メディアコンテンツ研究家・黒川文雄氏主催によるトークイベント「エンタテインメントの未来を考える会」の第6回となる「黒川塾(六)」が2月28日に開催された。

今回は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスを採用した多数のプロジェクトの立案・企画・支援を行なってきたドミニク・チェン氏や、文化・芸術などの娯楽から、ジャーナリズム・政治まであらゆる分野を中心に活動する津田大介氏を中心に、エンタテインメントのフリーカルチャーのあり方を通した、ゲームにおけるフリーカルチャーは今後どうなっていくのかについて議論が交わされた。ここでは、議論の中で焦点となった、いくつかのポイントを抜粋して紹介する。

ドミニク・チェン氏 津田大介氏

さらに、黒川文雄氏、飯田和敏氏、中村隆之氏、納口龍司氏、そして支援者を含めた総称である「TEAM グランドスラム」として、新プロジェクト「モンケン」を発表。こちらの内容についてもお届けする。

黒川文雄氏 (左から)中村隆之氏、納口龍司氏、飯田和敏氏

まず、ドミニク氏がフリーカルチャーにおける“フリー”の定義について、作品に対する受け手の自由度であると説明。つまり、その作品を他者がどのように使用していいかを、作者自らがデザインすることにあるのだという。

ドミニク氏が啓蒙活動を行うクリエイティブ・コモンズ・ライセンスなどのオープンコンテンツに至るまでには、フリーソフトウェア、Linux、オープンソースという大きな流れがあり、現在ではソフトウェアとコンテンツのようなデジタル上のものでなく、オープンソースハードウェアのような物理的な回路などに関する議論が交わされているとのことだ。

そして、クリエイティブ・コモンズにおける自由度は、現行の著作権で守られているCマーク、保護された権利が失効したパブリックドメインの中間にある。この発想のベースとなっているのは、過去に作った作品が今の作品を形成し、今の作品も未来においては、他の作品の一部になるという考え方からであり、ビジネスサイドに寄って、既得権益を意識して守られがちな権利に対して、問題提起を起こす意味合いがあるという。

クリエイティブ・コモンズに紐付いたライセンスは、2002年にスタートして以降の10年間、計測できているものだけでも4.5億以上の数になっており、日本でも馴染み深いコンテンツとして、YouTubeやWikipediaなどでも採用されている。

最近だと、2012年12月より初音ミクがCCライセンスとなったほか、佐藤秀峰さんが自身の作品である「ブラックジャックによろしく」を独自の利用規約で二次利用フリー化したことや、熊本県のマスコットキャラクター「くまもん」の例など、二次利用のオープン化に関する事例が多数発生しているという。

そんなクリエイティブ・コモンズだが、ゲームでの事例はあまりなく、firefoxなどを展開するmozillaがゲームコンテストを開催するなどの試みに留まっている。ゲームクリエイターがコンテンツをオープン化する理由としてドミニク氏が説明したのが、ゲーム制作におけるエコシステムを作ることであり、その取り組みとしてUI、キャラなど全てのコンテンツをオープンソース化することや、デバッグの効率化や新規機能創発の期待を理由とした開発リソースのアウトソース化、営利目的利用と非営利目的利用の2つの契約形態に切り分けるデュアルライセンスモデルを挙げた。

これらは音楽や映画などを通したものとなっているが、津田氏からはレディオヘッドやナイン・インチ・ネイルズなどの事例として、無料でダウンロード配信し、ユーザー自身に価格を付けさせたり、CDアルバムの購入やライブの参加を促すなど、あくまでもクリエイティブ・コモンズを宣伝効果として利用するというケースが紹介された。

それをどのようにゲームに活かすかという点については、ユーザーやクリエイターがシェアすることでひとつのコミュニティを形成できていることに触れ、ネットワークなどで人と一緒に楽しむ魅力があり、フリーカルチャーとの相性もいいはずだと述べた。

そこからゲーム体験とコミュニティの繋がりについて話が進む中、飯田氏から「ゲームに関与したという体験は、現実においても影響する」という意見が述べられると、津田氏が紹介したのがイギリスで開発されたという、行政の予算をシミュレートするサービス「You Choose」だ。

このサービスは、例えば市の財政が赤字だったとして、若者向けのサービスへの予算を削るとどれだけ赤字が減るか、といった具合にシミュレートし、どのようにするかを考えれば市政を黒字にできるかという発想によるもの。感覚的に「シムシティ」などの都市開発ゲームに近い感覚でシミュレートを行いつつ、そこでの結果は集められて、市にフィードバックされる、ゲーミフィケーションの好例と呼べるサービスとなっている。

