2020年2月20日に発売されたPS4/Nintendo Switch用ソフト「ペルソナ5 スクランブル ザ ファントム ストライカーズ」を紹介。「ペルソナ5」の後日談が描かれる、シリーズ初のアクションRPGだ。
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「ペルソナ5 スクランブル ザ ファントム ストライカーズ」は、「ペルソナ5」のその後を描いたアクションRPGだ。…そう、こんな肝心なことすら、筆者は忘れかけていた。何しろ格闘ゲームからリズムゲーム、ダンジョンRPGと、スピンオフの多い「ペルソナ」シリーズである。今回もその例に漏れず、楽しくお祭り気分を味わう気でいたのだ。
しかしながら、冒頭をプレイした時点で、その考えはシャドウよろしく吹き飛んでしまっていた。渋谷の“スクランブル”交差点から始まる怪盗団の物語は、紛れもなく「正統続編」。初となるアクション要素はもちろん、ストーリーやUI、サウンドなどどこをとっても、前作の繰り返しにならないような工夫がなされていたのだ。
新規参入も予想されるスピンオフタイトルでありながら、続編の役割を華麗に果たした本作。本稿ではその魅力を、30時間ほど遊んだシリーズファンの視点から語っていく。
なお、都合上どうしても本作および「ペルソナ5」の内容を含んでしまう部分がある。本作から「ペルソナ5」を知った人のために極力ネタバレは避けるが、その点はどうか留意していただきたい。
“許さぬ”改心から“赦す”改心へーシリーズファンと初心者両方にリーチしたストーリー
本作の物語は、「ペルソナ5」のエンディングから約半年後の夏休みから始まる。久しぶりに「心の怪盗団」のメンバーと再会した主人公(ジョーカー)とモルガナ(モナ)は、思い出話に花を咲かせたり遊びの計画を立てたりと、来たる夏休みに胸を躍らせていた。しかし、とあるきっかけから見知らぬ異世界・ジェイルへと迷い込んでしまう…というのが本作の大まかなあらすじである。
あらすじを見て、「やはり本作はシリーズ経験者向けなのでは?」と感じるのは、この時点ではある意味正解である。しかし、今作からの新キャラクター・ソフィアと長谷川善吉の登場によって、筆者の印象は180度変わった。
ソフィアは、主人公たちがジェイルで出会う謎の少女。「人の良き友人」になりたい彼女は人間の“心”が分からず、たびたび主人公や怪盗団のメンバーにその意味や意義を問いかける。
長谷川善吉は、警視庁公安部に所属する公安警察官。大人として怪盗団をサポートしてくれる裏で、なにやら別の目的を匂わせる男だ。
二人に共通しているのは、怪盗団の「仕事」に深く関わる存在でありながら、初々しい目線を提供してくれる点だ。つまり、「ペルソナ5」クリア済のプレイヤーが当然のように理解している点を、二人は改めて問うてくれるのである。シリーズ未経験者は、二人の疑問やリアクションに大いに共感できるだろう。
また、シリーズ経験者にとっても二人の反応は新鮮に映る。それだけでなく、怪盗団の信条や心意気、そしてメンバーそれぞれの成長を、ソフィアは少女の視点から、善吉は大人の視点から、プレイヤーに感じさせてくれるのだ。
加えて、怪盗団が迷い込む異世界・ジェイルとその主・王(キング)も、前作とはあらゆる意味で異なる。「ペルソナ5」で、怪盗団の面々は反逆の意思を糧に、歪んだ大人=パレスの主に立ち向かっていた。悪人を許さぬ心、蔓延る不正を許さぬ心、そして自らを貶める理不尽を許さぬ心によって彼らはペルソナを発現させ、悪人を改心させていたのである。
一方、今回怪盗団の敵となるのは、完全に悪人とも言い切れない王(キング)。嫉妬や自責の念によって弱った心に逃げ道を与えられ、歪んでしまった存在だ。怪盗団は赦しの心をもって、そうした存在を改心させていく。ここに、前作との大きな違いがあるのだ。しかも今回の敵は、必ずしも自分たちを直接苦しめる者ではない。自らの心の問題を乗り越え、大人に一歩近づいた怪盗団は、今度は他者のために改心を行うのである。
日本各地津々浦々、仲間の存在を常に感じられる調査パート
