パシフィコ横浜にて9月4日~6日にわたって開催の「CEDEC 2019」。ここでは、本日9月5日に行われたセッション「ハイエンドキャラクターグラフィックス using LUMINOUS ENGINE」の内容をお届けする。
登壇者はLuminous Productionsより、黒坂一隆氏、蓮尾雄介氏、岸明彦氏、スクウェア・エニックスより長谷川 勇氏。
この講演は、既に公開されている技術デモ「BackStage」をベースに行われている。まだこの技術デモについて知らない人は【「Luminous Engine」がパストレーシングに対応!CEDEC2019にて技術デモ「BackStage」が公開】(https://www.gamer.ne.jp/news/201909040043/)から詳細を確認してほしい。
「BackStage」を作った背景として、現実世界では役者は舞台に立つ前にメイクをして着替えるのに、ゲームの中のキャラクターにはそういう舞台裏が存在しない。けれど遊びの要素としてコスチュームチェンジなどはあるため、その裏側を描いてみようと思ったのだという。
この「BackStage」だが、カットシーンが終わった後でもアセットで見ることが可能になっているという。実際にフリーカメラモードで動かして、様々なアイテムをアップで見るとそのクオリティの高さに驚かされる。鏡やライトにも細かいこだわりがあり、更にはラジオのダイヤルにも金属に小物が反射していたり、ビューラーなども細かく作り込まれている。
ライトの照射による影もリアルさにこだわり、シャドウをボケさせることによってより一層現実感のある影になった。またこのアセットではライトのオンオフも可能で、ライトをオフにすると月明かりで照らされた部屋を彷彿させるような空間にすることが出来る。
そして肝心のキャラクターだが、もみあげやえりあしには「Luminous Hair」を用いており、かなり高精細な表現が可能になった。唇や眼の表現にもこだわっており、肌に生えている細かい産毛までもが表現されている。
服の素材も、かなり高精細。衣装の布地の質感もキャプチャーして使うことで、表現力が飛躍的に向上している。これはリアルタイム映像にもレイトレースを取り入れたことによって、ここまで細かい表現が可能になったのだという。
更にこのデモにはまだ仕掛けがあり、衣装の切り替えもデモの中で即座に可能。レザージャケットを着せてみたり、その色も変えることが出来る。これだけならば「ファイナルファンタジーXV」(以下、「FF15」)でも行っていたことだが、このデモでは更に質感も変えられるようになっている。スクリーンを撮影したものではわかりにくいと思うが、最初はレザー風の素材で、次はベルベット風の布地のジャケットに変えられている。
更にはGジャンに着替えたり、ボトムをスカートにしたり、髪型までもが変えられる。
だが、それだけでは終わらない。このように好みの衣装や髪型に変えた状態で再び先程のカットシーンを即座に動かすことが可能なのだ。そしてレイトレースによって、これだけキャラクターをがらりと作り変えても、影がきちんと表現されているおかげで違和感がない。
ここから先は少し駆け足になってしまうが、実際に使用されている技術の解説になる。まずはキャラクター制作における課題を黒坂氏が2018年に抜き出し、そして現時点では赤文字の部分はクリアしたもの、そして今後の課題は黄色の文字の部分だと考えているそうだ。そしてその中でもポリゴンリダクションとSkin、メラニン/ヘモグロビンについては共同研究という形で進めていっているという。
代わって登壇した長谷川氏は、何故共同研究を行っているのか、そして共同研究組織について語った。共同研究である一番の理由はリソースが足りなく、全てをまかないきれないことにあり、大学の研究室などを共に共同研究を行っているという。そのひとつがニュージーランドの大学。CGやVR方面での協力を仰いでいるとのこと。もうひとつは九州大学で、こちらは数学を産業に活かそうとしているそうだ。
では実際にどのようなことに取り組んでいるのかというと、課題例として肌の色を挙げた。肌の色とは単純な白、黄色、黒といったものではなく、メラニンやヘモグロビンが肌の状態変化に与える影響についてだ。例えば怒っているなどの感情変化による顔色の変化、戦闘後などの疲労による体調変化による顔色の変化などはヘモグロビンによるもので、それによって顔の色がどう変わるかを考えなければならないのだという。
