人生をその手で作り上げていく。プレイヤーに与えられる権利は「ダイスを振る自由」と「職業変更の自由」。とはいっても、ダイスの出目は運次第。職業を変えるには特殊なコスト「魂」が必要なので、限られた手札であがく程度のことしかできない。

そうやってできた待望の一人目は、運もなければ名前もなかった。1タップでもっと違う、もっと出来る自分にしてやるのもよかったが、つまるところ異世界で生きるというのはそんなに都合の良いことばかりではないのかもしれない。納得するでもなく、諦めるでもなく、もっと起伏のない感情でこの「お前(主人公の呼び名)」として生きることにした。

世界が開けると、モノクロに彩られた世界と、誰が考えたのかありがたい旅人の心得が目に飛び込んでくる。まだ見ぬ世界に高揚させる気の欠片もないこの世界のルールは、確かに、ありがたいほど気を滅入らせてくれる。面倒であれば「死んだら終わり」「死ぬ前に引退」…当面の内はこれくらい覚えておくだけで十分だろう。理由はすぐに分かる。

さて、何をするか。酒に溺れた享楽者がこちらをニタニタと笑いつけてくる程度の知れた街中には、街の権力者の住まう「市長の館」、名前ばかりで底の浅い「武器屋/防具屋」、豚小屋くらいはタダで貸してくれる「宿屋」、賃金の対価に人生の切り売りを要求してくる「仕事紹介所」、自分の得ばかりを考えている小物しかいない「酒場」、人徳を売り渡すときに歩む「裏通り」、そして栄光をつかむために赴く「街の門」と、勇ある冒険者を迎え入れる親切な人間などここにはいない。

いや、これこそが“勇者”という光の存在を称える、古式に則った様式美ともいえるのかもしれない。ぬめつく空気の漂う街を散策しながら、「お前」は人の役に立つため、未知の世界へと冒険に旅立つため、その準備を整えることにした。

そこで分かったことは一つ。魔物を倒すための装備もなければ、先立つ金もないということだけ。酒の一杯でもひっかけなければ雑談の一つもくれない酒場の亭主にケチをつけ、まずは旅の工面を立てるために、「お前」は仕事を始めることにした。

…しかし、紹介所より言い渡されたのは「1年働いて金貨5枚」という、人の足元をすくうような現実。一番安く買える粗末なナイフやコットンシャツ、体力が全快するわけでもない宿屋での宿泊すらも10ゴールドが掛かるこの町のルールに、「お前」の旅人としての矜持は零れ落ちていく。

各地にいるというボスや職業についての情報を知るにもゴールドが必要なこの街で、「1年で金貨50枚を稼ぐ仕事があるが、本当にやるのか?」「有り金全てを賭けての一発勝負さ…負けた場合は言うまでもねえか」「生き抜くことこそ肝要なこの世界では、盗みも立派な『産業』さ」――人を人足らしめぬ道を選べば、その甘美さから抜け出すことは叶わなくなる。

そうして「お前」が手に入れた居場所は、当然とばかりに、憲兵の手でブチ込まれた錆び臭い牢屋の中であった。例え異世界であっても、美味いだけで終わる話というのは転がっていないのだ。

無駄な人生の時間を費やして得たものは、死ぬよりはマシという教訓だけだろうか。ちなみに言い忘れていたが、最初の「お前」はとっくに死んでいる。あれは開始10秒で市長にたて突いて床のシミにされてしまった。まあ、こんな街の中じゃあえて特筆することでもない。「お前」の死はいつだって軽く、肝心な時だけ重いのだから。

そういった訳で、門の外に出る勇気も失った冒険者は、街のゴミをあさって玉石混合を求め始める。惨めなその姿は酔っ払い集団にすら格好の笑いものだ。時には上から目線で喋る猫が経験値を恵んでくることもある。仙人ぶった口調はどう考えてもおかしいが、考えるのも億劫だ。

そしてワンクリックで10年分の対価、あっという間に金貨50枚を手に入れられることを何とも思わなくなれば、「お前」がたとえ何歳になろうとも、安物ながらに立派な出で立ちで、念願の街の外へと旅立てる。何人かの「お前」が床に転がった後だが、幸いここは死んだら何も残らない世界だ。例に習って知らない振りが敬虔だ。

