現在放送中のTVアニメ「ひぐらしのなく頃に業」および、PS4/Nintendo Switchで発売された「うみねこのなく頃に咲 ~猫箱と夢想の交響曲~」。ここでは、「なく頃に」シリーズ両作の魅力を紹介していきます。
※本記事では、「うみねこのなく頃に」序盤の展開のネタバレを含んでおりますので、ご注意下さい。
竜騎士07さんが主催する同人サークル「07th Expansion」から発売されたノベルゲーム「ひぐらしのなく頃に」(以下、ひぐらし)。過疎化にあえぐ集落・雛見沢村を舞台に、連続怪死事件にまつわるエピソードを描いた作品で、謎が謎を呼ぶホラー・ミステリー色の強いストーリーがインターネットを中心に話題を呼ぶことに。
当時はTYPE-MOONが、「月姫」のヒットをきっかけに商業化を果たしている最中であり、同人におけるノベルゲームというジャンルが非常に熱い時代だったこともあり、またたく間に大ヒット。その後はTVアニメ、実写映画化、CSゲーム、ソーシャルゲーム、パチスロなど、あらゆるメディアミックスが行われる大人気シリーズとなりました。
そんな「ひぐらし」ですが、現在放送中のTVシリーズである「ひぐらしのなく頃に業」の放送をきっかけに、再び大きな盛り上がりを見せつつあります。
基本的に「ひぐらし」は、それぞれが「○○編」と銘打たれた連作方式のストーリーで構成されており、新アニメはその最初のエピソードである「鬼隠し編」のリメイクからスタートする作品になるだろうと、多くのファンは予想していました。
しかしいざ放送が始まると、「鬼隠し編」をベースにはしながらも、次第に異なる展開が見受けられるようになっていきます。さらに放送前に隠されていた「業」という新タイトルもサプライズ的に明かされると、一気にファンからの注目が集まるようになっていきます。
元々「ひぐらし」シリーズは、ノベルゲームでありながら選択肢が一切存在しないという、サウンドノベルというジャンルの中でも一風変わった、ゲーム要素を排除した作品なのですが、その代わりに「作中に提示される謎をプレイヤー自身が推理する」という点がゲーム性として機能していました。今回は誰もが視聴しやすいTVアニメという媒体で、新たな「ひぐらし」の謎に挑戦できるということもあり、隠された真相に対する考察が大いに盛り上がっています。
元々「ひぐらし」は、「正解率1%」というキャッチコピーが使われていたほど(これは第1作である「鬼隠し編」公開時、原作者である竜騎士07氏の元に届いた100通の考察メールの中から、1通だけ真相に迫っていたものがあったというエピソードを元にしたもの)、難易度が高いものとなっていたのですが、「業」で提示される謎の数々は、設定を知り尽くしたシリーズファンであっても匙を投げそうになるほど。
とくに、旧シリーズの流れから完全に異なる展開を見せた「猫騙し編」からは、原作最終エピソード「祭囃し編」でループからの脱出の鍵を握る救世主のような存在であった赤坂が登場するも、あまりにも衝撃的すぎる結末を迎えるなど、予想外の展開が連発。旧作で真相を知っているファンであればこそ、より衝撃を受ける作品となっているので、「ひぐらし」ファンなら是非TVアニメもチェックしてみてください。
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本編のCS移植版となるPS4/Nintendo Switch「ひぐらしのなく頃に奉」(画像左)、 iOS/Android向けアプリ「ひぐらしのなく頃に 命」(画像右)がそれぞれリリース。 どちらも「業」とは異なる物語が描かれています。 |
そんな今非常にアツい「ひぐらし」ですが、2021年1月28日には、エンダーグラムよりPS4/Nintendo Switch向けに「うみねこのなく頃に咲 ~猫箱と夢想の交響曲~」が発売されました。この「うみねこ」と「ひぐらし」は、直接的なストーリーの繋がりこそないものの、どちらも「なく頃に」という同じシリーズの作品として作られており、主にメインストーリーが8つのエピソードによって構成されているという点も共通しています。
