スパイク・チュンソフトが2016年4月14日に発売する、PS4用ソフト「ディヴィニティ:オリジナル・シン エンハンスド・エディション(Divinity: Original Sin Enhanced Edition)」。本稿ではゲームの魅力やローカライズの背景について、ローカライズプロデューサー・本間覚氏に尋ねてきた。
先日公開した「ディヴィニティ:オリジナル・シン エンハンスド・エディション」のプレイレビューに続き、本日は開発者インタビューをお届け。今回は本作のローカライズプロデューサーを務めた本間覚氏の元を訪ね、ゲームの魅力からPS4版ならではの新要素、そしてローカライズ作業にまつわる裏話などをたっぷりと聞いてきた。その模様をぜひご覧あれ。
ローカライズに至った背景とは?
――本日のインタビュー、よろしくお願いいたします。
本間氏:こちらこそ、よろしくお願いします。
――では最初に、「ディヴィニティ:オリジナル・シン エンハンスド・エディション」の簡単な説明からお願いします。
本間氏:元となる「ディヴィニティ:オリジナル・シン」は、PC向けに配信されていたRPGです。今回の「エンハンスド・エディション」は、これまでにPC版で配信されてきたDLCが収録されているほか、大幅なゲーム調整が加えられたタイトルになります(※)。
海外ではよく、最初にPC版が発売され、その後に単にDLCを加えただけではない、より遊びやすく改修された家庭用版が発売されています。完全版というと聞こえがよくないかもしれませんが、それこそ本当の意味での完全版として、ゲームの根底に手を入れた内容に仕上げられているんです。
今回発売するエンハンスド・エディションでは、ゲームのバランス調整からマップ構造の変化まで、ひと口では言えないほどの変更が加えられています。
※海外ではPS4/Xbox One/PC版が、日本ではPS4版のみの発売。なお、英語版であればPCでもプレイ可能。
――見下ろし型のRPGって、日本ではあまり馴染みのない形式ですよね。
本間氏:そうですね、海外ですと昔から画面中央にキャラクターが小さく表示される、見下ろし型(クオータービュー)のRPGが普遍的なのですが。シリーズ最初の作品である「ディバイン・ディヴィニティ」もこのシステムが採られていて、当時から自由度の高い冒険が楽しめました。
本作はそういった“昔ながらのRPG”のゲームデザインを取り入れつつ、最新のテクノロジーで、本気で作られている点が面白いんですよ。
――本間さんがこのシリーズを知ったのは、いつ頃のことなんでしょうか。
本間氏:私は高校生くらいのときに「ディバイン・ディヴィニティ」をプレイして、「RPGでこんなことができるんだ!」と衝撃を受けました。当時、日本国内でリリースされていたRPGとは全く違う切り口だったので、個人的には革新的な作品だったんです。まあ、昔すぎて、ストーリーについての記憶は飛んでいるんですけど(笑)。
――そこから「ディヴィニティ:オリジナル・シン」に至るまではいかがでしたか?
本間氏:それからも外伝的な「ビヨンド・ディヴィニティ」や、TPSスタイルの「ディヴィニティ・ドラゴンコマンダー」など、いくつかのシリーズ作品が発売されてきました。ただ、2013年に「ディヴィニティ:オリジナル・シン」がキックスターターで始動するまでは、シリーズとしても、プレイするのにも大分間が空いていましたね。
PC版が発売された当時から評価の高いRPGがあるという認識はありましたが、家庭用ゲーム機版が存在しない以上、当時それをローカライズするというのはなかなか難しい問題で。しかし、昨年11月に北米で家庭用版「ディヴィニティ:オリジナル・シン エンハンスド・エディション」が発売されることが決まったのをきっかけに、これならプロジェクトとして、ビジネスとして成り立つのでは思い、乗り出してみたのです。
――スパイク・チュンソフトがローカライズを担当することに決まったのは、その北米版が発売される頃からのお話でしょうか?
