6月12日にとうとうリリースされたコロプラのRPG最新作「最果てのバベル」を紹介。コンシューマーRPGの傑作を手掛けたシナリオライター・野島一成氏の魅力は、本作にどう活かされているか?
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コロプラのRPG最新作「最果てのバベル」が、6月12日にとうとうリリースされた。「ファイナルファンタジーVII」や「ファイナルファンタジーX」、「ヘラクレスの栄光III 神々の沈黙」といった作品を手がけたシナリオライター・野島一成氏や、「タクティクスオウガ」「戦場のヴァルキュリア」などの音楽で知られる作曲家の崎元仁氏が参加していることで多くのプレイヤーから並々ならぬ期待を寄せられていた本作。リリース後早々にセールスランキングの不正操作に関わるニュースも飛び出し、悪い意味でも注目を集めてしまっているのは残念だが、これはゲームの内容とは関係がない。本記事ではリリース版「最果てのバベル」をプレイ、本作のゲームとしての魅力を紹介したい。
「謎」と「伏線」を巧みに使いこなす!野島一成氏のシナリオ
本作に期待を寄せていたプレイヤーの興味の中心は、野島一成氏のシナリオにあるのではないだろうか。もちろん、崎元仁氏の音楽も魅力的で興味を引かれる。しかし野島一成氏のシナリオは別格だと感じるプレイヤーは少なくないだろう。野島一成氏のシナリオのファンである筆者も、もちろんその一人だ。
野島一成氏のシナリオの何が魅力かといえば、「謎」と「伏線」を見事に使いこなす点。筆者が野島氏の単独シナリオ作品を初めて味わった「ヘラクレスの栄光III 神々の沈黙」など、まさに「衝撃」の一言。不死身の体と持ち、記憶喪失の主人公という謎めいた冒頭に、仲間たち全員が同じ夢を見るという形でつづられていく伏線。長い旅の末に辿り着いた結果には、「RPGでこんなストーリーの描き方ができるのか!」と驚かされた。「ファイナルファンタジーVIII」や「ファイナルファンタジーX」、「ヘラクレスの栄光 魂の証明」といった野島氏の他作品もまた、「謎」や「伏線」が巧みに使われている。一度でも野島氏の作品を最後までプレイしたことがあれば、ご理解いただけると思う。
なので、野島氏の名前がクレジットされている以上、その作品には「単なる面白さ」以上の「野島氏ならではの面白さ」を期待してしまう。この点に本作はしっかりと応えていると感じた。本作をスタートするとまず目にするのが、名前の伏せられた男女のやりとり。彼らは追っ手から逃げようとしているが、次のシーンでは女性が男性を抱いている。何が起きたのかわからない。しかし男は何やら覚悟を決めている模様。
この謎めいたシーンの後、舞台は森に囲まれた鋼鉄の塔・バベルへと移り、主人公となる少年、ライが登場する。ライは精霊に取り憑かれるという性質から、バベルの高層にある一室から外出できないという暮らしを送っていた。ライ自身は生活に大きな不満を持っていないようだが、繰り返される停電だけは別のようだ。ライの部屋を毎日訪れる友人によると、この停電は街が死にゆく兆候というウワサもあるという…。ここまででも十分に謎めいた部分が多いが、ゲームが進むとさらに謎と伏線が散りばめられていく。その中心となっているのが「飛翔識」という能力だ。
シナリオに結びつくゲーム機能「飛翔識」とは
「飛翔識」とは、瞬間的に場所を移動できるテレポーテーションのような能力で、ゲームシステム的にはマップからマップへワープすることで移動を短縮できる便利機能としての側面を持っている。ライはとある経緯からこの能力に目覚め、閉じ込められた部屋から外の世界へと出ることができるようになるのだが、シナリオ的にはそれ以上に重要な意味を持っている。
ライは「飛翔識」を使うと気を失い、宇宙空間のような、異次元的な世界を訪れる。この時、ライの前には、謎の女性が現れる。名前もわからぬこの女性は、どうもオープニングの謎めいたシーンにいた女性のよう。
また、「飛翔識」は「一度行ったことのあるところ」をイメージすることで移動する能力なのだが、ライはずっと部屋に閉じ込められていたにも関わらず、なんと冒頭の謎めいたシーンらしき場所「誰かの思い出」へ移動することができてしまう。「飛翔識」は言ってしまえば他のRPGでも見られる移動システム。けど、シナリオに巧みにからめることで「これ、もしかしてこういうことなんじゃ…!?」と先の展開を思わず予想したくなってしまう。だからこそ、先が気になって仕方ない。
