2017年8月17日、メディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏が主宰するトークイベント「黒川塾(五十二)」がデジタルハリウッド大学大学院の駿河台キャンパスにて開催された。

今回の黒川塾のタイトルは「誰でもわかるゲームAI(人工知能)の話」。ゲームAI開発者でAIに関する多数の著作を持つ三宅陽一郎氏と「がんばれ森川君2号」、「アストロノーカ」などの開発者として知られる森川幸人氏をゲストに迎え、ゲームやエンタテインメントにおける人工知能の実態、展開事例、将来の可能性や課題などについてトークを行った。

左から黒川文雄氏、三宅陽一郎氏、森川幸人氏

まずは先日(8月16日)発表された森川氏の新会社「モリカトロン」が話題に。日本で初となるゲームAI専業の開発会社だが、森川氏いわく「去年の今頃の段階では(起業しようとは)1ミリも考えていなかった」という。そもそも森川氏はゲームにAIは有効であると20年くらい前から言っていて、いろいろ営業もしてきたが、よい手応えを得られたことはほとんどなかったそうだ。

だが、近年はAIがブームでAIに興味を持つゲーム関係者が増えてきたことから、昨年末頃に会社立ち上げの話が持ち上がり、設立にいたったという。ただ、まずはゲームにAIを導入する際のお手伝いをするところから始めようと考えていて、「モリカトロンでAIのゲームを作るのはもう少し先になるだろう」とのこと。ちなみに、三宅氏によると、モリカトロンのような商業ゲームやエンターテインメントに特化したAIの会社は現在でも非常に少なく、世界でもほとんど例がないそうだ。

ここで近年のゲームAIに状況のついて三宅氏より説明がなされた。三宅氏によると1980年代頃に起きた第2次AIブームの余波で、90年代後半にゲーム業界でもAIが注目を集めた時期があったという。しかし、2000年代はグラフィック重視の時代で、メモリとリソースは映像優先となり、AIはほとんどかえりみられることはなかった。

こうした時代が長く続いたが、ゲームにおけるグラフィックの進化がひと段落したこともあって、AIを取り巻く状況が変わり始める。本格化したのは2011、12年あたりだが、2002年くらいから、すでにアメリカでは情報科学とゲームを結び付けようという気運は高まっていて、GDCに大学の研究者を招いたりAIの学界にゲーム関係者が出席したりするなどの相互交流が行われていたという。ただ、日本ではそうした交流は、現在でもほとんど見られないそうで、今後の課題のひとつと言えそうだ。

では、海外ではゲームのどういった部分にAIを導入しているのか。三宅氏は「固定化されていたものを動的なものにする」という目的でAIは使用されてきたと語る。

以前はキャラクターの動きは固定化されていたが、現在では後述するパス検索などを使って、さまざまな行動をさせることが可能。キャラクターが出現する位置や難易度もAIでコントロール可能で、いずれはストーリーもAIが作るようになるという。つまり、コンテンツを柔軟化し、そのユーザーにとっていいゲームになるようにゲーム自身を変化させていくという目的でAIが使用されているわけだ。

これらを踏まえて三宅氏は「ユーザーと常に接しているのはキャラクターであり、キャラクターのブレインは人工知能なわけで、ゲームは最初から最後まで人工知能と戯れているようなもの」と強調。さらに、近年はゲームデザインの部分でも「メタAI」という、ゲームシステムそのものを調整する人工知能が取り入れられていて、ゲームそのものが人工知能化していることから、「ゲームの本質を進化させるひとつのファクターになっている」と三宅氏は述べた。

ソーシャルゲームでもAIは利用されていると三宅氏は語る。ソーシャルゲームは同じことを繰り返させるのでAIに学習させるのに向いていて、ユーザビリティを充実させるためのユーザーのログ解析といった分野でのニーズが特に多いという。また、デバッグでのAIの利用にも期待していて、そうした分野での研究も進めているとのことだ。

20年にわたる森川氏の取り組みを改めて振り返る

森川氏が手掛けたAIゲーム「がんばれ森川君2号」は1997年5月23日に発売された。それからほぼ20年が経ったわけだが、「まったく相手にされない20年間だった」と森川氏は振り返る。実際、前述の第2次AIブームのあと急激に熱気が冷め、多くの人がAIから離れたそうで「第3次ブームが来るのがもうちょっと遅かったら、この世にいないかったかも(笑)」と冗談めかして笑った。