宝にも出会えないままモンスターに殺された「お前」がいた、風の音が泣いているとうそぶく詩人な「お前」がいた、そして引退に必要なレベルまで行きついた「お前」がいた。街の発展に身を捧げるという栄誉を果たせば、「お前」の強さや資金はそのまま「街の発展度」へと還元される。

どんなにレベルを上げようが、どんなに上等な装備を身に着けようが、どんなに煌びやかな生活をしようが、「死んだら終わり」のルールからは逃れられない。だからプレイヤーは証を残すため、次の「お前」に次代を背負わせるため、街の礎となって生涯を終わらせることを何よりも求める。

冒険に準じてファンタジー世界を練り歩けば、各地の凶悪なモンスターの生態を図ることもできるだろう。しかし、装備のためにその身を労働に費やしては、老いからくる身体能力の低下に嘆く羽目になる。そうなれば、コソ泥稼業に手を染めるリスクを背負うことも考えたり、金貨のために命賭けのギャンブルに身をやつすことも起きうる。全ては分相応のバランスで成り立っている。

さて、今回はファンタジー世界で出会える自分だけの英雄譚や、冒険の先にある職業変更の楽しみなど、RPGらしい夢と希望にあふれた展望を語ることはできなかったし、することもない。特殊コスト「魂」を集めたり、課金した後に考えて「お前」をビルドすれば、正攻法な物語の紡ぎ手という道もあったはずだが…それはまた違う「お前」の話だろう。

リアリティを追求しすぎたTRPGさながらの矮小な世界のスケールを余すことなく再現した「異世界に生きる」が筆者にもたらしたのは、癖の強すぎるアナログゲーム作品ならではの王道感と、今でいう自由なオープンワールドの概念を溶かしていたシックなRPGタイトルの野望と、インターネット黎明期に溢れていた個人・グループ制作によるデジタルRPGへの郷愁であった。

何でもできるがゆえに強制力はなく、「お前」の活かし方は全てプレイヤーの一存で決まる。それゆえ、人によっては無為なアプリに見え、人によっては欠かすことのできないユーティリティと成りえる。だが、そんな姿勢もあわせて「面白さ」を感じてしまう人はそう少なくないのだ。

また、本作はユニークなゲームデザインも然ることながら、何よりプレイフィールが格段に素晴らしい。無駄な装飾・動作・演出を剥ぎ取ったユーザーインターフェースは、物事の選択の1タップが実にスムーズ。安っぽいと称すのも正しくはあるが、あまりにストレスがない操作面がゲーム性やコンセプトも内包しつつ、それらを格段に引き立てている。世界観がダメでなければ、冒険者になってみるのも一つの道だろう。

最後に、本作を体験したプレイヤーなら誰でも考え付いてしまう、発展度について一言だけ添えておきたい。発展度は「お前」の引退で増加するが、条件は「お前」のレベルが5になること、それだけだ。増加量はレベルや所持金の多さなどで決まるらしい…つまり、「10年労働で働けなくなるまで金貨を溜めて、申し訳程度にモンスターを狩って引退する」というパターンが成立する。

これは決して悪い方法ではないし、むしろ操作の手軽さにより定年60歳まではものの10秒足らずでこなせてしまうため、単純作業的にはベストの選択といえるかもしれない。それに、この方法を使ったところで発展度という数値は上がれど、ゲームの深みに到達することはできないしで、そもそも小ネタにすらならないほど誰でも思いつける戦略だ。

そして何が言いたいのかというと、60歳になるまで労働して稼いだ資金を抱えて街の発展度に溶けていく「お前」の姿に、なんとも言えない悲しさがまとわりついてしまうということだ。「所詮ゲーム」と高をくくれれば問題ないのに、旅人として異世界に降り立った「お前」が旅に出ることなく没してしまう姿は、言葉もかけられない。「そうは言っても、最初の内はやってしまう」のが筆者だから、そもそも何も言える立場ではないのだが。

だから引退する前に一度だけでもいい。酒場で一杯の酒を飲ませてくれまいか? それくらいの権利は、「お前」にもあるはずだ。

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