1月29日、LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)にて、「ストリートファイター35周年記念ライブ」が開催された。
今回のライブでは、初代「ストリートファイター」からeスポーツとして競技化もした「ストリートファイターV」、そして2023年6月2日に発売を控えている最新作「ストリートファイター6」まで、35年間も対戦の陰でファンを支えてきた名曲の数々が、生演奏で披露された。
「ストリートファイター」シリーズ初の音楽ライブの模様を、作品の思い出に浸りながらお届けしていこうと思う。
まずは開幕、暗転とともに演奏が始まったのは「ストリートファイターII」のオープニングテーマ。駄菓子屋やゲームセンター、なによりスーパーファミコン版で耳にした人も多いのではなかろうか。今回のライブでは演奏のほかに、バックでプレイ映像や立ち絵が表示される演出があり、プレイヤーの思い出がより引き出される演出も特徴的だった。
そして、コイン投入音とともに次の曲へ。太鼓のイントロから流れたのは、「ストリートファイターII」といえばこの曲、リュウとケンのステージ曲メドレーだ。朱雀城(リュウステージのお城の名前)の上や、ボートを背景に戦った日々を思い出すようだ。シンセサイザーを軸に現代風のアレンジが入っており、おなじみのメロディーをひとしきり演奏した後のアレンジソロパートはゲームに実装してほしいくらいのカッコよさだ。
開幕の演奏が終わると、当日の司会進行を務めたニッポン放送アナウンサーの吉田尚記さんと、ストリートファイター開発チームの浦沢賀奈氏が登壇し、「STREET FIGHTER 35TH ANNIVERSARY ORIGINAL BAND」(以下、特別バンド)を紹介。マニピュレーターなどを担当した幡宮航太さんのリュウ風衣装を筆頭に、それぞれストリートファイターのキャラクターの特徴をワンポイントで身に着けており、ストリートファイター愛が存分に伝わってきた。
その後、再び演奏へ。「ストリートファイターV」から中国ステージ、ラシードのテーマ、SFLの決勝などで使われるステージのBGM「Ring of Destiny -Ring Stage-」が演奏された。現行タイトルという事もあり聞く機会の多い楽曲だが、バンド仕様のアレンジが秀逸で新鮮な気持ちで楽しめた。
ラシードのテーマ曲「Theme of Rashid」では、途中「ラーシードー♪」と声が入るパートがあるが、もちろんきっちり再現されており「自己紹介来たッ!」と謎のテンションの上がり方をしてしまった。実は意外と声が入る楽曲が少ないストリートファイターの楽曲。なかでも自分の名前がテーマ中にコールされるというのはなかなか珍しいのではなかろうか。
続いては「ストリートファイターIII」「ストリートファイターIV」の楽曲メドレーに。「ストリートファイターIII」からはダッドリー、ヒューゴー、リザルト画面のメドレーとQのテーマ。「ストリートファイターIV」からはCヴァイパーのテーマ、ユンのテーマ(AEアレンジ)、キャミィのテーマが演奏された。
「ストリートファイターIII」のテーマは全体的に電子音多めのストリート系ミュージックといった感じで、今回のライブにもマッチしていたのではないかと思う。ダッドリーのテーマはおしゃれに、ヒューゴーのテーマはロックな感じに仕上がっており、後ろのプレイ映像で春麗にボコボコにされるヒューゴーを見ながら思い出がふつふつと蘇ってきた。Qのテーマも不気味さが癖になる感じで、設定上“全てが謎”というQにピッタリな曲だなと改めて感じた。