本間氏:いえ、プロジェクトとしてはそれよりも少し前から動き始めていました。ちなみに本作は開発元がLarian Studiosで、海外のパブリッシングはフランスのFocus Home Interactiveが担当しており、今回はFocusさんと連携している形です。
Focusさんは「シャーロック・ホームズ」シリーズや、「Warhammer」フランチャイズのゲームなどのパブリッシングを手掛けてきた会社ですが、これまで一緒に仕事をしたことはありませんでした。
これらのタイトルは海外では盛況なんですが、日本での認知度を踏まえると、ちょっと敷居が高かったので。一例としては、「Blood Bowl」というゲームは海外では人気を博していますが、その内容は“オークがアメフトをやる”といったものです。
日本ではアメフトへの馴染みが薄いですし、それをオークがやるといったら……さすがに厳しいですよね。ですので、そういう販売地域の違いもあり、中々一緒に仕事をする機会に恵まれなかったんですよ。
――しかし、今回は手を取りあうことができたと?
本間氏:弊社は毎年E3に足を運ぶ際、Focusさんとミーティングを行っています。これまでは何年も話し合いだけで、ビジネスまで発展することはなかったのですが、先ほど言った理由の通り、「ディヴィニティ:オリジナル・シン エンハンスド・エディション」なら日本でもいけるだろうと考えたので、ようやく縁を取り持つことができました。
――念願が叶ったというやつですね。
本間氏:そうですね。これまでは毎年毎年話し合いをするだけの関係だったため、時間だけを取ってもらうことに申し訳ないという気持ちがありました。Focusさんはどちらかというと超大手というわけではなく、欧州でのニッチな需要に対しての展開にも注力していまして、日本国内での我々の立ち位置と近しいところもあります。
――中々、縁深い両社なんですね。
本間氏:ようやく実を結びましたよ。今後もFocusさんとは継続してコミュニケーションを取っていきたいと考えています。
――では、本間さんが今回のローカライズプロデューサーを引き受ける経緯はどのような流れだったのでしょうか?
本間氏:去年のことですが、この仕事をすることが決まったとき、社内で仕事を引き受けられるプロデューサーは実質2人しかいませんでした。そして私は仕事でもプライベートでも、海外RPGが好きでよくプレイしているので、社内でも同様にRPG担当とされています。そのため、自動的に私が担当することになりましたね。
――本作は海外で高い評価を受けていますが、ローカライズへのプレッシャーはありましたか? 本作に期待している人たちはいってもコアな層だと思われますので。
本間氏:ちょっと毛色は違いますが、昨今は「Diablo」や「Baldur's Gate」などの大型IPをはじめ、近しいコンセプトの作品が現代の技術でリバイバルされているケースをよく見ます。日本では「Ultimaをプレイしたことある人・ない人」なんて次元の話になってしまいますが。
そんな中、このゲームのPC版は海外サイト「Metacritic」で94点の高評価を獲得しています。あのサイトで94点というのは尋常じゃない数字です。レビュアーである海外の「大人たち」にとって「ディヴィニティ:オリジナル・シン」は、まさに「こういうゲームを待ってた!」と思える作品だったんですね。
そういう背景を踏まえると、我々にとっては「海外でこれほどの評価を受けているゲームを、日本で埋もれさせるわけにはいかない!」、そんなプレッシャーがあるのは確かです。1人のゲームプロデューサーとして、これだけ世界で評価されているゲームが、日本で数千本の販売数で終わってしまうのは、本当にもったいないと思いますから。
――「こういう名作もあるんだぞ!」という思いがあるのですね。
本間氏:幸い、自分がローカライズを手掛けた「ドラゴンエイジ:オリジンズ」「ウィッチャー3 ワイルドハント」などで、昨今の洋ゲーに興味を持つユーザーも多くいてくださっているようなので、可能な限り、個人の力あるいは会社の力を使って、1本でも多く手に取ってもらえるよう努力していきます。
もちろん、洋ゲー好きでもIP知名度的に「ドラゴンエイジならやる」「ウィッチャー3ならやる」という人はいると思います。ですが、本作は見た目は地味ながら、やればやるほど味わいが出てくるいわゆる“スルメゲー”なので、それを皆さんに知ってほしいんです。とにかく、もったいなさすぎるのですよ。
――日本だけ盛り上がらないというのは悲しいですしね。続いてですが、ローカライズの作業で苦労したエピソードなどはありますか?