エンディングがある!だからシナリオが盛り上がる
「飛翔識」のみに留まらず、本作のゲームシステムは細かい部分まで野島氏のシナリオの魅力を引き出すために構築されていると感じた。たとえばそのひとつが、エンディングがあるゲームだと明言されている点だ。
無料スマホRPGの多くは、あえてエンディングを用意していない。これには課金の仕組みが強く影響している。そもそも無料でプレイできる以上、ガチャなどを回してもらうためには、長くプレイして愛着を持ってもらわなければならない。エンディングを用意してしまうと、大半のプレイヤーはそこでそこでプレイを終えてしまうため、あえてエンディングを用意していないというわけだ。もちろん、物語自体が終わらないわけではない。たいていの場合、海外の連続ドラマがシーズンを重ねるように、続編エピソードを作ることでエンディングを排除している。このため、物語そのものには一定の区切りがつく。
これに対して本作はエンディングがあると名言されている。続編エピソードを考慮してエンディングを排除したシナリオと、エンディングありを前提としたシナリオとで何が違うかというと、ラストの盛り上がり。続編エピソードを考慮しなくてよいのであれば、それまでに張ったすべての「伏線」を一気にラストで回収し、大きなカタルシスを生み出すことができる。このカタルシスが生む感動は、今年のゴールデンウィークに映画「アベンジャーズ/エンドゲーム」がまざまざと見せつけてくれた。そして「伏線」を一気に回収するシナリオこそ、野島氏の武器だ。
登場人物は固定!収集要素はジョブと装備
シナリオの魅力を引き出すために構築されていると感じさせるふたつめの要素が、パーティーメンバー固定という点。無料スマホRPGの多くは、たくさんの登場キャラクターを用意する。これは、ガチャで販売するのがキャラクターだからだ。ガチャで手に入れたキャラクターを活躍させるためには、自由にパーティーメンバーを編成できる必要がある。
しかし、自由にパーティーメンバーを編成できてしまっては、シナリオの構築に不具合が出る。特定の登場人物が謎の鍵を握っていたり、特定の登場人物の中に蓄積した感情が事件を起こしたり…と、シナリオを魅力的に展開させるためには、特定の登場人物が鍵にならざるを得ないからだ。この問題に対応するため、無料スマホRPGでは、パーティーメンバーは自由に編成できるが、シナリオに関わるキャラクターは固定、というものが多い。しかし本作は、こうした手法ではなく、パーティーメンバー固定という手法をとっている。
パーティーメンバーが固定されることで生まれるメリットが、「感情移入」だ。たとえば(本作に同様のシーンがあるわけじゃないが)会話シーンで敵に対して怒りを抱えているキャラクターがいたとしよう。「絶対に許さない!」と怒りをあらわに戦闘シーンへ突入。しかし実際に戦闘するキャラクターは別のキャラクター…となってしまうと、せっかくの感情移入も冷めてしまう。もちろん、「ゲームのお約束」と割り切ることもできる。しかし割り切っている時点で、臨場感は軽減しているはずだ。こうしたことが、パーティーメンバーが固定されている本作では起きない。シナリオも戦闘シーンも探索シーンも繋がって描かれており、極めて自然に感情移入できる。シナリオの魅力がスムーズに伝わってくるというワケだ。
キャラクターをガチャで販売しないのなら、では本作は何を販売しているのかといえば、「ジョブ」と「装備」だ。各キャラクターはジョブを3つまで装備することができ、ジョブに応じたスキルを使用可能になる。装備は、一般的なRPGと同様、キャラクターが身に着けることのできる武器や防具だ。
これは上手く作られているな!と思わず関心してしまったのが「ジョブ」の見せ方。「ジョブ」は各キャラクターごとに用意されており、ジョブに応じたキャラクターのイラストレーションが用意されている。なので、感覚的には「ジョブ」や「スキル」を集めているというより、キャラクターを集めているように感じられ、収集欲もしっかり満たされるのだ。
表面は無料スマホRPGだけど中身はコンシューマーRPG!