「ストリートファイターIV」のBGMはEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)のようなものが多く、筆者も死ぬほどやりこんだタイトルということもあり涙腺に直に響いた。IVからの新キャラクター、Cヴァイパーのテーマ、使用人口が多かったユンのテーマなど耳なじみの曲ばかりで気分は同窓会といった感じだ。
なかでもキャミィのテーマは筆者もお気に入りの曲で、シャドルーに洗脳されていた過去(※)を受け入れ、未来へ歩みだした強さが感じられる力強いサビが本当に素晴らしい一曲。元々切なさのあるメロディーがピアノアレンジでさらに引き立っており、筆者はここで演奏の素晴らしさと思い出の数々に涙腺が崩壊した。高速ギターパートを見事に演奏しきった、ギターの魚住有希さんにも心からの賛辞を贈りたい。
※キャミィは元々、ベガの秘密結社シャドルーの洗脳女性部隊ドールズに属していた。「ストリートファイターIV」ではドールズ所属時代に犯した罪に悩みながらも、未だシャドルーで洗脳状態にある仲間たちを助けるべく立ち上がる姿が描かれた。ちなみにドールズからキャミィを救ったのはバルログという話も。
キャミィのテーマの演奏を終えると、特別バンドは一旦降壇し、「カプチューン」が登壇した。カプチューンはこれまでロックマンのアレンジアルバムなども出しているカプコン公式バンドで、SEなどを製作するサウンド室のメンバーで構成されている。
カプチューンは「ストリートファイターV」よりダンのテーマ、「ストリートファイター6」よりジェイミーのテーマ「Mr. Top Player」、ルークのテーマ「Taking Aim」(カプチューンアレンジ)を演奏。生演奏のダンのテーマによって、普段は情けないキャラクターという印象のダンも、この日ばかりは非常にかっこよく見えた。背景のプレイ映像ではサガットにやられていたが……。
続くジェイミーのテーマは、ジャズ的な要素もありつつ非常に“ノれる”ポップな曲だが、キャラクターのカッコよさもあってか、カッコいい! という感じより、シブくキマっているような感覚を覚えた。その次のルークのテーマはカプチューンアレンジが入っており、YouTubeで公開されている曲と併せて、ぜひ聞き比べをしてみたいところである。今回演奏されたアレンジバージョンも、ぜひ「ストリートファイター6」に実装してほしいところだ。
演奏が終わるとゲストの「ザ・リーサルウェポンズ」の二人が「昇竜拳が出ないよ!」と舞台に殴り込んできた。カプチューンの岡田信弥氏が壇上で“カスタマーサポート”を行い、無事に昇竜拳を出すことに成功、そのままケンのステージ曲をアレンジした「昇竜拳が出ないfeat.カプチューン」の演奏に入った。
「ストリートファイターII」をプレイした人なら誰しも「わかるわー」と共感してしまう歌詞の本楽曲。「指紋が削れる回転コマンド」や「OPでケンカするあいつらは誰やねん」などクスっと笑える歌詞は「ストリートファイターII」好きにはたまらないのではないだろうか。YouTubeでカプコンとコラボしたMVも見れるので、見たことが無いという人はぜひ一度チェックしてみてほしい。
「昇竜拳が出ないfeat.カプチューン」が終わると、歌詞にも登場した下村陽子氏が登壇した。下村氏は「ストリートファイターII」に登場する音楽たちの生みの親であり、この日も開発当時の貴重なエピソードを披露した。
開発当時は機材などもまだ古く、生音とは違う音だったという下村氏。今回のライブで生演奏を耳にし、「意外と私カッコいい曲書いてたんだな」と感想を述べる。効果音やボイスも含めて下村氏が制作しており、当時は容量との兼ね合いが非常に難しかったという。納期が厳しい中、朝の7時に工場へ基盤を運ぶトラックに駆け込んだというエピソードや、会社にいて気が付くとセキュリティがかかって出れなくなったのでそのまま泊まり込みで仕事をしたというエピソードも語られた。「もう時効ですかね」と笑いながら下村氏が話していたが、そういった苦労の末、あの曲たちが生まれていると思うと頭の上がらない思いである。
