アクティブゲーミングメディアがPC/PS3/PS Vita向けに配信しているアドベンチャーゲーム「マシナリウム(Machinarium)」のプレイインプレッションをお届け。
今回紹介する「マシナリウム」は、ロボットを画面上のクリック&ポイントで操作し、オブジェクトを調べたり、アイテムを拾いながら謎を解いていくクリックポイントアドベンチャーゲーム。Amanita Designが開発し、PC向けに配信が開始されて以降、スマートフォン/コンシューマ機へと続々移植されている人気インディーズタイトルの一つだ。
本作の主人公となるロボット「Josef(ジョセフ)」は、ゲーム冒頭でロボットの街から追い出されてしまい、スクラップ山積みの廃棄場の中で、散らばってしまった手足を取り戻そうと動き出す。彼の奮闘は「アニメーションパート」と、画面内をクリックして進めていく「クリックパート」の交互で描かれていく。
空気は汚れ、街は荒廃し、大地にはガラクタが溢れ、今にも朽ちてしまいそうなこの世界。私たちが暮らしている世界とはまったく違う様相を呈しながらも、繊細で深みのあるビジュアルが何ともいえない暖かみと、懐かしさと、物悲しさを感じさせてくれる。ちょっと独特なスチームパンクの世界の魅力を、この機会にぜひ知ってもらえれば幸いである。
目的を読み取り、答えを導き出す力
ゲームに登場するバリエーション豊かな姿形をしたロボットたちは、ジョセフを含めて一切の言葉を発しない。彼らが互いにコミュニケーションを取る姿は散見できるものの、それらは全てジェスチャーやアイコンでの交流となる。そのため、プレイヤーは吹き出しの中に描かれた絵や図を見て、彼らの感情や謎解き要素を読み解く必要に迫られるのだ。
上下の画像はゲーム開始時に送られる最初のステージだが、これまたグラフィックの書き込みが繊細かつ大胆でスゴイ。本作はプレイするプラットフォームによるものの、画面への直接タッチや、画面上に表示されるカーソルを操作し、ステージ上に表示されている場所やアイテムにアクセスしていくのだが、遠目でプレイしてはどれがアクティブで、どれが非アクティブなオブジェクトなのか分からないのは難点でもある。しかし、画面上の視認性の悪さは、“こういう世界観を作り出す表現力”の前には野暮な物言いだろう。
ある程度のオブジェクトは色相や光量で判別がついたり、アニメーションしている動的物体も存在しているので、細かい点については指やカーソルでどれがアクセスできるのかを、あらかじめササッと洗い出しておく心掛けが重要。ただし、順序だってアクセスしないとクリックできないもの(鍵付きの戸棚→その中…etc)もふんだんに盛り込まれているので、結局のところは注意力勝負だ。
ノーヒントだと難しい…
アイテムやボタンなどを探し、それらを組み合わせて答えを導き出す、脱出系の謎解きが要求される本作だが、難易度については中々のもの。難しさの方向性は色々あるものの、本作で一番最初につまづくであろう事項は“持っているコレや、置いてあるソレは何なのか?”という識別のしにくい物体に対する疑問だ。
文字説明が一切ないというゲームデザインであることから、ジョセフが手に取った棒が「鍵なのか?」「伸びるのか?」「光るのか?」に対する答えが出辛い。スチームパンクな世界に溢れているガラクタのような小道具たちに意味合いを求めるのだ、難解としか言いようがない。
とはいいつつも、物を拾ったり使ったり組み合わせたりのアクション時は、正解であれば動くし、不正解なら動かないというシステムであるため、トライ&エラーに対するストレスは極々少ない。答えに対する判断材料や当て勘がなくても、レスポンスよく全ての疑問に体当たりできるので、「ああ、これはそういう風に使うのかー」と単純な驚きに出会えるし、答えを披露するギミックもコミカルで小気味のいい動きが満載となっているので、達成感も十分なもの。
また、ジョセフは自身の体を上に伸ばしたり、下に縮めたりできるのだが、このアクションにより画面上下へのアプローチの手段(プレイヤーの判断)が多岐に渡っている。「そこに行けるのか…」といった意識が向いていない場所に答えがある時もチラホラなので、時間がかかってしまった時はグラフィックの深さが恨めしく思うことも。
