スクウェア・エニックスが7月13日に発売したNintendo Switch用ソフト「OCTOPATH TRAVELER」(以下、オクトパストラベラー)。作中の楽曲を制作したサウンドチームへのインタビューをお届けする。

目次
  1. キャラクターの生い立ちから生まれた8種類のテーマ曲
  2. ユーザーからの期待も高かったバトルBGM

本作は、美しい3Dグラフィックと懐かしのドット絵が融合した、独特のビジュアルが光るオリジナルタイトルだ。そのグラフィックと、古き良き王道RPGに新しさを加えたゲームデザインが最大の特徴だが、プレイヤーを惹き付けるサウンドも、本作を語る上で欠かすことはできない。

今回、作曲家の西木康智氏とアシスタントプロデューサーとしてサウンドをディレクションした早坂将昭氏、そしてプロデューサーの高橋真志氏にインタビューを実施。魅力的なサウンドの数々はいかにして生まれたのか、制作過程に迫った。

左から早坂将昭氏、西木康智氏、高橋真志氏

キャラクターの生い立ちから生まれた8種類のテーマ曲

――西木さんが「オクトパストラベラー」のサウンドを担当することになった経緯から教えてもらえますか。

高橋氏:「オクトパストラベラー」という新規のIPを作るに当たって、硬派な中世ヨーロッパの世界観を目指したい、それをドット絵のRPGで表現しようということで音楽をどうするかもいろいろと考えました。やはりドット絵なので8ビットサウンドなども勿論候補にはなりましたけど、今回はHD-2Dという進化したビジュアルを目指してもいたので、音楽もそれに合わせて生演奏を用いたリッチな音源が良いだろうという考えに至りました。本作のコンセプトに相応しい作曲家さんをと探していたところ、幸運にも西木さんと知り合うことができたんです。

西木氏:それが2年ほど前の話ですね。僕はその時点で色々なゲーム音楽に携わっていたものの、コンシューマのRPGの音楽をすべて任される経験はありませんでした。なので「僕でやれるのかな…」と思ったのと同時に責任を強く感じたのを覚えています。。話をいただいたタイミングで「オクトパストラベラー」のシナリオや資料を見せて頂いたのですが、当時は今のものよりも更にディープで硬派な内容だったので、音楽は本格的な方向が求められるだろうなと思っていました。

――早坂さんは西木さんの楽曲に、どんな魅力を感じましたか?

早坂氏:メロディーがとにかく覚えやすいことですね。ドット絵のゲームということで、ユーザーさんが期待するのはスーパーファミコン時代のメロディが深く印象に残る楽曲だろう、と考えて本作ではディレクションに臨んだのですが、作曲家さんの中でも、分かりやすいメロディーを作れる人と作れない人というのは明確に存在するんです。その中でも西木さんは抜群にメロが作れる方であり、”ゲーム音楽然”とした楽曲が作りたいという僕たちの意図と合致したのが起用した一番の理由です。

高橋氏:西木さんが、元々ゲームの楽曲を作っていた方というのも大きかったです。ゲームに対する理解度もとても高かったですし、逆に西木さんのほうから提案をいただく機会もありました。

――ディレクションの際、西木さんに要望を出したことはありますか?

早坂氏:楽曲の制作期間を十分に取れたということもあり、1曲ごとにこれはOK、これは修正といった具合にかなり綿密に確認をしながら進行させてもらいました。冒頭のイントロを数秒聴いただけで「これでいける!」となった曲もあれば、10回以上リテイクを重ねたパターンもありましたね。制作が始まった頃は方向のすり合わせという意味も兼ねてキャッチボールが多かったのですが、終盤になってお互いに目指しているものが掴めてくると、リテイクを出す機会もどんどん減っていきました。

――西木さんはこれまでに携わってきたゲーム音楽と今回とで、考え方に違いはありましたか?

西木氏:いや、特に変わりはなくて、むしろ延長線上にあったと感じています。RPGらしい音楽は今までもたくさん書いてきましたし、オーケストラの音を使うことも今までの仕事の中で経験として積み上げて来ていますので、その延長に今回のプロジェクトがあったというイメージです。

――では、作り方という点ではいかがですか?

