千葉・幕張メッセにて開催された東京ゲームショウ2018。その会場内にて実施した、「キングダムカム・デリバランス」を開発したWarhorse StudiosのPRマネージャー・Tobias Stolz-Zwilling氏と、ローカライズを担当するDMM GAMESプロデューサー・松本卓也氏へのインタビューをお届けする。
DMM GAMESより、2019年春に日本語版がリリースされる「キングダムカム・デリバランス」。
本作の最大の特徴は、歴史上に実在した「ボヘミア公国」を舞台に、地形や建物、人々の生活まで、あらゆる中世の時代の要素を忠実に再現していることだ。現在はなくなっている教会なども、見た目から内装に至るまで、可能な限り当時のものに寄せて再現するなど、歴史の再現度には徹底的にこだわり抜いて作られている。
また広大なオープンワールドの世界を冒険できるだけでなく、ゲーム内で受けることのできるクエストの自由度の高さも凄まじい。今回、Tobias 氏から見せていただいたゲーム序盤のクエストは、動物たちを殺した犯人を調査するという内容だったのだが、調査の方法から犯人をどうやって追い詰めて倒すかまで、凄まじい数の選択肢が用意されている。
今回の例では、事件を解決するために「犯人である盗賊を自らの手で倒す」「盗賊たちを説得する」「アジトの場所を騎士に知らせて倒してもらう」など複数の方法があり、どうやってクエストをクリアするかが、プレイヤーによってまったく異なるようになっている。
加えて昨今のゲームでは、プレイヤーが次に目指すべき場所をマップ内に表示してくれることが多いが、本作にはそういった表示が一切存在しない。プレイヤーは、NPCから得られた情報や、自分の目で見ることのできる状況から、今の自分がどこにいって何をするべきかを判断する必要がある。
ゲーム的には不便さもあるが、その時代に生きるリアルな一人の人間になりきる、RPG本来の意味での「ロールプレイ」の要素が重視されたタイトルと言えるだろう。
今回のインタビューでは、Warhorse StudiosのPRマネージャー・Tobias Stolz-Zwilling氏と、ローカライズを担当するDMM GAMESプロデューサー・松本卓也氏に、本作がいかにして作られ、日本語版がリリースされるに至ったかというものから、Warhorse Studiosが存在するチェコのゲーム事情まで、様々な話題を聞くことができた。
PRマネージャー・Tobias Stolz-Zwilling氏を直撃
――実際にゲームを拝見させていただき、本作の自由度の高さはTRPG(※テーブルトークRPG)に通じるものがあるなとも感じました。
Tobias Stolz-Zwilling氏(以下、Tobias):実際、我々のチームは、自分たちのためにD&D(ダンジョン&ドラゴンズ)をチェコ用にローカライズするくらいTRPGが大好きです(笑)。特にパラメーター周りはその影響が出ていると思います。
――非常に美麗なグラフィックが表現されている本作ですが、CryENGINEを採用した理由はなんだったのでしょうか?
Tobias:本作の開発が始まったのは2013年頃なのですが、ビジュアルの表現にもっとも秀でていたのがCryENGINEだったんです。その頃はまだUnreal Engineも3しかない頃でしたから、Unreal Engine 4という選択肢はありませんでしたしね。その分、ちょっと使うのは難しいんですけど(笑)、我々が表現したい環境を再現するのにはベストのエンジン選択だったと思っています。
――本作にはPS4版も存在していますが、PS4版の開発もWarhorse Studiosさんが行われたのでしょうか?
Tobias:もちろんそうです。というのも、我々は外注ということを一切しないスタジオなんです。3Dモデルから音楽まで(※スタジオが独自のオーケストラ楽団を所有している)、全て自分たちで作っています。現在のメンバーは120人ほどですが、来年には150人ほどの規模になっていると思います。
一方で2年くらい前から、クオ・パブリッシャーとしてDeep Silverに参加していただいています。やはり流通や営業に関してだけは、我々の規模だと対応しきれないので、特にパッケージ版のパブリッシングには大きな協力をいただいていて、今回DMM GAMESさんとのつながりができたのもその一つです。ただ、Deep Silverはあくまでクオ・パブリッシャーという形なので、プロモーションなどのアドバイスをもらうことなどもありますが、基本的な権限は我々がもっています。
誰も見たことがないゲームを作りたい情熱が、制作の原動力に
――そもそもの話になりますが、なぜ実在の舞台で、史実を題材にしたゲームを作ろうと思ったのでしょうか?