ここでは、そんな森川氏が自身の活動や手掛けたAIゲームを改めて紹介してくれた、まず、AIゲームを作ろうと思い立った経緯だが「やらなくてもいいゲーム」――今でいう「放置ゲーム」を作りたいと考えたのがきっかけだったという。そのときSCE(現SIE)に出した企画が、なんと「スーパーマリオ」のマリオにコースの攻略法を覚えさせていく「全自動マリオ」で、当然のことだが「ウチではマリオは出せないから」と言われてしまったそうだ。

もっとも、マリオうんぬんを抜きにした内容自体への拒否反応も想像以上だったそうだ。当時はたくさん遊べること、長く遊べることが最大の売りになっていた時代で、まだ「放置ゲーム」という言葉もなかっただけに、「遊ぶ必要のないゲーム」というのは理解されにくかったと森川氏は言う。

しかし、この「遊ぶ必要のないゲーム」を森川氏は作り出すことになる。これが「がんばれ森川君2号」である。ニューラルネットワーク(※1)を利用した画期的なタイトルで、三宅氏によると、これまでにニューラルネットワークモデルを使ったゲームは世界でも10数本しかないそうだ。ちなみに、タイトルを付けたのはSCEのプロデューサーで、当初は自分の名前が付いているとはまったく思っておらず、ゲームショウ出展時に初めて知ったという意外な秘話を明かしてくれた。

※1:人間の脳神経の仕組みとそのつながりを模した情報処理システム

非常に斬新な内容で、かなり話題となった本作だが、ゲーム中でユーザーがやることがほとんどないことから「けっこう叩かれた」と森川氏は言う。スマッシュヒットとなったのもSCEのプロモーションのおかげで、「もうちょっとエンターテインメントしよう」と反省したそうだ。

そうした自戒から生まれたのが「ここ掘れ!プッカ」だ。AIが搭載されたプッカという宇宙生物とともに宝石探しをするというもので、「がんばれ森川君2号」と同じくプッカはニューラルネットワークで動くのだという。三宅氏は「本当にいいゲームですよ」とほめていたが、森川氏いわく「これは売れなかった(笑)」とのことだ。

次に制作した「アストロノーカ」は東京・夢の島のハエ問題がきっかけになって生み出されたという。当時の夢の島は巨大なゴミ捨て場で大量のハエが発生。駆除のために殺虫剤がまかれたが、やがて耐性のあるハエが出現し、さらに強力な殺虫剤をまかれたことから土壌汚染や水質汚染を引き起こす結果となった。

このニュースに着想を得て、生み出されたのが「アストロノーカ」に登場する害獣・バブーだ。バブーはプレイヤーが仕掛けたトラップの回避方法を自身で学習していくのだが、このバブーの進化にAIの遺伝的アルゴリズムを使用。落とし穴ばかり作っていたら、落とし穴への対応に特化したバブーになるなど、「自分たちでさまざまに進化して、パラメータを獲得していく」キャラクターを作り出した。つまり、理屈は夢の島のハエと同じで、森川氏は「かなりうまくいった」と自賛。三宅氏も遺伝的アリゴリズムを使った世界的傑作で、今でも新人研修に使用しているそうだ。

ちなみに、この「アストロノーカ」で使用した技術は今では目新しいものではないが、ゲームの世界ではまだまだ現役で使えるとのこと。いわば横井軍平氏(※2)の提唱した「枯れた技術の水平思考」(※3)で、最新のAIよりも使い勝手がいいと森川氏は推奨。三宅氏も最新のディープラーニングに飛びつく前に、ゲームにおけるニューラルネットワークや遺伝的アルゴリズムの可能性をちゃんと探求・検証しないといけないと語っていた。

※2:任天堂で活躍した技術者。ゲーム&ウオッチやゲームボーイなどの生みの親として知られる。
※3:最先端ではないが、広く普及している技術を今まで使われていなかったことに利用し、新たなモノを生み出すという横井軍平氏が提唱した哲学。