関連してドミニク氏からは、横浜市などが採用している「税金はどこへ行った?(英題:WHERE DOES MY MONEY GO)」という、個人ごとの市税の使い分けが見れるサービスが紹介された。

また、作曲家である中村氏は、簡単に効果音を作成できるツールを制作し、クリエイティブ・コモンズとして提供しているという、クリエイター側からの事例を紹介。もともとは、タイトルごとに異なる音を求められるSE制作をより簡略化することを目的に制作したが、結果としてより多くの音を生み出せたため、無償で提供することを決めたそうだ。

最後に、黒川氏から、新しい結びつきや今までの経験、人脈、ネットワークを活用して、みんなに参加してもらってゲームを作れないかと考え、新プロジェクト「モンケン」を立ち上げたことを明らかにし、ゲームの元になるデモを披露した。

ゲームとしては、クレーンの鉄球を納口氏デザインにより擬人化し、上下左右にクレーンを振り、建物などに潜むテロリストに当てて人質を解放するというシンプルなものになっている。制作には物理計算を簡単にしてくれるUnityの技術を使用しており、パラメータを少しいじるだけで挙動も変わってくるとのこと。

だからこそ新たな発想が生まれる余地があり、この場でもドミニク氏、津田氏からアイデアが寄せられた。このように、アイデアを持ち寄って、それを自由に改変できるようにすることが、黒川氏らが考える、ゲームにおけるフリーカルチャーなのだという。

このプロジェクトでは、協力してくれるメンバーを募集中とのことなので、詳しいプロジェクトの内容については下記の内容や、ウェブページをチェックしてほしい。

「創ってみたい/遊んでみたい、けどこの世に存在しない」ゲームがある…。「だったら作ってしまおう!」というコンセプトのもと、このコンテンツとプロジェクトチーム「チーム・グランドスラム」は組成されました。

プロジェクトメンバーは、企画原案コンプセプトには、音楽・映画・映像・ゲーム開発、オンラインゲーム開発製作などを経て、エンタメ界のグランドスラム達成者であり、現在はメディアコンテンツ研究家として活躍する黒川文雄。

ゲーム企画、仕様策定には、「アクアノートの休日」「巨人のドシン」「ディシプリン*帝国の誕生」「エヴァンゲリヲン新劇場版-サウンドインパクト-」などのコンテンツを世に問うた、飯田和敏。

ゲームの世界観を変革したセガの3次元格闘ゲーム「バーチャファイター」「剣豪」「LUMINES」をはじめ数多くのゲームサウンド制作や、日本科学未来館常設展示「アナグラのうた~消えた博士と残された装置~」のサウンド制作で知られる中村隆之。

「チュウリップ」「牧場物語  わくわくアニマルマーチ」「ディシプリン*帝国の誕生」や、日本科学未来館常設展示「アナグラのうた~消えた博士と残された装置~」のアートディレクションを担当した納口龍司。

すべてのメンバーがゲーム業界の第一線で活躍するメンバーですが、大手資本に依らずインデイーズとして本プロジェクトを進めております。

ゲーム企画の背景「モンケン」とは

ときは昭和。高度成長化時代の建物破壊のためにクレーン車の先端に取り付けられた鉄製の分銅(錘・おもり)を「モンケン」と呼びます。

モンケンが注目を集めたのは1972年、敗走する連合赤軍が人質を取って軽井沢のあさま山荘に篭城の際です。人質救出と解決のため警察が導入したのが「モンケン」と呼ばれる鉄球での山荘に破壊とそこからの放水による陥落を試みました。

事件はテレビで長時間、生放送され世間の耳目を集めました。映像はアーカイブされいつでも閲覧できるようになりましたが、その衝撃の本質まで届くでしょうか?