Tobias:RPGでは、中世の世界を舞台にしたものはいくつもあると思うのですが、実在する土地で、史実を忠実に再現した作品というのはほぼ例がないですよね。歴史に沿ってた作品でも、魔物やドラゴンといったファンタジー的な要素が入っていたり。我々は、誰も作ったことがないゲームを作りたかったんです。
あとは、我々のスタジオの多くはチェコの出身者なのですが、自分の先祖達へのリスペクトをすごくもっている人が、チェコにはすごく多かったというのも理由の一つですね。
――となると、本作にはモンスターのような敵は出てこないわけですね。
Tobias:そうです。もっとも人間の中には、モンスターのような思考や行動をとってくる化物のような存在もいますが(笑)。
――歴史を再現したからこその苦労というのはありましたか?
Tobias:それぞれの部署の人間が、自分たちのところが一番難しかったと話すと思いますが(笑)、やはりプログラミングなどに入る前に、実際の歴史や場所のリサーチを行ったことは大変でした。大学教授などの歴史の専門家にも話を聞くのですが、彼らはゲームについての知識をほとんどもっていないので、我々が聞きたいことと彼らが伝えてくれることがマッチしないことも多かったんです。
我々のスタジオの中には、中世の戦い方に詳しいスタッフもいて、当時どのような戦いが行われていたかを実際に見せてくれて、これはゲームの中でも再現できるなと考えました。ただ、妥協した部分もあって、例えばゲーム中のようにわざわざ大きく振りかぶって攻撃を仕掛けてくるのは、あまり現実的ではありません。しかしそれを行うことによって、ユーザーは攻撃に対するリアクションを取れるようになるので、そこに関してはゲーム性の方を優先しています。
――それでも、かなりリアルな仕上がりになっていると感じられました。
Tobias:個人的には、本当に一番難しかったことを一つ上げるなら、最終的にこのゲームを形にして完成させるということですね(笑)。別々の部署で作った個別の要素を組み合わせた時に、「この2つは噛み合わないから作り直す」ということ起こるのも珍しくありません。
それでも、プロデューサーとしては完成を優先しないといけないのですが……我々に限らず、クリエイターの人たちは「あと1週間あれば最高のものにできる!」と言う傾向がありますから(笑)、その判断を下すのは難しかったです。
――チェコの大学で、本作が歴史の教材として使われたという話も耳にしました。
Tobias:チェコで2番目に大きい都市であるブルノに大学があるのですが、そこで現代のメディアを使って歴史をいかに見せるかという授業をやっているんです。そこで我々は、ゲームを使って歴史をどう見せるか、どのようにリサーチを行い、どの部分で妥協したかといったことを講義しました。
例えば当時のドアは熱を逃さないようにするために高い位置に置かれていたのですが、それをそのまま再現すると、ドア付近での戦闘になった時に処理をどうするかという問題などが出てきます。なのでその点は、現代の扉と同じ位置に設定しました。
そうした文化を背負っているのもあって、本作はチェコの国をあげたプロジェクトのようにもなっていて、首相から開発チームに激励のメッセージが届いたり、国が主導して本作のロケ地を回るツアーを企画してくれたこともありました。チェコ自体がそう大きな国ではないので、様々なメディアに取り上げられ、国中で話題になったこともあり、他業種の会社とのつながりができたのも大きかったですね。
――チェコのゲーム市場というのはどのようになっているのでしょうか?
Tobias:チェコにはいくつかのゲーム会社があるのですが、中でも規模が大きいのが、ボヘミア・インタラクティブ、CSC、キーンソフトウェア、そして我々Warhorse Studiosの4社ですね。他にもインディーズ系や、ソーシャルゲームを作っている会社もあります。
市場としては、やはりコンソールよりもPCゲームの方が人気があります。というのも、長らく社会主義の国だってので、コンソールゲームというのがずっと入ってこなかったんです。現在は普通に買えるようになっているのですが、それでもPCで遊ぶ人の方が多いですね。
――よく遊ばれている日本のゲームというのはあるのでしょうか?