「ALPH LYLA」(※)時代からのファンだという浦沢さんからは「昇竜拳が出ないfeat.カプチューン」の感想について質問が。下村氏は「私も昇竜拳出ない人だったのですごくわかります。カッコよくて、でもすごくキャッチーで。そんな曲の歌詞にまでしていただいて、作っていた時は自分の名前が歌詞になるなんて夢にも思ってなかったので、リーサルウェポンズさんには興味があってほかの曲も聞かせていただいてます」と笑顔で答えた。
※カプチューンのように、サウンドチームで結成されたバンド。女性メンバーを中心に構成されており、下村氏も当時所属していた。
また、ダルシムステージの象の鳴き声や、春麗ステージの自転車ベル音も作っていたという下村氏。世界中のステージが登場する「ストリートファイターII」だが、下村氏は海外には当時いったことがなかったという。本やテレビを基に想像で作曲しており、開き直って「これは想像の世界だ!」とのびのびと楽曲作りをしていたそうだ。当時はネットなどもなく、海外出張の際にサンフランシスコのゲームセンターやスペインのバルで筐体を見たときに、人気を初めて実感したという。
ここで、同じ開発者としてカプチューンから岡田氏、辻野泰之氏、寺山善也氏が登壇した。開発者らしい悩みとして、辻野さんからは「ストリートファイターII」のSE、特に強パンチのドゴォッ! というヒット音の“太さ”を越えられないというお悩みが。下村氏は当時、パンチやキックの音を作ったことが余りはなく、作っていったROMが全部没になってしまうほど苦戦したそう。本来はROM一つに様々なデータを入れるそうだが、一つのROMに打撃音だけを収録し、本人曰く「ヤケクソとこの野郎の精神」で提出したそうだ。辻野氏も「“ヤケクソとこの野郎”に僕は勝てなかったんですか(笑)」と冗談交じりにコメントした。
続けて寺山氏から「ストリートファイター6」のPVについて、感想を聞きたいと質問が。下村氏は「ゲームに声入りの曲をいれるのは難しいと思うが、すごく技名や歌詞が聞きやすく、すごいことをしている」と、専門家ならではの深い感想を語ってくれた。
下村氏とカプチューンメンバーによるトークショウが終わると、再びカプコン特別バンドが登壇し「ストリートファイターII」よりガイルステージ、春麗、エドモンド本田ステージのメドレーを演奏。管楽器も合流して、より豪華な演奏が始まった。
なかでも春麗ステージでは中澤まどかさんによるフルートが非常に印象的で、篠笛風の巧みな演奏で世界観を演出していた。続く本田ステージではさらに和太鼓も入ってきて、和風な演奏を堪能し、「きちんとキャラクターのお国柄が感じられるストIIのBGMってすごいな」と感動を覚えた。世界各地の雰囲気が楽しめるのも「ストリートファイターII」の良いところだろう。
旅行気分を楽しんだ後には、シャドルー四天王メドレー(M.バイソン、バルログ、サガットステージBGM)が演奏された。バイソンのテーマはファンの間でもカッコいいと評判だが、それがシンセサイザーに加えてトランペット、サックス、トロンボーンの管楽器によって演奏される様を想像してみてほしい。先ほどのお国柄の話ではないが、なぜか夜のラスベカスをはっきりと感じられる本楽曲、このカッコよさは他では味わえないだろう。
続くバルログのテーマは優雅で華麗なイメージという人が多いと思うが、今回のライブでは激しいエレキギターを軸に演奏が行われた。この曲を聴くと「ヒョォオオ!」と、思わずバルログの掛け声を脳内再生してしまう。対照的に、サガットのテーマは落ち着いてどっしりとした曲調を活かし、管楽器の3人による重厚なサウンドが楽しめた。こちらはサガットよりも、後ろで寝そべった仏像が頭をよぎるという人が多いのかも?