西木氏:僕自身がスーパーファミコン時代のRPGで育った世代なので、まずは自分がユーザーの立場に立ちゲームを遊んだときに聞きたいだろうなという音楽のツボは必ず外さないよう意識しました。作曲するに当たってはHD-2Dの映像がとにかく印象的だったので、基本的にはゲームの映像をサブモニターでずっと流しながらその雰囲気に合うよう作曲をしていました。

――スクウェア・エニックスの過去のRPGを参考にしたことは?

西木氏:具体的にこの作品を参考にしたということはないです。というのも、制作陣にRPGをプレイして育ってきた同世代が多かったので、バトルやフィールド音楽に求められるサウンドも言語化するまでも無く共通認識を持っていたように思います。

早坂氏:ときには参考曲として、別タイトルや過去作品の曲を聞いてもらうことはありました。ただ、それも制作初期の頃だけで、以降の大部分はお任せで作ってもらいましたね。

――キャラクターごとのテーマ曲についても教えてください。本作では8人それぞれで違った楽器を使っていますよね。

西木氏:今回早坂さんから頂いた要望はとにかく全曲メロディーを立たせてくださいというもので、その中でも特にキャラクターテーマは、それを聞いただけでユーザーさんに「このキャラクターのテーマだな」と認識してもらう必要がありました。なので、キャラクターのテーマは他の曲と特に差別化出来るよう工夫をしています。例えばトレサの曲にはハーモニカが使われているんですが、この楽器はトレサの音楽にしか出てこないんです。アーフェンの曲に入るサックスも、ここでしか使われていません。こういった特徴的な音を用意することで差別化を図り、認識力を強める工夫をしています。

――楽器を選ぶ際のポイントはなんでしたか。

西木氏:そのキャラクターの性格、生い立ちですね。例えばアーフェンだったら男らしさと心優しさの2つの面を持つキャラクターなのでで、それを表現するためにはサックスが良いだろうと。サックスはRPGで使われるのが割と珍しい楽器なので浮いたイメージにならないよう扱いが難しかったんですが、上手くはまったかなと思います。

早坂氏:ドット絵のゲームということもあり、ビジュアルに頼れない部分は音楽でキャラクター像を補完させたいという想いは僕にもありましたし、楽器による差別化は予想通りとても有効で、最終的にどれも納得できる形に仕上げていただきました!

――メロディー自体にも、キャラクターごとの違いは意識したと思います。

西木氏:音楽を聞いただけでどんな性格で、どんな過去を背負っているかがある程度見えてくるような、ある意味で説明的な音楽を目指しました。音楽が人物のストーリーを語ってしまうくらいの意識ですね。

――イメージがすぐに形になった曲はありますか?

西木氏:オフィーリアのテーマですね。表現したかったのは女性らしい、柔らかく包み込むイメージと、神官という神聖な職業の雰囲気で、自分の中でもスッと形になった曲として覚えています。

早坂氏:自分の側からするとプリムロゼのテーマでしょうか。本当にイメージしていた通りの雰囲気で、冒頭の2秒くらいを聞いただけで「これはいける」となった曲です。序盤の頃に作った楽曲はどれもそれなりにリテイクが掛かっているのですが、これはほぼ修正が無かった楽曲でした。

――逆に苦労した曲というと。

西木氏:サイラスですね。

早坂氏:サイラスはかなり苦労しましたよね…。

西木氏:サイラスって、イケメンなんだけど抜けてるところもある人物で、それを音楽でどう表現するかはかなり苦労しましたし、早坂さんとも議論しました。

高橋氏:西木さんは最初に打ち込みで楽曲を作り、それをオーケストラで収録する手法だったんですけど、打ち込みの段階ではどんな仕上がりになるか、僕からするとなかなか分からないんですよね。

早坂氏:ディレクションをする立場として、デモ段階の打ち込み音源が生音になったらどれぐらい変わるか、というところまで想像しながらリテイクの判断するのですが、サイラスのテーマについては最後まで「これで本当に大丈夫だろうか」という心配がありました。それが生音になって、思っていた以上に化けましたね。

高橋氏:各キャラクターのテーマ曲はメインテーマの次に重要だと考えていました。どれもイベントの重要なシーンで流れるので、ゲーム内の聞き所のひとつだと思います。自分としても大好きな8曲を揃えていただいたと思います。

ユーザーからの期待も高かったバトルBGM

――ゲーム内で印象に残る曲といえばバトル中のBGMもあります。西木さんとしてはどんなこだわりを持っていましたか?