また、色んな表情をキャプチャーすることでヘモグロビンの変化量を知ることが出来、鼻まわりのヘモグロビン量を実際のCGに反映させたところ、より一層人間らしさが増したのがわかる。
もうひとつの課題例は、ポリゴンリダクション。モンスターひとつを作るのにもあまりに大変な作業で、どうしても細かいところは仕方ないにしても、どうにか機械化できないかと模索していたという。
例えば細かい頭の部分は手作業で、ポリゴン数の少なく脚の部分はツール化できないか、など色々試行錯誤を重ねたそうだ。
だが実際にツールで作ったものと、手作業で作ったものを比較してみると、その差は歴然。なかなか思い通りにならないし、減らしたい部分のポリゴン数が減らせないなど、様々な問題があった。
そこで周波数成分でジオメトリ処理を行ってはどうか、というところに辿り着いたという。ジオメトリ処理で、不要な部分を削ったり、あるいは必要なところだけを強調することもできるようになったそうだ。
続いてはキャラクターセットアップについて、岸氏が登壇。「BackStage」の開発は、スクエニにも協力をしてもらっているとのこと。
並行作業のためのツールであるセットアップパイプラインはかなり細かく分かれているが、モデルの合体、骨の合体、ウェイトの合体、分割、更にはそのウェイトも部分ごとに分けて更なるセットアップパイプラインが作られている。
続いてはフェイシャルリグを作るにあたって使った技術。フェイシャルリグとは、キャラクターの様々な顔のパーツをビジュアルを見ながらいじることができるもので、設置されているマーカーの数からもどれだけ細かいところまでいじることが出来るのかわかるだろう。
実際にモデルに40パターンの表情を表現してもらい、それをCGのベースモデルにリターゲットするまでの流れ。骨格にジョイントを入れて40パターンの構図を一致させたり、スパイクの除去はSSDRにて手修正で行う。 |
衣装リグは、グリッドメッシュでいかに基本的な埋め込みが出来るかが重要になってくるという。可動範囲の設定や、グリッドメッシュのスキニングによって、服の袖の細かいところを調整していく。
また、髪については「Luminous Hair」で緑の玉がノード。「Luminous Hair」をJointにバインドし、BonamikでSimulationという流れになる。今後は、更なるクオリティアップと作業の効率化を目指すということだ。
代わって登壇したのは、蓮尾氏。キャラクターモデル制作パイプラインについて、これまではMAYA上で作って実機データを作成していたものの、衣装違いなどはバリエーションの分だけエクスポートが必要だった。現在取り組んでいるのは実機で合成することだという。
そして次はシェイプブレンディング。「FF15」のDLC「戦友」のアバターシステムでも採用したものだというが、ソースシェイプとターゲットシェイプの2点補間ではなく、複数のターゲットを加算ブレンドする仕組みに拡張。Compute Shaderで計算し、描画メッシュとして出力。「BackStage」ではフェイシャルの複数ターゲットブレンドで利用しているという。
そして再び「Luminous Hair」の話題になるが、「Luminous Hair」の特徴は「MAYA Hair」から更に特化させたものだという。頭皮にいくつかのカーブデータが置かれており、このカーブデータに毛束の毛の数を増やしたり、毛の太さを変えたり、毛先の細さだけを変えたり、長さをバラつかせたり、毛束の根本の太さだったり、カール具合など、ありとあらゆる変更ができるようになっている。
もちろん「Luminous Hair」も様々な体型に柔軟に対応可能で、まったく同じデータを持たせたまま、通常の体型の男性でも、肥満体型の男性でも違和感なく動かすことが可能となっている。
最後に、現状は各衣裳は各体系に合わせてDCCツールでモデリングしているのに対して、今後は衣装アセットのシェイプターゲット生成自動化を挙げた。ベースとなる素体にフィッティングさせた衣装のみをモデリングし、「Luminous Hair」と同様にブレンドするターゲットにあわせて衣装を自動でフィッティングできるようにしたいということで、そのためにはCloth SimulationやAIの活用が必要になってくるだろう。これが実現できればアセットに割く時間を大幅に減らすことが出来る、とセッションを締めくくった。