同時期に「キャラクターが自由に話せるようにしたい」とも考えていたという森川氏。当時の音声合成はイントネーションをうまく取れないという難点があったが、「歌わせればいいのだ」と思い立ち、さらに歌詞やメロディーも自動生成してしまうことに。かくして「くま」に演歌を教えていく異色のゲーム「くまうた」が生まれた。社会現象となったボーカロイド「初音ミク」登場の約7年前のことで、のちに森川氏は初音ミクの人気ぶりを見て「こっちだったかあ」と嘆いたと語り、来場者を笑わせた。

また、近年はさまざまな自動会話のアプリがあるが、森川氏はいわゆる「コンシェルジェ的会話」ではつまらないと思っていたという。とはいえ、現在のAIではまだ言葉の意味を理解することはできないそうで、それなら「まじめ→脱線」の構図なら笑ってもらえるかもと発想。最初はWikipediaからデータを拾ってきて真面目なことを言うが、話を続けるうちに、どんどん内容が脱線していくユニークな会話アプリ「てきとうパパ」を開発した。

こうした活動を続けてきた森川氏だが、ゲームはある程度筋書きが決まっているプロレス、AIはどのようになっていくか分からないガチ(真剣勝負のこと)と定義していて、このプロレスの部分とガチの部分をゲーム中でどう組み合わせるか、どこまでAIにやらせるかの線引きが難しいと語る。この点については三宅氏も同意で、ゲームのキャラクターはゲームの世界においては生物であるが、映画のようなものの舞台とみなせば役者になると説明。つまり、「世界と舞台」、「生物と役者」の間を行き来するわけで、それだけに演技をするゲーム的なモードと自律的なAIモードをいかにシームレスに繋ぐかが重要と述べた。

「ゲームは常にアートとテクノロジーのせめぎ合い」で、アート側とエンジニア側の中間点・妥協点をどこに見出すかは大変だという三宅氏だが、そこが面白いところでもあるとも語る。ちなみに、三宅氏に言わせると森川氏はアーティストとエンジニアの両方の資質を持っていて、だから「アストロノーカ」や「くまうた」(いずれも森川氏がキャラクターをデザイン)を作ることができたと称賛していた。

とはいえ、「がんばれ森川君2号」や「アストロノーカ」が世に出た、初代プレイステーション発売当時のゲーム業界は、クリエイターの挑戦や冒険を許す、ある種のおおらかさがあったのも事実で「今だったらどの企画も通らないだろう」と森川氏はコメント。異色のアイディアを持つ人は現在のクリエイターの中にもたくさんいるだろうが、そうした企画が通りにくくなっているのは気の毒だと述べた。

ただ、これまで世間のAIブームとゲームにおけるAIの流行にはズレがあったそうで、第3次AIブームは2010年頃だったので、「そろそろゲームにもくるかも」と三宅氏は予測。実際、2006年や07年のCEDECではAIの講座はほとんどなかったが、今年は20個もの講座が予定されており、海外とは違った流れではあるが、日本でもAIの波がきているのではないかと期待を述べた。

ゲームにおけるAI利用の歴史と今後の課題

三宅氏による、ゲームにおけるAI利用の簡単な歴史紹介も行われた。例えば、「スペースインベーダー」のような昔のゲームではキャラクターとマップは一体化していたが、90年頃からキャラクターに知能を持たせようという動きが顕著になっていったという。そのエポックメイキングとなったのが「パックマン」で、海外ではAIの元祖としても高く評価されているそうだ。

2000年代になって3Dゲームの時代を迎えると、キャラクター1体1体が感覚を持って思考しながら動く自律型AIが登場。スクリプトで動かす、ゲームデザイナーの操り人形であったキャラクターが、AIに役割を与えることで自律的に動かせるようになった。この頃にアメリカではMIT(マサチューセッツ工科大学)や南カリフォルニア大学などとゲーム業界が接近したそうで、ゲームのAIはロボティクス(ロボット工学)の技術がもとになっていると三宅氏は語った。