Tobias:「ポケットモンスター」や「DARK SOULS」といった世界的に知名度の高いシリーズはやはり人気があります。ただ、それらのタイトルがどこで作られたゲームかということを気にしている人たちはあまり多くない印象を受けます。本作がチェコ発のゲームとして注目を集めているのは、そうした珍しさもあったのではと考えています。
――本作はKickstarterを利用して作られたタイトルだと記憶しているのですが、Kickstarterで企画された壮大なタイトルというのは、未完成のままプロジェクトが失敗してしまうというものも多いと思います。本作のプロジェクトが成功した要因は何だと考えていますか?
Tobias:まずKickstarterを使ったのは、プロモーションなどに関係なく、我々にとってはそれしか作品を完成させる方法がなかったからです。最初の段階ではパブリッシャーがいませんでしたが、パブリッシャーなしでも我々がゲームを作れることをアピールするために、気合の入ったプロモーション映像を作成しました。思い返せば、当時は何かと戦っているようなスタンスだったかもしれません(笑)。
あとは、自分たちが本作にかける想いや、「パブリッシャーが手伝ってくれないから俺たちでこのゲームを作るんだ!」というメッセージを定期的に伝えて注目を集めたり、情報の公開についても徹底しました。延期をする場合は、「現在の開発状況はこうで、こうした問題が発生したことから延期の必要性ができた」ということをきちんとサポーターに説明するようにしました。そうした様々な要因が重なった結果、プロジェクトを成功に導くことができたと考えています。
本作がローカライズされたのは、松本氏が「遊びたかった」から!?
――なぜDMM GAMESさんが、本作のローカライズを担当することになったのでしょうか?
松本卓也氏(以下、松本):答えは単純で、私自身が遊びたいと思ったからです。今年の2月に英語版が公開された時、すぐにSteamでダウンロードしてゲームを始めたのですが、これがまたいいシーンから始まるんですよ。ただ、その時思ったのが、「英語が辛い」と(笑)。
――その気持ちは僕も経験するので、とてもよく分かります。
松本:本作のような作り手の魂のこもったゲームを、曖昧な理解のまま遊ぶのはもったいないなと。だから僕は、詳細なストーリーに関しては今でもよく知らないんです。日本語に訳されたものが完成した時、改めて楽しもうと思っているので(笑)。
あと、その時にちょうど別ルートで、Deep Silverさん経由でローカライズのお話がきていたのも、渡りに船といった形で運が良かったです。中でも本作は特にローカライズが大変そうなタイトルだったので、社内からは躊躇する声もあったのですが、「これでしょこれ!」と直接ゲーム画面を見せて説得しましたね。
――先日PS4版の日本語版が発表されましたが、あちらもパブリッシャーもDMM GAMESさんが担当されるのでしょうか?
松本:そうですね。今のDMM GAMESは、PS4にもゲームをリリースできる体制になっています。一人でも多くのプレイヤーに遊んでいたたくという意味で、PS4というのはとてもいいプラットフォームですからね。
――DMM GAMESさんは、他にも「エルダー・スクロールズ・オンライン」など、とにかくローカライズが大変そうなタイトルを担当されているイメージがあるのですが……。
松本:そこは、誰もやらないことをやるのがDMM GAMESですから。誰もやったことがないことをやりたがる人間の集まりなんです。「エルダー」の時は、字幕ではなく吹き替えにしたことで正気を疑われたりもしましたが、本作でも音声は全て吹き替えを行っていて、「エルダー」に負けないくらいの気合を入れてローカライズしています。
――今後もローカライズを積極的に行っていく予定なのでしょうか?
松本:もちろんです。我々としても、まだまだ今後ローカライズするゲームというのを探しています。特に今はユーザーさんの方が我々よりも高いアンテナをおもちだと思いますので、「このゲームもローカライズして欲しい!」「この国にこんな面白いゲームがあるんだ!」という熱いメッセージを、SNSでもメディアさん経由でもいいので、伝えていただけるとありがたいですね。
――最後に、Tobiasさんから日本のプレイヤーに向けたメッセージをお願いします。
Tobias:日本人のゲームファンの中で、今までと違ったスタイルのRPGをお探しであれば、本作はこれ以上ないタイトルだと思います。
日本とヨーロッパでは、それぞれに戦国時代のような歴史がありますが、刀の文化が長く残っていた日本に対して、ヨーロッパでは早くから銃が普及したことで剣を使った戦いというのは失われてしまいました。本作ではその失われた中世の戦いを体験することができるようになっています。
本作は手軽に食べられるファストフードではなく、いわば肉汁たっぷりのステーキのような作品なので、腰を据えてじっくりと味わって、満腹になっていただきたいですね。
――ありがとうございました。