西木氏:バトル曲に関してはユーザーさんの期待がとにかく尋常ではないので、絶対に外せないと思っていました。

高橋氏:そうなんですよね(笑)。

西木氏:外せないので、かなりシステマチックに作りました。通常バトルは計3種類用意したんですが、「バトル1」が「バトル1」たる要素をちゃんと持っているように、それを受けた「バトル2」はある程度の変化球的な要素を含みつつそして「バトル3」は物語がクライマックスに向かっていく感覚を与えられるように意識しました。あとはボスバトルを含めるとバトル曲もそれなりの数になるのですが、それぞれなるべくジャンルが被らないように気をつけました。ドラムが主体になっている曲もあれば、オーケストラが主役の曲もあるし、色々なバリエーションのバトル曲を楽しんで貰えればと思います。

高橋氏:通常のバトル曲は、エリアに合わせてバリエーションがありまして、プレイしていて自分が「あ、ワンランク上のエリアに踏み込んだんだな」というのが分かるようにしているんです。

早坂氏:実際にユーザーさんからも、バトルBGMが切り替わることに驚いたという声をいただいていて、そこは僕たちの狙った通りなので心の中でガッツポーズしましたね。

高橋氏:あとはバトルエクステンドの評判もいいですね。これはボスバトル前のイベントシーンからシームレスにバトルへ繋がるための楽曲で、オクトパストラベラーでチャレンジしたものです。これもまた、キャラクターごとに8種類のエクステンド曲があり、それぞれで趣向を凝らした繋がり方になっています。

――似たような質問になりますけど、バトルエクステンドでキャラクターごとの違いを生み出すのも苦労したのではないでしょうか。

西木氏:そもそも、最初はバトルBGM自体を8種類作る案もありました。ですが、それはさすがに作業時間的に難しいだろうという事は正直にお伝えをして、その代わりとして生まれたのがバトルエクステンドでした。なので、当初の案に比べれば、大分スムーズに作業できたかと思います(笑)。

高橋氏:ゲームのBGMは、たくさんの曲が聴けた方が嬉しいという気持ちもある一方、同じ曲を繰り返し聞くことでより強く印象に残るということもあると思うんです。ひたすら曲数を増やして、「ボスバトルってどの曲だっけ」となってしまうよりも、思わず口ずさんでしまうようなものにしたほうが効果的だと考えました。

――そうして出来上がった曲の数々がゲームに入ったとき、手応えはありましたか?

西木氏:これは僕の性格なのですが、良いところよりも粗を見ちゃうんですよね。なので、もっとこうすれば良かったなとか、そういった反省の気持ちがまず第一印象として出てしまうんです(笑)。だからどちらかというと、他の人から良い反応が返ってくるときのほうが嬉しいですよね。

例えば、以前勤めていた会社の先輩が奥さんとTVCMを見たようで、「奥さんが『音楽が良い』と言っていたよ」と教えてくれて、そういう反応が来るのは素直に嬉しいですね。その奥さんというのが、昔はゲームを遊んでいたけど、今はほとんどしていないような方で、まさにそういったドロップアウトした世代が反応してくれるのは、「オクトパストラベラー」が狙っていた部分の一つだと思うので、嬉しかったですね。

それともう一つ、出来上がった楽曲を聞き返した時に、音楽をおとなしくし過ぎてしまったかなと、若干後悔していたんです。ですが、ゲーム内に実装された時に、そこにフィールドの風の音や焚き火の音が入って、その隙間をいい感じに埋めてくれたんです。効果音の方の素晴らしい仕事にとても感謝しつつ、そういった化学反応が起こるのがゲーム制作の面白さだと感じましたね。