私たちは事件や事実をゲームというエンタテイメント手法で構築することが、あたらしい歴史記述の方法になり得るのではないかという考えでプロジェクトを推進しています。(モンケン=鉄製分銅)

ゲーム内容「モンケン」

名称:モンケン(MONKEN)
ジャンル:ビル破壊 解体&人質解放アクションゲーム(ステージクリア方式)
フォーマット:パソコン+スマートフォン+タッチデバイス
導入時期:今夏(予定)
展開地域:日本ならびに全世界

ストーリー

ときは、高度経済成長が収束していくころ、かつてはビル解体に重宝されていた「モンケン」は次第に起用される機会を失い、下町の整備工場でお茶をひく日々が続いていた。そんなある日、「モンケン」に招集がかかった。久々の復帰にはりきって現場へ向かうと、そこはテロリストが人質をとり篭城している大事件の現場。これは自分の仕事なのか!? 「モンケン」は奮起する。

ゲームルール

「人質の救助」建物には人質がとらわれています。モンケンを建物にぶつけ犯人を動揺させ、破壊された脱出口から全ての人質を解放しましょう。

「犯人を無力化する」建物は犯人が占拠しています。時折、窓から外の様子を伺う犯人を直接威嚇して投降させましょう。

「モンケン」には体力の限界値があります。建物に与えるダメージとほぼ同じだけモンケンも体力を消費してしまいます。重力と加速度をうまく使い最大限のパワーを引き出しましょう。モンケンの体力がなくなってしまうと、モンケンはワイヤーから手を離してしまいます。

フリーカルチャーへの思い/クリエイティブ・コモンズの採用

「モンケン」プロジェクトは、ライセンスとしてクリエイティブ・コモンズ「表示―非営利―継承」を採用します。ゲームコンテンツを形成する様々なデータを開示し、CCライセンスで運用します。支援者によるゲームの改良、またあたらしいコンテンツが派生していくことなどを推進します。原著作物の権利を保護しつつ、ネット時代にダイナミックにコンテンツを展開するための提案としてクリエイティブ・コモンズは時代にマッチしています。

ゲームはプレイヤーの「遊び」なくしては存在し得ないです。さらにクリエイターとプレイヤーの境界がどんどんあいまいになっていく現在のカルチャー状況のなかで、ゲームはルールメイキング、グラフィックス、サウンド、シナリオ、プログラム、プレイからなる複合的なコンテンツであり、すべてのパートにプレイヤーの関与機会があれば、誰もまだ想像することが出来ないゲームが誕生する可能性があります。

クリエイティブ・コモンズを採用することでまだ見ぬ多くの仲間と出会い、一緒にあたらしいゲームを作ってみたいという発想をしました。

モンケン・クラブの発足/みんなで開発するゲームプロジェクト

「モンケン」というゲームを作ることは特別なことではありません。ただしプロジェクトメンバーが持ち寄るお小遣いだけでは実現しません。それではおそらく、考えていることの1部分しか実現出来ないでしょう。ゲームとして満足いくものにするためには機材やソフトウェア購入などの経費が必要になってきます。今回の「モンケン」プロジェクトにおいては、プロジェクトに共感してくれるみんなに共感と支援を要請します。WEB上、またはフェイスブックなどのグループ機能を活用し「モンケン・クラブ」を発足します。

みんなで作ってみんなで遊ぶインディペンデント(自主制作)ゲーム開発プロジェクトの支援者を募集します。ご支援いただいたみなさまのご意見やアイディア、あるいはグラフィックやサウンドなども取り入れながら、スマートフォンなど他のデバイスに展開していくことを考えております。「みんなで作る」の「みんな」を募集しております。

オーガナイザー 黒川文雄から

私が生まれた昭和35年は戦後からの脱却とともに、朝鮮戦争、ベトナム戦争に続く軍需特需と国内の成長が加速し行動成長を遂げた時代でした。しかし、その時代の流れのなかで、多くの歪みが生じ、人々の価値観は多様化していきました。日々がマイナスからの発想やスタートでしたが、前に向かって力強く進んでいく時代のうねりを感じたものでした。

その時代の大きなうねりのなかで、1972年、その事件は起こりました。連合赤軍による「あさま山荘」人質籠城事件がそれです。テレビ放送の普及に伴い、警官隊と赤軍の衝突は通常の番組を中断し、放送が続けられました。そのなかで、人質解放の一助としてクレーン重機のワイヤーロープ先端にとりつけられた「モンケン」は山荘の壁に大きな穴をあけることに成功しました。既存の建築物を破壊するという非日常的な光景がそこにはありました。

このモンケンによってあけられた穴からの放水や催涙弾などの効果もあり、最終的には犯人グループは投降し事件は解決を見るのです。現在、自分が関与するエンタテインメントの世界としてこの出来事を昇華できないかということを考えた結果、今回のプロジェクト組成に至りました。メンバー全員が同世代ということもあり、参加ならびに実現への意思は強く、われわれができることをエンタメの世界で実現するという気持ちで開発に取り組んでいます。

「モンケン」WEBサイト
http://monken.jp/

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※画面は開発中のものです。

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