まず「ひぐらし」では昭和58年、「うみねこ」は昭和61年と、非常に近い時代が舞台となっており、プレイヤーが惨劇の謎に挑むミステリー的な要素も共通点。山奥の寒村である雛見沢が舞台だった「ひぐらし」に対し、「うみねこ」では六軒島と呼ばれる孤島で惨劇が起きることになるのですが、台風によって外界との連絡手段が途絶えてしまい、数日の間絶海の孤島と化してしまいます。
雛見沢のような山奥の寒村がホラーの王道なら、この孤島モノというのは、「クローズド・サークル」とも呼ばれる、ミステリーの定番中の定番(アガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」や、綾辻行人氏の「十角館の殺人」などが非常に有名)。ホラー要素が強めの「ひぐらし」に対し、「うみねこ」はミステリーの要素が強い作風となっています。「探偵自身は犯人になっていはいけない」「未知の毒物を使ってはいけない」といった、「ノックスの十戒」、「ヴァン・ダインの二十則」と呼ばれる、ミステリーのある種お約束のようなミステリーのルールが作中にも出てきたり、初心者がミステリーというジャンルを知る作品としてもオススメできます。
ただし、「うみねこ」の世界で発生する惨劇は、ミステリーの領域を越えた、人間の手では到底不可能な犯行と思えるものばかり。六軒島には、元々ベアトリーチェという魔女が存在するという言い伝えがあり、ベアトリーチェが魔法によって殺人を行った……という疑惑が島を支配していくことになります。
ここまでは、綿流しの日に起きる殺人を「オヤシロ様の祟り」と捉えていた「ひぐらし」に近いのですが、さらに「うみねこ」では、この惨劇が起こる世界を俯瞰する階層の世界(ファンの間では上位世界とも呼ばれます)が入り混じり、魔女・ベアトリーチェと、主人公である右代宮戦人による推理対決が行われていくことになります。
魔女が実在し、惨劇はすべて魔女の魔法によるものだというベアトリーチェに対し、戦人は魔女は存在せず、犯行はすべて人間によるものと主張。この「ファンタジーvsミステリー」という異なる2つの派閥の対決こそが「うみねこ」最大の見所で、魔女に屈するか、立ち向かうのかが、プレイヤー自身に問われることになります。
「ひぐらし」においても、羽入という一種の超常存在が実際に存在していたように、「うみねこ」の世界においても、魔女が存在している可能性が考えられるようにもなっており、「ひぐらし」を知っているからこそ、魔女側の主張に納得してしまいそうな構造になっているのも面白いところです。
同人ゲームとしてリリースされた頃の「ひぐらし」界隈では、現在の「業」と同様、それぞれのエピソードが公開される度に、惨劇を起こす犯人や事件の真相の推理をファンが披露しあう議論が非常に活発に行われていました。これをゲーム内の世界観に取り込んでいるのが「うみねこ」の画期的なところで、戦人とベアトリーチェの戦いは、プレイヤー同士が交わす議論のメタファーでもあります。
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魔法によって行われたとされる殺人の数々を、トリックによって可能だと証明するのが人間側の勝利条件。 そのまま物語を受け入れるのも良しですが、 ある程度自分なりの推理を組み立てながら読み進めるのがオススメの楽しみ方です。 |
原作の完結から約10年が経過した現在でも、この斬新さはまったく失われておらず、「見たことがないノベルゲームをプレイしてみたい」、「メタフィクション的な構造が好き」という人には、とくにオススメできます。
最初に述べた通り、「うみねこ」と「ひぐらし」の世界観は、そのまま地続きになっているわけではないのですが、「ひぐらし」で山狗部隊の隊長を務めた小此木と瓜二つの人物が、「うみねこ」では右代宮グループ(戦人の叔母である絵羽の会社)の重鎮として登場。他にも、古手梨花と瓜二つの容姿をもつ魔女・ベルンカステルに、鷹野三四との共通点が多数見られる魔女・ラムダデルタといった存在や、放送中の「業」にも、「うみねこ」のキャラクターである天草十三にそっくりな人物の姿がちらりと登場する一幕も見られました。
