2012年8月20日~22日の3日間に渡って開催された、コンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス「CEDEC2012」。ここでは開催初日の20日に行なわれた「TOKYO JUNGLE ~経験ゼロの若者による企画立案から発売までのサバイバル術~」の講演内容についてリポートする。

まずは「TOKYO JUNGLE」について簡単に説明しておこう。本作はソニー・コンピューターエンタテインメント(以下「SCE」)のPlayStation3向けソフトで、人類が姿を消した近未来の東京を舞台に、さまざまな動物たちが弱肉強食のサバイバルを繰り広げるというものだ。斬新かつユニークな世界観が発表当時から話題を呼び、累計販売本数が20万本を超えるスマッシュヒットを記録した。

新規タイトルとしては異例のヒット作となった「TOKYO JUNGLE」だが、本作を制作したのはゲーム開発の経験がまったくなかった、当時平均年齢23歳くらいの若手クリエイターたちだった。彼らはなぜ、これほどのヒット作を制作できたのか?「TOKYO JUNGLE」のプロデューサーを務めた山際眞晃氏とディレクターの片岡陽平氏が、企画の立ち上げから開発・販売にいたるまでのさまざまな体験やエピソードを交えつつ、本作の成功の理由を語った。

SCEの山際眞晃氏 クリスピーズの片岡陽平氏

「TOKYO JUNGLE」の企画はいかにして生まれたか?

最初のテーマは「企画立案のサバイバル術」。片岡氏はSCEが主催する新たなクリエイターの発掘と制作の支援を行うオーディション「ゲームやろうぜ!2006」(現PlayStation C.A.M.P!) に合格したことからゲーム開発に従事するようになったのだが、このオーディションの合格者は「斬新」かつ「面白い」ゲーム作りが求められるのだという。しかし、言うは易く行なうは難し。ただ斬新なだけの作品はほぼ間違いなく売れないため、このふたつのテーマの両立は合格者共通のジレンマになっており、片岡氏も悩まされたと振り返った。

そんな片岡氏がヒントにしたのは、シンガーソングライターの井上陽水さんの作詞発想法について書かれた新聞記事だった。その記事によると、井上さんは名詞と形容詞を別々に考えて組み合わせてみるとのことで、例えば「長い」と「猫」というありきたりな言葉を繋げることによって、「長い猫」という耳に残る不思議なフレーズが生まれるのだという。

片岡氏はこの発想法をもとに「普遍的なテーマ」と「普遍的なテーマ」を組み合わせれば、新しくてキャッチーなものが生まれるのではないかと仮定。誰もが好きな「動物」と昔からSFなどの題材になっている「荒廃した世界」という、普遍的なテーマ同士を組み合わせることによって「TOKYO JUNGLE」のコンセプトが生み出されたのだと語った。

こうしてテーマは決まったが、片岡氏にはまだジレンマがあった。企画立ち上げ時期はちょうどPlayStation Vitaへの移行期だったこともあり、携帯機は避けてPlayStation3向けに開発することとなったのだが、片岡氏は据え置き機に対して「操作やゲーム性が複雑」、「時間をかけないと面白くならない」、「どれも似たり寄ったり」といった問題点を感じていたのだという。

そこで、これらの不満を解消するため、「据え置き機で遊ぶのは飽きてきたが、携帯アプリでは物足りない」という層をターゲットに規定。「短い時間でも楽しめるアーケードライクなゲーム」を目指すことにした。これには皆と同じ土俵を避け、新た市場を開拓する狙いもあったとのこと。ただ、据え置き機である以上、ある程度のボリュームも必要と考え、遊び心地の違うモードを盛り込んだり、やり込み要素を拡充していったそうだ。

最後に片岡氏は「斬新なだけではないキャッチーなアイディアが必要」、「安易にほかのゲームと同じ土俵に立たない」という2点を強調して企画立案術をまとめた。

経験のなさを武器に次々とセオリーを破る

次のテーマは「開発中のサバイバル術」。片岡氏は開発において経験の無さが功を奏したことがたくさんあったと語り、その事例として、まず「プレゼンテーション」を挙げた。

ゲームを作る予算を得るには、プレゼンテーションでゲームの魅力を多くの人に分かりやすく伝える必要がある。だが、「TOKYO JUNGLE」は完全な新規タイトルであるため、同じようなプレイ感覚のゲームがなく、企画書を作成して上申を行なう従来のやり方では個人の想像力に頼るほかなく、面白さが伝わりにくいという問題点があった。