キャラクターの頭脳となる「キャラクターAI」の部分で革命的だったのが、前述した「パス検索」の技術である。スタート地点と目的地を指定すると、その間の経路をリアルタイムで計算して求めるというもので、ひとつ間違えるとキャラクターがとんでもないところに行ってしまったり、挟まって動けなくなったりするなどの危険性はあるが、それだけに非常に面白い技術で、これによりキャラクターは時間的な思考を持てるようになったのだという。

さらに、キャラクターに「計画を立てる/変更する」といったプランニングの技術を持たせられるようになったと三宅氏は説明。例えば、敵キャラクターに「ドアを開けてプレイヤーを撃つ」という計画を持たせ、扉にカギがかかっていた場合には「窓ガラスを破って侵入する」といった別のプランを立てさせることもできるようになった。

近年はさらに進化していて、例えば格闘ゲームにおける間合いなど、プレイヤーのデータをもとに上手くいったパターンを見つけ出していく学習機能も備えているとのこと。このように世界のゲーム業界ではAIが少しずつ進化してきたのだが、この流れに日本は入っていなかったのだという。それは日本のゲームデザイナーが優秀で、AIが賢くなくてもいいゲームを作ることができたからだと三宅氏は語る。

しかし、これが海外のオープンワールド化に日本が乗り遅れた原因になった。際限や制限がないオープンワールドはAIがなければ成立しない。だから、日本では良質なオープンワールドゲームがなかなか登場しなかったというわけだ。

キャラクターが賢くなって自由に動き回るようになると、それを制限する必要も出てくる。そこで生み出されたのが「メタAI」である。元になったのは「ゼビウス」の敵出現自動調整機能だ。「ゼビウス」には簡単なAIが組み込まれていて上手いと敵が強くなっていき、上手くないと弱い敵が出現するようになっていた。

現代のメタAIはユーザーの緊張度やプレイ状況に応じて敵の出現度や役割を変えるなど、システム全般をコントロールしている。キャラクター全体の動きを統括して、その場その場で面白い状況を作り出してくれるので、海外では「AIディレクター」とも呼ばれているそうだ。三宅氏によると、こうした現代のメタAIは技術者だけで作ることは不可能で、ゲームプランナーやゲームデザイナーの知識も必要になるとのこと。森川氏もゲームの場合は教科書通りにはいかないことが多く、実際にゲームを作りながらAIを使っていかないと知見を得ることはできないと強調していた。

ゲームの外にもAIの利用が広がっていて、例えばオンライン対戦のマッチングの際に、テクニックやプレイスタイルなどを元にして、よりプレイヤーたちが楽しめるようにメンバーを組み合わせるといった使い方もされているという。オフラインゲームでもAIは利用されていて、近年のコンシューマ機はほぼネットに接続されているので、何パーセントが最後までプレイしているのか、どこでプレイをやめたのかなどのビッグデータが集めることができる。これらのデータを解析・検証して、敵の出現数が多すぎる、武器が強すぎるといった場合にはすぐにパッチをあてるなどの対応をしているわけだ。

このようにゲーム業界においてさまざまに利用が広がるAIだが、三宅氏は90年代後期に海外で誕生した「Creatures」というAIゲームを例に挙げ、この時代はアカデミックの進化・学習のアルゴリズムを真正面からゲームに応用しようという気運が多少なりともあったと語る。しかし、その流れは2000年以降ほぼ完全に途絶えたままで、海外においてもここ5年のゲーム産業におけるAI利用は、あくまでオープンワールド化という限定された目的で費やされていたという。

この断絶したままでいる進化・学習の流れを何とか復活させなければいけないという三宅氏。カギとなるのは、やはり商品として面白くなるかどうかで、そのためにはAIをアートと技術の両方の面で理解している人材を育てる必要があるだろうと私見を述べた。

ただ、かつてはゲーム会社と組まなければAIを作ることはできなかったが、現在はインターネット上から手軽にツールを入手できるようになっている。こうした状況を踏まえて、森川氏は「ゲームにAIを入れたらどうなるだろうというベクトルで考えるのではなく、AIをいろいろいじくって遊んでみてほしい」とアドバイス。「そうして得たアイディアがゲームに反映させられるかもしれないし、ゲームでなくても世の中の面白いことを実現するのに利用できるかもしれない。今の時代の方が試せることはいっぱいあるので、そこからのブレイクスルーに期待している」と来場者にメッセージを送った。

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