本間氏:ローカライズ作業では色々と壁があるものですが、本作に関しては、ゲーム内の会話テキストの持ち方が、“特殊”だったことが大きかったです。ローカライズ作業の一般的な流れは、相手の会社から送られてくるテキストデータを翻訳し、実機の中へ言語を移して、場面ごとの調整を加えて、品質を高めていくといったものです。
「ドラゴンエイジ」や「ウィッチャー3」の場合は、テキストの段階からゲームの流れがしっかりと把握できるようになっていて、それは最悪、ゲーム画面を見なくてもローカライズが進められるくらいの完成度でした。ですが本作に関しては、テキストファイル上での会話のつながりが一切わからない作りになっていて、究極的な事例でいえば「その場面で、誰が喋っているのかが分からない」などの状況もありました……。
クエスト用のテキストに「Let's do it」とだけ書かれていても、テキスト上では「さあ、やろうぜ!」以外の訳しようがないんですよね。
――確かに、単語が書かれているだけではキャラクターの心情などが読み取り辛そうですね。
本間氏:文章の文脈の前後が把握できないので、キャラクターたちの機微も分からずでした。そのため、本作のローカライズにおいては「実際にテストプレイをしてみるしかない!」となり、実機でプレイしながら、細部のディティールを整えていくことになったんです。
このゲームは1週クリアするのに100時間くらいかかってしまうので、私もテストで300時間くらいはプレイしています。ほかのスタッフも同様にかなりやり込んでいるはずです。
――実際にプレイしながら、場面ごとに手を加えていく……。素人考えでも大変そうです。
本間氏:翻訳の仕事に携わっている人たちなら、この規模のゲームで「会話のつながりがわからない」と聞くと、ゾッとしてしまうかもしれません(笑)。正直、このゲームは膨大な分岐が作り込まれていますし、登場するNPCの数はもちろん、イースターエッグ的なファンサービスも多分に盛り込まれているので、私1人が300時間を費やした程度では全要素を拾いきれないんですよね。
小ネタに関しても可能な限り対処はしていますが、これだけ大規模なボリュームのゲームですので、時間の制約には四苦八苦しました。つまり、本作のローカライズではテストプレイに費やす時間が一番の苦労だったといえます。個人的には、これまでで一番大変なローカライズだったかもしれません。
エンハンスド・エディションの新要素とは?
――ここからはゲーム面についてお伺いしていきます。最初はゲームを遊ぶ上での、「ディバイン・ディヴィニティ」シリーズの魅力をお聞かせください。
本間氏:はい、本シリーズの魅力といえば、“圧倒的なゲームプレイの自由度”にあります。もちろん、設定が緻密に練り込まれた世界観も一つですが、私がこのシリーズで押したいのはやはり、自由度のあるロールプレイにありますね。
――自由度のあるロールプレイ、ですか?