演奏後、寺山氏と辻野氏が再び登壇し、ストリートファイターの音楽について貴重な話を聞かせてくれた。なかでもルークのBGMについて「実はストリートファイター6の方が先に作られていた」という寺玉さん。曰く、「ストリートファイターVのルークは、ガイルに人生相談しているような悩める若者なので、荒々しい感じを曲に入れています。逆に6では新人ファイターを導く教官のような役割になっているので、大人っぽい感じの曲になっているんです。」と作品に合わせた曲作りについてお話をしてくれた。
また、「ストリートファイター6」のBATTLE HUB(「ストリートファイター6」のオンラインロビーのようなもの)については、“一定数の人数がいると曲が盛り上がる”という仕様を紹介してくれた。そのほかにも「ストリートファイター6」には様々な仕掛けがしてあるとのことなので、ますます発売が楽しみである。
もっといろいろなお話や曲が聞きたいところではあるが、ライブもいよいよラスト3曲となってしまった。ラストは「ストリートファイターIV」よりセス、「ストリートファイターIII」よりユリアン、「ストリートファイターII」よりベガの3曲を使ったボスキャラクターメドレーと、「ストリートファイターIII」より豪鬼ステージ曲「Killing Moon」が演奏された。
ユリアンのBGMというと、「ストリートファイターV」から始めた人は荘厳なBGMを思い浮かべると思うが、「ストリートファイターIII」のユリアンBGMはかなりハイテンポの激しい曲となっていて、初めて聞くと驚いてしまうかもしれない。兄・ギルへのコンプレックスを描いたようなBメロにも注目しつつ、聞いたことがないという人はぜひ一度聞いてみてほしい。
「またお前か」というくらい世界征服を目論むベガ様のBGMは、キーボードを軸にエレクトリカルに演奏された。演奏自体とは関係ないが、背景に映っていたベガの立ち絵を見て、「そういえばアンタ、昔は黒目あったな……(※)」と意外な再発見も楽しめた。後半のパートはかなりファンキーにアレンジされており、サイコパワーで戦うより、意外と飛んだり跳ねたりしていることが多いベガには似合っているかもしれないと思った。
※無印「ストリートファイターII」シリーズからスーパーへ移行する際に、全キャラクターの立ち絵が一新され、ベガの黒目もその時以降描かれなくなった。
そんなベガのテーマも、瞬獄殺のエフェクトともに一転。豪鬼のステージ曲「Killing Moon」へとシフトした。原曲よりも若干BPMを落とした仕上がりになっており、これはこれでカッコいい。各作品のエンディングで新技を開発しては次回作でそれを披露する豪鬼。「Killing Moon」の名の通り、そのうち本当に月くらい壊しそうなのでなんだか心配である。
長いようで短かったライブも終わり……と思いきや、お客さんからアンコールが。コロナ禍で声が出せないので、手拍子でのアンコールが行われた。
一体何を演奏するんだろう……と思っていると、アニメ「ストリートファイターII MOVIE」の主題歌、“あの”ドラムの入りでおなじみ「恋しさと せつなさと 心強さと」が演奏された。確かにこの曲以上に締めにふさわしい楽曲はないだろう。
背景で流れるプレイ映像も「ストリートファイターZERO」より、若かりし日のリュウとケンがタッグを組みベガと戦う“ドラマチックバトル”が流れており、作品すべての思い出が一気に押し寄せてくるような感動があった。やはりこの曲はストリートファイターの全てのプレイヤーの琴線に触れるのだろう。観客も手拍子で演奏に加わり、一体感を感じながらこの演奏を楽しんだ。
アンコールではおまけで、35thスペシャルメドレーも演奏された。こちらは「ストリートファイターII」の曲をベースにゲームのSEが入ったものとなっている。曲のみならず、実際に空振り音や「波動拳!」「昇竜拳!」という掛け声を聞くとなんだか実際に操作しているような気分になった。春麗の「ヤッター!」のSEでしめられた本楽曲をもって、今度こそライブが終了となった。
「ストリートファイター」の進化を生で見てきた中年代の人から、学生服を着た若者まで、幅広い客層が訪れていた本ライブ。改めて、シリーズが35年間も続いてくれたことへの感謝と、まだまだ続いていってほしいという願いを強く感じた。
本ライブの序盤で吉田さんが「音楽は思い出の扉を開く」というコメントをしていたがまさにその通りで、この2時間余りの時間で本当に様々な思い出が頭を駆け巡った。さくらやまことのテーマなど、「ストリートファイター」にはほかにもまだまだ名曲があるので、ぜひ第2回も開催してほしいところである。
対戦に情熱をそそいだ人であればぜひ聞いてほしい本ライブ。2月12日までオンラインチケットでアーカイブが視聴できるので、本記事を読んで気になった人はぜひ買ってみてほしい。
「ストリートファイター35周年記念ライブ」公式サイト
https://www.promax.co.jp/sf35thlive/
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