――ゲームと音楽が上手く噛み合うかは、早坂さんも気にしていたところだと思います。

早坂氏:それはもちろんです。僕が初めて手応えを感じたのは、「オクトパストラベラー」の最終クオリティの画面を初めて社外の関係者の方に見せたときですね。そのときはまだ音も何もない映像のみだったんですが、僕のほうで音楽と環境SEを試しに乗せた動画を作ったところ大好評で…! それまでに頂いていたデモ曲の良さもあり、SEの方向性含みで「これなら上手くいきそうだ」というのは実はその時から既に感じていました。

高橋氏:もう1つ手応えを感じた瞬間というと、メインテーマが出来たときですね。ユーザーさんからの評判が良かったのは勿論ですが、開発チームの中でもとてもモチベーションが上がりました。この曲に見合うゲームを作らなければと意気込んでいましたし、僕自身も良いものになるという実感が得られました。

――TVCMでも度々流れているメインテーマ曲は体験版のころから評判が良かったと思いますが、こちらの制作はいかがでしたか?

西木氏:旅をテーマにするゲームということで、聞いてワクワク感や、期待感を想起できる曲を目指しました。

高橋氏:実は、最初は違うメインテーマ曲(仮)がひとつありました。昨年の1月に「プロジェクトオクトパストラベラー」を初公開した際に流したので、覚えている人もいますでしょうか?あのころはシナリオがまだ出来上がる前で、テイストも大きく違ったものでした。そこから自由に旅ができる現在の形になり、メインテーマもそれに合わせて旅感・開放感のあるものにしようと方向性が変わったのです。

――すべての楽曲が生演奏であることも大きな特徴だと思います。

高橋氏:単純にドット絵の見た目だから8bit、16bitの音楽が合うという可能性もありえました。でも、それだと昔のゲームをやればいいやで終わってしまいます。新しいタイトルを作る以上、サウンドでも当時のものから進化した姿を見せたかったです。スーパーファミコンの頃に比べるとハードのスペックも格段に向上していますし、今できる最大限のことをやろうと考えた結果です。

西木氏:ゲームをプレイして頂いた方に「チップチューンの音のほうが良かった」と思われてしまったら失敗なので、生のゴージャスの音を使いつつも、わかりやすいシンプルなサウンドにする必要がありました。。オーケストラを使うとサウンドがゴージャスになる反面、メロディラインがブレやすくなる危険もあります。いまいち耳に残らない事態だけは避けるよう最新の注意を払っていました。そのあたりは今までの経験、ゲーム音楽を作ってきたバックボーンが役に立ったのだと思います。

――その話でひとつ気になったのですが、西木さんがゲーム音楽に携わることになった、そもそものきっかけはなんだったのでしょう。

西木氏:最初からゲーム音楽家を目指してなったわけではないんですけど、振り返ってみるとずっと自分の中にゲーム音楽があったんです。子供のころに音楽に興味を持ったきっかけのひとつもゲーム音楽で、「ファイナルファンタジーVI」の楽譜をひたすら弾き倒していたのを覚えています。子供時代の経験があったからこそ、今の自分がいるんだと思います。

――なるほど、では今後、皆さんが挑戦してみたいことはありますか?

西木氏:僕は先ほどもお伝えしたように今は反省ばかりなのですが(笑)。ありがたい事に作品だけで無く音楽もご好評頂いているという事で、今後もし可能性があれば、さまざまな展開で協力できたらと考えています。

高橋氏:僕はいろいろあって、コンサートやりたいなぁとか、ピアノアレンジアルバム出したいなぁとか、さり気なくいろんな人に吹き込んでいます(笑)。

早坂氏:コンサートは絶対にやりたいですね! それも日本だけでなく、アメリカやヨーロッパを渡る全世界コンサートを…! あとは、自分が趣味でオーケストラの編曲をやっていたという経緯もあり、オーケストラ用のフルスコアなんかも出してみたいなぁと。それ以外にも、他でやってない新しい音楽的な施策に挑戦して、オクトパストラベラーの音楽の世界がどんどん拡げていけたらなと思っています!

※画面は開発中のものです。

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