本間氏:本作では、昨今のRPGではあまり見られない「厳しさ」があります。例えば、このゲームでは次に行くべき場所のマーカーなどが表示されません。
これまで引き合いに出してきた「ドラゴンエイジ」や「ウィッチャー3」は、画面上では次に何をやるかのアナウンスや道しるべが丁寧に用意されていました。昨今のゲームでは、これらのユーザーフレンドリーなサポートが多く見受けられます。
しかし、このゲームではそれがほとんどありません。マップ上のキャラクターや構造物の名前くらいは分かりますが、詳細なデータをどこでも見られるというわけではないんです。
――状況だけでいうと、とても不自由そうですが。
本間氏:そこです。このゲームはデジタルな案内が抑えられているからこそ、この世界で“ロールプレイをしている”という感覚がすごいんです。ほかにも、ゲーム中はNPCに話しかけると色々な選択肢が出てきます。それらは普通のゲームであれば用意されないような、ほんの些細な返答まで用意されていて、自分の思うとおりに会話することができます。
画面上のキャラクターたちも小さな表示ではありますが、行動の次第によって性格が細々と変化していきますので、ロールプレイの没入感を支えています。
――私もこのゲームをプレイさせていただきましたが、ゲームスタートの時点で「あれ? どこ行けばいいの?」って気分になったのは久々です。
本間氏:そうですよね。昨今のゲームであれば、ピカンピカンって光った先に進んでいけばいいのですけれど、このゲームは違うんです。ゲームを進めていくのに、人との会話の中から目的地を探ったり、本を読んで知ったりしなければならないリアルさがあります。
プレイヤーがアクセスできるNPCやオブジェクトには、目的や情報が緻密に用意されていますので、昨今ではあまりない“自分自身が冒険している感”を味わえますよ。
――国産RPGでは想像もつかない行動もたくさんできますよね。
本間氏:一番大きいところでいうと、本作ではゲーム内に出てくるキャラクターを全て殺害することが可能ですね。街を守る衛兵も、道を歩く一般人も、物語の重要人物ですらその対象になります。もちろん、出てきた端からNPCを殺害していてはマズイ事態になると思いますが、そんな状況になってもストーリーはしっかり進みます。
時にはプレイヤーは、NPCとの会話や本の内容を吟味し、「あの人物は本当に悪いヤツなのか?」「事件の犯人は本当にあの人物か?」などを自身で考える必要もでてきます。こういった部分については、ローカライズによる些細な表現の違いで“本当に悪くないのに、悪い風に見えてしまう”などにならないよう、整合性に気を配りました。
――オブジェクトに対してもできることが多いですよね。拾う、叩く、投げるなど。
本間氏:私が一番衝撃的だったのは、鍵の付いた宝箱で。これ、鍵がない場合でも「宝箱ごと鞄に入れて持ってく」ってことができるのが驚きでした。こういうのも、海外のプレイヤーにとっては「懐かしい」ですが、日本のプレイヤーにとっては「新鮮だ」と感じてもらえるはずです。
――自由度のあるアナログさ、つまりTRPGのような魅力があるということなんでしょうか。
本間氏:まさにその通りで、本作はよく「TRPG(テーブルトークRPG)みたい」と言われますね。TRPGではGM(ゲームマスター)がリアクションを臨機応変に決めていきますが、本作ではそれに近い複数の選択肢があらかじめ用意されているので、自由に行動を選択できることと、それにゲームがしっかり応えてくれるところが、デジタルでありながらTRPGの印象に繋がっているのでしょう。
――細かい事柄までシステムに落とし込んでいるからこそ、ゲーム全体に自由度が生まれているわけですね。
本間氏:自由な選択で遊べて、それでいてゲームとして破綻していない。この全容こそがこのゲームのすごいところなんですよ。
――ところで、エンハンスド・エディションではどのような部分が進化しているのでしょうか。
