個性的な映像とサウンドがプレイヤーを独自の世界に引き込む「シュレディンガーズ・コール」レビュー【BitSummit the 13th】死にきれない魂を救済する「世界最後の電話アドベンチャー」

プレイレビュー
0コメント 仁志睦

7月18日から20日まで京都・みやこめっせ(京都市勧業館)にて開催されているインディーゲームの祭典「BitSummit the 13th Summer of Yokai」。集英社ゲームズブースにて出展中の「シュレディンガーズ・コール」のプレイレビューをお届けする。

開発スタッフの林真理氏とAchabox氏に、本作についてのお話を聞くこともできたので、こちらもチェックしておいてほしい。

「シュレディンガーズ・コール」は記憶喪失の少女メアリが、不思議な電話を通して死にきれない魂を救済していくアドベンチャーゲーム。「世界最後の電話アドベンチャー」と銘打たれており、美麗かつ個性的な映像表現や謎めいたストーリーなどが話題を呼んでいる。

今回、出展された試遊版はゲーム本編の冒頭部分をプレイできるというもので、主人公のメアリがハムレットという名の黒猫にうながされて電話を取るところから物語は始まる。受話器の先からは死にきれない思いを抱えた無数の声が聞こえてきており、彼らはメアリが「ある信念」を持っていること、その信念があるから自分たちの世界最後の話し相手になったのだと告げる。

個性的な映像とサウンドがプレイヤーを独自の世界に引き込む「シュレディンガーズ・コール」レビュー【BitSummit the 13th】の画像
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そして、彼女の信念は「自分一人だけで生きていける」なのか、それとも「誰かのために生きていきたい」なのか問うてくるのだ。一見、物語を大きく左右するように見える選択だが、今回プレイした範囲では登場人物の反応がちょっとずつ変わったりするだけで、そこまで展開が変化するようなものではないようだ。

本作にはこのような印象的かつ意味ありげな選択肢が随所に登場。これらの選択によってストーリーの流れが大きく変わるわけではないのだが、簡単なセンテンスの選択肢が画面に浮かび上がってくる独特の映像表現もあいまって、筆者は何か重大な選択をしたような感覚にとらわれることが多かった。このちょっと不思議なプレイ感はオーソドックスなテキストアドベンチャーにはないもので、ここが本作の魅力のひとつとなっている。

個性的な映像とサウンドがプレイヤーを独自の世界に引き込む「シュレディンガーズ・コール」レビュー【BitSummit the 13th】の画像
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ゲームに話を戻そう。ストーリーを進めていくと、やがて死にきれない思いを持ったルーシーという女性と電話がつながる。メアリは電話を一度は切ってしまうもののハムレットにうながされて彼女の話を聞いていく。そして、彼女がどのような思いに囚われているのか、なぜ死にきれずにいるのか探っていくことになるのだ。

ここで役に立つのが「手帳」の存在。メアリの持っている手帳には、会話で判明した電話相手のさまざまな情報がメモされていく。手帳の中身はいつでも確認できるようになっており、ここに書かれているキーワードを選ぶことで相手から話を聞きだすことも可能だ。ここはいかにもゲーム的な部分で、ちょっとした謎解きをしている気分を味わえるのではないだろうか。

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ルーシーとの通話の過程で、彼女にはウィリアムという息子がいること、ウィリアムと話したがっていることがわかってくるのだが、ここでルーシーとの電話が突然切れてしまう。ハムレットによると、彼女の未完了通話の準備ができたからで、未完了通話とは人生最後の電話にして、ある突発的現象によって「途中で切断されてしまった通話」のことであるという。

つまり、ルーシーは人生最後の瞬間に誰かと電話で話しており、その突発的現象によって通話が切断されてしまったのだ。そして、ルーシーの最後の通話の相手が息子のウィリアムであったこと、通話が切断されたのは月がこの世界に落ちて人類の歴史が終わってしまったからであることが明かされ、ここで今回の試遊版は終了となった。

