ワコムは8月1日、クリエイターの仕事を研究体験できる子供向け夏休み企画「クリエイティブ法人ワコム学園 夏季特別研究会」を開催した。
この講座は小・中学生の子供に向けたもので、現役の少女マンガ家と担当編集者がマンガの描き方を紹介する「マンガ家への道」と、プロのゲームクリエイターがゲーム制作の仕事を紹介する「ゲームクリエイターへの道」のふたつを受講できるようになっていた。本稿ではカプコンのキャラクターデザイナーが講師を務めた「ゲームクリエイターへの道」の模様を紹介していこう。
まずは特別講師の“みみま”氏と“よこやまだ”氏が、ゲームクリエイターになるまでの自身の略歴を簡単に紹介した。みみま氏は千葉県の出身で、小学生の頃は「ゲームは1日1時間」と決められており、毎日ゲームを始めた時間と終わった時間をノートにメモして親に提出していたという。中学までは勉強が大好きだったが、高校のときに友達がイラストレーター志望だったことから「絵で食べていくこと」を意識するようになったという。
かくして美術大学に入学したみみま氏は在学中に「レシピッター」というツイッターでレシピを検索するサイトなどを自作。このサイト制作を機に「人に楽しんでもらうものを作りたい」と思うようになり、2015年にカプコンに入社したと振り返った。
よこやまだ氏は茨城県の出身。小学生時代は外で遊びまくっていたというが、小説を書いたりしたこともあったそうだ。さらに、中学の頃から自作の絵をウェブで公開していて高校生のときに、そのサイトを見た人から正式に仕事を依頼され、東京の専門学校のメインビジュアルを制作。この出来事をきっかけに「絵で食べていこう」と思い立ったという。
その後、総合大学美術科に入学。この時期にゲームをプレイしまくったとのことで、自分なりのゲームレビューをノートに書き留めていたそうだ。ちなみに、この時期にもっともハマったのが欧米で人気を博したRPG「Dragon Age(ドラゴンエイジ)」で、プレイ時間は数百時間にもなったという。そうしたことからゲームと絵の両方の仕事がしたいと思うようになり、2016年にカプコンに入社して現在にいたると語った。
現在はカプコンにて「モンスターハンター フロンティア」のキャラクターデザイナーとして、武器防具・モンスターのデザイン画やCGモデルの制作を担当しているという両氏。武器・防具の各パーツを細かく分けてデザインしていることや、ゲーム中ではほとんど見えない箇所もこだわってデザインしていることなど、自身の仕事の内容を実際のデザイン画を用いて紹介した。
続いて、両氏が関わっている「モンスターハンター フロンティア」の10周年記念モンスター“灼零龍 エルゼリオン”を例に、モンスターが実際に完成するまでの工程が簡単に紹介された。
1:デザインワーク
まず、企画側から例えば「氷と炎を使ったかっこいいモンスター」といったような発注が出される。デザイナーたちはこうした発注の内容を自分なりに咀嚼し、「コンペティション」において、さまざまなモンスターを提案。これらのデザインを元にディスカッションを行い、最終的なデザインを固めていくのだという。
2:武器・防具のデザイン
モンスターのデザインが決まったら、このモンスターを素材にした防具・武器のデザインに着手。「灼零龍 エルゼリオン」も防具はみみま氏、武器はよこやまだ氏がデザインを担当したという。ちなみに、こうした武器・防具は素材となったモンスターの特徴がひと目で伝わるように、といったことを考えて作っているとのことだ。
3:3DCGの制作
デザインを元にCGデザイナーがモンスターの3DCGを制作。粘土細工のようだった初期モデルが、じょじょに形が整えられていく過程が映像を使って紹介された。ここで制作したCGモデルは自由に動かすことができるそうで、口を開けたり顔の向きを変えたりすることも可能とのことだ。
4:動きをつける、プログラム・サウンドを制作する
3DCGをアニメーターに渡して、モンスターにさまざまなアクションをつける。完成したらプログラマーがこのモンスターとゲーム中で遊べるようプログラミング。さらに、サウンドデザイナーがモンスターのイメージに合った鳴き声や効果音などを制作する。
5: テストプレイ
最後にテストプレイヤーたちが実際にプレイしてみて不具合がないか、モンスターが強すぎたり弱すぎたりしないかなどをチェック。さまざまな調整を行って問題がないか何度も確認した上で、ようやくゲーム内に実装となるわけだ。
続いて、子供たちがパソコンを使って、実際にモンスターをデザインするという制作体験が行われた。ペンタブレットを使った、かなり本格的なもので、子供たちはスタッフたちの指導のもとモンスターのデザインにチャレンジ。元となるモンスターの絵にさまざまな色をつけたり、線を描き加えたりと思い思いのデザインを楽しんでいた。
ちなみに、子供たちがデザインしたモンスターの絵は講座終了後にスタッフがプリントして全員にプレゼントされた。きっと夏休みのいい思い出になったことだろう。
フォトショップのレイヤーを操作したり、スポイトやブラシなどのツールを使い分けたりと、 本格的なデザインを楽しめるようになっていた。 |
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みみま氏も机の間を回ってデザイン方法を指南。 子供ならではの自由な色使いに「おお」と驚きの声を上げる場面も。 |
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よこやまだ氏も子供たちと一緒にモンスターのデザインに挑戦。 プロならではのデザインに子供たちは「かっけえ」と感心していた。 |
最後に簡単な質疑応答が行われた。まず、「モンスターハンター」シリーズで特に好きなモンスターを聞かれ、みみま氏は「モンスターハンター3(トライ)」に登場する“ラギアクルス”が好きと回答。「すごくかっこよくて、最新の『モンスターハンターダブルクロス』でも登場します」と強力にプッシュしていた。
制作の技術は大学時代に修得したのか、それとも入社してからかという質問も出された。両氏は「やはり学生時代からペンタブレットなどを使っていたという人が多い」としつつ、「入社後に初めて使った」という人もいるとコメント。社内研修や勉強会などもあるので、入社時に未経験の人でもできるようになりますと語った。
「ゲームクリエイターを目指す上で、ゲームをプレイする以外に大事なことは?」という質問に、みみま氏は「何の経験が面白いゲームに繋がるかは分からない」と回答。いろいろなことに興味を持ち、それらに熱心に取り組むことが重要で「チャレンジ精神を大事にしてほしい」と述べた。
同席していた保護者から「プライベートな時間をどのように過ごしているのか」という質問も。現在は両氏とも同じ某オンラインゲームにハマっているそうだが、全員がゲーム三昧というわけではなく、あくまで人それぞれだという。ただ、やはりエンターテインメントに関わることをしている人が多いそうで、「(お子さんには)ゲームにかたよらず、楽しいと思ういろんなことをしていただけたらいいかなと思います」とアドバイスしていた。
それにしても子供たちの入れ込みようはすごかった。遊び体験的講座で、決して堅苦しいものではなかったのだが、私語もほとんどなく全員が集中。分からないことがあると手を上げてスタッフたちに質問するなど積極性もあり、今どきの子供はすごいなと大いに驚かされた。子供たちにとっても同席していた親御さんたちにとっても貴重な体験の場となったことだろう。
「モンスターハンター フロンティアZ」ビギナーサイト
http://www.mhf-z.jp/index.html