本間氏:エンハンスド・エディションには無印版(ディヴィニティ:オリジナル・シン)で配信されたDLCが全て含まれているほか、前述したようにマップのつくりが変更されていたり、スキルに関しては大部分がバランス調整され、削除されたスキルや、新たに導入されたスキルがあったりします。
変化の一例を挙げると、プレイヤーの拠点・サイシールでのクエストの受け方があります。無印版では衛兵の隊長・オーリアスにクエストの受注機能が集約されていたのですが、Larian Studiosさんは「これだとゲーム的すぎる」と考えたのか、エンハンスド・エディションではさまざまなNPCからの依頼や提案として、クエストが分散されるようになりました。そのため、より自然でリアルな冒険が体験できるようになっています。
――単純に何々が追加されたとかではなく、作り変えといっていいくらいなんですね。
本間氏:ただ、スキル調整などにより、結果的にゲームとしては多少難しくなった気がします。さまざまな場所に用意されているギミックも、概ね難易度が上昇していますので。正直、今挙げたこと以外にも変更点・追加点に関してはたくさんありすぎて、全てを紹介するのは難しいです。ただ、全般的に一貫していることは、“よりゲームを楽しんでもらいたい”という調整になっていることでしょう。
――そこまで変わっているのなら、無印版の既存プレイヤーでも改めて遊べそうですね。
本間氏:私はテストプレイ中に無印版のWikiを使って攻略しようと考えていましたが、載っていない情報が多すぎたくらいですよ。そもそもスキルの効果が全然違っていたりで、別物といっても差し支えなかったです。
――本作の戦闘はシミュレーションRPG風のシステムが採用されていますが、こちらの特徴などもお聞かせいただけますか。
本間氏:このゲームはアクションゲームではないので、じっくりと1手1手を考えてキャラクターを動かしていけるのが特徴です。特にボス戦ともなると「次に相手に動かれたら死ぬ……!」といった状況もあり、とてもスリリングです。
ただ、視点が似ているので「Diablo」とよく間違われるのですが、向こうは“動”のゲームで、こちらは“静”のゲームなので、この辺りの誤解は解消していきたいと考えています(※)。もしかしたら発売後、知らずに買ってしまったユーザーさんを「(アクション的に)動けねえじゃねえか!」と不快にさせてしまうかもしれませんので。ですが、本作の“静”のゲームプレイは戦略的で滅茶苦茶面白いので、そこには十分期待していただいて結構です。
※「Diablo」シリーズは見下ろし型のアクションRPG。キャラアクターを自由に操作するアクション性が取り入れられている。
――本作のマルチプレイはどのような形式なのでしょうか?
本間氏:これは簡単な仕組みで、フレンドや第三者にワールドに入ってもらった後、画面上に表示されているパーティキャラクター(全4人)のうち、1人、2人、3人を各々で振り分けて遊ぶ、いわゆる2Pプレイの形式です。各々の育てたキャラクターを持ち寄るわけではありません。
オフラインでのマルチプレイにも対応しており、その際は操作キャラクター同士が離れていると画面分割に切り替わります。オンライン時は画面分割もなく、それぞれのモニターで自由に行動することができます。マルチプレイ中は片方が街にいて、片方が敵を倒しに行くなど、まったく別々の地域で活動することも可能ですね。
――なるほど、ダンジョン攻略中はギミックの対処にパーティキャラクターを分割することが多いので、ギミックに挑むときは有用そうですね。
本間氏:かなり楽になると思います。このゲームは操作量が多いですからね。ただ、元々PC向けともあって操作が複雑なゲームではありますが、PS4コントローラーでも直観的に操作できるようになっている点は、エンハンスド・エディションの大きな特徴といえます。
――さきほど「クリアするのに100時間」と仰られましたが、全体のゲームボリュームはどれくらいになりますか?
本間氏:さまざまな要素を拾いつつだと、クリア1週は最低100時間でしょうか。スピードラン的にメインストーリーだけを会話全スキップで推し進めても、おそらく50~60時間はかかる気がします。
――本作は周回プレイ的な要素はないのでしょうか?