「うみねこ」における上位世界の構造を「ひぐらし」側にも適応して物語を読み解こうとするファンも少なくなく、「ひぐらし」を知ることで「うみねこ」が、「うみねこ」を知ることでより「ひぐらし」の世界を楽しめるようにもなります。
また楽曲の素晴らしさも、「うみねこ」を語る上で欠かせない要素です。あの「ひぐらし」を代表する大人気曲「you」も作曲したdai氏が、「うみねこ」でも引き続き主要BGMを担当。他にも多数のメンバーが楽曲を提供しており、どの楽曲も最高峰のクオリティを誇る上、曲数も200を優に超えるという尋常ではないボリュームを誇ります。あらゆるノベルゲームの中でも、「うみねこ」を超える曲数のゲームは存在しないのではと思えるほどです。
「ひぐらし」のCS移植版では、元々原作が一部フリー音源の楽曲を使用していた事情もあって、一部BGMの差し替えが行われているのですが、その点「うみねこ」では、リマスターによってさらにクオリティを上げた原作の楽曲がすべて収録されているので安心です。
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筆者のイチオシは、様々なアレンジが存在するメインテーマに近い位置づけの「hope」、 処刑用BGMこと「Worldend dominator」、最初に流れる衝撃のシーンが忘れられない「Goldenslaughterer」など。 格好いい・熱い系だけではなく、怖い・不気味系の曲も何度も聴き直したくなるものばかりです。 |
また「ひぐらし」に負けず劣らず、超個性的なキャラクターが登場するのもポイント。「うみねこ」では大人の登場人物が多く、全体的に落ち着いた雰囲気の印象も受けるのですが、物語が進むに連れ、「ひぐらし」に負けずのぶっ飛んだキャラクター達が登場してきます。
中でも、上位世界における戦人の宿敵ともいえる黄金の魔女・ベアトリーチェの容赦のなさ、ドSっぷりは凄まじく、フルボイスとなるCS版では、TVアニメ版でもベアトリーチェを演じた大原さやかさんによる熱演も必見。ただの悪役ではなく、非常に多角的な面をもつ、「うみねこ」の中でもダントツの人気を誇るキャラクターでもあります。
個人的には、後半のエピソードから登場するキャラクターである、桑谷夏子さん演じる古戸ヱリカもイチオシのキャラクター。ヱリカはとある事情から、ミステリーにおける探偵役として作中に登場するキャラクターなのですが、その捜査の方法が完全に常軌を逸しており(ネタバレになるため詳細は伏せます)、ファンの間では「変態探偵」という異名でも呼ばれるほど。
ベアトリーチェ同様決して善人ではない上、登場が後半ということもあって出番も限られるのですが、活躍シーンのインパクトの強さもあって、ファンからの人気も非常に高いです。「うみねこ」は2009年にTVアニメ化もされていますが、残念ながら後半のエピソードは映像化されておらず、ヱリカも未登場のまままので、その分ゲームで存分にその名変態……もとい名探偵っぷりを堪能していただきたいところ。
なお今回発売された「うみねこのなく頃に咲 ~猫箱と夢想の交響曲~」は、全8編からなるメインエピソードに加えて、初コンシューマ移植となる「翼」、「羽」、「咲」の3つの追加エピソードも収録したオールインワンパッケージ。本作をプレイすれば「うみねこ」の世界観をこれ以上ないほどに堪能することができるようになっています。
すでに一度原作やコミックで真相を知っているという方も、改めてエピソード1から再プレイすることで、当時とはまったく違った心境で楽しめるようになっていますし、とくに「ひぐらし」をきっかけに「なく頃に」シリーズに興味をもった方には、「ひぐらし」とはまたひと味違ったノベルゲームの魅力を知ることができる作品にもなっていますので、是非ともプレイしていただきたいです。