未完了通話は過去の出来事であり、メアリはそれを聞くだけで口を挟むことはできない。では、どうやって心残りを抱えて死にきれずにいる魂を救うのか、そもそもなぜメアリだけが今も存在しているのか、猫のハムレットは何者なのか……いくつもの謎に思わず引き込まれ、試遊版の先の展開を知りたくなることだろう。

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ストーリーに目を奪われがちだが、独特の映像表現も目を引く要素のひとつ。基本はモノトーン調の映像で展開されるのだが、突然時計の文字盤が大写しになったり、サイケデリックな色彩の映像が展開されたり、いくつもの映像がフラッシュバックしたりするのだ。こうした多彩かつ印象的なイメージの奔流には思わず目を奪われてしまうことだろう。ときにキャラクターの心情を反映し、ときに物語をドラマチックに盛り上げる、これらの映像表現の数々も本作の大きな特徴と言えるだろう。

サウンドの要素も見逃せない。ゲームの起動時にヘッドホンかイヤホンでのプレイを推奨するだけあって、随所に流れるBGMはもちろん、さまざまな効果音も非常に印象的でゲームへの没入感をより高めてくれる。特に個人的に気に入ったのが、キャラクターたちが話すときの音声。ノイズのような音の羅列なのだが、プレイしていると字幕のとおりに話していると感じるようになるから何とも不思議だ。こうしたさまざまな音の演出にも開発陣のこだわりがうかがえる。

ストーリー、グラフィック、サウンドが独特のプレイフィールを生み出している「シュレディンガーズ・コール」。今回のBitSummit the 13th Summer of Yokaiに出展された試遊版と同様のものがSteamでも無料公開中なので、気になった方はぜひプレイしてみることをおすすめする。

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小規模開発チームならではの強みが感情に働きかけるゲームを生み出す

ここからは本作の開発陣へのショートインタビューをお届け。集英社ゲームズでシニアプロデューサーを務める林真理氏、本作の開発を手掛けるアクロバティックチリメンジャコの代表でアートとディレクションを担当しているAchabox氏にお話しをうかがった。

アクロバティックチリメンジャコのAchabox氏(左)と集英社ゲームズの林真理氏
アクロバティックチリメンジャコのAchabox氏(左)と集英社ゲームズの林真理氏

――昨年のプレイアブル出展や体験版の配信後にユーザーからはどのような反応がありましたか?

林氏:感動的な物語が期待できるということで、すごい応援の声が届いています。今回のゲームは泣けるストーリーや美麗な映像と音楽が喜ばれているんだなと感じていて、これからキャラクターたちのことをも知っていってもらえればと思っています。

昨年の東京ゲームショウや今回の出展でもそうなんですけど、プレイをしながら泣かれる方が実際に何人かおられました。イベント会場であるにもかかわらず、体験版で涙を流していただける、そこまでの感情をお伝えできているのかと僕らとしてもすごい驚きでした。

――どのシーンで泣かれている方が多かったですか?

林氏:やはりルーシーとウィリアムのところでしょうか。お子さんを持っている方だと、最後に子供と話したかったというところとか。そこで流れる音楽もすごくいいので、音楽の部分でも感情を誘えているのかなと思いましたね。

Achabox氏:ゲームの冒頭で通話の向こう側の人たちから「あなたはどういう信念を持っていたか」みたいなことを聞かれるんですけど、そこからかなり入り込んで泣いてくださる方もいらっしゃいまして、自分としてもかなりビックリしました。すごく引き込まれて、「飲み込まれそうだ」みたいなことを言ってくださる方もいて、ありがたいなと思っています。

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――コロナ禍をきっかけに本作の着想を思い立ったそうですが、この点について改めて聞かせてもらえますか。

Achabox氏:コロナ禍のとき、いろんな人たちと会う機会がなくなって、物事を相談したりすることもすごく減ったんです。家族や友人のことで辛いことがあったりしたんですが、そんなときに電話でいろいろ話を聞いてもらうことがあって、すごく助けられたんです。その経験がこのゲームの根幹になっていますね。