なお、謎解きは1つのステージ画面で完結するものから、いくつかの画面を連ねて答えを導き出すものも出てくる。場所によっては「レバーを引いている内に、アッチまでいって、さらにアッチの足場に移動して…」などのアクションムーブが必要になるシーンもあるので、プレイのメリハリは効いている。苦手な人は焦らされてしまうかもしれないが、決して意地悪く作られているものではないので、急がずゆっくり進んでみるのがオススメだ。
ちなみにここまで「難しい!ムキー!」の色合いが強めだったが、謎解きについては2種類のヒントがいつでも見られるようになっているため、答えを求めるだけならば容易い。まず一つ目のヒントは、そのエリア内のキモとなる部分が吹き出しで表示されるもの。点と点とを結ぶ線には成り辛いが、目指すべき指針としては十分なので、まずはこれを見るのが一番手軽。
もう一方のヒントは、ヒントボタンを押した後にミニゲームがスタート。ゲームは「鍵」になって「お邪魔虫」「ブロック」に当たらないよう、クリア地点の鍵穴を目指して進んでいくシューティングゲームとなる。別に敵が攻撃してくるわけではなく、こちらの弾で倒すこともできるため、そう難しいものではない。ただし、若干自機の当たり判定が大きめなので、気を抜くと障害物に当たってしまうことも。何度でも挑戦可能だが、謎解きとあわせて冷静かつ慎重にこなしていきたい。
そんなこんなで鍵穴までたどり着くと、クリアのご褒美として“その場所の詳細なクリア手順を描いた漫画”を目にすることができる。類に漏れずこちらも文字が書かれているわけではないので、姿と動きと場所をしっかりと覚えておく暗記力が試される。漫画のコマ通りに正解をなぞればその場はクリアだ。
この2つのヒント機能により、どうしてもクリアできないという悲しい事態はいとも容易く解消されている。謎解きが苦手だという人でも物語をしっかり追うことができるので、雰囲気に惹かれたという人も安心してプレイしてみよう。
ロボットたちの動きに和む
ジョセフはさまざまなアイテムを確保し、適切な場所で使用していくのだが、彼はそのアイテムの数々を自身で飲み込み、体の中に保存している。拾ったら飲んで、使う時に出して、本来は質量的にツッコみたいポイントが多々あるのだが、本作の世界に没入してしまうと、なんとなくそういうモノだと納得してしまう。このような細かな動作は随所に盛り込まれており、スピード感のあるアクションや間抜けな転倒などが目を惹く。
ロボット的でありつつも、どこか人間臭さを感じさせてくれる動きに注目しているだけでも十分楽しいのだ。
また、ジョセフを操作せずに一定時間放置していると、彼の頭の中の妄想が吹き出しになって溢れ出てくる。バイオレンスなアクションものから、コミカルチックなコメディものまで、バラエティ豊かなシーンが漏れ出てくるので必見だ。
言葉の無い物語
言葉の無い物語でありながら、ロボットたちの感情や想いはプレイヤーにしっかりと伝わってくる。古今東西のコミュニケーションに必要とされる言語表現というものは、あくまで“伝えたいこと”をスムーズに伝えるための道具であり、伝えるべき意味を包括した感情ではない。
「マシナリウム」のように、一見何を言っているのか表現が分からない抽象的な作品では、台詞や文字や詳細な心理描写を省き、そのビジュアルに重点的にフォーカスすることで、浮き彫りになったキャラクターに“動く文字”としての機能や意味合いが与えられている。
道路標識は図だけで意味が伝わるよう作られているが、決して言葉ではない。けれど、共通した記号として捉えることができるからこそ、私たちはそこから意味を共有することができる。物語を伝える手段が言葉でなく、より原始的な感情なのだ。言葉や文字の表現に慣れている人ほど、「マシナリウム」は刺激的な体験をもたらしてくれるだろう。
なお、本論については「CEDEC 2014」にて作家・冲方丁氏が語ってくれた考えを大いに参考にさせてもらった。興味がある人は、参考資料の質疑応答部分をチェックだ(※参考資料)。
そんなこんなで「マシナリウム」のプレイインプレッションはここまで。ミスを恐れず、クリアを急がず、抒情的なBGMに身を任せてウトウトすることもありつつ、ゆったりペースでも楽しめるこのゲーム。さまざまなプラットフォームで展開している今こそ、一度プレイしてみるのはいかがだろう。
PC商品ページ:http://www.playism.jp/games/machinarium/
PS3/Vita商品ページ:http://www.playism.jp/publishing/sub/machinarium.html