最初のジェイルで事件を解決した怪盗団は、純喫茶「ルブラン」のマスターである佐倉惣治郎の手を借り、キャンピングカーに乗って日本各地の事件を解決することになる。ゲームの本番はここからといってもいい。北は北海道、南は沖縄まで各地で発生する調査パートで、プレイヤーはジェイルの王(キング)である疑いのある人物について、噂を集めていく。
調査をする中で感じたのは、仲間との一体感だ。「ペルソナ5」では、メンバーとの交流はあるものの、基本的には主人公の単独行動(モルガナも一緒だが)だった。しかしながら、今作では常にマップに仲間がおり、一緒に調査を進めている感覚を味わうことができた。
また、思い思いに観光を楽しむ仲間と話すだけでなく、リクエスト(サブクエストのような依頼)を頼まれることも。達成すると装備品などの報酬が手に入るので、積極的に会話することをおすすめする。
もちろん、旅につきもののイベントも満載。怪盗団結成の過程から丁寧に描かれた「ペルソナ5」とは打って変わって、夏祭りや温泉、海水浴など、OVA的な特別感のあるものが揃っており、前作ではあまり見られなかった掛け合いも楽しめるのが魅力だ。
さまざまなアクションを華麗に発動!戦闘以外にもこだわりを感じたアクション
王(キング)を赦すからといって、シャドウに容赦するいわれは無い。初となるアクションに「ペルソナ」シリーズでおなじみのRPG要素が加わることによって、プレイヤーは目の前のシャドウをいかに効率よく、スタイリッシュに蹂躙するかを選べるようになった。
ダウンを奪うと追撃することが出来る“1MORE”はもちろん、環境を利用したアクションや銃撃、総攻撃など、選択肢は多岐に渡る。ここで印象的だったのが、混乱させることのないように工夫されたチュートリアルだ。チュートリアルは、初めから全てが表示されるのではなく、一部を除いて詳細はメニューから任意でという方式。ここにも、キャラクターをよく知る人と知らない人、とりあえず触って覚えたい人と動かし方をまず知りたい人、両者への配慮がなされていた。
今作のバトルを語るのであれば、新要素「SHOWTIME」も外せないだろう。敵に攻撃などをしてゲージを貯めることで発動できるSHOWTIMEは、どれも迫力満点。メンバーとペルソナの信頼関係を感じさせるものとなっている。威力も相当なものなので、ぜひ狙っていきたい必殺技だ。
また、「バトンタッチ」も前作から形を変えて登場。ジョーカーを含む、操作キャラクター4人を自在に入れ替えながら戦うことができる。SHOWTIMEゲージが貯まりやすくなるなどメリットも多く、戦闘中に仲間から提案を受ける「スクランブルアクション」によって、自然とバトンタッチが行えるようになっていた。
また、新たな異世界「ジェイル」でのアクションも爽快だ。ファンにとっては、怪盗団のメンバーを直接操作できるだけでもとてもうれしい。それだけでなく、操作キャラ以外のメンバーも各自でカバーアクションを行ってくれたり、そのモーションもメンバーごとに違うなど、細かなこだわりが見える出来栄えには感動してしまった。
今作でも主役級!相変わらずスタイリッシュなUIと音楽
ストーリーやアクションを支える存在であるUIや音楽。しかし「ペルソナ」シリーズでは、いつも主役級の存在感を見せてくれる。今作でもそのスタイリッシュさは健在だ。オプションボタンから入るメインメニューは、ジョーカー中心だった前作のUIとは一変。より仲間と一緒にいる感覚を味わえるものになっていた。また、料理のメニューでは料理法によってSEが変わる(カレーならグツグツと煮込む音)など意匠が凝らされており、いい意味で一瞬も気が抜けない。
プレイを盛り上げるBGMも、相変わらずクールだ。既存曲とアレンジが程よいバランスで収録されており、懐かしさと新しさを味わうことができた。アレンジ曲は「無双」シリーズのロックな曲調も意識されているようで、勢いよくジェイルを突破する怪盗団にぴったりなものとなっている。
正直、筆者は本作を舐めていた。楽しく遊べるスピンオフ作品だと。しかし、30時間プレイした中で、確実に進化と新しさを感じることができた。続編にありがちな繰り返しを防ぎ、なおかつ新たな要素が、経験者と初心者の両方が楽しめるようにバランスよく置かれた本作。怪盗団だけでなく「ペルソナ5」というシリーズ自体の成長も感じられる、まさに「正当続編」である。