本間氏:いわゆる引継ぎ的なものはありませんね。キャラクタービルドや、選択肢で展開が変わっていくストーリーの違いを遊び込むのであれば、累計数百時間は固いですが。クエストでアイテムの入手を求められたとき、「買う」か「盗む」かだけでも状況は変化しますし、メインストーリーも後半のほうで若干分岐していきます。エンディングもいくつかあるので、そういうのが気になる人は当分楽しめるでしょう。
――私はキャラクタービルドだけでもよだれが出てきそうです。スキルやら才能やらの項目が充実しすぎていて。
本間氏:普通のゲームってスキルとステータスくらいですけど、このゲームは「スキル」「ステータス」「才能」「アビリティ」「性格」とたくさんありますからね。翻訳するときも「スキルがいいのか、アビリティがいいのか」とそれぞれの単語に気を揉みました。
また、キャラクターの成長のさせ方には存分に悩んでもらいたいですが、仮にキャラクタービルドのせいでゲーム進行が詰まってしまったという人は、難易度調整などで対応することができます。難易度もプレイスタイルに応じて変更してもらうのが一番ですが、クラシック以上で遊んでもらうと、本作ならではの歯ごたえが感じられると思いますよ。
――ちなみに、予約特典の「キャラクタービルドガイド」はどのような意図で制作されたのでしょう? プレイレビューでも大活躍でした。
本間氏:これ、すごいですよね。この本はアスキー・メディアワークスさんに特典の話をしに行ったとき、攻略本を制作している方の1人がこのゲームを大好きだったらしく、その人と話をしていたらアイディアがフツフツと湧いてきたので、「じゃあ、こういうのをお願いします」と頼んだんです。データなどはもちろんこちらから提供させていただいたのですが、それにしてもすごい作り込みでこちらも驚きました。
――ほんとに、これはすごい出来です。その方に感謝したいくらいです。
本間氏:ゲームの特典というと、よくあるのがちょっとした追加DLCだったり、オリジナルグッズだったりすると思いますが、個人的にはそういうプライズ的なものではなく、意味のある、役に立つものを作りたいと考えていたので、私も非常に満足させていただいてます。
――それと本作の発売後ですが、DLC展開は予定されていますか?
本間氏:いえ、本作自体がこれまでのDLCを全て収録したタイトルとなるので、今後の予定はありません。開発自体も既に続編「ディヴィニティ:オリジナル・シン2(※現在キックスターターが始動中)」に向けられているとのことですので。
ローカライズチームって、皆さん語学は堪能?
――では、ローカライズの仕事について改めて聞いておきたいことがあるのですが、ローカライズするタイトルはどのように決められているのでしょう?
本間氏:我々のローカライズの仕事は、タイトルの販売元に興味を持ってもらうか、こちらから売り込んでいくかのどちらかですね。稀に誰かからの紹介というのもありますけど、このゲームに関しては一般への発表前に、Focusさんや権利元から「エンハンスド・エディションが発売されます」と連絡をいただいたケースです。
ほかのケースでいうと、「Dead Island」「セインツロウ」「HOMEFRONT the Revolution」を手掛けているDeep Silverさんなど、これまでに付き合いのある会社からは発表前に連絡をいただけることが多いですね。
――逆に、付き合いのない会社となると?