――タイトルは「シュレディンガーの猫」(注1)からきていると思うのですが、このようなタイトルにした意図を聞かせてください。

注1:毒ガスが発生する箱の中に猫を入れたとき、フタを開けて中を観測するまで猫が生きている状態と死んでいる状態が同時に存在するという量子力学の考え方のこと

Achabox氏:このゲームって「月が落ちた」直後のお話なんですよね。月が落ちて21.7ナノ秒後に世界の消滅が待っているんですけど、このタイトルにはその落ちた瞬間から死ぬまでの間、心残りがあってとどまっている魂という意味合いがあります。そこでまだ死にきれないでいるという消滅までの狭間の世界を表現しているといいますか、その魂たちは死んでしまうんですけど、まだ不確定なんですね。その不確定な形でもとどまりたいっていう要素だったりとか、いろんな意味があって名付けました。

――メアリ自身もまた不確定な存在で、死にゆく魂との会話と通じて彼女が形作られていくというイメージがあります。

林氏:そうですね。メアリ自身も謎みたいなもので、なぜ電話をしているのか、ゲームを通じて徐々にわかっていって、同時に彼女自身のこともわかっていく。そこもストーリーの魅力のひとつだと思います。

――神秘的で魅力的なメアリですが、彼女はどのようにして生み出されたのでしょうか。

Achabox氏:ファーストインプレッションになってしまうんですが、コロナがあって私が電話をしたいな、誰かに話を聞いてほしいなと思っていたときに、動物たちが幽霊みたいに周りにいて、そこに三つ編みの女の子が椅子に座っているっていうビジュアルが最初にバンと浮かんだんです。それで、このゲームを作りたいと思って、そこからメアリは生まれた感じですね。

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――Achaboxさんにとって、メアリは話を聞いてほしい存在を象徴したようなキャラクターであると。

Achabox氏:そうですね、そうかもしれないです。

林氏:メアリというキャラクターは企画書の段階、一番最初のコンセプトの段階からいたんです。ほかのキャラクターたちはゲームを作る過程でいろいろ変わっていきましたが、メアリはゲームを作る前からすでにいた感じで、今も特に変わっていません。そういう意味では最初から完成されていたと言えるかもしれませんね。

――救済される側のキャラクターたちは外見が動物の姿をしていますが、なぜこのような造形になったのでしょうか。

林氏:電話で話しているとき、相手の顔ってわからないじゃないですか。メアリの視点からだと、こんな人なんじゃないかなというビジュアルが、ああいった描かれ方になっていると思っていただけるといいんじゃないでしょうか。

――先ごろ公開された新PVで新たなキャラクターたちの存在が明かされましたが、どんな背景を持ったキャラクターが登場してくるのでしょうか。

Achabox氏:どこまで話していいんでしょうかね……(苦笑)。

林氏:もちろん、いろいろなキャラクターが出てくるんですけど、やっぱりそこは2話以降を実際にプレイしてみてほしいです。いろんな愛の表現みたいなものだったり、人の関係性だったり、そういうものをモチーフにしていて、電話で解決できることもあったりなかったりと、いろいろなストーリーが紡がれていくので、1話とはまた違った話を楽しめるんじゃないかと思います。

――サウンドにも強いこだわりを感じました。

林氏:脚本を書いているメンバーのひとりが、実際に曲や映像も自分で作っています。外注で音を付けるのではなく、ストーリーと映像に合わせて直接自分で曲を書くという、すごく変わったスタイルで作っていて、そこのこだわりというのは面白いと思います。シナリオを書いているときの感情で映像や音楽も作るので、音も映像もシナリオも、その人がダイレクトにこういう表現にしたいというものになっているんです。

Achabox氏:シナリオを書いている星士さん(注2)がビジュアルノベルのような長いテキストで説明するのはあまり好きではなく、その思いはチームとしても共有しています。なので、言葉は多くはないんですけど、映像と音楽の演出だったりとか、間合いだったりとか、そういったものでガッと引き込むことを強く意識して作っています。

