モバイルコンテンツ業界の最新動向やマーケットをテーマとしたカンファレンス「GMIC TOKYO 2015」が、7月10日に東京ミッドタウンにて開催された。ここでは、ゲームメーカーの中国進出で知っておきたいポイントが語られたセッションをレポートする。

本セッションでは、D2C 国際事業室 上席エキスパート 山口哲也氏と中西氏より、スマートフォン向けのゲームを展開する企業が、中国進出時に知っておきたいポイントが紹介された。

日本から近く、巨大で魅力的な市場が広がる中国だが、進出してもさまざまな制約から本来の力を発揮することが出来ずに撤退に追い込まれてしまう企業も多い。

D2Cは、2014年7月に中国の大手メディアである文化産業グループ傘下の「上海東方明珠文化発展有限公司(SMG)」と合弁会社「上海东方明珠迪尔希文化传媒有限公司(OPCD)」を設立しており、自社ゲームの開発や、日本企業が開発したスマートフォンゲームのローカライズやパブリッシングなどをサポートしている。

すでに、日本企業が開発したスマートフォンゲームの中国進出をサポートした多くの実績を持つ同社が、謎の多い中国市場での展開手順とその課題を解説してくれた。

中国市場では、昨年コンソールゲーム機が解禁され、PS4やXbox Oneが販売されたことも記憶に新しいが、
その販売にも同グループが関わっているという。

中国市場でのスマートフォンゲームの配信手順は、進出・開発・申請・営業・配信の大きく5つの行程に分けられる。

進出

中国への進出方法は、自社での単独進出と、委託での進出の二通りだ。メリットと課題は表裏一体の関係になっているが、ここでポイントになるのが政府による許認可だ。中国でスマートフォンゲームを配信する際に、「増値電信業務経営許可証」と「ネットワーク文化経営許可証」の2つの許認可を取得する必要があり、一部の例外をのぞいて、どちらも外資系企業が取得することができないという。

許認可が取れないのであれば自社での単独進出は難しいのではないかと考えられるのだが、VIEスキームと呼ばれるパブリッシング構造が存在するという。このような複雑なスキームを用いなければ単独進出が難しいことが中国市場への参入のハードルを高めているようだ。

開発

上海の給与相場は日本と変わらず、良い人材を採用するためには日本と同等の給与を提示しなければならないという。

また、原作のニュアンスを正確に伝えられない翻訳をした場合は現地のファンから指摘されてしまうそうだ。そのほかにも、文化的な違いやコンテンツの消費スピードの早さやバグ対策の課題も山積している。特に開発者との意識のずれが作品の品質に大きな影響を与えてしまうため、そのコントロールが難しいそうだ。

決済システムでは、銀聯以外にもさまざまなものに対応する必要がある。
中国では膨大なプラットフォームが存在し、それぞれのSDKが必要になる。
1つのSDKで複数のプラットフォームに対応する業者などもいるそうだが、品質に問題があるそうだ。

申請

ゲームを配信する際に政府に申請しなければならない点も中国ならではだ。申請は文化部と新聞出版広電総局の2ヶ所に提出しなければならず、国産か輸入かで、申請時期や必要日数が変化する。

審査内容も異なり、国産ゲームであれば、研修を受けて資格を持った社内のスタッフが書類を作成して提出すれば完了するが、輸入ゲームの場合はリリース前に全てのテキストデータの提出やゲームの細かい説明資料、APKファイルを入れた端末の提出といった手間のかかる申請が必要で、厳しい審査が待ち受けているという。一般的にこのような審査に60営業日程度かかるそうだが、同社ではこれを1ヶ月程度で行う試みもしているそうだ。

営業

中国では、Androidのプラットフォームが乱立しており、各プラットフォームへの営業が必要になる。営業は3つのフェーズに分かれており、最初のデモ段階では実際にゲームに触れてもらい興味をもってもらったり、アドバイスを貰うというもの。次に事前登録をした一部のユーザーなどにAPKファイルなどを配布しテストを行う。この方式は日本でも行われるようになってきているのでご存知の人も多いだろう。このテストフェーズの結果を踏まえて、契約条件などを詰めていく。最後はリリース時で、送客枠やプラットフォーム別のイベント内容、掲示板の運用方法などを決定する。

さらに地理的な課題も。中国のプラットフォーム企業は沿岸部に集中しているが、その主要都市を回るだけでも広大なエリアになってしまい、費用や時間の面で大きなコストが発生してしまう。このような営業活動を外資系企業が行うことは非常に難しい現実がある。

プラットフォームの手数料もさまざまで、高いところだと50%になるようなケースも存在する。しかし、その分送客数も期待できるため、その見極めにも経験やノウハウが必要になりそうだ。

配信

配信が開始するといよいよ運営を行うことになる。当然、ゲーム内でさまざまなイベントを行うのだが、差別化したい各プラットフォームからオリジナルイベントの開催を求められ、提携プラットフォームを増やすほど工数が増えるというジレンマに陥る。さらに、公式掲示板以外にも各ポータルサイトの掲示板やソーシャルサービスの更新も行わなければならず、日本では考えられないほどの手間が発生する。そのほか、バージョンアップ時にもプラットフォームの数だけ更新が必要になってしまう。

ユーザーサポートは365日24時間対応が望ましく、課金者が直接運営会社にクレームを言いに来る場合もあり、その窓口を設置する企業もあるという。

同じ時間でのプラットフォームによって実施しているイベントが異なっている。
また、さまざまなメディアでの情報発信が必要になる。
送客枠やランキングなど、日頃からのプラットフォームとの関係構築が重要になる。

パートナーと組むのが最もリーズナブル

上記のように、スマートフォンゲームを中国で配信するには、さまざまな制約や事情が複雑に絡んでおり、不可能ではないものの日本の企業が単独で行うのはなかなか難しいのが現状のようだ。今回のセッションでは、結論として信頼できるパートナーと組むことを薦めていた。

そのパートナーを選定するポイントとして、日本のゲームに対する愛、規制に対するリスクマネジメント、支払い条件の3つを挙げ、トラブルが発生しないようにしっかりとコミュニケーションをとりながらの選定してほしいとまとめた。

なお、同社ではローカライズ・カルチャライズモデル、パブリッシングモデル、自社開発モデルに取り組んでおり、日本人が窓口になっているほか、経営にも日本人が携わっている点を強みとしてアピールしていた。

※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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