本間氏:当然、付き合いがないと情報はいただけませんので、ゲームが世に発表された瞬間、もしくはE3などの場で、ある意味“取り合い”になるわけです。ゲームタイトルのローカライズを手掛けている会社というのは、日本国内でも多数ありますので。
――その“取り合い”を制するコツとかはあるのでしょうか。
本間氏:やはりそこはビジネスであり、企業としての体力も関わってくることなので、一概には言えません。我々は大きな会社ではないので、ビジネスの場で他社さんとかち合うと難しいことも多々あります。ただ、私の場合ですと「テラリア」なんかは面白い事例かもしれません。
――面白い事例ですか。ぜひ伺いたいです。
本間氏:このゲームに関しては、「テラリアの家庭用版を出します」と発表されたときに、我々を含めてさまざまな会社が一斉に動いたんです。こうなると、相手方が各社の条件を加味することになるわけですが、私は個人的にPC版「テラリア」を何百時間とプレイしていたユーザーなので、条件と一緒に「俺の作った家も見てくれ!」とデータも渡したのです。そしたら、それが思いのほかウケたようで(笑)。
もちろん、理由はそれだけではなかったはずですし、プレイヤーとしての熱意が届いてのビジネス成立ともハッキリとは言えません。ですが、ローカライズのチャンスが転がっていて、それに向けてゲームを事前にプレイできる環境であれば、自発的に遊んだり、色々と調べたうえで、アプローチしていこうとは心掛けています。
――意外なお話です。そんな裏話があったとは。
本間氏:ビジネスでも恋愛でも例えられることですが、興味をもってぶつかっていっても、思いが結ばれるかは分かりません。でも、縁を結んでいくためにも、「テラリア」のように熱意をもってアプローチすることは大切かなと考えています。
――やり込みが売り込みにもつながるといったところでしょうか。
本間氏:我々自身、ゲームが好きでこの業界に入ってきているので、ゲームをプレイすることは苦ではありません。それに仕事としてプレイしている以上に、趣味として遊べている部分が大きいです。「テラリア」は元々プライベートでやり込んでいたものですし、同時に「絶対に自分の手でローカライズしたい!」という思いもあったので。
――ちょっとした質問ですが、ローカライズチームの皆さんは語学が堪能なのでしょうか?
本間氏:英語はできるに越したことはありませんが、必須というわけではありません。語学が堪能といっても、単純に翻訳に強い人もいれば、映像と字幕から雰囲気を感じとるのに長けた人などもいますし、日本語の表現として適切かどうかもまた別の話なので、英語は必ずしもマストではありません。
まあ、海外の会社との日々のコミュニケーションが取れないと難しいので、ほぼ90%必要ではありますが。逆に英語ができない人こそ、日本語を訳文としてではなく、日本語として捉える力に長けていることが多く、そういった意味でも語学が活躍する場面もあります。
――個人的にゲームのメインメニューで目についたポイントですが、ニューゲームやオプションの説明文が面白い文章になっていますよね? あれは原文でしょうか?
本間氏:あれは原文からしてこうなっていました。面白いですよね、捻ったというか、斜に構えたというか。今回は元の表現を残しつつの翻訳です。
――合点がいきました。実際に知るまでは“どちらの会社が遊んでいるのか”が気になっていましたので。
本間氏:原文が真面目で、ローカライズがこうだったら、絶対に何か言われてしまうじゃないですか(笑)。ちゃんと原文ですので、安心してください。
――あと、本作は年齢区分がCERO Z(18歳以上対象)となりますが、そのままでは難しい表現などはありましたか?
本間氏:このゲームのCERO Zは、「誰でも殺害できてしまう」というシステムに寄るところが大きいので、言語やそのほかの表現に関しては概ね規定に収まっているといっていいです。表示されているキャラクターも小さいので、等身大のゴア表現ともまた違いますので。
これに比べたら「ウィッチャー3」のアダルト表現のほうがよっぽど大変でした。本作のCERO Zはシステムの時点で決まっていたので、ローカライズに際しても何も気にしませんでした。なので、CERO的な意味ではあまり苦労はしていませんね。
――本日は長時間にわたってありがとうございました。最後に、発売を心待ちにしているユーザーさんへ一言をお願いします。
本間氏:「ディヴィニティ:オリジナル・シン エンハンスド・エディション」はできることの多い、いわゆるふところの深いゲームとして、海外で評価を受けています。本作はじっくりと考えて操作するシミュレーションの趣きが魅力なので、好きな人であれば、例え洋ゲーをプレイしたことがない人でも楽しめるはずです。
一方で、バリバリのアクションを求めている人でも、映像などを見てもらい、じっくりと吟味したうえでお手に取っていただければ嬉しいです。そのうえで合う合わないはどうにもできない部分ではありますが、ゲーム自体は全然ガッカリするような出来栄えではありませんので、ぜひ興味を持っていただければなと思います。