注2:シュレディンガーズ・コール」でシナリオと音楽を担当している入交星士氏のこと。

林氏:このゲームの面白いところは、開発チームは少人数なんですが映像作家をやってきた人がいたり、演劇の脚本や演出をやってきた人がいたりすることです。ゲームだけの視点ではなく、映像とか演劇とかの視点が入っていることも魅力のひとつになっていますね。

Achabox氏:今回の試遊版もすごく短いんですけど、舞台とか演劇を見ているような形で物語が進んでいって、かと思ったら映像が映画っぽくなったりするすごい不思議な世界観になっていると思います。

――選択肢の見せ方も非常にビジュアル的だなと感じました。そうした部分で特に意識していたことはありますか。

林氏:そこも演劇的な演出が強く出ているなと思っていまして、ゲームらしい映像の切り替えというのではなくて、どちらかというと音楽のPVですとか、演劇の背景で流れる映像ですとか、そういったものに近しい作り方をしています。

Achabox氏:どちらの選択がいいかと悩んでもらうのもそうなんですけど、その選択肢を選ぶときに感情を乗せてもらえるように作っていますね。

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――どの選択肢が正解で、どの選択肢が間違いというものではないんでしょうね。

林氏:自分ごととして、このストーリーを理解していってほしいなと思いますので、自分だったらどうするのか、自分だったらどう判断するのかっていう部分での選択肢を入れていった感じです。なので、ゲーム的にどちらが間違いというようなものはないです。私はこっちを選ぶ、私はこうするという選択をするときに、自分自身を見つめ直していただければいいかなと思いますし、そのための選択肢になっています。

――そうした要素をゲームと両立させるのはかなり難しかったと思います。

Achabox氏:そうですね、難しいですね。

林氏:小規模開発のゲームの面白いところなんですが、表現がうまくいかなければまた作り直すというのを繰り返していて、そういう意味で言うと大型開発にはない小回りの利いた修正というのを細かくやりながら作っていくことができています。なので、そういった選択肢の演出なども作れているんじゃないかと思います。

仕様を決めて作るというのではなく、本当に作りながら考えるということを繰り返しですね。ユーザーの気持ちを考えながら、どう表現するかというのを探しながらなので、そこが一番大変ですし、毎日お客様のことを考えています。

Achabox氏:お客様がこういう風に思ってくれるだろうからということで、工程マップとかを作って、一度はその通りに作るんです。選択肢もその流れでおおよそのものを作ったんですけど、ここは音が鳴っていないから自分たちが想定していたものに全然足りていないとか、この選択は自分ごととしてとらえてもらいにくいので、だったらどういう呼びかけをしたらいいのかとか、そういったことを探りながら繰り返しやっています。

――ちなみに、どのくらいまで開発は進んでおられるのでしょうか。

林氏:シナリオの詰めの部分にどんどん入っていっている状態です。もちろん、このあと翻訳とかデバッグとかあるんですけど、開発自体は後半戦という感じですね。なので、もう少し時間がかかりますけど、お客様に早く届けられるよう頑張ります。今回の試遊版も1話のダイジェスト版のようなもので本編よりも短めになっています。本編ではもっと深い話を楽しめます。

Achabox氏:ダイジェスト版なのでプレイ時間は30分くらいですが、本編だと40~50分くらいでもう少しボリューミーになっています。次は製品版に近い、もう少し長めのものも出せたらと頑張って作っている状態です。

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――ちなみに、本編の総プレイ時間はどのくらいになりそうですか。

Achabox氏:エピソードにもよりますが、1話につきだいたい2時間くらいでしょうか。

林氏:人によってプレイの早い、遅いはあると思いますが、だいたいそれぐらいですね。全部で何話あるかは実際にプレイしてみてください。

――それでは、最後にファンへのメッセージをお願いいたします。

Achabox氏:開発は終盤にきていますので、もう少しお待ちいただければと思います。すごくいいものができ上がりつつあると思っていまして、早く皆さんに届けられるようチーム一同頑張って作っています。楽しみにしていてください。

――ありがとうございました。

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※画面は開発中のものです。

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