そこで、思い立ったのがコンセプトビデオの作成だった。映像ならば日本はもちろん海外のスタジオにも、作品の魅力を損なうことなく伝えることができる。さらに、「その場にいる人たちに楽しんでもらい、タイトルや自分たちのことを好きになってもらうことが重要」と考え、演劇調のプレゼンテーション「演劇プレゼン」を行うことにしたのだという。

この「演劇プレゼン」はプレゼンテーション役がサバイバル教官を演じながらゲームの説明をしていくというもので、会場ではクリスピーズの吉永哲也氏がコンセプトビデオに合わせて実演。「今からサバイバル術を叩き込んでやるからな!」、「地形をうまく利用して待ちかまえろ!」など、コントのような吉永氏の熱演に客席からは笑いがこぼれていた。

  クリスピーズの吉永哲也氏

通常はパワーポイントなどを使って厳粛な雰囲気の中で行われるだけに、このプレゼンは抜群に目立ち、タイトルに興味を持ってもらえることができたという。そして、これをきっかけに面白い企画があると会社内で評判となり、最終的にはテレビCMを放送してもらえるようになるなど、SCE全体のサポートを受けることができたと片岡氏は振り返った。

「ユーザーと同じ目線に立ったゲーム作り」も、開発経験がなかったからできたことだという。例えば、本作にはプレイヤーキャラクターとして50体以上の動物が登場するが、攻撃のモーションや大きさなどが異なる、50体ものキャラクターに合わせてステージを調整するのはものすごく非効率的なため、経験のある開発者ならまずやらないとのこと。しかし、自分たちは未経験だったがゆえに「ユーザーが喜ぶことだったらチャレンジするべき」と考えることができたと語った。

最弱動物「ポメラニアン」のメインキャラクター起用も未経験ならではの要素とのこと。アクションゲームでは最強のキャラクターを押し出すのが原則となっていて、プロデューサーからもそのように要望されたという。だが、人間のいない世界を表現するのにペット犬の「ポメラニアン」がもっとも適していると考え、あえてセオリーを無視したのだが、これがユーザーの興味を引き付けるポイントになったと片岡氏は述べた。

もちろん、経験がなかったために困ったことも多々あったという。そのひとつが2Dから3Dへの変更で、ノウハウがあまりないためにリソース作りやゲームシステムの調整に時間がかかってしまったと語った。また、ふつうの一軒家で開発していたので、夏場に電力の使い過ぎによってブレーカーが落ちたり、あまりの暑さにスタッフの苦情が出たなど、笑い話のようなエピソードも披露された。

最後にまとめとして片岡氏は「新規ゲームのアイディアをどう伝えるか考える」、「作り手を好きになってもらう」、「経験にとらわれず、ユーザー目線で立案する」ことが重要と語り、開発中のサバイバル術を締めくくった。

宣伝素材やパッケージの制作もすべて自分で

3番目のテーマは「開発外でのサバイバル術」。片岡氏はゲーム開発外でも「いかに目立つか」を第一に考えており、通常はプロに委託するパッケージ、ポスター、PV、メディア用素材なども、すべて自作したとのことだ。特に興味深かったのがソフトのパッケージにまつわるエピソードで、最初は販売の部署からの要望もあって動物がたくさん描かれていたのだという。しかし、これではゲームの魅力が十分に伝わらないと感じ、締め切り1日前に独断でポメラニアン以外の動物を削除することにしたと語った。

こういった創意工夫は国内外で大きな反響を呼んだが、一方でイメージだけが先行して「バカゲー」との印象がひとり歩きしてしまったそうだ。そのため、どんなシステムかしっかり伝える必要があると考え、プレイ動画にてゲームを紹介する企画「金言、賜りました」を立ち上げたのだという。これはトップクリエイターに本作をプレイしてもらい、できればお墨付きももらおうというものだが、片岡氏はこの企画で有名クリエイターたちが業界全体に漂うマンネリ感を危惧していて、若手の台頭を望んでいることを感じたとのことだ。