最後に本作のゲームシステムに触れよう。本作は、エンディングがある点やパーティー編成システム、ガチャなど無料スマホRPG的でないシステムが目立つが、そもそも全体的にコンシューマRPGとして設計されている。ゲームの流れは、自由にマップを移動し、NPCに話しかけてクエストを受注、戦闘を重ねながらクエスト達成を目指すというもの。無料スマホRPGで標準的なホーム画面やシナリオ選択画面は用意されていない。
マップ移動はスワイプによって行う。横方向の移動がベースとなっていて、ところどころ存在する奥行方向への脇道では、手前や奥へ移動できる。メインシナリオに絡んだNPCの場所や目的地は画面右上のミニマップ上に表示されるが、「〇〇を探せ」のようなクエストでは表示されない場合もある。つまり、探索を前提としたクエストでは、きちんと自力で探しなさいということだろう。こうした点もコンシューマRPGらしい。「ちゃんと自分で考えて攻略する」タイプのゲームが好きな筆者としては、個人的には好ましい点だ。
マップ移動中、ランダムエンカウントでモンスターが出現。モンスターと遭遇すると戦闘シーンへ切り替わる。戦闘シーンはターン制、コマンド選択型だ。各キャラクターごとに通常攻撃やスキルといった行動を選んだ後、「攻撃開始」ボタンをタップすることでターンが進行していくが、各キャラクターともデフォルトで通常攻撃コマンドが選択されているため、ただ「攻撃開始」ボタンをタップするだけでOK。また、「AUTO」ボタンをタップしてから「攻撃開始」ボタンをタップすれば、以降画面をタップせずとも全自動でバトルを行ってくれる。ただ、ボスが非常に強力なので、ボス戦については毎ターン、各キャラクターごとにコマンドを吟味した方がいいだろう。
バトルの戦略のカギとなっているのが「ブレイク」と呼ばれるゲージ。このゲージが貯まると敵はブレイク状態になり、通常時より大きなダメージを与えられるようになる。ブレイク状態からさらにブレイクゲージを貯めると敵はダウン状態になり、ブレイク状態より大きなダメージを与えることができる上、行動不能に。
このため、積極的にブレイクゲージを貯めていきたいところだが、ブレイクゲージを大きく貯められるスキルはたいてい与えられるダメージが小さい。スキルによってはブレイクゲージも大きく貯められてダメージも大きいというものがあるけど、そういったスキルは消費SPが大きく連発できない。なので、モンスターの状況に応じて最適なコマンド選択が重要になってくるわけだ。
野島氏のファンはもちろんゲームで物語を楽しみたい人にオススメ
野島一成氏はこれまでコンシューマーRPGを手がけてきたため、ファンの多くもコンシューマRPGのファンだと思う。なので「野島一成氏の新作はプレイしたいけど、無料スマホRPGってどうなの…?」という感想を持っている人もいるのではないだろうか。
しかし安心してほしい。本作は確かに基本無料で、スマホ向けのRPGだが、中身の作りはコンシューマーRPGだ。ソーシャル要素も一切ない。スタミナ要素もなく、スマホのバッテリーが続く限り、エンディングまでぶっ続けで野島氏のシナリオを単横することができる。
また、「物語のあるゲームが好きだ」という人にも本作はオススメできる。筆者も本作を最後までプレイしたわけじゃないので、最後にどんな結末が待っているかはわからないが、野島氏のことだから、衝撃的な結末を用意してくれていると思う。もちろん、結末だけじゃない。そこに至るまでの物語も、しっかり楽しませてくれるはずだ。