2020年1月23日にNintendo Switch版が配信された、ジャンルの異なる5つの作品が楽しめるマルチジャンルゲーム「198X」を紹介。美しいピクセルアートで、青春ドラマの一端を描きます。
「198X」。否が応でも「1980年代」という言葉と時代が頭に浮かぶタイトルです。2020年から数えて40年前という事実に、80年代中盤生まれの筆者は思わず慄いてしまいます。
携帯型の液晶ゲーム「ゲーム&ウオッチ」が世に出たのが1980年。その3年後には「ファミリーコンピュータ」が生まれ、85年には「セガ・マークIII」が登場。87年に「PCエンジン」、翌年に「メガドライブ」、そして89年には「ゲームボーイ」と、各メーカーが試行錯誤を重ねながら次々に名機が生まれた年代です。
ソフトでは「スーパーマリオ」シリーズはもちろんのこと、「ドラゴンクエスト」「イース」「メタルギア」「女神転生」「ファイナルファンタジー」などなど、現代にも連なる名作が産声を上げた時代でもあります。黎明期を経て、オリジナリティ豊かなタイトルが生まれ始めていました。
もっとも、これは家庭用ゲームの話。これらに先駆けて、非常に独自性の高い作品が人々を楽しませていた場所がゲームセンターでした。つまり、アーケードゲームです。
ゲームファンで知らない人はいないであろう「パックマン」がリリースされたのが1980年ちょうど。その後も「ギャラガ」「ドンキーコング」「ツインビー」など、後世に語り継がれる名作が人々を熱狂させました。
1980年代というのは、ゲームというエンタメにとってそれだけエポックメイキングな時代。そんな時代のアーケードゲームと、思春期を迎えた主人公の心象風景が交差するマルチジャンルゲームが「198X」なのです。
子供と大人の狭間でアーケードゲームに出会う
本作はタイトル通り1980年代、はるか遠くに大都会の高層ビル群が見える郊外の街・サバービアが舞台。主人公の「キッド」はこの街で生まれ育ち、愛着を抱きながらも、代わり映えのしない日々と問題を抱える家庭に閉塞感を覚えていました。
そんな主人公がふと足を踏み入れたのが、“アンダーグラウンド”であるゲームセンター。いかにも一筋縄ではいかなさそうな「はみ出し者」たちが集うここでは、未知なる世界への扉が所狭しと並び、キッドはそれに魅了されるのです。
さまざまなゲームに触れる時間だけ、キッドは新しい世界に行ける。違う自分になれる。そうして没頭するゲームを、プレイヤーは実際にプレイすることができます。
そのジャンルはベルトスクロールアクションからSFシューティング、レースゲーム、忍者アクションなど実に多彩。プレイできる時間が膨大なわけではありませんが、その作りは非常に本格的です。この「ゲームの中のゲーム」に、キッドと同じくいつの間にか没頭している自分に気づくことでしょう。
これはある程度年齢を重ねた人特有の感覚かもしれませんが、昔のゲームを今遊んで、“懐かしさ補正”を抜きにしても楽しかった経験がないでしょうか。
本作で遊べるアーケードゲームも同じです。凝ったゲーム性やリッチな3Dビジュアルを備えていなくとも、ゲームは昔から変わらず楽しい。もしかすると、シンプルなゲーム性だからこそ、スッと入り込んで熱中できるのかもしれません。しっかりと歯応えも感じさせる内容になっていますよ。
一枚一枚に心奪われるピクセルアート
「198X」をプレイしていて驚かされるのが、出てくるピクセルアートの一枚一枚が、とにかく美しいことです。
キッドの日常、遊ぶゲーム……すべてがリッチなピクセルアートで表現されています。その枚数も半端なものではなく、シーンが移り変わるたびに美しい光景が目の前に広がります。まるで良質な映画を見ているかのよう。
ドット絵というと日本では「懐かしさ」とイコールになりがちですが、海外ではそうとも限らず、表現の一つとして受け入れられています。1980年代という時代を表現する上で、レトロさを感じさせるピクセルアートを選択したのだろうと推測しますが、決して古臭さを覚えさせないのが本作のビジュアルの大きな魅力です。
緻密なピクセルで描かれたグラフィックとアニメーションは美しいの一言。そんなピクセルアートとキッドの独白で描かれるのは、自由への渇望と逃れられない責任との間に揺れる思春期の「苦悩」とも言うべき心象風景です。
その描写は実にシネマティック。静かに味わうモノローグと、熱中するゲームプレイの双方が堪能できます。ローカライズ「UNDERTALE」「ショベルナイト」などを手掛けたハチノヨンが担当。確かな言葉選びでしっかりとストーリーに惹き込んでくれます。
なお、本作はプロローグ的作品になっており、数時間でクリアできるボリュームになっています。気軽にプレイでき、かつ味わい深い作品を遊びたい人にはぴったりです。
今後は開発を担うHi-Bit Studiosが準備するゲームへと続くとのこと。とても印象的だったラストシーンから、キッドがこれからどんな歩みを見せるのか、楽しみでなりません。