以上を踏まえ、片岡氏は「開発者が宣伝素材を作って魅力をダイレクトに伝える」、「コンセプトやゲームシステムを伝える努力を重ねる」ことが重要と語り、開発外のサバイバル術のまとめとした。

最後に片岡氏は「ゲームを遊びたいと思わせるために、自分ができることを全力でやることがもっとも大事で、その思いの積み重ねがユーザーに届いて今回のセールスに繋がったのでは」とコメント。そして、「PlayStation C.A.M.P!」の主要メンバーであるSCEのプロデューサー山本正美氏の「20代の新しいヒーローが出てこないといけない」という言葉を紹介。「若い力で一緒にゲーム業界を盛り上げていきましょう!」と力強いメッセージを送り、セッションを終了した。

TOKYO JUNGLE

ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン

PS3ダウンロード

  • 発売日:2012年6月7日
  • 15歳以上対象
  • PS Store ダウンロード版

コメントを投稿する

画像一覧

全ての画像を表示(15枚)

(C)Sony Computer Entertainment Inc.

※画面は開発中のものです。

関連ニュース

関連ニュースをもっと見る

あわせて読みたい

この記事のゲーム情報

TOKYO JUNGLE

サバイバルアクション
  • 「黎の軌跡(くろのきせき)」特設サイト
  • プリコネR特集
  • Figgy

人気記事ランキング

定期配信

  • ゲーム発売日・配信日カレンダー
2024-04-12
Outer Terror
2024-04-12
WOWOWOW KORONE BOX
2024-04-15
PERISH
2024-04-16
Grounded
2024-04-16
Harold Halibut
2024-04-16
デイヴ・ザ・ダイバー
2024-04-16
晴空物語 もふもふランド
2024-04-17
HIT : The World
2024-04-18
ARK: Survival Ascended
2024-04-18
EGGコンソール ハイドライドII PC-8801
2024-04-18
Picross -LogiartGrimoire-
2024-04-18
SUNSOFT is Back! レトロゲームセレクション
2024-04-18
UFOロボ グレンダイザー:たとえ我が命つきるとも
2024-04-18
いっき団結
2024-04-18
ココロシャッフル - Spirit Swap -
2024-04-18
バニーガーデン
2024-04-18
フェイファーム ようこそ精霊の島アゾリアへ
2024-04-18
同級生リメイクCSver
2024-04-18
食魂徒 ~百花妖乱~
2024-04-19
SOUL COVENANT
2024-04-19
ウムランギジェネレーション
2024-04-19
ビックリマン・ワンダーコレクション
2024-04-19
ロロパズミクス
2024-04-23
百英雄伝
2024-04-24
ザァオ:ケンゼラの物語
2024-04-25
BEHOLGAR
2024-04-25
Library of Ruina
2024-04-25
SAND LAND
2024-04-25
けもの道☆ガーリッシュスクエア
2024-04-25
わんことあそぼ! めざせドッグトレーナー!
2024-04-25
サガ エメラルド ビヨンド
2024-04-25
ママにゲーム隠された コレクション
2024-04-25
メガトン級ムサシW
2024-04-25
ヴァガンテ
2024-04-25
重装機兵レイノス2 サターントリビュート
2024-04-25
鬼滅の刃 目指せ!最強隊士!
2024-04-26
Manor Lords
2024-04-26
Miko in Maguma
2024-04-26
Stellar Blade
2024-04-26
トリガーハート エグゼリカ
2024-04-26
剣と魔法と学園モノ。2G Remaster Edition
2024-04-26
剣と魔法と学園モノ。Anniversary Edition
2024-04-26
妄想凶ザナトリウム
2024-04-26
最恐 -青鬼-
2024-04-28
エルシャダイ・アセンション オブ ザ メタトロン
2024-04-30
フロントミッション セカンド:リメイク